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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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テュニス、テレ街道会戦5

「混成部隊出撃!」


 ヤーズール大佐の“重装騎兵出撃”の号令に合わせてレオンが発した号令だ。


 別に対抗したわけでなく、言語の問題だ。命令は明瞭にが鉄則だ。

 指揮官であるレオンは明確な指令をしなければならない、ヤーズールはテュネス語で号令したのだ。




 最前線の参戦は、流石に初めてだ。いや、第三砲台攻略時も最前線だったか。


 支援砲撃だったから、最前線の気がしなかったな。


 機動架台“マークⅡ”想像以上に軽く感じる。


 火砲本体重量と付帯架台重量で、500㎏を越えている筈だ、緩やかとは云え登りだ、火砲の配置バランスが良いのだろう。


 全く、彼は天才だ。普段が普段だからつい失念してしまう。


「敵砲撃が始まった、騎兵が密集する筈だ、車両間隔を詰めすぎるなよ!」


 不思議だ、最前線で最も危険な任務を遂行中にも関わらず、緊張感を感じない。


 それどころか、感覚が冴える。


 隣で“マークⅡ”を押す、ラップ兵長の心音すら聴こえる程だ。


 周囲がやけに明るく明瞭に見える。


 何やら楽しく、心が高揚するのと同時に、冷静な覚めた感情が心に同居する。


 息が切れない、余裕すら感じる。敵砲撃の砲弾が見えた気がした。


「隊長殿!まもなく予定砲撃地点です、ご指示を」


 ダッド曹長が話かけてくる。右隣の車両からだ、それほど大声では無かったが明瞭に聞こえた。


 彼も心が高揚している、表情で分かる。いや、周りは皆感情が高揚している、()()()()()()


「横一列!砲口は扇状になるように配置しろ!合図と共に全砲門、微仰角水平射撃、砲撃後前進する、車両を止めるな!」




 動いていなければ、敵砲弾の餌食となる。円弧騎行の重装騎兵と合流し、同様に二陣も粉砕する。

 合同演習で何度もやった連携だ。




『了解しました!』返事がハモっている、やはり皆心が高揚しているな。声高だ。


 重装騎兵が左右に散開した、我々の仕事が始まる。


「車両配置!砲口の向きに気を付けろ!

 車輪逆転防止ギアを解除しろ!

 制動を半分効かせろ!

 手空きの者は大盾を構えよ!

 砲手を狙撃から守れ!」


 普段のレオンからしたら、乱暴な命令だ。

 彼もまた、戦場の空気に飲まれたのだ。


 そして、号令する。


「全砲門!撃て!」






「混成部隊出撃!」


 出撃だ!出撃だ!出撃だぁ!やっとだ!やっと戦争だ!戦闘だ!


 落ち着け!ラジオ一等卒は歩兵時代を含めて初陣の筈だ!


 砲班長が浮き足立ってどうする!


 押せ!押せ!押せ!


 早く!早く!早く!


 敵最前線まで目測1000㍍、楽勝だ、今までこいつをどれだけ押してきたと思う、むしろ勢いが付くと、普通に走るより楽だ。


 落ち着け!周囲の様子は?脱落者はいないか?ペース配分はどうだ?


 砲撃後に再び移動だ、スタミナ配分を誤るな。


 むっ!敵砲撃が始まったな、当たるかよ!


「敵砲撃が始まった、騎兵が密集する筈だ、車両間隔を詰めすぎるなよ!」


 隊長も成長したな、ダーレンのオッサンがやたらと買っていたが、成る程指揮官の資質は有る。


 おし、落ち着いた。


 ブブエロ、ピエト、ラジオ、皆良い顔つきだ、特に気負いもなし、生き残れよ。


 まだかよ、まだ着かねぇのかよ、騎兵が遅ぇ、ノロマ、走れよ!


「隊長殿!まもなく予定砲撃地点です、ご指示を」


 早く撃たせろ!殺させろ!射殺させろ!早く!早く!早く!早く!




「混成部隊出撃!」


 しまったな、つい騎馬突撃のつもりで重装騎兵出撃などと口走った。


 アルニンの隊長殿が言い直してくれた、公用語も忘れていたか、未熟。


 馬達に笑われる。


 馬達に気合いが入っている、本当に“馬の王”が居るとはな。


 馬の背から伝わる、馬から殺意を感じる、こんな事も有るのだな、驚いた。


 砲撃か、音からして外れだ。有り難い事に砲手はヘボ揃いだ。


 人馬一体、以心伝心か。指示もなく馬が寄る、的は小さくだ、馬に怯えはない。


 ……本当に驚きだ、馬達が自らの意思で駆けだした。気合いとも違う、逸走でもない、なんだ?


「敵砲撃が・・・・…………」アルニンの砲兵隊長が何やら言っている、砲兵部隊への指示だろう。まだ若いが大したものだ。


 若いと云えば、“馬の王”は何を言ったのだ、明らかに馬が言葉を理解した、アルニンの言葉をだ、後で聞いてみようか。


 “ヒュンッ!”


 外れだ!だが、距離が合ってきたな。予測射撃のタイミングが掴めたか。


 むっ!馬が勝手に速度を落としたな、まさか戦況を読んでいる?まさか?


 馬なりで騎行だ、悪くない。馬は臆病だが、言葉を返せば最悪が予想出来るのだ、それだけ賢いのだ。


 だから馬なりで騎行なら、馬の邪魔はしない。馬に従う。


 馬達が騎行速度を上げた、緩急をつけている。


 間違いない、馬達は戦況を読んでいる、敵砲手を翻弄している。


 特に馬に指示もせず、目的地点に到着した。左右に散開も馬なりだ。


 ガキの頃から30年も馬に跨がったが、こんな事は初めてだ。


 アルニンの砲兵隊長の号令と共に、砲撃音が聞こえた。合流せね…………なんだ、空気が変わった。


 馬もだ、一体感、連帯感が無くなった。


 何が起こっている?





「全砲門!撃て!」


 距離はおよそ100㍍。砲口は扇状に配置して、僅かに仰角をとる。


 使用砲弾は、対人用()()()()


 一斉に砲撃した。


 “ズドッズズドッズダッッァン‼‼”


 射線は、テュニス重装歩兵全体をカバーしている。


 戦場の目が一点に集中する、


 雑音が消える、戦場にあって静寂が訪れる。


 散弾着弾による土煙、血煙が、晴れる。そして、恐怖する。


 そこには()()()()()()()()()が散乱していた。


 数名の存命者がいたが、直ぐに仲間の後を追うだろう。


 ザバ平原、テュニス、テレ街道に於いて、世界で初めて、対人用砲弾が使用された戦闘となった。


 三個中隊、360名の重装歩兵の精鋭は消滅した。


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