表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
82/174

東灯台砲台防衛戦2

「東灯台砲台に砲兵を配備すれば、少なくとも連合王国艦隊に対する牽制になります。

 テュネス海軍と連携が取れれば、陸海から挟撃出来ます」


 防衛線を領海外縁に設定するのだ。敵艦隊に領海内に侵入されれば、首都は目前である。


 テュネス海軍には首都の盾になってもらい、重火砲が剣となる。


 元々、総合総司令部に所属の参謀連中だ。火砲の性能には疎くとも、火砲戦術には理解が早い。レオンが続ける。


「この際です、海軍本部を砲撃し、テュネス海軍の背後を脅かしかねない、テュニス海軍の士気を削ぎましょう。上手く行けばテュニス海軍の降伏もある」


 ここでも、参謀連中の理解を得られた。彼等は火砲の有効性は理解していても、その射程距離や威力が分からず、作戦が構築出来なかった。


 青銅砲が現役ではさもありなん。


「成る程、理解した。海軍本部の砲撃に、アルニンの砲兵と火砲を貸していただけるのか?」


「申し訳無い。東灯台砲台に小隊人員を配備したいので、お国の解放された砲兵を回していただきたい。幸い、火砲なら滷獲した物が150~160門有ります、数度の試射で何とかなるでしょう」


「それでは、東灯台砲台にアルニン砲兵部隊が回っていただけるのか、危険な配置になるが構わないのか?」


 バクスタールだ、彼は総司令部として正統政府の意は受けている。アルニンの部隊を損耗させる事は避けたい。


「閣下、現在アルニンの新型砲教導砲兵小隊は、テレ城塞都市に残留している事になっています。ここには、アルニンの新型砲を借り受けた司令部付の特殊砲兵小隊がいるだけです」


 更にレオンは言葉を続ける。


「それに、重火砲の性能により、我々でなければ東灯台砲台からの砲撃は、たいして効果の有るものには成らないでしょう」


 灯火、砲門を設置の為に造成した高台だが、恐らく重火砲は二世代、三世代前の代物だ、首都防衛城門砲台の重火砲を見れば分かる。


 だから、砲撃が艦隊に届かず賑やかしに過ぎなくなるだろう。


 ………好都合だ。


 砲弾も重量弾、軽量弾、通常弾と織り混ぜて、()()()最大飛距離をバラつかせる。理由は二つ。


 一つは重火砲が雑多な混合であると、有効射程距離を甘く見積もらせるのだ。


 もう一つは計測射撃だ。初めての土地で、不馴れな火砲では距離が分からない、ましてや海上に砲撃するので着水したらそれきりだ。


 砲台に火砲のスペック表くらい有るだろうから、それを頼りに通常弾で距離を掴むのだ。


 そして、“マークⅩ”搭載重火砲で砲撃する。

 彼の出番だ、重火砲の着弾計算尺もこの際作りたい。


 そこまで考え、チラリとゴーンの方を見る。上司では無いが、彼が全権特使だ。


「心配なら無用です閣下。我々が持ち込んだ重火砲の射程範囲内ですら、敵艦隊からの砲撃は届かない、一方的に攻撃出来ますよ」


 ゴーンの賛同だ、実務レベルでは本職の意見に異を唱える様なタイプではない。


 と、言うよりレオンの意図を察したのだろう。重火砲の実地使用の試験をしたいのだと。


 ()()()()。しかも必中の神手が砲撃の手解きをする。


 砲手の育成にもなり、恩も売れる。


 混合重火砲の砲撃に紛れて、本命の砲撃が誤魔化せ、機密保持が保たれる。


 しかも、うちの砲兵のみの運用となるので、最も重要な機密は漏れない。“彼”の存在を知られる事も無い。


 バクスタールはそんな隠れた意図は露知らず、アルニン組に、東灯台砲台からの海軍支援砲撃の実行命令を下した。






 海兵の組織的な抵抗は、海軍本部の建物の砲撃により潰えた。


 恨み晴らさでおくべきか!とばかりに、解放した砲兵は活躍した。


 餅は餅屋と言うべきか、四連合王国砲兵部隊から滷獲した新型砲も、数度の試射で大体癖を掴んだ。


 集中砲撃を受けて降伏した。


 これは軍港にて出撃待機中だったテュニス海兵からもよく見えた。


 テュネス軍の降伏勧告に従い彼等もまた降った。


 一部の将校が、快速挺で逃亡を図るが、海上は封鎖されている。数発の艦砲射撃により逃亡を諦め自決した。


 これにより軍事クーデターによるテュネス国内の()()は決着したわけだが、本番はこれからだ。


 二個歩兵小隊を護衛に、東灯台砲台に向かうパルト砲兵小隊。


 重火砲“マークⅩ”は勿論、”マークⅡ“、各種砲弾を積載した車両を移動する。海軍の組織的な抵抗は終わっているが、散文的に銃声が聞こえる。


 灯台砲台は歴とした軍事施設だ、砲兵は兎も角、海兵が守備している可能性がある。


 その為に“マークⅡ”を移動した。一号散弾を装填済みである。


 都市部の大通りを異形な車両が通過する。重火砲は防水布で覆い隠してはいるが、特に機密ではない“マークⅡ”の野戦砲は剥き出しだ。


 ただ、異形な車両が強く印象に残る。


 市民は流石に外出はしていない。屋内に退避だ、戸口、門戸は固く閉ざされている。


 言い方は悪いが、この手の争乱に慣れてしまっている。


 パルト砲兵小隊は無人の市街を駆け抜けた。




 海軍本部、艦隊指揮官の降伏により、ようやくテュネス海軍とテュネス軍は連絡がとれた。


 テュネス海軍としても、公海上の所属不明艦隊群は確認している。


 海の男は、艦隊が海上停艦する困難さを知っている。だから、テュネス海軍は武装艦隊が威圧目的で布陣している事を理解していた。


 陸軍の将軍であるバクスタールと司令部とは見解が違っていた。


 彼等がその気なら、戦力差に物を言わせて海戦に持ち込んだ方が楽なのだが、敢えて困難な布陣待機をしているという事に。


 ……交渉の余地は有る、交渉を望んでいると。


 奇妙とも思える対峙ではあったが、当事者にしか分からない理屈は有るのだ。


兄バクスタールを除いては。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