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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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ゴールデントライアングルの人達

 マークⅩの調子は上々だった。総重量8㌧もの重量物だが、車輪、車軸の加工精度が高く、一度動き始めてしまうと、慣性で進んでしまう。


 軍馬四頭による多頭曳だが、二頭でも行けるかも知れない。

 むしろ停車時に馬が慣性に押されるので、二頭曳が良い様だ。


 余りの二頭は空馬にして、替馬とすれば良い。


 行軍を観察するに、旧型砲の移動架台の牽引が馬には一番負担が掛かる様だ、いっそ全砲機動架台にした方がよさそうだ。


 機動架台は砲門の架台ごと固定なので、追加で開発部に作成させ、こちらに運んでもらえないだろうか。


 様子を見て、ゴーン少佐に提案してみよう。

 レオンは視察しながらそう思った。


 ……しかし……


 何故彼はあんなに馬に嫌われるんだ?

 軍馬として馴致されているのだから、あんなに人に怯える訳が無い。馬によっては震えだす。


 本人は“鹿よりはマシですな”などと意味不明かつ呑気な事を言っている。

 以前馬に蹴飛ばされているし、大型の動物と相性が悪いのか?


 かく言う私自身、犬猫の類いと相性が悪いのでそんな事もあるのかも知れない。


 不思議な男ではある。考えてみたら彼の事はあまり知らない、パルト市街、漁港地域のロッツオ教区出身で、家業は近海漁業の持船漁師。続柄は三男。


 奇行が多くて誤解されがちだが、彼は付き合い難い人柄ではない。意味不明な言動と口の汚さで敬遠されるだけだ。


 超常的な感性を有する様子だが、それについては、いくら考えた所で答えなど出ないので考えない。ゴーン少佐の考察を鵜呑みにして、他への説明はその説を通す。


 此度の派兵は、出来る限り彼の力添えは遠慮しようと思う。

 “神の眼”“鷹の目”は、いわばイレギュラーだ、保険的運用と頭の隅に置いておく。


 部隊としての機動砲兵の運用模索が、今回の派兵目的だ。

 彼は機動架台、特殊弾、着弾計算尺の開発で十二分に功績を残しているのだ、細かい発明を合わせれば、顕彰物だ。


「今回の派兵は長期に渡るか」


 先日ゴーン少佐との対話で聞かされた予想だ。

 今回の内乱で、テュネス資本は政府と軍部を完全に掌握する。


 当初の予定通りフランク、アルニン同盟に加盟すべく動き始めるだろう。


 その為に、


 南方大陸の世情不安な国家郡に、親フランク、アルニンを浸透させるべく、テュネス資本は行動すると予想される。


 具体的には軍事支援だ、テュネスの旗色ははっきりしたのだ。


 そこで、アルニン商工会議所を通して、アルニン政府より、引き続き従軍命令が下されるはずだ。


 テュネス軍に連れられて、転戦する事になると、ゴーン少佐は予想された。


 歓迎会で収集した情報から分析した予想だ、私に話されたと云う事は、確信に近い未来予想なのだろう。


 いつも思うのだが、本当に怖い人だ。

 態々ハンニバルスを例に出して、政治、経済の動きから戦争の形を語るのだ。


 やはり、教師に向いているのでは?

 そんな事を思わせる御仁だ。


 今は小休止中で、アルと仲良くリンゴを齧っている。


 アルが、軍馬を手懐けようと引っ張り出したリンゴだが、馬が怯えるばかりなので自身が食べ始めた所、少佐が欲したのだ。


 最近では、アル、ダッド曹長、ゴーン少佐の三名が連るんでいることが多い。


 口の悪い輩は“ゴールデントライアングル”と呼ぶ面子だ。


(注 ゴーンとレオンが入れ代わる場合も有る。フルメンバーの場合、バミューダフォーと呼ばれる。本人達は知らない)


 伝令が出立を知らせる、小休止は終わりだ。

 平原の街道を南下する、予定では明日ザバ市に到着する。


 バクスタール師団が進発するのが明後日の予定だから、ザバ市で五~六日待機する事になる。


 なるが、どうだろう?


 中隊指揮官のパストゥール少佐は、せっかちな性分だ、ここ数日の付き合いで分かった。


 ザバ市で無為に時間を潰せない御仁だ。何かするだろう。


 本日の野営時に、小隊の面々に宣撫行軍を含めた示威行動が有る可能性を伝えておこう。




 先方から此方に相談にやって来るとは思わなかった。


 野営準備を済ませ、携行糧食(レーション)を配給したところで、パストゥール少佐がやって来た。


「中尉殿、予定では明日ザバに到着だが、閣下の師団はまだ進発していない。我々は一週間程の待機になるが、時が惜しい」


 そんな事は初めから判っていただろうに。

 ただ気持ちは分からないでもない。


 首都奪還戦だ。戦力は揃い、戦意は高くて、世論に後押しされている。


 勇み足もうなずける戦況だ。

 ただ、我々は外野だ。時が惜しかろうが勝手は出来ない。


「なので、貴小隊と合同で軍事訓練をしたいと思うのだが、どうだろうか?」


 思ったよりマトモな提案だった。

 元より機動砲兵の運用模索が出兵目的だ。


 以前ゴーン少佐に及第を貰った砲兵運用だが、砲兵単独運用ではなく、重装騎兵と連動が前提だった。


 パストゥール隊は歩兵だが、歩兵との連動で機動砲兵を運用するのも面白いかも知れない。


 ただ、即答は避けよう。ゴーン少佐の意見も聞きたい。アルの貸出の件で絞られた事でもあるし。


 バクスタール提督との誼を優先して約束してしまったが、そもそもアルの秘匿を進言したのは他ならぬ自分だ。軽率ではあった。


 そこにひょっこりと、ゴールデントライアングルの面々がやってきた。


 後で聞いたが、これは偶然ではなく、アルが少佐の来訪を感知したらしく、他の面子が面白がって確認に来たのだ。


 ……まあ、アルは今更として、ゴーン少佐のオカルト嗜好もどうかと思う。


「少佐殿、合同で軍事訓練は願ってもない事です、賛同しましょう」


 ゴーン少佐が了承した。ならば私としても賛成事案なので決定事項となる。


 日時、規模など細かい打ち合わせは、ザバ市に着いてからする事になった。


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