表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
160/174

姉マリアさんとマリア婆さん2

 返す刀で、婆さん近くで呆然としているチンピラその一に、遠慮無く掌打をくれる。

 顎の先を撫でる様に当てる、くたり、と、だらしなくチンピラは崩れ落ちる。


 嘗掌(チァンヂァン)顎触打(ウーチゥダァー)、これは中位武技。婆さんの一人言だが技名を説明してくれるのは親切だ。


 もう一人のチンピラはトーゴを追って店を出た。


「司祭殿、取引相手ならばこんなチンピラでは駄目だ。マイケル坊を紹介するから、この場は任せてくれ」


「マリアさん、貴女は一体?」

 拳闘を習得している姉マリアさんにしたら、目の前で起きた質量無視の打撃が信じられない、魔法を目撃したに等しい。


 短気な人物と理解してはいたが、これ程隔絶した武力を有しているとは思わなかった。


「遨家極拳だ司祭殿。これでも捨気(シゥーチィー)して加減をしたのだ」


 噴、とは気合いでも吐気でもなく、循環気脈を散らす捨気行為で有った、そうでもしないと、武術素人のチンピラなど肉塊になってしまう。


 ………つまり、アルの時は本気で殺すつもりで有った訳だ、桑原クワバラ。


 ツカツカと店を後にして、道の真ん中で伸びているトーゴに、兄貴、兄貴と呼び掛けているチンピラの頭髪を鷲掴みだ。


「小僧、さっさとその弱小組織とやらを連れてこい、俺がナシをつけてやる………」


 婆さん、ノリノリで恫喝を始める、故国では“烈火武后”だの“必没女帝”だの矢鱈と物騒な二つ名持ちの凶悪犯だ。


 周囲が遠巻きにこちらを監視する様も、久しく無い状況だ。婆さん、それに気を良くする辺り救い様が無い。


 手持ち無沙汰だ、時間潰しにトーゴを嬲りに……いや、情報を集める事にした。


 みぞおちに入る様、脇腹から蹴りを入れ、内臓が破裂しない様に上手に加減する。婆さん、拷問術にも堪能なのだ。


 気を取り戻しがつらゲロゲロと戻すトーゴ、何が起きたのか理解出来ない。


 体が痺れる様に鈍く、起き上がる事が出来ない。


「おい、チンピラ、お前ん所の仲間を呼びにいかせたが、何人来る」


 テメェ……と喚く間もなく再びみぞおちに蹴りだ、もう吐く物も無い、ただ、横隔膜に衝撃が走り呼吸が出来ない。


「何人来る」


 幾らなんでも、この小柄な初老シスターがただ者ではないとトーゴは悟る、噂に聞く異端審問局が頭によぎる。


「あ、あんた、まさか噂の………」


「何人来る」

 三度目のみぞおち蹴りだ、トーゴは息を吸うも吐くも出来ない、死に直結する恐怖が支配する。


 撲る蹴るは、商売柄するもされるも慣れているが、呼吸不全にされた事は無い。

 これは想像以上に恐ろしい事だ。


 無意識下でしている事が、意識しても出来ないのだ。金魚みたいに口をパクつかせるが、呼吸が出来ない、吸えない、吐けない。


「何人来る」


 四度目の問に、トーゴは失禁する、そしてボッキリと心の梁が折れた。


 所属組織の名前から所在地、構成員人数、予想動員数、それら面子の名前、特長、など洗いざらい吐きまくった。


 それから婆さんが常に携行している縛縄で、手足を拘束されてゆくが、全く抵抗をしなかった。


 それくらいに心が折れ挫けた。


 群衆に紛れてその有り様を見ていたレオンは、奇妙な既視感と共に件の暴力老シスターを凝視する。


 記憶に有るパルト市街の運送屋の老婆に()()()()気がした、気がしたと云うのは、先ずこんな所に居る訳が無いという先入観と、修道服姿である事と、あと、記憶より若く見えたからだ。


