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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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三章エピローグ

三章ラストです。

 サンドロは、自身の公務用の馬車でアルを出国させた。


 と言うより、出入国門からは、いかにサンドロが枢機卿であろうとも、手配されたアルを出国させる事は出来ない。


 北門は公務用の通用門であり、使節や外交官はこちらから出入国する。


 つまり奇跡認定局発令の特定人物出国禁止令の対象外である、ここは公務以外に開閉しない。


 内務省長官であるサンドロは、出国する分には顔パスだ。


 アルの阿呆は、内務省の公用馬車でサンドロと雑談を交えながらノウノウと出国である。


「閣下、これからどこに行くのでありますか」


 各省庁の長官は、他国の様に内閣府や行政政府任命の閣僚では無いのだから閣下の呼称は不適切ではある。


 そもそもここは、行政内閣などと云う卑小な組織規模ではない。一宗独占の専制宗教政治形態なのだから、やはり宗教的な尊称の猊下が正しかろう。


 他国人なら、訳の関係で閣下もあり得るが二人はアルニン語が通常言語である。だから馬鹿にされているとも取れる呼称だが、発言者はズバリ馬鹿である。


 だからサンドロも別に腹も立てないし、アルの人柄は知れている。


「アル殿の出国が目的であったのじゃが、どうである、このままアル殿を兵舎に送るのも味気無い話しじゃど、少し遅いが昼食を共にせんかな」


「そうかい閣下、なら奢るよ。店は任せるから支払いは任せてよ」


「カカカ、豪気な話じゃ。ならば遠慮なくお斎に与りますかな。良い店が有るんじゃ、拙僧とも縁が有る店で、良き食材を仕入れる隠れた名店じゃ」


「こっちは越してきたばかりだから、道も分からないからね。本当は教会関係の用事が終わったら、街中をブラつく予定だったんだよね」


「ほほう。詳しい経緯は聞いて居らなんだが、ウチにはなに用じゃったんじゃ?観光と云う訳でも無さそうでは有るし」


「それが、よく分からん。兵舎近くの教会に戸籍申請に行ったら、法王庁の本局に行けと言われて、来てみたら面談だか何だかが有るとかで、兄弟の坊様の弟の方に連れられて、でっかい礼拝堂?聖堂?だかに行ったら尼さんにぶん殴られて、よく見たら、その尼さん運送屋のババアでさ、人の足を折ろうとするから逃げてきた。

 そうしたら、閣下に出会った訳なんですよ」


 うん、分からん。


「よく分からないが、何やらお客人に対して大変な無礼が有ったのじゃな、その者達に代わりお詫び申す、済まない事をしました」


 頭を下げる習慣風習は無いから、目線を下げての目礼だ。


「いや、いや、いや、閣下は何も悪く無い。悪いのは運送屋のババアだからねぇ、まあ、大したこと無かったから、良いよ」


 今、大聖堂では意識不明者、軽傷者、の手当てのために奉献会から人員が回されたり、壊れた扉の応急修理をしたり、施設管理局の現場検証が有ったりと大騒ぎなのだが………野郎自身も三号、四号の大半を失っている。


 それを“大したこと無い”で済ますのだから、………確かに凄い。



「寛大、感謝しますぞ。

 ………さて、さて、アル殿は不思議なお人ですな、こうして話すと、まるで無私無垢な古の聖人の様な感が有るのじゃが、ボルゲン区の陸軍兵舎に居住するとは、つまり軍人なのじゃろ?

