テュニス、テレ街道会戦4
アルが呼ばれたのは、重装騎兵中隊の馬甲装備済みの騎馬の前だ。それぞれに重装騎兵士が轡を取る。
その隣に先行量産試験機動架台“マークⅡ”が四両控える。つまり出撃前だ。
出撃砲班はパルト砲班、ダッド砲班、コロンボ砲班、ダーレン砲班のお馴染み連中で、当初からの機動架台砲班組だ。
機動架台組は掃除手が一人多く、フォーマンセル体制で行動する。
残りの6砲班は、最前線堡塁攻略後、工兵と共に前進し堡塁構築後、青銅砲組前進の支援砲撃をする手筈だ。
「すごいね、本職の人殺しは。ケンタウロスかよ」
重装騎兵を前にした第一声がこれだ。
「“馬の王”馬達に声をかけてやってくれ、気力は充実している」
ヤーズールだ、彼も出撃する。レオンが訳して伝えた。
当たり前だが、アルは出撃しない。後発組にもだ。武官待遇者は参戦するが、戦闘参加などしない。彼等は技術者だ。
なので、司令部に呼ばれ何事かと思えば、馬との対話命令だ。マトモな感性をしていたら怒る所だが、なにせアルだ。
「本当にすごいな、化け物だ。3号とも違うから4号だな」
アルニン語だ、訳し様のない内容だ。
ただ、馬達にの視線はアルに釘付けだ。
「待ち望んだ闘争だ、本望だろ。全く軍人ってのは地獄の住人なんだな。
まあ良いか。人馬一体、好きなだけ殺しておいで。あと、本当にお前らって臭いな」
内容は訳せない。訳したら騎兵に蹴殺される内容だ。
ただ、馬達にはアルの言葉は届いた。一斉に嘶いた。ついでにダッドにも届いた様だ、一人雄叫びをあげる。
ブブエロ、ピエト、初登場のラジオ一等卒がうんざりする。
さあ、機動砲兵の出撃だ。
丘中腹に位置する第二堡塁にて、見下ろす程でもなく、猟兵の一人がテュネス軍の動向を観察する。
「見ろよ、重装騎兵様のお出ましだ」
丘下から見れば二層目の堡塁で、一層目の重装歩兵が誘導し、砲撃で殲滅するのだが、取りこぼしを撃ち取る事が、第二堡塁の猟兵の仕事だ。
重装歩兵との混成中隊である。重装歩兵は堡塁前面に配備され、一層目の重装歩兵と違い文字通り鉄壁の役をこなす。
猟兵は狙撃支援だ。
職人気質が多い猟兵だ、的は即座に各自判断する。その猟兵の一人が呟いた。
「なんの因果で、同胞撃たなきゃなんねぇんだ」
「お前、そればっかだな。余計な事考えると指が鈍るぞ」
指が鈍るとは、躊躇するという意味だ。
彼等は、テュネス中の地方方面軍から推薦された狙撃名手ばかりだ。
首都防衛組が、それぞれの兵科に於いてエリート揃いなのは、テュネス全土から推薦、選抜され、更に精鋭同士が切磋琢磨をするからだ。
「いざ撃つ時は無心で撃つさ、仕事だからな。重装さんは大変だ、馬蹄で蹴殺されるのが恐くないのかね」
それは、怖いに決まっている。だから脚を止めた騎馬は、即座に殺到し殺すのだ。
「それより、上は仕事するんだろうな」
上とは連合王国の砲兵部隊だ。急造部隊だ、意思の疎通も儘ならない外国人の砲兵だ。不安はある。
そもそも、連合王国は陸軍が弱兵だ、砲撃もあまり精度が良くなかった。
彼らの役目は時間稼ぎだ。ここで1日でも長くテュネス軍を足止めする。
街道からの進軍を諦め、迂回してくれれば御の字だ。時を稼げるし、局地的にだが勝利を謳え、この後に続く交渉に有利になる。
都市城門まで撤退でき、防戦が楽になる。
頃合いを見て和平交渉だ。四連合王国もテュネス世論がここまで反連合に傾いては、妥協せざるを得ない。
「見てみ、重装騎兵錐行陣だ重装歩兵割るつもりだ、気合い入ってんなぁ」
「お前、余裕だな。一陣突破されたら次はここだぞ」
「そりゃ突破はされるさ、でも戦術的に突破させ、砲弾浴びせるんだから作戦だ。連合の砲兵頼みなのが癪だがよ」
「………?なんだありゃ?火砲か?変な荷車に火砲が乗ってるな、あいつで下の連中を水平砲撃ってか、可愛そうに何人か死んだな重装歩兵連中」
「四門か、下は三個中隊だったな。小隊人員で死傷者が出るな、上で助かった。仇は討ってやるよ」
不謹慎なようだが、ここは戦場だ。僅な差が命運を分ける。誰を呪っても仕方ない。
「前進目標!敵最前列重装歩兵!ただ、突撃はするな、100㍍手前で左右に散開。円弧騎行で敵砲撃を躱し、攻撃終了後の機動砲兵小隊と再び合流する」
ヤーズールの号令が重装騎兵に轟く。先陣に重装騎兵二個小隊。機動砲兵小隊が中陣。左右に重装騎兵小隊がそれぞれにつく。
「重装騎兵出撃!」
混成部隊が出撃した。緩やかな登りだ、滑らかに滑る様に、機動架台は前進する。架台の操作は各員熟知している、逆転防止も忘れない。
ナザレの第三砲台攻略時よりは勾配が緩い。次第に速度が乗ってきた。
上からは、その異形な架台が丸見えだ。
「なんだ?やたらと早いなあの大砲?」
「ああ、騎馬が陽動してノンビリ火砲押してくると思ったが?本当に火砲か?」
……呑気なものだ。ただ、連合の砲台は危機感を覚えたのか、砲撃を開始した。
攻撃手段を近づけたくないのは、砲兵の本能だ。砲兵は戦場にあって死が遠い事が遠因であろう。
見当違いの場所に着弾だ、集団での移動だが騎行速度に対応が遅れがちだ。
砲手の技量ぼかりを責められない。味方重装歩兵が眼前だから、火砲を負角を取って(高所に位置しているので、負角を取るとほぼ水平砲撃が出来る。命中させやすい)砲撃が出来ない、重装歩兵の頭越しの曲線砲撃だ、現状威嚇以上の効果は無い。
混成騎兵部隊はするすると、敵一陣重装歩兵100㍍手前に殺到した。
重装歩兵は大盾を斜に構え、騎馬進路を開ける。騎馬迎撃戦術だ。機動砲兵を目視している筈だから、砲撃は各個対処となる。
流石は重装歩兵のエリートだ、尋常でない胆力だ。
彼等の思惑としては、敵は砲撃後に騎馬突撃で陣を割るか、突撃後の支援に砲撃が来る事を想定した。
何れも甚大な被害を受けるが、砲門は4つだ。
一撃撃てば空の砲身だ、無傷の隊を報復に向かわせれば事足りる。
そう考えた筈だ
そして、騎兵部隊は左右に散開する。異形な架台が前方に展開した。テュネスの戦術は砲撃後の騎兵突撃と知れた。
“射線前の部隊は伏せろ!”
重装歩兵の指揮官だろう、即座に対応し対応策を号令する。
次の瞬間、扇状に展開したパルト機動砲兵部隊が発砲した。




