聖人ダーレン
体質なんだから、正常な人っス
キチは好きだけど、使い勝手が悪いっス
「それにしても、酷い面子だな」
軍曹は辺りを見回す
「ダッドもそう思うか、俺もだ」
小隊の面々だ、ハッキリ言えば問題児(中年)だらけだ。
命令不服従、抗命などは可愛いほうで、反抗行動、脱走、暴行、略奪、放火、エトセトラ
もはや、ギャングが軍服を着ているだけだ。
ただ、砲手としての腕だけは確かだ、そうでなければ、流石に上官も庇えない。
「あそこら辺が第一砲台のゴロツキ連中だろ、そっちが第二の馬鹿ども」
「で、あそこが第三砲台の変人連中。わざとだな、この編成」
「まあ、今となっては誰でも分かるさ、反乱の邪魔者だな。俺ならどさくさ紛れに、後ろから撃つ」
「後ろから撃たれたくないから、新任准尉に押し付けてやりたい放題か。ん?それだと第一の連中は?」
「さてね、馬鹿比率のバランスでも取ったんじゃないの?」
酷い言い種だが、遠からずだ。新型砲の習得のためという大義名分なのに、第一砲台だけ派遣しない訳にはいかない。
まるで、自分達は別だと言わんばかりだが、周囲の目は違った。この二人は悪い意味で有名だ。
と、言うより怖がられていた。
ゴロツキ連中だ、暴力では怯まない。
別の意味でだ。
まずはダーレン曹長だ。彼は下士官としての経験、実績、判断力、統率力、人望?に問題はない。
急編成のゴロツキ小隊を引率できるのだ。粗野、粗暴では務まらない。
彼が怖がられるのは、少し変わった体質のせいだ。
ダーレン曹長は、戦時など興奮状態になると、ボロボロと大粒の涙を流すのだ。
別に悲しい訳ではないので、冷静沈着に行動する、部下を叱咤激励する、指揮を採る、砲手として行動する。
その間ずっと泣いているのだ、長引くと血涙する。
傍目には、静かに精神に異常をきたした様にしか見えなかった。
布教活動中、感極まると滝の様に落涙したといわれる、守護聖人ヨハネスにちなんで、聖人ダーレンと陰口を叩かれてつつ、怖がられていた。
ダッドの方は、ハッキリと異常だった。
彼は前述したが、戦争大好き人間で、一度スイッチが入ると、高レベルの躁状態になる。
が、これは新兵によく有ることなので、大しておかしくはない。
おかしいのはその後だが、これは後述する。
アル以外に、周囲に人がいないのも、怖くて不気味で、誰も近付きたくないからだった。
レオンが砲兵小隊屯所にたどり着いたのは、アルが即寝した10分後だった。
口頭での誓約なので、厳密にはアルは民間人だが、軍曹は容赦なく軍属扱いした。
つまり叩き起こした。
眠そうなのは無理もない、今日は日の出から日付変更付近まで歩き続けたのだ、強行軍もいいところだった。
「総員整列!」
さすが軍人である、40名の小隊人員が(借りてきた輜重兵もそのまま砲兵小隊に合流している)即座に整列する。
「総員傾注!」
これはダーレン曹長、合流後は彼が次席階級だ。
「本日午前6時をもって、第三砲台攻略作戦を発動する。
作戦内容は工兵が攻撃ポイントに築塁後、本小隊が、砲門を搬入、設置、砲撃を担当する。
火砲援護と連動し、歩兵部隊が突撃を開始する。
火砲援護は歩兵部隊が第三砲台に近接成功まで続行する。
質問を受け付ける」
真っ先にダーレン曹長が挙手した
「築塁地点はどこになるでしょうか、かなり前進しないと、砲弾が届きません」
「砲台から800㍍程下った中腹に窪地が有ることを覚えているか?工兵はそこに築塁する」
「その地点からだと、ギリギリ届くか届かないかと思われますが?」
「強装薬で砲撃する、届くはずだ」
「了解しました」
「次に、決死部隊の編成を行う」
レオンの言葉に、猛者揃いの砲兵科下士官連中も息をのんだ。
「本作戦は、いかに迅速に砲門を設置するかに掛かっている。一門でも設置できれば、反砲撃できるが、第三砲台側はそれを断固阻止してくるだろう、それを念頭においてくれ。
志願者はいないか」
「志願します!」
即答だ、軍曹だ。軍曹は後ろを振り返ると続けた。
「コロンボ、ブブエロ、お前達には命の貸しがあったな、今日返せ」
二人はダッドの班員だ。
「せめて意見くらい聞いて」これはコロンボ砲兵伍長
「借り返すんジャ仕方ナイな」ややアルニン語に難があるのが、ブブエロ一等卒。
彼は南方大陸の出身だ。
「他には居ないか。……一砲班では手が足りないので、班毎に交代しながら砲門設置作業を行う」
「志願します」
周囲から、おい!という声がした。
「貴官は私と同行した輜重兵ではないか。構わないのか?名は何といったか」
「はい、二等卒ピエトであります。運搬作業が仕事であります。自分こそが適任であります」
「わかった、頼む」
“あります”が三連続で聞こえて、アルはようやく頭がはっきりしてきた。
小声で隣の輜重兵に聞く。
「聞きそびれたけど、何がどうしたの?」
この輜重兵もアルと同行した兵だ。
「砲門の運搬設置の志願兵を募っている所だ、今ダッド軍曹と、うちのピエトが志願した。あいつ何考えて……」アルは挙手した。
「質問!せんせ、じゃない、エー…隊長?」
「君は、まだ正式に軍に所属している訳ではないから、何と呼んでも構わないよ。何かな?」
「大砲の運搬にはアレを使うのか?」
「そうだ、この作戦の基幹になる」
「なら、俺も志願する。さっきから3号がうるさいのはこれか」
後半は小声だった
「後ろ半分が聞こえなかったが、却下だ」
「駄目だ、俺やる」
「却下」
軍曹が割って入った
「准尉殿、あの車両を使うなら、アルが適任です。何より本職の運送屋だし、作業が捗る」
「しかし……」
「どのみち戦場です、安全な場所なんて砲門が在るところだけだ」
「軍曹、何かやたら格好いいね、良いよそのノリ」
馬鹿野郎。と返す軍曹。
しばらくレオンは沈黙し熟考した。
「わかった、許可する」
そして、レオンが折れた。
がんばりました、もう一話投稿できそうです。完結までたどり着きそうです