首都制圧
城門陥落の知らせは、テュニス海軍に知れた。
即ち、防衛戦力がテュネス軍の進軍遅延に失敗したのだ。
知れた所でどうしょうもない。次々と軍事拠点が制圧されていくからだ。
テュネス軍は首都防衛城門砲台に仮の司令部に置き、テュニス政府議会所、陸軍司令部、各所砲台、陸軍武器庫、その他諸々の重要施設。
人員の手薄な所から制圧してゆき、残りは海軍本部のみとなる。
機動砲兵が重装歩兵を壊滅させてから、一気に事態は進んだ。
「運動不足だな」アルは一人愚痴る。元々体格恵まれている訳ではない。
漁師の手伝い、運送屋の真似事。何れも肉体労働だが、軍人の体力からしたら貧弱さは否めない。
重い装備品一式背負い、5㎞を駈けるのだから、歩兵は体力馬鹿だ。
最も、武勲一等で出番の終わったアルニン組は、司令部の後ろから比較的ゆっくり進軍だが。
「先生、砲兵部隊の出番は終わったんだろ?」
「それは分からない。首都の防衛用の砲台に派遣要請があるかも知れない」
重火砲は本職の砲兵でしか扱えない。今現在砲兵部隊は六個小隊しか居ない。アルニン組にも、砲台に派遣要請がある可能性が有る。
「?ねえ、先生。元から居た砲兵さん達は何処いったのさ」
クーデターの際、海軍に急襲され武装解除の上拘束中だ。
海軍倉庫内で拘禁中である。
およそ一個大隊の砲兵だ、本来ならばテュニス軍が吸収する所であったが、連合がそれを拒んだ。
ハッキリ言えばテュニス軍砲兵部隊は、時代遅れで、連合の最新型の火砲は扱えない。
と、言うより重要機密事項なので、他国の砲兵に触らせたくない。
何せ地方へ行けば、青銅砲が現役だ。
テュニスの精鋭砲兵部隊と云えども、扱っているのは、旧々式の鋳鉄砲が精々で、装備そのものが違う為、戦術自体が古いのだ。
だが、火薬の扱いには長けている為、危険な兵科として、まとめて監視下に置かれたのだ。
そんな事をレオンが知る筈もなく、答え様がない。
「なんでそんな事を聞くんだ?」
二個イチの片割れが尋ねる。
なにやら落ち着いている。いつもの病気は完治したのだろうか?
「……何か逆に調子が狂うよ、“俺は何て事を!”ってやらないのかよ軍曹」
「悟りを開いた。だからしない」
「つまり“彼岸”に達したのか。あらら」
アルニン人に彼岸の概念は無い。いつもの雑学引用だ。加えるならば、アル自体が意味を分かっていない。悪口として引用している事は理解している。
「なんだいその“彼岸”って聞き慣れない言葉だけど」
「なんでも、この世ならざる境地に達した凡夫の溜まり場だったかな?詳しくは知らん」
「何とでも言え馬鹿王。俺は今だかつて無い程心が凪いでいる。実に清々しい」
……いや、大量殺戮を手掛けて、心が凪いで清々しいならば、それは最早心が……
……まあ、ベクトルが少し違っただけと理解する事にしよう。多分新種の脳内麻薬が分泌されたのだろう。
……何気に何とも無い小隊長のレオン君は凄いと思います。
因みに機動架台組は、多少なりとも精神的に失調気味だ。口を開く者もコイツらを除いて居ない。
「話を戻して、今何だか海の方で戦争中だろ?砲台放置で良いのかなってね」
「戦争中?いや、テュニス海軍を軍港内に押し込める為にテュネス海軍が海上封鎖をしているだけで、戦闘にはならないよ」
余程条件が揃わないと、軍艦が自力で港から出港など出来ない。
武装してある大型の帆船だから当然だ。
多数の漕手による曳航船により、一艦ずつ港湾から出港させるのだ。
だから港湾出入口に艦砲を向けられると、出港出来ない。集中砲撃をもらってしまう。
外野であるアルニン組は、現在テュネス海軍が、四連合王国艦隊群に包囲されている事を知らない。
呑気に会話をしているのも、その事を知らないからだ。
「いや、更に沖合いで連合王国艦がテュネス海軍を包囲していてね、どうなんだろ」
「……本当か、アル。つまりテュネス海軍は連合王国とテュニス海軍に挟撃されていると」
今更レオンもアルの異能を疑わない。事実として捉える。
「いや、テュニス海軍は動けないから挟撃には成らないな、包囲だけ。ただ、連合側はやたらと軍艦がいるぜ、アバウト100艦位」
「なんだって!それじゃテュネス海軍が敗れたら」
「首都砲撃で炎上かな。だから首都防衛砲台はどうなってんのかなって」
実際はそうはならない。連合王国はテュネスに宣戦布告をしてはいない。
ましてや、内政不干渉を宣言しておきながら、テュネスに戦闘行為を仕掛ける無法が通る程、連合王国は強国では無い。
した場合、フランク、アルニンが糾合し緒列強国を巻き込んでの大戦争に発展する。
だから多分そうはならない。成らないで有ろうが、その可能性は存在する。存在する以上放置は最悪である。
120万の市民がパニックを起こす危険性がある。
一万の兵員でも首都攻略が可能な今現在、市民のパニックや暴動は、何処にどう飛び火するか予想もつかない。
未然に防ぐ意味でも、可及的速やかに首都を制圧し、防衛機能を回復させなければならない。
幸い、概ね首都の重要施設拠点は制圧完了済みで、後は海軍本部であるが、防衛砲台の方に人員は割かれてはいなかった。
事態の変遷が激し過ぎるのだ。
「……アル、連合王国艦隊の砲撃を防ぐとしたら、どこの砲台から防衛砲撃したら良いと思う」
軍人が軍事の素人にする質問では無いが、これは仕方ない。
連合王国艦隊群が、今何処に停泊しているのかも分からないのだから。
「東の灯台の所に有る砲台だね。何か倒立したカバみたいな4号がそう言ってる。」
カバみたいのとは何ぞや?何故に倒立をば?と、今更気にする者も居ない。
どうやら、アルは4号とは意思の疎通が可能の様だ。
本当にこのウンコシリーズが、どこまで進化するのか興味が尽きない。