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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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呑気な化物

アル視点です。

「つまり、坊様はさっきの太い坊様とは兄弟じゃ無いんだな、変だねぇ」


「あのお方はドモン司祭様でして、血縁関係はありませんよ、アルフォンソ様」


「それだ、そのアルフォンソってのは止めて、何か奴等に笑われてる」


「奴等?ですか」


「そう。割とこっちの話しを盗み聞きしやがる。それより、何でそのドモンって司祭様は兄弟みたいなもんだと言ったんだ?」


「信仰を同じくする者は、皆兄弟姉妹なのですよ」


「それよ、兄弟姉妹はまあ、何となく分かる。んじゃ親父やお袋は何に当たる、あと爺ちゃん婆ちゃんは?」


「憚りがある答えとなりますが、父とは“主神”様を差しますよ、また母とは預言者様を出産された“聖マリア”様を差されます、祖父母に関しては特に定まってはおりません」


 自分で話しを振っておきながら、この阿呆、聞いていない。


 あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと落ち着き無く、極楽だねぇ、浄土だねぇ。などと聞き様によっては、暴言とも知能不足とも取れる感慨を漏らしっぱなしだ。


 案内の僧侶、最初は面食らった。彼は高貴信者対応の役職者だから、こんなタイプ信者と対応したことが無い。


 地教区の教会なんかでは、この手の輩のあしらいは慣れた物だが、彼は生真面目すぎていちいち応答していた。


 ………不毛である。


 低い柵に、目線高さ以上に手入れされている垣根越しに大聖堂の威容を垣間見る。


 ひゃあ!などと奇声をあげる阿呆、気持ちは分からないでも無い。


 数世紀に渡り改修や改良を、その時代時代を代表するような建築家が手掛けているのだ。


 言わば時代を越えた巨匠の合作建造物なのだ、盲人でなければ舌を巻く。


「すごいね、マジ感動した。連中もあっち行っちゃったよ、感動は生死を越えるんだなぁ」


 分かりにくい例えだな。と案内僧は多分勘違いで理解した。

 話しの節々で出る複数名称を、感性か何かを擬人化した物との解釈だ。



 クリエイターなんかに有る感性で、自己意識すら客観視する癖が高じた物らしい。

 小拙の周囲にはいないタイプなので、真偽の程は知らん。



 大聖堂の簡単な説明をしようとも思ったが、感動している事は分かったので、いちいち由来や作業工期など余計を言い、水を差す事は控えた。


 それにどうせ聞いていない。


 短時間の付き合いで、この高貴信者の人柄は理解した。


 正面扉に差し掛かる、守衛士が出迎える、緊急連絡では有ったが、高貴信者の来訪は聞いている。


 先方の社会的身分は知らされていない、単身で、粗末な身形だからと侮るほど、大聖堂守衛士は粗忽では無い。


 急遽大聖堂での参拝が許される人物だ。ボロボロの修行服の人物が、分派の大僧正だったり、供連れの無い平凡な身形の参拝者が、忍びの他国王族だったりする事はザラだ。


 この場に居ると云う事が、既にステータスの裏付けなのだ。


 大聖堂守衛士は、北門守備スイッツランド聖騎士団からの派遣だ、粗忽で乱暴な者はいない、通り一辺の大仰な挨拶と共に正面扉を開けた。


 比較的天井の低い拝廊を抜け、吹き抜けの大聖堂祭壇まで一望だ。


 聖堂内は滑らかな造形の採光窓からふんだんに陽光が差し、またゴツイ造形の燭台(緊急時には鈍器とする)には、高価な蝋燭が点され、白を基調とし、要所に金で彩った内観がその灯を映す。


