東灯台砲台防衛戦1
レオンは即座に注進に走る。幸い今現在の所属はテュネス軍総合総司令部だ。
身分証を掲示しながら司令部に駆け込む。
こちらは此方でてんやわんやだ。
「西門の配員はどうなった、東門の制圧が完了したなら、回せる人員を……」
「報告します。逃亡を目論んだテュニス議員の……」
「海軍本部に主力戦力は残っていません。具申するならば……」
「海軍本部の一部制圧完了しました、倉庫より拘束されていた砲兵部隊員の……」
「軽装騎兵より緊急連絡!公海上に所属不明艦隊多数確認、推定五個艦隊以上」
最後に聞こえた報告の所にレオンは寄る。
片言のテュネス語だが、艦隊の単語は以前の倉庫の酒宴で聞き齧っていた。
それぞれに対処し指示を飛ばしていた司令部各人員が、流石に所属不明艦隊の報告に息を飲んだ。
「なんだと!連合は不干渉宣言をしながらこれか!」
作戦参謀の一人が喚く。
「その報告は確かか?テュニス海軍の流した流言ではないのか?」
「大隊指揮官のヤーズール大佐からも、東公海上に艦隊確認の報告が届いています。双方からの情報に差異が無いことから事実かと。」
その情報参謀は、バクスタールの問いにキッパリと答えた。
半年前と同じだ。半年前も連合王国はテュニス沖に停泊し海上封鎖を行った。
ただあのときはテュネスは一枚岩で、政府もすかさずフランク、アルニン両国に救援要請を送った。
しかし今回は内乱で国が割れている。アルニンは正統政府の支持を表明し、軍事物資を含む物資支援を行なったが、フランクは内政不干渉をしたきりでどちらにも支持は表明していない。
大体今から救援要請をしたところで、救援前に首都テュニスは甚大な被害を受ける。
所属不明艦隊だ、連合王国ならしれっと関与を否定するだろう。
証拠として、艦を滷獲すれば少しは違うだろうが、その為には戦闘に勝利しなければならない。
今は首都制圧で手一杯だ。だがそう言ってもいられない、手は打たねばならない。
軍人である彼等はそう思考する。
……前述したが、そうはならない。だが、事前情報の無い最前線の軍人には、その場その時で最良と思われる判断を下さなければならない。
正統政府からも、全権委任された特使も同行していた。だが、いささか事態が裁量権より大きい。
本来なら政府に報告し、対応してもらう事がベストだが、時が無い。
話が飛ぶが、古代ロマヌスで政治家である執政官が軍団を率いて戦ったのも、こうした理由からで、戦争も、政治の一手段に過ぎないからだ。
司令部に同行していたゴーンが、わざとらしくレオンに声をかけた。
「パルト中尉、聞いての通り司令部は複数の問題対処で忙しい。緊急でない報告なら、私が後で報告しておくが、何事か?」
公用語で尋ねる。司令部内の言語はテュネス語でゴーン少佐も戦況の全容は知らない。
「少佐殿。現在テュネス海軍が100隻程の艦に包囲されています。7~8個艦隊相手では、テュニス海軍を牽制中のテュネス海軍では、対応が困難と思われます」
レオンも公用語で答える。情報の共有化の為だ。
「砲兵中尉殿、その情報はどこから?我々もたった今、所属不明……連合王国艦隊の事を知った所だが」
「詳しくは申せませんが、我々も独自に情報収集に努めておりますので」
まあ、正直に“うちの技官が倒立したカバみたいな聖霊からそう聞いた”とは言えない。
ただ、ゴーンは察した様で “彼か” と短く頷いた。
協力関係ではあるが、他国人の方が情報を多く得ている事は問題だ。だが、この際細かい事を詮議する時も惜しい。
「パルト砲兵中尉でしたな、対応案はありませんか?ご覧の通り司令部に砲術の専門家が不在で、防衛線が引けない」
「それなのですが、元々の首都防衛砲台の砲兵部隊の方々はどうしたのですか?街道の会戦では、連合王国の砲兵部隊でしたので」
先程の報告はテュネス語なので、アルニン組には分からない。
「今しがた、海軍の倉庫に拘束されていた所を解放した」
これには別の情報参謀が答える。
「それは重畳。拘束されていたと云うことは、テュニス側に与して居ない訳ですな、ならば、防衛戦力として働いて貰いましょう」
ゴーン少佐がそう口を挟む。
レオンが言葉を繋げる。
「首都防衛、治安回復は海軍に拘束されていた部隊を回すとしまして、連合王国艦隊の方ですが……ここより東の方角に、灯台併設の砲台は有りますか?」
灯火は遠方から確認出来ねば意味がない。なので、高所に設置する。
テュネスはザバ平原に見られる様に地形が概ね平坦だ。
テュニスの地形も同様で、灯火を設置するに高台を築き、国防上の理由から砲台も兼ねた。
ナザレは小規模な湾だったので、東西の岬に砲台を設置して防衛の面で難攻不落であった。
しかしテュネスは別に湾形状では無く、軍港東西に砲台を設置してあるだけだ。
艦砲で応射可能な配置である。艦隊との連携必須だが、砲門は多数配備してあった。
灯台は北東端にある。
参謀の一人がテュニスの地図の一端に指揮杖を指した、灯台砲台の位置だ。
海抜も表記してある、機密事項てんこ盛りの地図だが、流石にテュネス語は読めない。
成る程、確かに軍港を包囲する艦隊にはあまり活用法の無い砲台だが、公海方向に砲撃するには必須だ。
当たり前だ、その為の砲台なのだから。
因みにだが、領海とは火砲の砲弾が届く距離までだ。
特に国際法で定められている訳ではないが、攻撃手段が及ばない海域の領有を、宣言しても意味が無い。
だから火砲の性能は、領海面積に直結する。
火砲後進国であるテュネスは、領海面積が狭い。なので、公海から陸地までも近かった。
四連合王国の不運はこれに尽きる。
アルニンが新型の重火砲を屋外で使用すべく改良した事だ。
テュネスの重火砲とでは、射程距離が段違いに違う。
そして、それは東灯台砲台に配備される。




