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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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テレ城塞降伏

「騎兵大隊指揮官兼重装騎兵中隊隊長、騎兵大佐、ヤーズール。アルニンの客人、“馬の王”とは客人で間違いないのだな」


 早口の公用語だが、何とか聞き取れた。ただ“馬の王”が分からない、誤訳では無かった。


「大佐殿、その“馬の王”と云うのが分かりません。こちらの習慣や慣例にも不慣れです。何かの例えなのですか?」


 市街の執政官の家系だけあって、レオンは公用語が堪能だ。学問所とは別に家庭教師を付けられて仕込まれただけはある。


「……お国では確か一神教でしたな。こちらでは、神は複数居られると信じられている」


 また、ここに繋がるのか。ブブエロ同様加護の……以下略


「俺は“馬の鼓動”の加護がある、だから我等の半身とも言える馬達の気持ちは分かる」


 気のせいでは?とは口が腐っても言えない。宗教絡みでは滅多な事を言うと、最悪の場合拘束、宗教裁判にかけられてしまう。


「気のせいじゃない?」


 だから!さ・い・ば・ん!そうでなくても、色々あなたは危ないの!


「すまないが、アルニンの言葉はよく聞き取れない」


 セーフでした。話を進める。


「加護の話は、以前バクスタール提督から伺った事が有ります。なので大佐殿の加護について疑う事はしませんが、ただ、それがアル技官にどの様に関わるのかが分かりません」


「アル殿と云うのか、“馬の王”の名は」


 そう言えばまだアルは名乗ってはいなかった。レオンは市議会所で面識を得ているので必要ないが、アルは紹介しといた方が良さげである。


 レオンが促す。


「従軍技術官アル。挨拶遅れてすまないね」


「いや構わない。それより“馬の王”に会えて光栄だ、古代の英雄ハンニバルス以来の“馬の王”だ。

 彼は馬と対話して、無敵の騎馬部隊を率いたと言われている」


 また、偉人と比肩されたものだ。ハンニバルスは騎馬戦術の使い手だ。


 騎馬の突進力で陣を切り裂き、背面に展開。下馬した騎兵がそのまま歩兵戦力として、正面からの歩兵部隊と連動挟撃をする。


 騎兵戦術黎明期における必勝戦術だった。

 それを編み出したのが名将ハンニバルスだ。


「この所、馬達がやけに落ち着かない。意識が此方の客人の方に向いている。

 この間の放馬で馬達を回収した兵が、皆口を揃え、馬に指図した者がいると言う。

 そんな事ができるのは“馬の王”だけだと兵舎で話題になった」


 レオンは放馬の件は報告を受けていたが、まさかアルが中心にいるとは思わなかった。


「いや、いや、いや、別に馬と会話した訳じゃないよ、俺が話しかけたのは野良のさんご……」

「アル!」


 すかさず制止する。余計な事を言って宗教裁判に掛けられると面倒だ。


 こちらでは、セーフでも本国ではアウトな案件だし。


 何処の誰の耳に入るのか分からないので、喋らせないに限る。


「うん?よく分からなかったが、話しかけてはいるのだな。馬達がそれに応じたのなら、対話は成されてはいるのだな」


 そういう解釈ならば、あながち外れてもいない。全く動く気配の無かった馬達が解散したのだから。


「そう言えば、最近向こうの考えもおぼろ気に分かる気がするな、なんか戦いたがってたよ」


 アルは公用語は話せない、ただ現アルニン語は公用語のベースとなる古代アルニン語の発展形なので、互いに片言で通じる。


「ではやはり“馬の王”だ。俺は馬達の気持ちは分かるが、考えまでは分からないからな」


 そこまでは、百歩譲り理解したとしよう。ただ、相変わらず来意が分からない。


「だから“馬の王”であるアルニンの技官殿は、我等騎馬族の長に互する存在だ。馬達も離れたがらない、我等はアル殿に従う」


 色々と分かった。ヤーズールは軍から離れた騎馬族視点で物を言っている。


 言葉からして、彼は騎馬族の一員で、更に進発部隊に騎兵が同行したのも、馬達の気持ちを汲んでの事だろう。

 彼は騎兵大隊の指揮官だ、公私混同の気もしないでもないが、発言力は強い。司令部に捩じ込んだのだろう。


「そうかね、まあヨロシク」


 馬鹿はこんな時本当に便利だ。騎兵大隊指揮官の面子を潰す事なく、また衒いや遠慮など全くなく受け入れる。


 器が大きいのでは無く、芯から馬鹿なだけだろう。


 ヤーズールがアルの仲間に加わった。まあ、騎兵大隊指揮官と懇意になれたのだ、悪い話では無い。


 ガッシリと握手をする二人を見て、レオンはそう思った。


 ……彼は彼で大概な感性をしている。



 行軍が再開された。


 指揮官であるヤーズールは重装騎兵中隊に戻ったが、おそらく重装騎兵中隊内の騎馬族の有志だろう、二名ばかりアルの護衛にやってきた。


 裸馬に跨がり、器用に御する所は流石である。

 ただ、彼等は公用語が全く駄目らしくジェスチャー語だけが頼りだ。


 面白い発見だが、アルに騎馬は平気だ。だが騎馬以外の軍馬は相変わらず彼を嫌う。


 護衛の騎兵が、一般軍馬も器用に御するので、一般軍馬は馴致されてはいる。騎馬のみが特別のようだ。


 ゴーン少佐が、興味津々に観察していたので、そのうち考察を聞かされるだろう。




 テレまであと1日程の所で、テレ城塞都市から特使がやってきた。大方の予想通り降伏を告げに来たのだ。


 宣撫の効果は抜群だ、行軍進路沿いから流布した噂によりテレ城塞は()()()による包囲を恐れた事が原因だ。


 アルニン派兵が、かなり膨らんで流布されている。多分計画的にだ。


 テュネス資本は良い仕事をこなしている様子だ。


 こうして難なくテレ攻略が完了した。


 教砲小隊がテュネスに入国して、まだ一月も経てはいない。

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