吶喊、突貫、マークII
マークII好きな車でしたね。
反撃始まります
「そろそろ撤退か?どう思う少尉」
第三砲台司令塔からだ、戦況はワンサイドゲームだ。
確かにビンゴ大尉は砲台内を掌握し、部下の信望もある指揮官である。
だが、本来高所にある砲台は難攻不落であり、条件にもよるだろうが、彼以下の指揮官でも充分守りきれるだろう。
もし、最少被害で攻略するとしたら、遠巻きに包囲して糧食責めだろうが、海上封鎖を解除させるため、それは出来ない相談だろう。
「結局昨日と同じでしたな、パルト准尉の出番も無く。今少し手応えが欲しかった」
「まあ少尉、准尉に砲撃戦術を教導できたのだ、それで良しとしよう」
第三砲台側は余裕だった。
だが、この後すぐにこの余裕は吹き飛ぶ事になる。
アーガイル社謹製、中距離野戦砲。
先込め式の火砲で、多くの砲同様、後部に導火部があり、そこに火薬を詰め、点火する。
砲身は2㍍ほどで、構造自体は珍しくも何ともない。
ただ、特質すべきはその強度だ。従来の中距離野戦砲の5割増程の火薬を装填できた。
5㌔の砲弾を1000㍍程発射できたのだ。
大体、同程度の大きさの、中距離野戦砲の砲弾が4㌔で、射程距離が800㍍程だから破格である。
これはコークスの普及に伴う技術向上のお陰だ。
コークスの高火力によって、それまで溶解不能だった鉄が液状化するので、青銅砲同様に鋳造が可能となったのだ。
ただ、そのままだと鉄組織の密度が薄く脆いので、
アーガイル社は鋳造鉄火砲をさらに過熱して鍛造した。
世界で初の鉄製鋳鍛造砲だ。その火砲を……
(だから、一体なんだよ!ウンコ野郎!わからねェんだよ)
3号が指差していた。
他の3号は車両を指さし、
更に他の3号は積載済みの火砲を指差した。
全てのウンコ臭い3号が、虚ろな目でアルを見ていた。
「ひょっとして、撃てる状態で積めってか?」
全部の3号が、ゲラゲラと笑った。
「……まさか、これやるために、テメエ等俺に車両作らせたのか?」
3号達の数が増えた。ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ
「……これで走り回って、撃ちまくれってか?キチガイみてぇに」
3号達のゲラゲラが、実際に聞こえるように感じる。
3号達のなかに、祖父母が居た気がした。
いずれも馬鹿みたいに、キチガイみたいに笑っていた、ゲラゲラゲラゲラゲラゲラと
「……テメエ等……」
次の瞬間アルは絶叫した。
「天才か!すばらしい‼俺は猛烈に感動した‼
これから師匠とよばせてくれ」
そう、この男はこういう人間なのだ。
ブツブツと、独り言を言っていたと思ったら、いきなり意味不明の絶叫をしたアルに、周囲は面食らった。
そんな周囲にキチがいは目もくれない。
「先生!名案だ!さんごっじゃなく師匠が教えてくれた!聞け!」
ダーレンやコロンボと(ダッドは興奮がひどくて会話にならない)装薬量の検討をしていたレオンは、勢いに負けて聞いてしまった。
「な、なんだアル名案って」
次のアルの発言で、後に機動火砲部隊が誕生する事になる。
「これに大砲固定して、移動して撃つんだよ、つまりマークⅡだ!」
後半はともかく、意味は通じた。
「そうか、支援砲撃だから命中弾は必要ない、攻撃手段が有ることが知れれば、敵も動揺する。名案だ」
「なるほど、支援砲撃しつつ、囮をするのか、この車両の機動力なら敵が当てるのは不可能だ」
ボロボロと涙を流しながら、ダーレンは賛同する。
「けど二門は重イかナ」
「移動の動力なら任せてください」
ブブエロとピエトの空気組だ。
「おい!一門下ろすの手伝え、これは実戦なんだぞ!早く!速く!はやく!ハヤク‼」
人手は多い、積載していた一門は下ろされて、もう一門は移動式架台ごと、荷台に固定された。携行してきたウインチが役にたった。
砲撃の反動を考えて火砲は荷台前部に寄せ、衝撃吸収用に、車輪のコイルは全車輪に接続した。
最後に砲弾を10発積む、火薬はコロンボが背嚢にいれる。
遠目には、新兵器に見えた。
「ウオオオッなんじゃコリャァァ!アル!この天才野郎!なんだこりャカッコ良ェェ‼」
「これだよ!軍曹!これやりたかったんだよ!ロマンだよ!夢だよ、これで勝った!」
二人のテンションは駄々上がりだ、周りも確かに思う所もあったが、二人のテンションの前に引いた。
「聞け!これより我等、機動砲兵は敵砲台に特攻をかける!死んでいった戦友達に、我等の勇姿を手向けとするのだァ」
軍曹ではない、アルだ。色々と突っ込み所はあるが、無粋なので止す
「吶ッ喊ァン!」
「突ッ貫ァン!」
アルと軍曹がハモった、音は同じだ。
機動砲台は前進した。
時間はまだ午前中の事だ
マークIIの後継車ってマークⅩでしたっけ、次回作それでいきます。