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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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テュニス、テレ街道会戦決着

 時が止まったかのようだ、咳く者もいない。敵、味方、両陣営、一点に視線が止まったままだ。


 動く物は騎兵だけだが、それは騎馬は脚を止めないという、本能によるもので上の騎兵は別だった。


 悠に20秒は思考が停止しただろうか。


 静寂を破り怒鳴り声を上げた者がいた。


「馬鹿野郎!貴様達!それでも軍人か!軍人が人殺して竦んでどうするよ!軍曹!何時ものヤツはどうした!先生!指令をだせ!動かなきゃ的だぜ!」


 アルニン語だ、やけに戦場に通った、あり得ない事だが、気に止める者も居ない。



 居ないが、両陣営、我に返った。


「砲撃開始!砲撃開始!早くしろ!あの砲門を近づけさせるな!」


 丘上のテュニス司令部だ、だが戦況は大きく傾いた。


「騎兵急げ!アルニン砲兵部隊は盾役がいない、急行せよ」


 ヤーズール以下重装騎兵だ。


「重装歩兵隊!保塁まで撤退せよ!」


 第二陣守備の重装歩兵隊長だ、重装騎兵に通過されてしまうが、彼は責められない。


 機動架台“マークⅡ”では、真っ先にレオンが回復した。


「作戦変更!騎兵との連携が崩れた、後退する!装填手、次弾装填!2号散弾!」


 2号散弾とは、500㍍先で拡散し始める有効射程600㍍の散弾だ。


「騎兵支援を行う、後退して順次支援砲撃を開始しろ!」


 皆無言で指示に従う、ここからだと第二陣保塁までは400㍍程だ、近すぎる、2号散弾の射程外だ。


 第二陣の重装歩兵はこちらの砲撃を警戒、いや、恐怖し保塁に引き下がった。騎兵狙撃にシフトする筈だ。支援は必要だ。




「ほら、モスさん工兵と前進しなきゃ、あそこを砲撃拠点にするんでしょ」


 陣頭にて、工兵と待機中の旧火砲組の指揮官であるモス軍曹にアルは言った。


「あ、ああ。……各員!前進開始。目標、敵第一陣保塁。工兵に遅れるな!」


 後発組の中では、モスが一番軍歴が長い。なので指揮官に任命したが、精神的な回復はまだだった。


 無理もない、前代未聞の殺戮を目の当たりにして、更にその殺戮現場に進み、築塁、支援砲撃を行うのだ、正気では出来ない。





 軍人ってのは最低だな、ケンタウロスの元騎兵連中なんか、騎馬から離れて共食いかよ。


 地獄のランチだな。



 アルの目には、丘全体が黒い霧に覆われている様に見える。


 重装歩兵の死体の群れから、ユラユラと黒い何かが湧いてくる。


 騎馬から離れた人外の化物達が、それを喰らう。両腕つきの人面馬だ。一心不乱に黒い何かを喰らう。


 不格好な怪物だ、馬の首に載った等身大の人頭。()()脇から直接生えた、ひょろ長い両腕。


 神話に出てくる、美々しいケンタウロスとはまるで違う。


 まるで子供が造形した、不細工な粘土細工だ。


 穴だらけの黒い人形(ひとがた)が、一人、二人と立ち上がる。


 無表情にそこらの黒霧を喰らう。ユラリ、ユラリと湧いて出て、200体は超えただろうか。


 その内、互いに喰らい合う、無表情に無感情に。


 脳がマヒするような死臭が漂う。


 ……地獄だ、正に地獄の様な有様だ……




 まあ、地獄も棲家と言うしな、慣れだ。


 それよか、穴だらけのあいつら、俺の所に来る気じゃねぇよな、ケンタウロスも。最悪に臭ぇから冗談じゃねぇや。


 4号ねぇ、どこまでこのシリーズ続くんだ?


 うん、すると海で見た猿みたい人魚も4号だったのかな、新発見だ。


 ……腹へってきたな、林檎残ってたかな?




 ……呑気とかそんなレベルの感情起伏では無い。人によっては発狂しかねない光景だ。


 アルはよく狂人呼ばわりされるが、間違いでは無い。


 物心ついた頃には、こうした人外を普通に見聞きし、死んだ筈の祖父母と日常で普通に接しているうちに、死の感情が麻痺した。


 この男には、死が遠いのだ。体が動かなくなる、体温が無くなる、心臓が止まる、呼吸をしなくなる。


 アルにはそれが死とは実感出来ない。

 そのうち、何処からともなく死んだ筈の()()は湧いてくるからだ。


 そして()()は己の周囲に居着く。


 その地獄をボケッと眺めていると、後退した“マークⅡ”が、次々と砲撃した所を目の当たりにした。


「おお!やるな先生、感が良いね、命中コースだ。軍曹はマアマアか。伍長さんとダーレンさんは惜しいな」




 この砲撃が勝敗を決した。一陣の重装歩兵全滅で、著しく士気が下がった所、二陣の保塁に撤退した重装歩兵と猟兵に、壊滅的大ダメージを与えたのだ。


 工兵と後発アルニン砲兵部隊の前進で、丘上司令部守備の重装、通常歩兵の動揺が広がり、連合砲兵から戦闘放棄、つまり逃走が始まった、それが全体に波及した。


 組織的な行動が取れなくなり、壊走したのだ。


 元々言語すら通じない混成部隊、烏合の衆だ、突き崩せば、簡単に崩壊する。



「閣下!敵壊走です、追撃命令を!」


 一部始終を観戦していたテュネス司令部内だ。


 敵一陣崩壊で士気が下がり、二陣の痛撃で崩壊したテュニス連合軍を、追撃しない馬鹿は居ない。


 戦果以前に、ここから僅か5~6㎞先は首都だ、撤退された砲兵に、城門を固められてはここでの勝利が無意味になる。


「全軍前進せよ、これより掃討戦に移行する。軽装騎兵、先攻せよ。輜重部隊、敵砲門を鹵獲しろ。司令部も前進する」


 こうして、図らずも会戦と化したテュニス、テレ街道会戦に於いて、テュニス連合軍相手にテュネス軍は損害無く快勝した。


 掃討戦に砲兵に出番は無い。ましてや外国の部隊である、アルニン機動砲兵小隊は基本外野だ。


 後発のモス指揮下旧火砲部隊も、前進を止め機動部隊と合流した。


 ここでの戦闘は終わったのだ。


 司令部の歩兵大隊も前進を始める。伝令が走りヤーズール以下重装騎兵が敵追撃に向かう。


 軽装騎兵も、中隊単位でそれに習った。


 アルニンの輜重、技官組も司令部歩兵大隊と連動し行軍を開始した。


 レオンと合流するまで、なぜかアルが隊長格だった。


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