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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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テュニス、テレ街道会戦3

「先頃行った重装騎兵との演習を、実戦で行えば事足ります。

 見たところ丘上最奥に砲門が集中しています。本陣司令部でしょう。

 途中二ヶ所の重装歩兵堡塁を撃破すれば、本陣砲台を蹂躙できます」


 騎兵との合同演習は、司令部将校も視察していた。なので疑念の声が上がる。


「砲兵中尉どの、重装騎兵迎撃戦術はご存知か?敵重装歩兵は言わば騎兵部隊の誘導の為に配備されているのだが。

 先頃の演習では騎兵と砲架が同時に動いていた、騎兵共々誘導されてお仕舞いではないのか?」


 補足で説明が必要だ。この戦術は、度々話中で登場するハンニバルスを、スキッピオスが打倒すべく編み出した戦術だ。


 ハンニバルス指揮の騎馬突撃を、スキッピオス指揮下の歩兵が、そのまま隊列を拡げ流したのだ。


 騎馬は突進してナンボだ、脚の止まった騎馬など屠殺対象でしかない。だから騎馬は陣中止まれない。


 するりと陣中突破をすると、今度は歩兵後部に配置していた騎馬兵の追撃だ。これは騎兵下馬、後方展開を防ぐ為に騎兵を追い払うのが目的だ。


 ノーダメージで騎兵を追いやると、今度は歩兵突撃だ。必勝パターンを覆されたハンニバルス本陣は歩兵に蹂躙され、退却した。


 ここザバ平原での事だ。ザバの会戦と史上名高い。


 その戦術を応用したのが、騎兵迎撃戦術だ。重装歩兵が隊列を拡げ、騎馬突撃進路を盾の壁で誘導する。

 騎馬は脚を止められないので誘導先に突進するしかない。


 そこに火砲の集中砲撃だ。定点砲撃だから外し様が無い。


「いえ、重装騎兵と連携行動はとりますが、敵重装歩兵の前で騎兵部隊には散開してもらい、水平砲撃を行います」


「あまり効果は無さそうですな、機動架台といいましたか?四門では多少はダメージを与えられても、直後に逆撃を貰って終わりでは?」


「通常弾ならばそうでしょう。防衛前線はおよそ三個重装歩兵中隊。四門で撃破するに足りる事でしょう。新型砲弾を使います」


 対人弾、この場合は火砲散弾だ。


 戦術としては正しいだろうが、その効果を知っていて提言するのは、軍人ゆえの功名心か。


「そこまで自信があるなら、アルニンの砲兵隊長殿にお任せしましょう。閣下、時は有限です。採決を」


 名は失念したが、テュネス参謀本部の某殿が賛同してくれたか。


 バクスタール閣下が許可を下せば、機動砲兵小隊の本来の目的が果たせる。


 作戦行動レベルの戦術は現場の士官でなければ分からない。


 パルト中尉も成長したものだ。


 他人事の様にゴーン少佐は思った。ほとんどこの男が黒幕なのだが。


「パルト中尉。間違いなく敵前線を崩せるのだな、新型砲弾と言ったか、どのような効果があるのだ?」


 バクスタールが尋ねる。それも当然だ、云わば客兵である機動砲兵小隊を、死地にやる命令だ。


 更に重装騎兵は虎の子で、損耗は避けたい。


 失敗は避けたく、全部隊の最高責任者としては安全策を取りたい。レオンは簡潔に答えた。


「対人弾です閣下。この戦術戦域では、容易く勝ちを収める事が出来る、新開発弾ですよ」


 高低差を利用した砲撃主体守備陣で、築塁済み、兵員配置済み、新型砲配置済みの戦域だ。


 言うまでも無く不利な戦域である。


 バクスタールは許可を出した。どの道戦場だ、策らしい策も無いのだから、勝ちを収められそうな手段なら、採用有るのみだ。


 双子の兄の方は勝負所で思いきりの良い決断を下すが、弟の方も思いきりは良い様だ。


「分かった。危険な任務になるが、アルニン機動砲兵小隊に一任する。ヤーズール大佐を本陣司令部に呼べ」


 ヤーズールは騎兵大隊司令官で有ると共に、重装騎兵中隊隊長だ。


 ただ、騎兵部隊自体が司令部直下部隊なので、ヤーズールが中隊指揮を採っても、騎兵部隊自体の指揮権は司令部が引き継ぐ。


 ヤーズールを交え、簡潔に作戦内容を伝える。重装騎兵自体の行動は訓練と同じだ。理解は早かった。


 ただ、妙な懇願をされた。出撃前に“馬の王”のアルから、馬達へ激励して欲しいと云う内容だ。


 “馬の王”の話は、テュネス軍内でかなり広がっており、また、南方大陸(ア.フリ)で加護の概念は一般的だから、すんなりとヤーズールの懇願は通された。


 ただ、アルニン勢で“馬の王”の件を聞いていたのは、レオンとダッドだけだ。


 バミューダフォーと、陰口を叩かれるメンバーの一員であるゴーンが食いつく。


「ヤーズール大佐、“馬の王”とはアル技官の事ですな、“馬の王”とは何です?」


 時は金なりなんだから、後にしてもらいたい内容の質問だが、隠れオカルトマニアは変に頑固でオカルトネタに固執する。


 ましてアルは研究対象だ。奴絡みで聞き逃す様な耳はしていない。


 ヤーズールは嫌な顔もせず教えてくれた。


「言葉通りの意味だ。馬と対話し馬達へ指示する事が出来る人間を、我等は“馬の王”と呼ぶ。ハンニバルス将軍も“馬の王”であったと言われている」


「それは、大変に興味深い内容です。アル技官は多才な人材だが、動物……馬と対話出来るとは初耳だった。パルト中尉は知っていたのかね?」


「………小官も今回、行軍中に知りましたが、ですが少佐殿、その話は後でも宜しいのでは?」


 流石にアルニン語で話した。いささか体裁が悪い忠言だからだ。


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