なんだかんだで仲良しな二個イチ
なんやかんやで二人は仲良しだ。同族嫌悪とは無縁らしい、もしくは同族認識していないのだろう。
何も知らない人が聞いたら、頭のおかしい人同士がじゃれている様な会話だが、そこは巨大都市、人にまみれてそんな会話など聞く者も無い。
レオンは各諜報機関の主調査対象だが、この二人はほぼノーマークだ、ただ異端審問一課のみが監視中である。
現在も二人を、一課ニ課合同局員が尾行中である。
アルの出頭日時は明日であるので、もう一人の髭面の付き添いであると当たりをつけている。無論、異端審問局一課長には連絡済みだ。
諜報機関であるので、報・連・相は確実に実施される。
私事だが、かつての部下に見習って貰いたい物だ。
ボルゲン区の陸軍基地から法王庁市国は、ほぼ一本道だ。と言うより各々敷地規模が巨大なので、新市街に通じる街道、州道を通れば、まずそれぞれの施設なり建造物が視界に入る。
それほど早い時間では無いが、ロマヌスは道路の整備が整っており、馬車道、騎馬道、歩道は区別されている。
だから人口の割に往来の混雑は無い。
一時間弱ほどの移動で、二人は法王庁市国の一般参詣者大門に到着だ、観光客なんかもこちらからの入国となる。
市国とあるように、法王庁は別国だ、出入りには出入国審査が有る。とは云えそれ程厳しい物では無い。観光収入にも直結するので、現在では異教徒だろうが書類が揃えば入国可能だ。
当然危険物の類いは持ち込めない、これは世俗の地位が高かろうが一律適応される。まあ当然だ。
観光や参拝目的ならば、簡単な質問やボディーチェックで入国証を貰い入国となる。
ダッドの様に診療目的の場合、初回入国時は紹介状のチェック、診療目的、その他質問を経て入国だ、次回からは診療証の提示により入国審査は簡略される。
ただ、………問題は阿呆だ。一応紹介状は持参だ。新規戸籍申請の人物面談など、入国審査所の担当者にしたらまるで聞いた事が無い手続きだ。
それもその筈。本来、人物面談など、地教区長なり、小教区長なりの権限で決済出来る案件なのだから。
担当者は首を傾げたが、阿呆が追加で出したマカロフの人物保証書で仰天だ。
こうなると前例が無い訳では無い。枢機卿預かりの新規戸籍取得とは、つまりは法王庁市国への亡命である。諸国の政変に破れた貴族なり、政治屋などの高貴信者がその対象者である。
しかし、何処からどう見ても、この阿呆はただの阿呆にしか見えない。
嫌な事に保証書による人物特徴と一致もし、偽物とは思えない。
出張小教区の紹介状による人物面談日時など見落し、マカロフの人物保証書に気を取られ、この審査官は上司の判断を仰いだ。
さすがに教育省入国管理局の局長ともなると話は通っている。
要請通りならば高貴信者応接控え室にでも案内し、特務省異端審問局に入国を伝達すれば良いのだが、予定日は明日である。
マカロフ枢機卿の声掛かりの案件であるので、迂闊に門前払いとも行かない。
なので当初の予定通り、高貴信者応接控室に案内し、特務省の方に伝達する事にした、後の事は特務省の問題だ。
連絡を受けた異端審問局長のヨードルは慌てた。方針が切り替わり“洗脳教育”による教会取り込みが決定したが、今現在三課の手による薬物洗脳の手筈が整って居ない。
しかも舞台となる大聖堂の使用期日は明日からだ。
自身は大聖堂の使用許可申請をマカロフの名を使いネジ込み、洗脳実行三課員のドモンをアルの元に向かわした。
実物と対面する必要性が有ったし、それにより薬剤、設備、人員、手筈の変更を整え調整する必要があったからだ。
大聖堂は小道具の一つでは有るが、舞台ともなる。ここが使えないとなると手筈は変わる。
当人の人格は大体理解している。しかし予定日前に来るとは想定外。
三課生え抜きのドモンに人物を直接確認してもらい、最悪日延べの判断をしなければならない。それらは洗脳経験豊富なドモンしか出来ない事だ。
そうした訳で、ドモンは急遽高貴信者応接控室に向かう、特務省地下で明日使用予定である、薬剤の調合調節をしていたドモンにしたら、対象者のいい加減さが憎たらしい。
「それじゃ、俺は診療棟とやらに行くがよ、あんま馬鹿やらかすなよ。終わったら勝手に帰れよ」
ダッドだ、アルの保護者みたいなもんだから応接控え室に一緒に廻された。
対応した下っ端らしい坊さんに、“俺は診療目的で来たんだが”と伝えると、上司とやらに伺いをたて、放免となったのだ。
