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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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本当は怖いマリア局長2

 手筈は整った。


 大聖堂に奇跡認定局員50名、異端審問三課員5名。


 この人員での“洗脳教育”は久しく行われていない。


 聖歌隊による讃美歌の洗脳下準備は時間的都合により手配できなかったが、要は虚仮威しだ。服用薬剤とマグダルのルッカ福音書が本命である。


 虚仮威し人員は聖堂の威厳を高める為の配備で、今回は特に役割は無い。有るとしたら数の威圧だ。


 拝廊から主廊、祭壇に等間隔に配し、対象者の通過後、祭壇に移動し対象者を遠巻きに囲む。


 祭壇前で“マグダルのルッカ福音書”の引用からそれらしい説話をし、聖水での清めと称し“沈酩薬”を服用させる。今回は簡単な暗示と催眠を仕込むだけなので、それ程強くは配合しない。


 半覚醒譫妄状態にもって行き、教会に通う様に指示する。


 テクニックがある。一番簡単なのがメリットの提示だ。だがこれは薬剤使用により粗方クリアーだ。


 薬剤使用の半覚醒は途轍もなく快感であるのだから。


 催眠状態から、この施術間の記憶を曖昧に認識させる。とても心地好い時間だったと記憶に残る。これが味噌だ。


 嫌な事は人は敬遠するが、心地好いならば率先する。


 威圧され、萎縮した所に、強烈な飴をしゃぶらせる訳だ。

 あとは話法で篭絡する、薬剤で正常な判断が付かない所に、甘言や、不平不満を煽ったり、全面肯定などで、教会こそが理解者であり保護者で有ると刷り込むのだ。


 この辺りの話法は、先代の奇跡認定局長が上手かった。落ちない者は無かった。


 威圧、圧迫による精神的不安下で、真摯に毅然と、諭すように語る聖女の微笑は、すがり付きたい程に心に染みるのだ、その瞬間は正に聖女そのものなのだから。


 こうして聖女アンナは法王庁にとって、重要な人物を幾人も篭絡してきた、だから彼女は、司教位に就いていたのだ。


 そうした“洗脳教育”の場は、現局長マリアも幾度となく同席し、また、アンナの指導下で行ってきた。


 これは、法王庁の暗部に深く関わる案件なので、異能云々抜きに法王庁に深く浸透しているバロト家が適任なのだ。


 そしてテレーズ.バロトは、教会に対する忠誠心、信仰依存度、異能熟練度共に、先代ローザンヌ.バロトに劣る物では無いのだ。


 ただ、異能が異質だった。“精霊鳥の囁き”という異能は、系統的には神託()()系と思われがちだが、実際は霊能異能の()()系だ。


 そう、霊能系である。霊能系は退魔、調伏が本来の得意分野だ。マリアの場合専門は口寄せ異能か。


 ………だから、その反応は全うと言えば全うな物だった。


 姉マリアさんの異変に真っ先に気がついたのは、付き人兼ボディーガードのマリア婆さんだ。


 姉マリアさん、正面祭壇からまっすぐと拝廊を抜た正面扉を見据えて、いや、視線が釘付けとなり、小刻みに震える。


 明らかに様子がおかしい。


「どうした、マリア局長殿?寒気に当てられたか?」


 火の気の無い大聖堂内だ、誕生祭を過ぎ、あと数日で年も明ける年末だ、高すぎる天井は冷えた空気を温めない、白大理石作りの床はそれ自体が冷たい冷気を発する。


 それにしても様子がおかしい。あ、あっ。などと言葉を洩らす、正装のマリア局長は涙目だ。


 音も無く正面扉が開く、大聖堂は使用不使用に関わらず守衛が付く、歴史的建造物も去ることながら、調度品の類いも逸品だ、防犯上当然だ。


 その彼等が扉を開く、大聖堂への参詣者など、何れ高貴信者なのだから今回が特別では無い。


 ひっ!と短い悲鳴、姉マリアさんだ。


 そこに居るのは、迎えに行った施設管理局員の僧侶と、主客。


 なんじゃこりゃ!と品の無い声を上げる主客。


 品性の欠落は、ここに居る人員なら資料として知っている、しかしだからといって嫌悪感が働かない理由にはならない、人によっては眉をひそめる。


 平々凡々。見た瞬間に忘れそうな特徴の無い黒髪黒目の、存在感の薄い凡愚。


 凡そ場にそぐわない平服、いや、藍染の作業着の上衣に安物の外套、借物とおぼしきサイズの合わないズボンと、軍需品らしきゴツイ革靴。


