射撃大会
「やった事ないな、撃ち方も知らないから、どうだろう?感覚的にいけそうだけど」
長銃自体触った事がない。だから射撃姿勢を知らないし、取れない。
「何やら面白そうな話だ、技官殿は射撃感は有るのだな、試してみようではないか」
……連中は酔っていた。只酒と云うことも有るが、海兵は生還の解放感から、砲兵は船酔いでゲーゲーやった所に、空きっ腹のアルコールだ。
戦艦二隻撃沈の興奮が甦り、射撃大会に移行する流れになった。………なんで?
倉庫内では不味いので、埠頭でだ。商業港であるが、テュネスは戦時だ。港の埠頭部分をテュネス海軍が臨時に接収してある。
倉庫を空に出来ないから、船酔いから本復していないモス軍曹とモス砲班が残る。
長銃を持った小隊人員が、海軍水夫とゾロゾロ向かってきたのだ、埠頭付近に接舷中の艦隊水兵達は騒然とした。
が、先頭を進むのはバクスタール提督だ。
アルニンの砲兵に挨拶しに出掛けた事は周知だ。だからすぐに収まった。小走りで寄って来る者がいた。
「提督、何事ですか?アルニンの砲兵小隊の方々を引き連れて?艦隊視察ですか?」
「サンドロ中佐、斯々然々で射撃大会をすることになった。何か的を頼む」
「いえ提督。斯々然々では分かりません。それに射撃大会?何故ですか」
当然の質問だが、何分酔っている。バクスタールも口が軽くなっていた。
「アルニンの砲術家に神手がいるのだ。先の連合の二隻も、その者の砲撃で沈めたと云う。
やったことは無いそうだが、長銃射撃もいけるそうだ。興味が湧かないか?」
「な!それでは気のせいではなかったのか!
いや、提督失礼しました。
小官は連合の艦に何かが命中した所を目視していました。直後の爆発に気を取られ、それが砲撃であったとは思いもしませんでした」
「中佐、報告に無かったぞ」
「申し訳ありませんでした。砲撃の可能性は意識の外で、除外していました。隕石の衝突の可能性ならば報告に上げたのですが」
「ああ、あれか。流石にあり得ないと思って目が流れた。すまん」
どっちもどっちだ。
狙いを定める。的は50㍍先のリンゴ。昔から的はリンゴと決まっている。
流石に頭の上ではない。
ハッキリ言って、アルの構えば素人丸出しだ。
生意気にも立射体勢だが、なんとも不格好だ。
棒立ちに、無理繰り長銃を構えましたよ、ヤッタネ♪
といった感じで、巫山戯ているようにしか見えない。
長銃は軍曹の物を借りた。
「重い。なんだこれ、タイミングが掴めない」
端から見れば失笑物だ、長銃を支えられないで銃口がブルブルと振れる。
「タイミングが合わないな」
静止射的だから、本来はタイミングも無いものだが、これだけ銃口が振れるのだから、感が掴めないのだろう。
「お!手伝ってくれるのかね、新入りの二号君」
そうアルが呟くと、銃身がピタリと静止する。
構えは変わらず、不格好なのだからあり得ない。
直後激発。“ダンッ”
火打式の長銃だから、火蓋の当金に、火打石がバネの力で打当たり発火するのだが、当然衝撃で銃口が振れる。
振れる筈なのだが、銃身自体が微動だにしない。それどころか反動すらしない。
だがそれを気にする者も居ない、的に全視線が集まっていたからだ。
リンゴのど真ん中に命中。弾け飛んだ。
ほう、と云う感嘆があちこちから漏れる。
「やるなアル、当てるとは思ったが時間がかかったな。砲撃ん時は即射だったが」
「銃身が振れて射撃タイミングがその都度変わるんだよ、でも分かった。次からはそんなにかからないよ」
「何か言ってたが、三号降臨か?」
「いや、新入り二号だ、キモイぞこれ。磯巾着かな」
デカイ目玉が付いて無ければ、磯巾着に似ていた。
この会話はアルニン語だ。テュネス海軍の面々には通じない。
この後射撃自慢が、我も我も我もとリンゴを撃った。
流石に的が小さくて、立射姿勢で射つ者は居ない。
伏射で銃身を支えての射撃となる。
当たったり、外れたりだが盛況だ。
で、当然と言えば当然で、埠頭の方から連続の銃声が響きわたる訳なので、港湾警備隊が出動してきて、長銃を手にしている全員を連行した。
港湾警備隊は軍組織では無い、アルニンで云う所の、治安維持省警邏局の下部組織に相当する。
なので参考人として、バクスタール提督とサンドロ中佐も連行されていった。
レオンがヒョッコリと倉庫に戻ったのは、その頃だ。隊員の不在をモス軍曹に尋ねる。
「モス軍曹、隊員が貴官と、貴砲班員しか居ないのは何故なのだ。何やら酒臭くもあるが」
「はい!隊長と参謀殿が、テュネス政府の首脳部と出られた後、テュネス海軍提督が見えられました。ワインを差し入れられ、固辞する事は失礼と、ダッド曹長の言により、小隊で頂きました」
ワイン樽が有るのはその為か、酒の件は分かった。続きを促す。
「途中、本日撃沈した戦艦二隻の話しになり、我々の武装を見せた所、提督は大層感じ入られ、二人の曹長に質問をされました。
そこにアル技官殿が小用から戻られ、砲術の話しになったのです」
……彼が絡んだのか、嫌な予感しかしない。
それより。
「テュネス海軍の提督に武装を披露したと言ったが、全ての武装をかい?」
機密だから不味い事は不味い。まあ、性能が知られなければ、ある程度は構わないが。
「いえ、戦艦を撃沈した重火砲架台だけです。そこでダッド曹長が、技官殿の射撃は長銃でも出来るのか質問をされたのです。
我々もそうでしたが、提督も興味を示されまして、射撃術を見るべく埠頭の艦隊係留地に向かったのです」
「すると、小隊の面々もそれに連られてか?」
なにを考えているのだ。モス砲班を残しているだけマシだが。
「その、言い訳がましく言いにくいのですが、その時かなりアルコールが入っておりまして、勢いに任せて、射撃大会の運びとなりました」
「……射撃大会……」
本当に何を考えている、呑気とかそんな次元じゃ無い。
ほんの数時間前まで、生きるか死ぬかの瀬戸際だったと云うのに、もう娯楽に興じているだと。
……正気か……
レオンが絶句していると、港湾警備隊から小隊人員の引き取り要請がきた。
小隊隊長が保護者扱いだ。




