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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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海戦2

 アーガイル社謹製、遠距離砲撃用重火砲。砲台据え付けタイプ。


 全長9㍍、砲重量4980㎏。アーガイル開発新工法、鋳造、鍛造、工法による新型砲。


 鋳造後に再加熱、鍛造圧延することにより、鋳造にない強度と、鋼特有の撓りや粘りを持つ。


 硬すぎる鋼は割れるのだが、鋳鍛工法は、程よい強度と衝撃に強い(じん)性を強く残す。


 中距離野戦砲同様、従来よりより多くの火薬を装填出来、10㎏もの砲弾を4000㍍程飛ばす事が出来る。(平地時)


 特筆すべきは、従来の先込め式と違い、薬室分離形の後方装填式という新構造だ。


 砲身が9㍍ともなると、装填は勿論、砲撃後の掃除がかなり手間取り、連射性が劣る。


 そこで砲身最後部を分離式にし、それを薬室装弾部位とした。


 砲身はただの円筒と化し、メンテナンス、砲身清掃性が向上した。


 更に砲弾装填済薬室部位を事前に複数用意する事で、重火砲には、あり得ない速射性が備わった。


 薬室部位と砲身後部には、冗談の様な極太螺旋が雄牝で()()されており、捩じ込んで砲身薬室を()()させる。


 その後、安全金具を連結させ、点火孔に導火線をセットすれば、砲撃準備完了である。




 アルニン軍ナザレ軍港城塞、総合司令部開発部一号工厰工房謹製、


 アーガイル社製遠距離砲撃用重火砲専用、試験架台野戦仕様、通称“マークⅩ”


 特殊形状の架台に20もの最新型車輪を有し、

 コイルなる螺旋形状の鋼製緩衝をそれぞれの車輪に配す。


 運搬専用架台では無く、二重に砲撃衝撃を吸収する、積層分離緩衝構造を独自に開発し、重火砲をそのまま砲撃可能とした、移動架台だ。


 積層分離緩衝構造とは、火砲架台を三重に配し、一重目の直接火砲を据えた架台が、砲撃の反動衝撃を、二重目の架台上を後退しながらコイルの反発で吸収する。


 更に二重目の架台が受けた反動衝撃を、同様な機構で三重目の車輪付き架台が吸収する構造である。


 主開発者は、“親子孫亀構造である”と宣ったと云われるが、親子孫亀が何の事やら不明な為、開発上層部には、積層分離緩衝構造と説明される。


 後にこの衝撃緩衝機構は、陸、海、両軍に正式採用され、それまでの銅杭打ち固定法に替わり、重火砲の固定法となる。


 その最新式重火砲が、後方追走中の擬装海賊艦に狙いを定めた。


 甲板上に固定輸送したことが功を奏して、防水布を外せば良いだけだ、砲口は後ろ向き、つまり初めから砲撃準備は万端だ。


「凄いなこれ!」「重火砲か、マジなんだよな」「俺これが欲しい」


 実際試射をこなした砲兵連中ですら、口々に称賛する重火砲だ。


 海軍の目は釘付けで言葉も無い。


「お、おいレオン、アレ作ったのか、アルが?それから、何かやってるけど、何しているんだ?」


 コントは海軍少尉だ、当然砲術の心得もある。


 海軍は、状況的に計測射撃など出来るわけないので山感砲撃だが、その海軍少尉の目から見ても、アルのは大雑把な指示に見えた。


「普段の彼を知っていれば、尚更デタラメを言っている様に聞こえるだろ?

 でも見てみな、砲兵小隊のベテラン下士官が、アルの挙動を盗もうと真剣だ。

 アレで彼は、目標を外した事が無い」


「でも、艦上射撃だ。しかも武装艦まで2000㍍はあるぞ、距離的には届くかもしれないが……」


 常識に照らせば当たる筈もない。だが、命中しなくとも、擬装海賊艦はこちらに攻撃手段が有ることを知る。


 砲撃に晒されたと知れば、追走も諦めるかも知れない。


 やってみる価値は有った。



(んで、砲弾はそれを使えと)


 新入り三号が指差したのは、重火砲用に開発した例の駄菓子配合弾だ。


 正式名称はまだ無い。


 中距離野戦砲弾用の配合では、強度が足りなかった。


 何せ、使用火薬量は10倍になる、その為、木炭配合から弄くり回した結果、1対1.5対1.5配合となったのだ。


 コアとなる中距離用鉛砲弾に、新配合弾殻剤を厚くコーティングして焼成したものだ。


 鉛無垢砲弾では無いので、砲弾重量が軽くなり飛距離が伸びた。


 弾芯が有るので着弾破壊も期待できるが、何よりこの砲弾は、激しく燃えるのだ。


 着弾衝撃で飛散する新配合弾殻剤は、粘性油の様に周囲にへばり付いて激しく燃える。


 仮名称として、燃焼飛散弾と云う、そのまんまの効果名称が付けられた。

 勿論、付けたのはヤツだ。


「ピさん弾はそれね」


 今更ピエトは文句も言わない。三砲台内で既に“ピ”で定着したからだ。


 ブブエロと二人掛かりで、装填済薬室を砲身に捩じ込む。


 点火孔蓋を空け、導火線を挿し隙間に追加火薬を流し込む。


 アルの指示により砲角度を微妙に調節する。仰角はこのまま。


 あとは点火だが、当然輸送艦は揺れる。仰角補整は無意味だ。


 何より導火線点火だから、点火タイミングは本当に直感だ。波の振幅を読むしかないが、そんな事で精密射撃などは、()()()()()()()()()


 コントが疑うのは、常識的に当然だ。


 だが、ここにいる砲兵小隊の面々は、色んな意味でアルの非常識を知っている。


 非常識な口の汚さを知っている。

 非常識な行動原理を知っている。

 非常識な発案行動を知っている。

 非常識な常識理解を知っている。


 そして、非常識な神の目を有している事を知っている。


「はい今!軍曹点火!」


 ホイールロック点火器を、今か今かと待ち構えていたダッドは導火線に着火した。


「軍曹!退避!」


 二人は()()()だ、このままでは砲撃反動で振り落とされてしまう。


 ……まるで見てきたかの様に、波の振幅で輸送艦船尾が上がった瞬間に、点火孔に導火線の火が吸い込まれた。


 ズドォォォッッッッ!!


 試射で聞きなれた砲撃音だが、洋上では反射物が無いせいか、何時もと違って聞こえた。


 瞬間、衝撃吸収の為、()()()()()()()()上のガイドに沿って後退する。コイルの反発により威力は軽減する。


 ()()()()より一拍遅れて、()()()()()()()()上のガイドに沿って後退した。


 これもコイルの反発によりほとんどの反動は相殺された。()()()()()微動だにしない。


 重火砲の砲撃砲弾など、目視出来るわけないのだが、一同は固唾を飲んで見守った。


 そして見た。追走してきた武装艦のメインマストが根元から粉砕した瞬間を。


 一拍、……二拍、……三拍目にメインマストが折れた艦が爆発した。


「はい、ピさん次弾装填ヨロシク!」


 呆気にとられた陸、海軍人を尻目に、アルは指示をだす。もう一艦有るのだ。


 と、思ったら、その艦も爆破炎上した。


 最初に爆破した艦から暴発した砲弾が、運の悪い事に火薬庫にでも命中したのだろう。


 もっとも、この男がいるのだから、結果は同じで、早いか遅いかの違いでしかないのだが。


 こうして、実にアッサリと輸送艦の危機は脱した。

本年最後の投稿です。隔日投稿なので次は二日の投稿になります。


応援有難うございます。

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