 甲高くも、重低音でも無いのに妙に通る声質、微妙にイラつくイントネーション。


 後に“天災の佞人”と呼ばれる男だ。


 またぞろ何か益体もない事を言い掛けるが、それをマリア局長が封じる。


「守衛!その化物を屋外へ!ここは聖域!そんな穢わらしい者は入れてはならない!」


 キツイ命令口調だ、だが当人は震えて涙目だ、彼女の普段を知る者にしたらあり得ない態度であり、命令だ。


「ムッどうした大姐、奴が対象者では無いのか?」


 マリア婆さんは付き人も兼ねる、ただならぬ態度に異常を感じる。


 そうじゃなく。と姉マリアさんが簡潔に答えるが指示が先だ。


「早く!拘束もやむ無し!案内の貴方は早く逃げて!局員!一種対霊装を!」


 ここにいるのはほとんどが奇跡認定局員だ、聖遺物などというベクトル違いの“呪物”を扱うプロであり、かつては退魔専門部も有した部局である、一種対霊装の意味は当然知っている、最上位の悪霊避けの備えだ。


 だが、反応が鈍い、命令に逆らう意図では無く、命令の意図が不明で、ためらいが有るのだ。


 ここに実質的奇跡認定局支配人であるテレジア司祭がいたら、マリアの命令を速やかに実行するべく大号令を下したであろうが、生憎と奉献会に治療に来たダッドを昏睡状態にすべくこの場に不在だ。


 “洗脳教育”の実施中に合流予定であった。


 専門家のドモンも参加しているのだから、奉献会の方を担当したのが裏目に出た形となる。


 奇跡認定局の裏方仕事は、マリア局長はほぼノータッチ、だから局員はこんな乱暴な指示に慣れていない。


 その意を汲んだのは、付き人兼ボディーガードのマリア婆さん。局員の思考硬直を見て取ると、即座に発経をかます。


 タ-ン!!!


 甲高い足音だ、堅い大理石では特に響く、発砲音に近いそれは注目を集めるに充分だ。


「何をしている!命令が聞こえぬか戯け!その一種何とかを即座に実行しろ!守衛とそこの案内、危ないから退け」


 こんなで武館のNo.3だったのだ、命令、指揮系統の遵守確立は熟知している、司令塔は毅然と明確な指図を発令しなければ、下は狼狽えるだけだ。


 自身は対象者の確保の為に再発経だ。


「ヤバッ!!」

 佞人が一声発すると、ザッと“何か”が聖堂内を駆け抜ける、何ぞ良からぬ気配が暴風の如くにだ。


 バタバタと奇跡認定局員が倒れる、何十もの燭台の火が掻き消される。


 携行している聖水による十字塗布、“一種対霊装”を成した者は気絶から免れた。


 自身が悪霊みたいな物だからか、はたまた今まで殺し纏わりついた翳りの賜物か、マリア婆さんに、佞人の“気配”は効かない。


 そのまま佞人めがけて極拳武技、“縮地走”だ。


「なな!!!ヤバいウンコ2号!いやさ、4号!」


 この戯けた号令が、佞人の窮地を救う。


 マリア婆さん、他では絶対に聞く事はない呟きを聞き、拳を止めた。


 タァン!!


 佞人の三歩手前で急停止だ、あり得ない停止力だ、ここでも質量、慣性をまるで無視だ。


 うひゃあ!と飛び上がる佞人。巫山戯ている訳では無い、素だ。


 その間抜けな反応にマリア婆さんは確信した。


「小僧、何故ここに貴様が居る、まさかお前みたいな馬鹿がターゲットだったのか?」


「あん?人の事を馬鹿呼ばわりする方が馬鹿だ、俺はジイちゃんにそう教わった」


 間抜けなやり取りだ、この会話は守衛と案内人が気絶しているので、他に聞いている者も無い。


 この間に姉マリアさんにドモンが問いただす。


「マリア局長!これはどうした訳で、一体何が?何故燭台の火が一斉に消えたのです?」


 霊的感度は人それぞれだ、ドモン司祭は特に鈍い類いらしい、佞人から放出された“気配”には何も感じなかった様だ。


 通常時ならこれで特に問題ないが、今は不味い。霊的に攻撃されたのだが、それがわからないのだから、攻撃され続けてしまい、最悪連れて行かれる。佞人の“使い悪霊”は矢鱈と攻撃的だ。


 ドモン司祭の質問に答えるより早く、マリア局長は自身所持の聖水をドモンの額に塗った。


 ビリリッと、ドモンは額が痺れる、想定外の痺れに息を飲んだ。


「ドモン司祭、聖水を所持していないならこれを。十字を切って、少しでも異常を感じたら服用して」


 聖水入りの小瓶をドモンに渡す。奇跡認定局員は常備の装備だが、異端審問局員のドモンは不所持だ。


 ここでドモンもただならぬ事態を覚った。


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