珍客乱入
市議会所を臨時司令部として接収した。
パストゥール歩兵大隊は司令部の警護の為、市議会所に小隊単位に細分化し配備した。
騎馬、砲門はまさか市議会所に持ち込む訳にはいかない。
同様に接収した競技場に収用した。これは教砲小隊も同じだ。
各部隊大隊長クラスの位官の者は、市議会所に招集だ。作戦会議だが、作戦自体の大綱は既に知られている。
ここ、ザバ市を首都奪還の前線基地として、補給物資集積地とする。
ハマクーラからザバまで、師団移動で10日程だったが、輜重部隊の足ならば6日程だろう。
二個中隊でハマクーラ、ザバ間の物資運搬に当たる。
二日の休養の後、首都テュニスの衛星城塞都市テレに進発する。
と、こう言うと如何にもな感じだが、勝敗は既に決していると断言出来る。
そもそも、テュニス側に陸戦戦力がない。
各方面軍から兵力を招集するに当たり、いずれも正統政府に恭順で、考え様によっては無礼とも言える徴兵に応じている。
一個大隊の歩兵と、可能ならば派遣出来るだけの砲兵。
それぞれ、当てにはされていないと感じる筈で、しかもつい先日までは同格であったバクスタールの命令だ、面白い筈も無い。
しかしテュネス世論は正統政府に向いている、
テュニスは周辺三都市の協力を得ただけで手詰まりだ。
招集徴兵令には、テュニス周辺三都市以外は全て応じている。
これにより、テュネス軍総合司令部の見解として、大勢は決したと判断できるのだ。
なので、この会議は、各方面軍に対する中央軍の戦功喧伝の意味合いが大きい。
一見すると、戦功を等分するための各方面軍の招集徴兵に思えるが、ハマクーラ方面駐屯軍以外に、活躍を与えられる部隊など無いのだから、面子の為の賑やかしでしかない。
……それに……
アルニンからの派兵。中央軍ひいては、正統政府とアルニン政府が親密で有ることを、方面軍の士官連中に知らしめねばならない。
彼らの口から、各々の所属方面軍司令部に報告してもらうのが、一番効果的だ。
争乱の種は未然に潰す所か、種そのものを生まれさせない。
戦後処理を見据えての事だ。海軍の方は兄バクスタールに任せる事になる。
陸軍の人事は未定だが、総合総司令部を弟バクスタールが押さえるのだから、どうとでもなるだろう。
「諸君、紹介しよう。アルニン政府より我がテュネス軍に軍事協力の為に派兵された、新型砲教導砲兵小隊の隊長殿と、軍務特使殿である」
「アルニン軍総合総司令本部、参謀本部、作戦参謀少佐ゴーンです。お見知り置きを」
「アルニン軍総合総司令本部、新型砲教導砲兵小隊隊長、砲兵中尉パルトであります」
会議に先立ち、諸官達に紹介される。
同様にテュネス側の挨拶を受けるが、所属方面軍がバラバラで、混成師団、(いや、定員が割れてはいるが、この場合テュネス軍と称しても差し障りないだろう)の感が拭えない。
流石に二人とも出汁にされていると気がつくが、本国が協力体制にあるので特に異論はない。
「では今後の作戦行動の指針を、アルニン軍の諸官を含めて会議を行いたい。参謀殿」
「では、総指令殿の指名に預かり、参謀本部より作戦行動の説明に入りたいと思う」
今更だが、どこの国も軍組織構造は大差ない。
精々が所、内陸部国家に海軍が無いくらいか。
階級の呼称にもローカル色が見受けられる。
例えば、アルニンでは元帥は国家元首の職務だが、テュネスでは軍のトップが任官する官職名だ。
「ここザバを前線拠点とし、明後日先遣部隊として三個歩兵大隊を進発する。順次歩兵大隊を進発、ここザバには二個歩兵大隊を防衛に残留する」
テュネス軍司令部付き参謀が、チラリとこちらを見ると言葉を続けた。
「先遣部隊にアルニンの砲兵小隊も編成し、行軍宣撫に努めて頂きたい」
「参謀殿、質問だが、その編入歩兵大隊だが、何処の大隊になりますか?」
「軍務特使殿には異存がお有りで?」
「異存など。ただ、テュネス軍は、混成軍で有ると先程の紹介から見受けられましたので」
意味深な物言いだが、これにはバクスタール自身が答えた。
「先遣三歩兵大隊の二陣、パストゥール大隊に指令本部を置くのだが、アルニン砲兵小隊もパストゥール隊に編入したいのだが、どうだろうか?」
これも意味深な答えだ。先遣部隊に指令本部を置くとは、先遣三大隊共にハマクーラ組だろう。
戦況が戦況なので、先陣に指令本部を置く事は分からないでもない。何度も言うが敵に陸戦戦力は無いのだ。
だからむしろこの場合は、
他部隊に信を置いていないと観るべきか、ハマクーラ組が功を焦っていると観るべきか。
……まあ他国の事情と関知する事でも無い。
「了解しました。中尉はどうだ?この前のパストゥール隊との合同演習で、他の隊よりは親交が有ると見たが」
「隊員レベルで親交が有りましたので、パストゥール大隊となら問題無いでしょう」
「了承感謝する。パストゥールから報告が上がっているが、従来に無い戦術であるとか?
新型砲教導とは、新型火砲の使用方法の伝授が目的でなく、運用、用法の伝授がその任なのだな」
少し違うが態々訂正する事もない。そもそもこの用法は、機動架台の存在が前提となる。
通常架台では、最前線まで移動できない。
ザバ市議会所の会議室で、戦後処理を踏まえた作戦会議中に、競技場で待機となった教砲小隊に来客が有った。
まあ、来客と言うのも何だが、珍客ではある。
競技場は教砲小隊だけでなく、各方面軍からの出向砲兵小隊も収用されたが、同様に騎馬大隊も収用されている。
珍客とは、その騎馬大隊の戦闘軍馬の群れだ。
騎兵科はエリート中のエリートだ。これは人だけに限らず馬も同様だ。
戦闘用に馴致され、選別に選別を重ねて育てられた優秀馬が、
馬甲、鐙を外されるやいなや、主に従わず教砲小隊の元に駆けつけた。
……やはり、狙いはあいつだろうか?