 阿呆は、感極まって洩らす。


「なんじゃこりゃ!」


 建築や構造に全く造詣の無い素人ほど、余計を考えない、余計を見ないので、感嘆は素直だ。


 更なる驚嘆を口にするより早く、真正面、祭壇に位置する、位の高そうな尼僧が何かを叫んだ。


 視覚情報の処理にオツムの機能の大半が費やされているのだから、聴覚情報処理の方はおざなりだ。阿呆はポカンとする。


 案内僧や守衛士は、もう少しマシな理由で硬直するが、まあ似たり寄ったりだ。


 最上級の対応をすべき高貴信者を“拘束せよ”だの“逃げて”だの、藪から棒に言われて、即対応出来るほどに心身共に自在では無い。


 阿呆の対応は、半ば本能となっている一号の集り具合からの危険度判定だ。


 ターン!発砲音らしき音が響いた。


 何かを一喝した小柄な修道女が、矢の様な速度で接近してきたのだが、一号がテュネスでも無かった程にその修道女に集積したのだ。


「ヤバッ!!」


 本人に自覚は無いが、顔面中心より一号?が洪水の様に放射される。同時に大聖堂の随所に散っていた二号、三号が集結し始める。


 悪気に当てられ、大聖堂内の僧侶達がバタバタと倒れるが、阿呆にそれを確認する余裕は無い、件の修道女があり得ない速度で迫り目前だからだ。


「なな!!!ヤバい、ウンコ二号!いやさ四号!」


 阿呆の全身をナマコの様な二号が覆う、四号より対応が早いのは、単純に頭部顔面から湧いて出たからで距離の問題だ、四号が阿呆の脇に控える前にまたもや発砲音だ。


 タァン!


 撃たれた、と思うほどにアルのオツムの回転は早くない。大きな音に驚いて、うひゃあ!とばかりに脊髄反射で飛び上がった。


 見覚えのない老修道女が、訝しげにこちらを覗き込む。


「小僧、何故ここに貴様が居る、まさかお前みたいな馬鹿がターゲットだったのか?」


 いきなりの暴言だ、アルの阿呆、一号の危険探知をすっかり忘れて応戦だ。


「あん?人の事を馬鹿呼ばわりする方が馬鹿だ、俺はジイちゃんにそう教わった」


 馬鹿だ阿呆だキチ外だと、今まで散々言われて来たのだから、慣れていそうな物なのだが。


 そうは言っても面と向かって言われるとカチンと来るらしい。


「呑気な事だ。大物と評したい所だが、ドモンが正しいな。お前は勘当されたと聞いた、それでここまで流れてきたのか?」


「何で知っている。まあ、いいや。俺はひょんな事から軍属になったからな、先生………先生ってのは偉い軍人なんだが、その先生にくっ付いていたらここに来た」


 婆さん、あらましは大体把握済みだ。阿呆がテュネスに行っている間に、野郎の家に金貸しのアルバイトで債権回収に出向いている。


 連帯保証人の親から回収した、特にもめる事も無くすんなり回収できたのだが、その時世間話がてら野郎を勘当する事を聞いたのだ。


 危険地域へ出向くとかで、生命保険の受取人指定の手紙が届いたらしい。


 家族会議で、縁切り方向に決まっていたので拒否の手紙を送り返したのが最後で、以降連絡が無いと聞いている。


 どうもあの時の荷をナザレの軍港城塞に届けたまま、軍に居着いている様子であるとの見当だ。


「すると、パルト家のご子息と一緒に首都に来たのか、やはりさっきの軍人殿は本人か、世間は狭い」


「会ったのか、先生は明日まで休暇だそうだからな。それよか何で先生を知っている?先生は有名人か?」


 婆さん少しイラつく、完全に忘却されていると云うのは、腹立たしくも有る。


「小僧、本当に分からないか、俺を忘れるとは、やはりお前は真性の馬鹿なんだな」


「だ・か・ら馬鹿と言う方が………」


 ナマコ形二号で武装したアルは強気だ。

 だからこの直後、派手にぶん殴られて、重厚な扉を破ろうが痛くないから余裕なものだ。


 大理石の石畳の上でひょっこりと起き上がる、ダメージは無い。


 ただ、危険信号が脳内に響く。遅い!


「このババア!殺す気か!どっかのババアみたいな殴りかたをしやがって!今流行ってんのかよ!」


 いや、これから流行るのだ。切っ掛けは正に今ここの戦闘で、目撃者である奇跡認定局員数名、この退魔戦闘に感銘を受けて婆さんに弟子入りしたのだ。


 後に、マリア婆さんごとその人員はジャンヌさんに引き継がれ、奇跡認定局二課的な役割を果たす。





「ジイちゃん達を悪く言うなババア!さあアレクサンダーズ、あのキチババアをやっておしまい」


 中略だ、手抜きを指摘されそうなので、この場面からとしましょうか。


 婆さんを弾き飛ばして、うつ伏せ海老反り拘束から逃れて強気である。


 と、言うかこの阿呆、小拙の記憶では、いつも強気だ。


 別に強気の根拠の類いは無く、単純に未来予想が出来ないだけだ。


 ただ、ここに居座っていても仕方がないので、婆さんにアレクサンダーズをけしかけるとスタコラと逃走だ。


 野郎は何故か存在自体が印象に残らないから、特に誰からも誰何されない。


 少し羨ましい。

あと二話で三章完です。一年かかりましたね~

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