海賊艦隊?
「アル、覚えて……いるかどうかは知らないけど、コント.ボルジアだ。パルト市街学問所で一緒だった。この輸送艦の副艦長だよ」
レオンが紹介した。アルが覚えている訳がなく、ほとんど初対面紹介だ。
「そうなんだ、ボルジア副艦長。俺アルだよ、よろしく」
「よろしく、コントと呼んでくれれば良いよ。正直な所、俺はあまりアルの事は覚えていないんだ」
「昔むかしの事だからね。コントは副艦長って事は士官様かい」
「海軍少尉だよ、コントは出世頭だ。副艦長ってのは通常なら中尉からだろ?」
「いや、それは軍艦。この艦は非武装の輸送艦だから艦長が中尉さ。それに出世頭はレオンだろ?中尉で小隊隊長だ」
「半分以上はアルのお陰だ、機動架台。本当に運が良かった」
あの時、早々に見切りをつけて、他所の運送屋を当たればアルとは擦れ違いになっていたのだ。
ただ、後世を思えば一概に運が良かったとばかりは言えない。
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ザベス港は緯度的にはテュニス港と変わらない。
小なりとは云え艦隊移動だ、ナザレから三日程の航海となる。
あと一日程の航海で、目的地のザベスと云う所で、護衛艦は引き返す。
連合王国はもちろん、諸列強国を刺激する訳にはいかないからだ。
アルニンはテュネス正統政府支持を表明している。これは大きい。テュネス世論は大きく正統政府支持に傾いた。中立勢力もだ。
だが、テュニスは人口120万の大都市で、都市国家として、充分独立出来る規模を誇る。
穀倉地帯であり食料品の輸出、医療品、その他生活物資の輸入は、連合王国衛星国との貿易で、短期的には経済的自立は可能だ。
軍事的にも、海軍によるテュニス周辺海域支配、テュニス周辺地帯の陸軍支配下にあり、最低限の国家の体裁は為していた。
馴れない艦上の生活で、アルはすっかり暇をもて余していた。
軍曹以下見知った顔と、下らない雑談を交わすも、二日もすれば飽きる。と、言うか砲兵連中、海に弱すぎる。
小隊中、半数は船酔いでゲーゲーしている。
他の技術武官を捕まえて、対話を図るも、ガードが固く益のある話は聞けない。
彼らは武器工厰からの出向で、ただの武官待遇者だ。そもそも最初から敬遠されていた。
考えてみれば当然で、アルは技術者としてのみの同行者ではなく、砲術家としても同行している訳で、扱いに困る。
艦内で、最上階級者ともツーカーだし。
仕方ないので、コントを捕まえて遊んでいようと甲板上に出た。
潮の香りと、嗅ぎ慣れた死臭。一号が辺りを漂っている。
「なんだよ。護衛艦が帰ったら即座にかよ」
洋上、艦隊が見えた。ザベス港近海に小島があるのだが、そこから武装艦隊が出帆して来た。
ご丁寧に、ドクロの旗をこれ見よがしに掲げている。冗談にしても面白くない。
内海中域の、しかも諸列強海軍艦隊の往来する海域で、海賊なぞ存在する訳が無い。
だから、冗談にしとも面白くないのだ。いずれ連合王国の艦隊か、それに付随する勢力の武装艦隊だ。
海賊旗以外、国籍旗、所属旗などは当然掲揚などしておらず、
戦闘旗と即時の停船命令旗が掲揚されていた。
マスト最上の見張りが、けたたましく警鐘を鳴らす。聞き付けた水兵が連絡に走った。
甲板上に、艦長が現れそのまま指揮所に陣取る、副艦のコントもいつの間にかそれに倣っている。
アルは、と云うより教砲小隊は外野だ。だから輸送艦長の指示をを聞くしかない。
と言うか、陸軍砲兵連中に洋上で成すことなど無い。
指揮所にはゴーン少佐も参加していた。
元より非武装の輸送艦だ、逃げの一手しかない。
「アル!何事だ!海戦か!」
またうるさいのに捕まった。
「見てみあそこ、海賊艦隊。生まれて初めて見たわ、本当にドクロ掲げるんだな」
「あん?よく判るな、目が良いのか?」
海賊艦隊?とはかなり距離が離れている。アバウトで4000㍍程。掲揚旗など望遠鏡で確認しなければ、判らない。
「そうか?それより陸から海軍の艦隊が出てきたね」
それこそ距離がありすぎて肉眼では判らない、陸からとは、ザベス港からだろう。
ただ、向こうからもこちらを視認出来る訳がないので、偶然こちらに出港してきたのだろう。
……後で判明した事だが、偶然ではなく此方を出迎えの為にテュネス正統政府側が艦隊配備をしていたらしい。
それぞれが行動を開始した結果、ザベス沖は偶発的に戦闘海域に変貌した。
ただ、この場合、輸送艦としては判断に迷う事となる。輸送艦は非武装だ。
「ちょっくら教えてくるよ」
理屈は判らないが、アルはテュネス艦隊がこちらに向かっていると感知したらしい。
ダッドもアルにくっついていった。
「艦長、引き返すべきです。まだ、敵艦隊とは距離があり、充分離脱可能です。護衛艦に合流しましょう」
輸送艦自体は既に反転航行を完了し、海賊艦隊?から逃走している。
コントの言っている事は、方針の事だ。
これが内海中央付近ならそれが最良だ。
だが、現在輸送艦は南方大陸が視認出来る海域にまで進んでいる。
ザベス港に逃げ込める距離でもあるのだ。
海賊艦隊は擬装で、まず連合王国関係だろう。
テュネス支援派遣艦のフェイク情報を掻い潜っての艦隊派遣だ。
人目の無い遠洋に出たら、まず間違いなく撃沈される。証拠証人は不味いからだ。
同じ撃沈でも、人目がある大陸近海のがマシなのだ。艦長は判断に迷う。
そこにアルが放言する。
「艦長さん、軍師さん。なんか陸の方から艦隊が出港してきたよ。方向からしてザベス港?」
「本当かねアル技官。サンタ艦長、聞いての通りだ、テュネス艦隊に合流すべきだ」
ゴーンはアルに盲信している所がある。
いや、最近特に酷くなってきた。
ゴーンが陸軍所属なら、返す言葉の一つもあるが、生憎彼は総合総司令本部からの出向だ。
サンタ海軍中尉は本気で迷った。
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