先生と呼ばせてくれ
放浪のために車両を作りました!
ドヤ顔
「言われてみれば、何と無く覚えている」
嘘である、そもそも学習所自体の記憶が朧気だ、
ただ、ザリガニの事はよく覚えていた、近所の飼い猫にけしかけて遊んだものだった。
最終的には祖父の胃袋に納まったが。
弁護する訳でもないが、今現在もパルト市街は発展している、当然人口も増加中で、その当時もそれは同様だった。
当時6才だったアルが、100名を越える児童の顔、名前など覚えている筈もないのだ。
一方レオンの方は、件の発言からアルの印象が強かったのだ。
ジプシーの印象は流浪の民で、それになるということは、国籍の放棄を意味する。
もちろん深い考えでの発言では無い事は、理解していた。
ただ、執政官長である父親が、移民政策で奮闘している姿を目の当たりにしていたため、多少の反感と共に記憶していたのだ。
余談ではあるが、学習所の設立も、元々は移民政策の一貫だ、ここで言語、風俗、地理などを学習させるためであった。
移民が落ち着いた頃から、児童教育の場に代わっていったのだ、市政の一環のため、これは別に義務教育ではない。
「無理しなくても良いさ、それほど話す機会もなかったしね。……そうそう昨日の件で不思議に感じた事があってね」
話題を変えてきた、実はレオンの方も、アルについて、これ以上の情報はなかったのだ。
「店主がハーブティーを出したとき、老婆と君は同時に毒に気がついたみたいだけど、何故だい?」
老婆は製作者だから当然だが、その時アルは鼻糞を窓枠に並べる事に夢中で、
そもそもこちらを見てもいなかった。
「ああ、匂いだ。ウンコの匂いがした」
「………はい?」
「ウンコ臭ぇなーって、軍人さんの方を見たら、カップに1号が集っててさ、そんなの初めて見たからビックリして声がでた」
(……ダメだ、やはり半分も言葉の意味が理解できない)
「そ、そうなんだ」
意志疎通を放棄する事にした。
「それよか軍人さん、俺放浪の旅に出るにしても、何か収入源は欲しいのよ。何か放浪しながらでも、簡単にかつ高収入な仕事ってないかね」
ないね、と、半分以上出かけた
「最初は、遠距離郵便の配達でもしようかと思ったけど、行きたい方向が違ったら仕方ないし、配達が目的の旅になったら、本末転倒だしね」
わりとまともな相談だった、なのでそれに免じてこちらもまともに答えた。
「特許なんてどうだい、その車両は本当に凄いよ。商品化したら軍で正式採用は間違いない、自分で作るのは大変なら、特許申請して工厰で作らせればいい」
「おお!」
「これなら車両が売れるたびに特許料が入るから、収入源としては言う事はないよ」
「おおお‼」
「ただ、注意点は入金方法だけど、外国を放浪するなら、アルニンの大使館がある国じゃないとお金が手に入らないから、そこは気をつけないとね」
「おおおお!先生と呼ばせてくれ‼その手があったか‼‼これで勝った!」
何に?と、またも半分以上出かけた。
そんな話をしながら街道を進む、
目的地の小山は特に名前は無かった、単純に石切場がある山ということで、通称、石切山と呼ばれていた。
石切山は植林され、更に石灰岩も産出するので、パルト市街にとっては重要な産業の要だった。
ちなみに山頂周辺に鳥兜が自生している。
その山の麓に到着した、出発から二時間ほどだ。
「先生、少し待ってくれ」
そう言うと、アルは最後輪のベアリングケースに金具をかけた(最後輪のみ両輪に逆転防止歯車がついている)
「アル?なんだいそれ?」
二人はすっかり打ち解けたようで、アル、先生、と呼び合うようになっていた……
「坂登るときは、逆転防止しとかないと、転がり落ちてきちゃうからね」
「ああ、なるほど、そこのウインチと同じ構造ね」
風車形状の歯車に、爪金具を掛ける単純な構造だ、
進行方向に回るときは金具は歯車の斜面をすべり、歯車の谷に落ちる、落ちればロックが掛かり逆転はしない。
それを繰り返すので進行中は、ずっとカタカタ鳴る
「登るときはそれでいいけど、下る時はどうするの?」
最もな疑問だ、進行方向に動くのだから下り坂はロックが掛からない、
と言うよりロックが掛かると進めない。
「下りはこっち」
手押し棒の横にあるレバーを引くと、最後輪の両輪に棒が圧迫され減速された。
「本当に良くできているね」
「この棒は木製だから、あんまり急に制動すると火がつくけどね」
そんな事を話ながら、二人は石切山を登りはじめた。
頑張って明日も2話投稿します。