「そんな連れない事言うなって、先に終わったら入ってきた門の所にでも待ってなよ、飯奢るからさ」
三食配給の軍にあって、あまり魅力の無い誘いだ。
「そうかよ、ならお前が先に済んでも待ってろよ、その場合でも飯奢れよ」
構わん、わりと高給取りになったしな。などと呑気に返す。仲良しだ。
ダッドとしては、こんな高価な調度品が並ぶ部屋には居たくない、ましてや阿呆と同室など御免被る。
何かの弾みで野郎が暴れ始めたら、弁償が幾らかかるか分からない。
暴れるなら単独で好きなだけ暴れてくれれば良い。止めはしない、骨も拾わない。
そんな心持ちで部屋を後にする。仲良しだ。
ほぼ入れ違いでノックだ、阿呆がしげしげと花瓶を眺めていた所だから、タイミングは丁度よろしい。
あと少し遅れていたら、どうなっていたか分からない。
何せこの部屋には滅多矢鱈と“ギャラリー”だの“野次馬”だのが詰めている。奴等にしても、法王庁市国は珍しい。また大半は景信教徒だ。
何も肉体を離れた瞬間に異教徒に成るでなし、信仰の本拠地は、生前興味が有ろうとなかなか行ける物でも無い。
だから、ゾロゾロ付いてきている。
まるで百鬼夜行の様だ。
「さっきの坊さんか?入んなよ、そもそもここはあんたっ家だ」
いや、市国所有不動産だから所有は個人に帰さない。更には高貴信者応接控室に住んでいる訳でも無い。
奇嬌な人物とは知っている、ドモンは慌てるでもなく入室する。
十字を切る独特の挨拶をし、アルと対面した。
ドモンの感じたアルの第一印象は、“平凡”だ。
印象が薄い、影も薄い、あまり生気を感じない。ついでに知性も感じない。
「あら、さっきとは違う坊さんだったか。兄弟か何かかね」
「神の下では等しく兄弟姉妹ですとも、お初にアルフォンソ殿」
「いや、坊さん、俺はアルだ、そんな長ったらしい変な名じゃ無い」
変な名とはご挨拶だ。実在した聖人の聖名なのだが。
洗礼名とは、聖人などから引用される。だからダブル事なんかざらだ。マリアなんかが特に多い。あと、何で兄弟と思った?
「ははは、此方では出来る限り洗礼名で問いかける事にしていますが、俗名がよろしいのでしたら、そちらで呼びましょう」
「いや、いや、いや、俺の洗礼名ってそんなだったの?何で知っているのさ」
「他にも色々と知っておりますぞ、何せアル殿はマカロフ猊下お声掛かりの“お客人”ですから」
「?誰?その、マカロフ猊下って、ひょっとして先生の本名か何かか?ふーんマカロフってのか。ここではそう呼んだ方が良いのか?」
「………いや、その先生なる人物がどなたかは知りませんが、聖下の補佐をなされる枢機卿のお一人です」
「つまり大統領補佐だ、何でそんな偉いのが俺に何だかって書類を書いたんだ?先生はそんな事まで教えてくれんかったぜ」
「……俗世の高位地位に例えての言葉とは思いますが、あまり不敬な例えは遠慮して下さい。聖下は、地上における神の代理人に在らせられる。人の尺度で神を当て嵌めてはいけません」
阿呆は大仰に驚く。ポルコ港でも異端審問局員相手に似たような話をしたのだが、当の昔に健忘だ。
「何だって!それじゃ相当に偉い人じゃんか、いや、先生と違う人だってのは分かったよ、先生は軍人で神の代理人じゃ無いし」
神の代理人の補佐。聞きようによっては、からかわれている様にしか聞こえない。
割と気長なドモンも眉間に皺がよる。ただ、相手が相当に愚かであると認識し文句の類いは口にしない。
「………話を進めますが、アル殿は新規に戸籍を作るにあたり、その保証人としてマカロフ猊下がなられたのですが、つまりはアル殿はマカロフ猊下の法子になられる訳です。なので前例に習い、アル殿を面談審査にお呼びした訳なのですが………アル殿は日時を間違えられましたな」
「あん?適当に来れば良いんじゃないのか?何か皆んなそう言っていたぜぇ」
皆んなとは砲兵連中だ。聞く人間が、聞く相手を根元から間違えている。
悪意から超適当を言った訳じゃ無いところが悩ましい。
ひょっとしたら真面目にアドバイスした結果かも知んないし。
ドモンは何だか会話する事自体が馬鹿馬鹿しくなって来た。
だから、速攻で“洗脳教育”を実施する事にし、その算段をつける事にした。
奇跡認定局との協議が必要となり、この場は兄弟認識されている、高貴信者応接待機室従事修道士に任せる事にした。
短編エッセイ書きました。カニオ的耳袋、オカルト体験談と云う題です。
体験談という通り今まで体験した不思議話を書いていく予定です。
よろしければお目通しを。