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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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重装騎兵との演習

 テレは城塞都市だ。本来なら難攻不落で首都テュニスの盾となる軍事拠点でもある。


 ただ、防衛戦力が無かった。首都防衛の為テュニスに大部分が移動されていた。


 僅かに歩兵部隊が残されただけで、これでは城塞砲撃による防衛は行えない、つまりテレは放棄された訳である。


 歩兵部隊はそのままテュネス軍に吸収された。


 彼等にしても、訳の分からない内に内乱に巻き込まれ、上官の命に従っただけなのだ。


 ただ、念のため部隊は小隊レベルに分割され、各大隊に配属された。


 大隊未満の老歩兵集団であったこともあり、特に反対者は居なかった。そもそも同胞で軍務に忠実な老兵だ。処分対象とするのは酷だ。


 ほぼ無人の城塞を占拠する。第一目的は達成した訳だが、拍子抜けの感がある。


 それは戦争大好き人間には大いに不満だった。


「なんだってんだ!腰抜けども!軍人だろが!防衛拠点放棄してどうするんだよ!間抜け!腑抜け!玉無し野郎!」


「おお!軍曹、絶好調だね、リンゴ食う?さっき貰った」


 城門砲台上の見晴らし場で二個イチが揃っていた。

 本来なら外国の、しかも軍人が入り込める所ではないが、咎める者が居ない。




 テュネス軍はテレに駐留していた。


 ザバから拠点を移し情報を収集していた。

 既にテュニス沖に四個艦隊を配備済みで海上封鎖は完了している。


 更に兄バクスタールが連合王国艦隊を警戒しテュニス近海の哨戒にあたっていた。


 テレからテュニスまで、直線距離にして10㎞。指呼の間と言っても良い。


 兵法の常道からすれば、一気呵成にテュニスを攻略すべきだが、政治的処理の方を優先した。


 首都テュニスと衛星二都市に降伏勧告を送り、内乱の終結を図ったのだ。


 あながち悪い選択肢でも無かった。衛星都市は降伏受諾の気運が高まり、あと一押しと云う所まできている。


 ただ、首都の方は返答が無かった。

 結果、時間を与える事になってしまった。


 外野である教砲小隊は、特にすべき事もなく暇をもて余していた。


「だいたい何故進発しない、敵に時間やってどうするよ、俺でも無駄な交渉してると思うぞ、戯け野郎供が」


「はい、リンゴ。まあ落ち着けよ軍曹、なんか軍師さんが、デモンストレーションがどうこう言ってたから大砲撃てるかもよ」


「………重火砲撃ちてぇ、軍艦沈めてから一月も撃ってねぇ」


「重火砲は無理だ、あれ秘密の火砲だそうだから諦めな。それよか、パストゥさんかヤズさんと合同演習出来ないか打診してもらおうか?」


 テレに駐留し10日程だ、10月も下旬に差し掛かり、年内の内乱終結は無さそうだ。


「ここに居たか“馬の王”」


 ヤーズールだ、騎兵の彼も暇をもて余しているらしく教砲小隊によく遊びにくる。


「ヤズさん、よくここがわかったね?先生には砲台視察としか言ってないのにさ」


 ダッドが公用語に訳して伝える。それほど堪能では無いが、意味は通じる。


「道々聞いた、供物を“馬の王”に供えた兵がいただろ、奴から教わった」


 アルも片言ながら、聞く方は分かる。

 ……供物って。餌付けじゃ無かったのか。


「わざと言ってる訳じゃないよな」


 これは訳さない。ダッドは供物のお溢れを噛じる。


「所で、何か用?ヤズさん大隊の指揮官だから暇無いんだろ?サボってんの?」


 意訳して伝える、相手は佐官だ。直訳だと、ちょっとね。

 ただ、ヤーズールはアルを立ててくるので、ダッドとしてもアルに五月蝿く言わない。


「パストゥールに聞いた、協同で訓練したそうだな、“馬の王”は騎兵と連携訓練をしたがっていたと言っていた」


 いや、それはレオン。アルは後方から旧型砲を弄くっていただけだ。

 ただ、そのお陰で旧型砲(こちらもメーカーはアーガイアル。鋳鉄製の為強度が劣る)の着弾計算尺の雛型が出来てしまった。


「騎兵と演習か、どうだい軍曹?面白げな話だと思う……ああ、そうか、これやりたかったのか」


「何だよ一体?馬の王様、馬が演習したがってたのかよ」


「馬と云うか三号と云うか、まあ、騎兵だ。

 軍曹、先生に具申してみて、ヤズさんの方がO.K.なら一度馬に慣らせたい」


 ヤーズールも暇をもて余していたから、すんなりと話が通った。


 これは公開訓練として、アルニン支援を周知させる狙いにも当てはまり、ゴーンも賛同した。


 テレ城塞都市外のザバ平原で騎兵と歩兵の協同演習となる。


 大規模な演習となったが、実は内容は無いに等しい。


 前面に重装歩兵を配した歩兵中隊に、重装騎兵が楔を打ち、歩兵中隊陣地内を割り空白地を作る。


 そこに重装歩兵と機動架台を突入し、砲台橋頭堡を築く訓練だ。


 機動架台の突入が無ければ、騎兵突撃演習でしかない。


 これは砲撃音に、騎馬がどれだけ耐えられるかの実験が主目的だ。


 元来馬は臆病だ。だから騎馬として使役できる。訓練で集団で行動することを覚える、馬甲、鐙に馴れる、騎兵を乗せ陣に突撃できるようになる。


 これも、臆病故に覚える業だ。獰猛なら、そもそも人に慣れず、覚えず、狩猟されるだけだ。


 軍馬、ましてや騎馬馴致されたのなら、砲撃音や銃声にも耐性があるだろうが、程度によるだろう。


 至近距離、それこそ騎馬の隣で砲撃した場合の騎馬の反応を知りたいのだ。それも実戦状況で。


 訓練では騎兵突撃後に、重装歩兵と機動架台を突入させたが、重装歩兵では機動力に劣る。


 騎兵が割った陣が、突入前に閉じられてしまう。


 なので重装騎兵と機動架台は同時に行動し、重装騎兵に機動架台の守りを担って貰いたいのだ。


 無謀な様だが、水平砲撃が始まれば重装騎兵は守備から外れ、次へ移る。


 また、その頃には重装歩兵が追い付き橋頭堡が確保される。


 なので不安要素は、騎馬の砲撃音耐性となる。


 その都度竦み、前線に尻込みする様になっては、機動砲兵構想が根底から練り直しとなる。





 そして訓練の結果は、満足のいくものとなった。


 無論空砲での砲撃だが、重装騎馬達は竦む事もなく騎兵に従った。


 ヤーズール曰く、騎兵が不動ならば騎馬も迷わないそうだ。



 一方、首都テュニスに送った正統政府特使が、丁度この演習中にテレ城塞に戻ってきた。


 交渉は決裂した。


 これにより、首都奪還戦が開始される事となる。

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