海戦1
擬装海賊艦隊の方でも、テュネス艦隊の出港を確認したようだ。
「提督、ザベス港からテュネス艦隊が此方に向かっております、警告旗と即時停船命令旗。戦闘半旗を掲げています」
「大尉、折角の海賊艦隊なんだから、お頭と呼びたまえ。見たまえ、私などそれらしく、眼帯、義手なのだよ」
「お断りいたします。そもそもドクロの旗など必要ありませんでした。国籍不明艦隊で良かったのでは?」
「それでは詰まらない、連合王国紳士としては、遊び心を忘れたくないのでな」
四連合王国内海艦隊、ベルソン中将だ。
海軍では将官は提督と呼称する。
ベルソン艦隊は何もアルニン輸送艦を張っていた訳ではない。
この海域は、連合王国海軍の謂わば縄張りだ。一番近い海軍基地は内海中域東部のヤルタ島。
彼の任務は、ザベス沖のガテリア小島からヤルタ島間の、特殊哨戒だ。国籍不明艦隊として、この海域の治安を乱す事が仕事内容だ。
海賊旗はベルソンの悪ノリだ。
当然、フランク、アルニン籍の商船が標的である。
テュネス世論が連合王国劣勢となると、連合王国の方でも手段を選ばなくなってきたのだ。
危険な任務で、国籍不明の武装艦など、海賊と見なされ、撃沈されても仕方ない。
なのでこの任務は、討伐艦隊を返り討ちに出来るか、戦況如何により、速やかに撤退する戦術的柔軟性を有する提督にしか実行出来ない。
ベルソン提督が適任と四連合王国内海艦隊司令長官が判断したのだ。
因みに、四連合王国内海艦隊司令長官のジャール長官は今期勇退する。
後任にベルソンを推しており、今回の作戦成功を手土産に昇官、長官就任の流れとなる。
「さて、大尉、我が海賊艦隊はどのように行動すべきかね」
「はい提督。当艦隊はテュネス艦隊に対して右舷を向けた隊列です。
絶好の艦隊隊列です。テュネス艦隊が隊列変更をする前に、艦砲射撃を一当てし離脱すれば、損耗も無くかつテュネス艦隊に打撃を与え、ヤルタに帰投出来ます」
「では、アルニン海軍の輸送艦は見逃すのかね」
「艦隊と一輸送艦とでは、艦隊の撃破を優先すべきでは?」
「通常なら大尉の言う通りだ。だが、此度はアルニン海軍撃破を優先する、テュネス世論の誘導が作戦目的だからな」
「はっ!了解いたしました。それでは当艦隊はアルニン輸送艦を追走いたしますか?」
「いや、非武装の輸送艦だ、二艦で追走させて、残りの艦隊でテュネスに当たろう。確かに美味しい艦隊隊列だ。……うん、パルシェ准将とリーグ大佐の艦に追走させろ。
全艦戦闘準備!砲撃タイミングは各艦長に一任す」
「了解いたしました。各艦通達……」
ベルソンの意は即座に手旗信号で通達された。
パルシェ、リーグの艦が、アルニン輸送艦に迫る。
大型で船足の遅い輸送艦など、すぐに追い付かれるだろう。
「所属不明艦隊、テュネス艦隊と交戦状態に入りました。別動の二艦が当艦を追走してきます」
「何とも思いきりの良い海賊だ、10艦で一個艦隊を相手にするとは。
サンタ艦長、テュネス艦隊との合流は無くなった、この艦で追走を振り切れるか?」
「いえ、少佐。10海里程進んだ所で追い付かれ、砲撃を浴びる事になります」
「……随分と具体的だな艦長」
「恐れ入ります少佐」
「ではサンタ艦長、最良と思われる行動は何だと思うかね」
「一、投降。二、陸地向かい逃走。三、護衛艦まで逃走。こんな所でしょうか」
「艦長、三を支持します。荷を投棄して船足を早くすれば護衛艦に合流出来ます」
コントが口を挟んだ。
そもそも船上で、総合総司令本部の参謀など御呼びでないのだ。
船上、艦上では、総ての判断は船長、艦長に委ねられる。
指揮所からアルは離れていた。流石に遠慮したのだ。
レオン以下教砲小隊の面々も甲板上に集まっていた。アルはそこに合流していた。
「ねえ、先生。三号がさっきからうるさいんで、言うけどさ」
「……なんだい」
「後ろの艦、沈めちゃお。デッカイ大砲が甲板上に有ることだしさ」
「何だって?そんな事が出来るのかアル?」
「出来るみたいだよ。うわっ集まって来やがった、臭ぇ」
「本当か!アル!アレ撃てるのか!アレ!」
「なんだよアレ、アレって。軍曹試射で飽きるほど撃っただろが」
「試射は試射だ!敵だぞ敵!敵には撃って無いだろが!後ろに敵!撃つ敵!早く!」
「と云う訳で、サイコ軍曹が重火砲撃つから、先生許可頂戴」
彼の天才は理解している。ただ、艦上射撃は経験が無い筈だ。
陸と違い船は揺れる、水平面が無いから仰角補整は、揺れによりその都度変わるから意味が無い。
だが、彼は全て感で行う。逆に計測射撃など出来ないだろう、感で撃ち命中させる神の目を持っている。提案する価値は有るだろう。
「待っててくれ、艦上では艦長の許可が必要だ、提案してくる」
「ブブエロ!ピ!重火砲射撃準備!急げ!急げ!急げ!」
ダッドが暴走し始めた、まあ、何時もの事だ。
「サンタ艦長、ゴーン少佐、アル技官からの提案で、当艦登載の重火砲で、後方の所属不明艦の砲撃を試みたいそうです」
微妙に責任の所在をずらした提案を、レオンはした。
こういう所は彼は狡い。ゴーンがアルを信奉しつつある事を、上手く利用しようとする。
果たしてゴーンは食いついた。状況が切羽詰まっている事でもあるのだ。
「その手があったか!艦長、投降はしなくて良さそうだ、艦上射撃の許可を、早く」
……サンタ艦長は許可を下すしかなかった。
ゴーン少佐の剣幕もそうだが、凄まじい殺気を砲兵の方から感じたからだ。
ダッドは、戦争が絡まなければ割りとマトモだが、戦争が絡むと途端に発狂するのだ。
今年もあと僅かとなりました。
基本、隔日投稿は変わらないので、正月休みも投稿します。
拙作、武侠少女如何です?中華風武侠物もたまには良いかもしれませんよ♪




