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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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工房主任、ガリレイ技術少尉

「第三砲台付火砲術研究室所属ダッド曹長、開発部研究室との打合せの為入場する」


 都市部である城壁内は、当然60万市民の工商生活活動の為、城門は解放されている。


 海上封鎖時に一時的に閉ざされたが、脇の臨検小門から通行はできた。


 完全閉鎖は、戦時下にならない限りまず無い。


 ダッドが官所属、入場目的を申告したのは、都市城壁内の軍港城塞守衛兵士にだ。


 快速挺での移動ならば、軍港内関で申告だが、まず外部からの浸入はないので、あまり堅い入場申告はしない。戦時下ではないのだ。


 車両の持ち込みなので、危険物が無いか確認される。


 軍港城塞なので危険物だらけなのだが、新規に危険物を持ち込む場合、事前に申告が必用だ。


 軍曹達は、階級章や所属記章、軍服が身分証になるので、いちいち身分証を掲示しないで済むが、アルはそうではない。


 ついさっき、レオンが裏書きした身分証を掲示した。


 アル技術准尉武官待遇、第三砲台付臨時火砲術研究室所属。


 長い。なのでアル技官と三砲研で通す事にする。


「確認しました。ただ、三砲台臨時研究室ですか?ひょっとして、今話題の?」


「そうだ」


 お調子者が即答した。この男、三砲台に引きこもっていたので、話題の内容など知らない。


「アル技術官と言えばあの……」


「そうだ」


 これも即答、絶対自分の噂など知らない。守衛兵士は何とも妙な顔をする。


 第二、第三砲台の()()は今軍港城塞内で一番ホットな話題だ。


 いつの間にか、噂は第三砲台内から城塞内に広がり、更にはナザレ軍港城塞()()内に広がっていた。


 勿論誰も()()などと思ってはいない。第二の無血解放より、第三の砲撃戦の方が話題になりやすく、色々と尾ひれがついた。


 新兵器が実験投入されただの、


 その新兵器はパルト家お抱え工房で作製されただの、


 異常な機動力で騎兵程の速度で移動する火砲だの、


 砲兵が、三砲台を一番乗りしただの、


 新兵器が、相手側の砲門を全て破壊しただの、


 まあ、ここまでは良い噂だ。


 内通砲兵将校を炙り出し、敢えて新兵器の実験のため皆殺しにしただの、


 その為、狂人部隊を編成しただの、


 態々その狂人部隊編成の為、レントまで偽装出張して選別しただの、


 自称ウンコ使いなる狂人を、軍部で秘密裏に育成していただの、


 その者はウンコを自在に操り、ウンコと対話するだの、


 ウンコ使いや阿呆鳥使いなどの異端が、軍部を乗っ取るつもりだの、


 神の世界を造るつもりだの、


 大地との絆を結ぶつもりだの、


 蒼き衣をまとっているだの、


 後半の噂は愉快千万だ。


 因みに、ダッド、コロンボ、ブブエロ、忘れられたピエトが、軍轄酒保で奢り酒と引き換えに、ポロリと漏らした情報が発信源となる。


 “友人は選ぶべき”との格言通りの有り様だ。


「……任務お疲れ様です、退場時にもなるべく此方から願います」


「うん?なるべく此方からとは、どうしてだね、他所から退場出来るのかね」


 何か偉そうに尋ねた。これにはダッドが答える。


「こいつが有って陸から来たが、第二第三の連中は快速挺で来るからな、荷が無ければ帰りは便乗したい所だ」


「そんな事が出来たのかね、ダッド君。では帰りは快速挺にしよう。歩くのがタリい」


 やれやれ、とした風でダッドは答える。


「たった今、守衛所を通れと言われたばかりだろ、馬鹿。大体車両をどうするつもりだ馬鹿」


「馬鹿馬鹿言うな軍曹!ウンコぶっかけるぞ!」


 この男には、運送屋で前科がある。


 噂のウンコ使いはこいつか、と云う目で見られ、可哀想な人扱いで正門守衛所を通過した。


 開発部の工房に直接向かっても仕方ないので、まずは開発部に向かう。


 開発部は、総合司令本部直下組織だ。

 特に日時の指定は無いが、一度話をしたいと打診があったそうだ。


 そこらの調整は、参謀本部の偉い人がしてくれたと先生から聞いていたので、アルは全くお気楽に訪ねたのだ。


 軍組織人と云うより、社会人としても如何な物と思うが、この一行にそれを正せる常識人はいない。


 カラカラとも音も立てず、一行は総合司令本部正面玄関に“マーク”を横付けだ。


 異形な車両に注目の目が集まるが、何時もの事なので、慣れたものだ。


 ブブエロとコロンボは、サボり目的で同行しただけなので、総合司令本部の入場を拒否した。


「なんでよ、伍長さんもブブさんも来いよ。折角だから、高い所に登ろうぜ」


 イチイチ高い所に登る事に意味は無い。

 この男は本能に従った発言をしたたけだ。


「イやだ、ここには偉イ奴が一杯イる。だから、無意味に入りタくなイ」


「ほら、憲兵辺りに棒で叩かれたくないじゃん」


「あん?高い所に偉い憲兵が一杯いて、棒で殴るのか?やな所だな、総合本部ってのは」


 ……何か色々と不安な一行だ、特にコロンボ。こいつに砲班長を任せて大丈夫なんだろうか。


「まあ、良いや。ゾロゾロ入っても仕方ないからな、俺とアルで行くから、お前達は車両をイタズラされない様に見てな」


「なんだよ、ここは棒で叩いたり、イタズラする様な奴しかいないのかよ、全く軍人って奴は……」


「馬鹿な事言って無いで行くぞ、みろ、笑われてる」


 まあ、珍獣が漫才をしている様な物だから当然だ。


 入口受付で開発部の場所と、工房主任のガリレイ技術少尉の所在を尋ねた。


 アポ無しの面会だ、

 日時の指定が無いのは、何時でも良いと云う意味なのか、日時を互いに調整しましょうと云う意味なのか、

 そんな事を考える様な殊勝奴らではないので、シャアシャアとした物だ。


 幸い、受付がガリレイ技術少尉に問い合わせた所、少尉に時間が有り面会が叶った。


 これは、ゴーン大尉の根回しもさることながら、噂の機動砲台の製作者に、ガリレイ技術少尉も興味があった事も要因だ。

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