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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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テュニス、テレ街道会戦1

「バクスタール閣下、テュニスとの交渉は不首尾終ったそうですな」


 テレ城塞内に設置した総合総司令部の会議室だ。


 バクスタールが臨時総司令なので、ここはテレ城塞司令部では無く、テュニス軍臨時総合総司令本部となる。


「まあ、織り込み済みではあるよ。連合王国の動きが無い事は不安要素ではあるが、先方から和平を蹴ったのだ。制圧戦に移るよ」


「そこで閣下にお願いが有ります」


「うん?軍務特使殿、アルニンは支援のみで戦闘行為は行わないとの話だが、参戦を希望かな」


 これはテュネス軍参謀本部の作戦参謀長の言葉。彼も首都脱出組だ。


「昨日行った重装騎兵との演習、実に息の合った連携で、充分実戦での運用が可能と思われます。このまま待機なのが残念なくらいでして」


「?不参戦は当初からの約束だから反故にはしないが、特使殿の物言いだと参戦を希望する様に聞こえる」


「短刀直入に言えばそうです。ただ、アルニン派兵組であると知られるのは不味い。そこで、小隊人員の軍服を支給していただきたい、テュネス軍砲兵小隊として、参戦したいのです。

 無論公的にはアルニン派兵組はこちらに残留している事にして」


「小官も昨日の演習を視察したが、特に真新しい戦術は見当たらなかったと記憶している。特使殿には、別の目論見が有られたのか?」


 傍目には、騎兵突撃、前線前進演習に、砲兵が付随しただけに見えた。


 はっきり言えば、砲兵は余計に思える演習で有った。


「画期的な新戦術と自負していますよ、世界初の試みでした。演習で確信を得ましたが、恐らく対抗手段は現段階では無いでしょう」


「随分と大きく出られましたな」


 普段ゴーンは大言は吐かない。そのゴーンにして参戦に踏み切るほどの演習だったのだ。


 最終的には、重装騎兵と機動架台は同行して突撃をこなし、騎馬の直近で砲撃連射をこなしていた。


「お疑いでしょう、なので我等が伏せている情報を一つ開示しましょう。

 先月末、ザベス沖で偽装連合王国艦隊の二艦を、砲撃で沈めたのは我等です」


「なんと、敵艦誤爆と報告うけていたが、撃沈だっただと」


 兄バクスタールは一応アルニンの関与を報告していたが、隕石衝突同様、あり得ないとされ総合総司令部内で黙殺されていた。


「……なにやら大型の兵器が搬入されていたが、ひょっとしてそれが?」


「新型の重火砲ですよ、野戦仕様になっています」

 アルの事は伏せておいた。実際命中しなければ火砲は賑やかしでしかない。


 重火砲の屋外砲撃は、実の所一門では意味がない。数撃てば当たる式に複数門での砲撃で、漸く戦術的に利用できるのだ。


 しかし、新型の重火砲の存在に気を良くしたテュネス軍首脳部は、その肝心な命中精度の確認はしなかった。


 ()()()だから当然、と思われたのだろう。ここに砲兵科の将校が居ない事もその要因である。


 こちらの言い方で“鷹の目”と呼ばれる異能の存在は知られたくはない。


 兄バクスタールが海軍所属で助かっている。


「いかがですか閣下、首都奪還に連合王国が何もしないとは考えられません。重火砲込みで我が()()()()()()を編入されては?」


 ゴーン少佐の売り込みは成功し、アルニン軍派遣、臨時新型砲教導砲兵小隊は、テュネス軍総合総司令本部付特殊砲兵小隊として参戦することに決定した。


 首都奪還の号令は、各部隊に通達され月の改まる11月1日に進発する事となる。


 10日程の休養を得た勘定になったが、部隊の英気を養うに充分な時間であった。


 しかしそれはテュニス側も同じで、()()()()を整えるに充分な時間であった。


 いや、防戦準備はテュネス世論が正統政府側に傾いた頃、アルニンが正統政府支持表明をした頃から始められていた。


 偽装海賊艦隊が、テュニス近海を荒らしていた頃、頻繁に連合王国船籍の船舶がテュニス()()に入港していたのは、全てこの為。


 傭兵部隊、傭兵偽装連合王国兵の輸送の為だ。


 首都防衛戦力が無いと虚報に踊らされた格好となる。


 いや、首都からの移動、離反、追従、それらの状況から兵数を逆算して、防衛戦力が一個連隊であることは知られていた。


 ただ、四連合王国のあからさまな肩入れが、見事に秘匿されていたのだ。


 テュネス軍は首都テュニスに向け進発し、即座にテュニス軍が防衛戦力を展開させていた事を知る。


 テレ城塞から首都テュニスまでは、ほぼ一直線の平原街道だが、その中間地点は、なだらかな丘になっており、難所と云うほどでも無いが地表高低差が存在した。


 その丘の上にテュニス防衛戦力が、野戦砲台を築き待ち構えていた。


 もちろん野戦砲は連合王国貸与の新型砲だ。


 いや、連合王国砲兵大隊が貸与されていたのだ。傭兵が、砲兵大隊を擁する事など出来るわけがない。


 160門の新型火砲が、テュネス軍を殲滅せんと開戦の時を待っていた。






 ……身も蓋もない事だが、ここでテュネス軍を撃破し、テュニス側の勝利、ひいては四連合王国が勝利に終った所で、実は大した意味は無い。


 国内世論が反四連合で一致した現在、バクスタール師団が壊滅したなら、各方面軍が動員されるだけの話で、この会戦は悪足掻きともとれる。


 それでも、戦わなければならないのだから、軍人とは業が深い。

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