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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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“馬の王”と騎兵大隊指揮官ヤーズール

「うおっ!これまた団体様のお着きだ」


 コロンボ砲班の人員、歩兵上がりの兵長、上等卒、輜重上がりの一等卒の面子と雑談に興じていたら、馬に囲まれた。


 馬に囲まれた。状況が特異なので繰り返してみた。


 やはりあいつ目当てだった。


「伍長さん、一応聞くけど馬だよねこれ」


 ……犬猫やプリンには見えないね。


「馬だねぇ、軍馬だねぇ、騎馬っぽいねぇ」


 ざっと見50頭位。更にポツポツと合流してくる馬もある。


 いずれも古傷まみれの歴戦馬だ。“ヒンッ”と嘶くでもなく、静かにコロンボ砲班を囲んでいる。


 妙な絵面だ、あり得ない事でもある。


 騎馬の馬丁や、その主である騎兵兵士がようやく追い付いて、手綱を引くが動く気配もない。


 一様にアルを見つめる。大人気である。


「……聞くだけ聞くけど、騎馬に何かした?恨まれる様な事」


 具体的に、騎馬達に何をどの様な事をして恨まれたら、これほどの数に囲まれるのだろうか?


 この様にコロンボは間抜けな言動があり、アルとは相性は良い。


「分からないけど、挨拶かな?コイツら()()()()()()っぽい?」


 いつもの事だがこの男、圧倒的に言葉が足りない。


「分かっているって何が?異常事態だよこれ」


 この面子は、別にカリスマ調教師ではない。馬に好かれて囲まれる謂れは無い。


 普段、馬に噛まれたり蹴飛ばされたり、唾を吐かれている男が、それらしい事を言っても説得力は無い。


 なんか落ち着いた様子でアルは馬達に宣った。


「騎馬なんだから戦う事は本分だろうけど、馬の好きにさせてやんなよ。軍人ってのは業が深いな」


 ……好きにさせると、宣った当人が噛まれるか蹴飛ばされるか、唾を吐かれそうだが。


 人語が、しかもアルニン語など軍馬が解る筈もないのだが、馬達はおとなしく帰っていった。


 ……鹿ではどうだろうか?


「アルさん、なんですアレ?」


「あたし達ってよりアル技官さんを囲んでたみたいだけど」


 歩兵上がり組だ。


「まあ、勇み足?早く闘いたいみたいだね、いや迷惑な事だ」


 答えになっているような、なっていない返事だ。

 最もアルにも分からない話しだろう。


「例のウンコ関係?アルはアルで業が深いと思うよ。つまり馬がアルに(たか)って来たって事だろ、ハエみたいに」


 ハエと汚物の関係みたいな物か?言い得て妙かもしれない。


「ウンコ関係って?馬と何の関係が?」

「噂のウンコ使いってマジなんか?」

「何で馬と会話が出来るわけ?」


 知らない。


 ……何はともあれ、馬と仲良くなれたなら何よりだ。


 アルニンの援軍に“馬の王”がいると云う、妙な噂が、テュネスの騎兵部隊を中心に流れる事になる。


 言語の違いから、教砲小隊の面々に知れるのは少し後、行軍中の事だ。


 補足だが、騎兵科の兵士は、正に人馬一体、相棒以上の信頼を乗馬に寄せている。


 その相棒の“王”に、騎兵大隊は関心を寄せる事となる。平地の多いテュネスは歴史的に騎兵が活躍していた。

 馬に関する逸話も多い。



 宣撫行軍に、一部変更が生じた。後続進発予定だった騎兵大隊が、先陣に加わったのだ。


 野戦どころか、要塞攻略戦すらならないと司令部は踏んでいたので、兵科的に重要でない騎兵大隊は後発に回していた。


 宣撫行軍なので隊列を揃え、行軍中に寄る市町村、集落などに威勢を示すのだが、行軍中の騎馬は、大体裸馬で行軍する。


 だからあまり格好は良くないので敬遠したのだ。


 因みに重装歩兵も、当然行軍中は重い装備は着込でいない。


 大体輜重兵を借り受けて運搬任務をこなしてもらう。


 編成だが、パストゥール大隊の三個歩兵中隊、一個工兵中隊、二個輜重小隊、一個砲兵小隊、教砲小隊。これに重装騎兵中隊が加わり、輜重部隊を増員する事になった。


 編成としては、異様であるが、見せ物として考えた場合効果的ではある。


 ザバ市を進発したテュネス軍の二陣にあって、今度こそマトモな来客が教砲小隊にあった。


 騎兵大隊指揮官、重装騎兵中隊隊長ヤーズール大佐だ。


 騎兵科は戦局に大きく影響を及ぼす兵科なので、階級が高めだ。歩兵大隊指揮官のパストゥールが少佐なのだから、違いが解ると思う。


 因みに、騎兵科は司令本部直下部隊なので、歩兵大隊指揮官のパストゥールに指揮権は無い。


 この場合、二陣の歩兵大隊自体が司令本部と考えた方が理解が早い。


「こちらに“馬の王”が居られると聞いた、取り次いではもらえないか?俺は騎兵大隊指揮官のヤーズール」


 あまり公用語は堪能で無いようだ。


 現在は小休止中だ、ザバを進発して半日程。つまり最初の休憩中に態々やってきたのだ。


 応答したのは、またもやピエト一等卒。とは云えバクスタールで慣れている。


 上に振る、これに限る。“お待ちを”と一声、レオンの元へ飛んでいく。


「隊長殿、テュネス騎兵大隊指揮官殿が“馬の王”に面会に参られました」


 右から左だ、伝書鳩だ。


「なんだい?その“馬の王”って。本当にそう言ったのか?誤訳じゃないの?」


「間違い有りません“馬の王”です。恐らくアル技官の事だと」


 例の馬の包囲は、テュネス騎馬の放馬と報告されていた。


 ピンときた、つまり彼が絡んでいるのだな。大凡の事情を察し、レオンは自身がアルの元へ赴く。


 最近彼は、アーガイルの出向技官と仲が良い様で、連んでいる事が多い。


こちらを認めると、アーガイルの出向技官が場を外した。


「アル、ちょっと良いかな。君に客だけど、騎兵大隊指揮官殿だ。……この間の放馬に関係しているのかな?同行しても良いかい?」


 相手は佐官階級だ、失礼があってはまずい。と言うかするに決まっている。


 アルがただの技官なら、ここまで面倒は見ない。彼はこちらの切り札である。


 問題を起こして拘束されたら堪らない。


「構わないけど、テュネス人てのは義理堅いのか、挨拶好きなのか、騎兵さんだけでも三人目だぜ」


 先客があった様だ。不安になり聞いてみる。


「騎兵の誰だい?失礼な事を言ってないだろうね?」


「わからん。言葉が通じなくて、軍曹が公用語で聞いてたけど、片言会話で騎兵としか分からなかった」


 つまり対話は無かった訳か、ならば良し。


「んで、なんかリンゴ貰った。テュネスの特産物なのかリンゴ?」


 なんか、やたらとリンゴばかりを食べていると思ったら、テュネスの騎兵に餌付けされていたのか。


 因みにリンゴはテュネスの特産品では無い。

 海軍は壊血病予防の為、騎兵は騎馬の嗜好食品の為、態々輸入している高級品だったりする。


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