 軍人とはあまり接点が無いのじゃが、皆アル殿の様な達観者なのかのう」


 死が目前に迫る実戦経験者の中に、たまに自己を失う事もなく、悟りの様な境地に至る者も居る。


 またそこから出家して名を成した聖職者も居る事はいる。


 ただ達観が過ぎて、サンドロの様な高位聖職者にまで昇る者は極少数なので、サンドロとしても、アルの様な()()な人格者を知らないのだ。


 姉マリアさんもかなりアレなのだが、アルのそれは毛色が違う。幼少時から死霊が身近なので死=別離では無いのだ、それが人格形成に決定的な影響を及ぼしている。


「いや、閣下、俺は軍人じゃ無いよ、軍属だ、でも給料は国から出てる。

 つまり国家公務員だ。割と給料貰っている」


 軍人も国家公務員である。


「政府の派遣鑑査官か何かかの?軍関係は不得手じゃ、つまりエリートなんじゃな、その若さで大した物じゃわ」


 話が頓珍漢なのは仕方ない。サンドロは法王殿に報告事項と、決済承認のために出向いていて、たまたま居合わせただけだ、だからアルの事はまるで知らない。


 時間帯がずれていたら、他の者が聖令を拝命していただろう。


 法王直令は、法王殿に誘導した“特異者”を歓待する事だった。


 くれぐれも敵対しない様に、友好的にと念を押されている。


 あり得ない聖令に、サンドロとしても面食らったが、逆らうなどもっての他だ。


 人物像を知らされた訳では無いので、会話がチグハグなのは仕方ないのだ。


「多分そうだと思うけど、エリートってのは違う。エリートってのは先生、軍師さんみたいな人達の事だからねぇ」


「先生?アル殿の教師かな」


「いや、同郷の偉い兵隊だ、頭が良いんだよ、理由は忘れたけどそう呼ぶ事にした」


 何かに感動してそう呼ぶ事にしたのだろうが、どうせ大した事ではない。小拙も忘れた。


 サンドロも、まさかその先生とやらが自分が仲人する花婿だとは思わない。



 どうやら、サンドロと阿呆は人間的に相性が良いようだ。


 最初、法王直令による歓待命令を受けたとき、サンドロは“先方は何者だ?”と疑問を感じたのだが、こうして会話をすると、少しばかり頓狂な所が有るだけの青年だ。


 ならば地位が有る人物かと思えば、アルニン政府からの軍部出向役人との談だ。


 血筋的な物かと勘ぐれば、どうやら“同郷の偉い兵隊”との言葉から、あまり血統的な優位性を感じさせない。


 探りを兼ねての会話が、中々味の有る会話内容となり、サンドロとしても新鮮で面白い。会話は弾んだ。

 どちらかと言えば無口な部類のアルにしては珍しい。


「カカカ、面白き御仁じゃ、どうじゃアル殿、いっそ出家をせぬか、世界を放浪する夢を実現するに、行く先々で信頼される事が一番肝要なんじゃが、僧侶が一番やり易いぞよ」


 まあ、確かにそうだが、同時に尖兵的な役割も持つから、スポンサーに報告する義務が有る。


 阿呆は馬鹿だからそこがネックだ。


「出家ねぇ、ただ戒律がなぁ」


 いや、基本信者も戒律は守る物なんだからそれは理由にならない気が………


「拙僧が言うのもナンじゃが、遊行僧ならあまり煩く言われないぞ、郷に従えと云う事で、地域地域で風習やモラルも違うでな、煩く言うと成り手が居なくなる。

 ちょうど今、南方教会設立を詰めている所じゃ、テュネスに造るのじゃが、先触れの遊行僧を選別している所なんじゃよ」


 どうじゃ?との問に阿呆は素っ気ない。


「いや、テュネスは行かない、ようやく頭数が減ったのにまた増えたら敵わん。

 それに今の環境は悪く無いしねぇ、軍を首になったら考えてみるね」


 政府出向だから軍は首に出来ないの。阿呆。


「うむ、ならば半俗半僧の在家出家をせぬか、どうにもアル殿が気に入った、法子縁組みを拙僧とせぬか」


「それだ!兄弟の坊様がそんな事を言っていたよ、何だかって云う偉い坊様が俺の保証人になったから、法子?とやらの審査が有るとか何とかで。それでババアにぶん殴られた」


「保証人?何やら話がキナ臭くなってきましたな。その偉い坊様の名前は覚えておりますかな」


「いや、知らん。書類を失くしたり汚したらナンだから、ろくに目を通していないからね」


 微妙に会話が成立しないが、サンドロも年の功か気が長い。


 調べてみますか。などとアルに興味を持った様子である。


 このまま馬車は新市街北部を抜け、燐区のフォッツェロ区に有る風月亭に向かう。


 聖女さんの旦那の親父の店だ。


 ローザンヌさんの在家信仰者組合加入の件もあり、面倒を見た縁故が有る、サンドロ自身、風月亭に出資し名義上共同経営者でも有る。


 ちな高級路線に経営展開させたのも、他ならぬサンドロの提言だ。


 まあ、枢機卿が通う料亭だ、定食オンリーと云う訳には行かない。


 ここで散々阿呆は食い貯めをしサンドロを驚かせたが、まあ、カットだ。

 払いは阿呆持ちだが、共同経営者同席なのだから特別価格である、と、言うよりほぼサンドロのゴチ、阿呆は本来ではオードブルも食せない金額で、フルコース×3+αを飲み食いだ。


 午前のバタバタと反して、何事も無く阿呆をボルゲン区の陸軍兵舎に送る運びとなる。阿呆、バッタみたいにピョコピョコと頭を下げて謝意を表す。


 頭を下げる習慣が無いアルニン人とは云え、それが感謝の現れで有る事くらいは通じるものだ。


 こうして阿呆はダッドの事など完全忘却でノウノウと帰営した、尤もダッドが薬剤による爆睡から目覚めるのは夕刻の頃であるから結果オーライだ。



 洗脳計画自体は失敗したのだが、サンドロに餌付けされた阿呆は、結果、法王庁高位者と友好好意的な親交を得た訳であり、誰の思惑かは今は不問とするが、野郎を“教会に対して好意的に誘導する”と云う点では成功した訳である。


 サンドロのファインプレーだ。



 同刻、アルニン山脈に演習中の山岳歩兵小班が、奇妙な一団を発見した。


 いや、奇妙とは言い過ぎだ、()()猟師だ。ただ、その家族、親類縁者を含めた一団であり、その総数は100名程。


 岳兵の演習予定地域では無いが、かなりの高度地域であり、猟師が一族揃ってハイキングをするには過酷に過ぎる、更には真冬の午後だ、後数時間で日が暮れる。


 当然岳兵は彼等を誰何した。


 彼等は、アルニンに庇護を求めた難民だった。


 そう、麓の猟師やその一族、村民が逃げてきたのだ、麓は麓でも、こちら側では無く反対側のスイッツランド連邦国だ。


 彼等はアルニン山脈の尾根を伝い逃避中の連邦国民だった。猟師が多いのは武装の関係で、つまり一団の護衛役でも有ったのだ。


 この報は、軍部を通し即日アルニン政府に報告される。


 その詳細は国家規模緊急事態で有るのだ。




 ………殺したり、殺されたり、跳んだり跳ねたりは、ここから始まる。


 さて、次章から戦記物らしくなる様に、砲兵連中には気張っていただきますか。


 3章完

長かった三章も終わりました。伏線章でしたので、短い章の予定でしたが大幅に変更です。


女衆がやりたい放題で、短くまとまりませんでした。反省は………していません。


四章は武侠少女の三章終了後に再開しますので、時期的に来年の今頃ですかね。


それでは、お付き合いくださいまして、有り難うございました。


追伸、カニオ的耳袋3話目投稿しました、よかったらお目通し願います。

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