 とは言え、あんな大男をテキパキと拘束してゆく捕縄術の鮮やかさに、同一性を感じた。


 経験者は語ると云う奴だ。


 レオン本人は呑気な物だが、その周囲は警戒態勢だ、ランドやアイランズはレオンの直近を警護し、更にその周囲を連合諜報員が囲む。


 見るものが見ればメンバーが割れたも同然だ。レオン周囲の動きは、その他の諜報機関に注視される。


 婆さんがトーゴの拘束を終え、何やら一方的に詰問をしていると、人混みを掻き分けて押し入る者が居る、一人二人では無い。


 婆さんトーゴを中心に、ぽっかり空いた空間に連中は割り込んだ、言わずと知れた地元ヤクザ、“黒蛇会”の面子だ。


 黒蛇会、ギリ厨二ネームでは無いだろう。


「なんだこりゃ、トーゴが殺られたって聞いたがよ、簀巻きにされてんじゃ死んでねぇだろ」


 いかにもなヤクザ者が独り言ちる。


 そいつ目指してツカツカと婆さんが歩み寄る、なんだぁ?との呟きも虚しく、張り倒される。


 ビンタで地を舐めた事は初めての事だろう。


 なっ!と黒蛇会の面々は呆気にとられる、と、言うか、婆さんが先手先手と動き過ぎる。


 ビンタを喰らったのがチンピラの頭(若頭相当)だと、トーゴから聞いた特長から分かっていた、だからビンタで機先を制した。


 今更ながら、修道服姿の初老婆だ、無双をするに目立ちすぎる。


 ヤクザ者が衆人観衆の前で、初老婆さんにビンタされたからと、逆上しては男が廃り過ぎる、だから滅多に動けない。


 逆に派手に婆さんがヤクザ者を吹き飛ばしたら、コイツらは蜘蛛の子散らす様に逃げるだろう、それでは()()()()()


 だからビンタだ、まあ、こんな威力のビンタなどこの婆ァにしか出来ないだろうが。


「この大馬鹿者が!貴様は下の躾も出来んのか!このウツケ者の戯けが!」


 ビンタされた若頭のヤクザは、ベッと奥歯を吐き出す。ビンタで折れたのだ。


「いや、尼さんよ、いきなり奥歯折る事ァねぇだろが、何者だよ、歯ァ折れた事より、首が痛ぇや」


 コキリと首を鳴らすのは、余裕を見せるハッタリだ、実際は顎にヒビが入る大怪我だ。


「見ての通りのシスターだ、そこの馬鹿が連れに絡んだ。聞けば木っ端組織の末端勢力のチンピラだと言う。

 この落とし前はどう付ける、鈍器コーヒーカップを投げつけられて、連れが怪我をする所だった」


 投げつけられたのは婆さんで、カウンターでシロップ差しを目にぶつけたのだから、被害者面は図々しい。


「木っ端組織の末端勢力たぁご挨拶だが、ウチのトーゴが手出ししたのか?」


 喋るのも辛い激痛だが、まさかシスターにビンタされて、痛くて話せないとは言えない。


 顔色悪くも虚勢を張る辺り、若い者の頭だけの事は有る。


 木偶に直接聞け!と婆さんトーゴに顎をしゃくる。


「おい、おい、トーゴさんよ、お前何してんの。ツッ、堅気さんに怪我をさせたら、ウチが挙げられんだぜ、ましてや教会さんに手出しして、馬鹿なのか?ッテェ」


 泣きがいちいち入るので、いまいち締まらない。


「済まねぇ…頭……こんな…筈じゃ……」


 息も絶え絶えだ、上手く呼吸が出来ないからだ、痺れも有る。


「何だよ、テメェ喘息かよ、あ~あションベンなんぞ漏らしやがって、イテテッ畜生が、お前、堅気になっちゃえや」


 口では強気だが、分が悪い事がわかった。だからさっさとナシを着けて医者に行きたい。


 そもそもトーゴが殺られたと聞いたから出張ってきたのだ、派手にやられてションベンも垂れ流してはいるが生きている。


「なあ、尼さんよ、何でトーゴがこんなになってんだ、ツツッ、何か顎まで痛え、尼さんがやったのか」


 ならば、痛み分けで手打ちにしようと企んだのだが、婆さんは哄笑だ。


「カカカカ呵呵呵呵、何だお前、その顔は、人面茄子みたいな顔になってるぞ、ハハハ哈哈、カ呵呵呵呵、お前、馬鹿みたいだぞ、あまり笑かすな、呵呵呵呵呵」


 人面茄子とは言い得て妙だ、何せ奥歯が折れて、顎にヒビが入っている、表面は赤黒く内出血し、また顔面の内出血は阿呆程腫れるのだ。


 末生り(うらなり)茄子に、目鼻を書き込んだらこんな感じ感じかと、聴衆も吹き出す。


 流石に若頭のヤクザも顔色が変わる、いや、変わったのだろう、顔面の変化なぞ内出血で判別がつかない。


 若頭は、そもそもテメェがやった事だとブチ切れた。


「上等だァ!糞婆ァ!ここまで虚仮にされちゃァ、教会の尼だろうが屁だろうが相手してやらぁ!」


 若頭の雄叫びだ、手下のチンピラも奮い立つ、オオッ!とばかりに呼応する。


 殺気ばった気勢に、周囲の群衆は後退る。

 それに待ったをかける者がいた、姉マリアさんだ。


「待ちなさい!教会相手に喧嘩上等など聞き捨てならない暴言よ、ここは法王聖下のお膝元!アルニンに住まう者なら口に出来ない雑言よ!そこに転がる粗忽者の始末は一先ず置いておき、貴方達の態度こそ改めなさい!」


 色々と問題の有る娘(注26歳)だが、かつては法王も出した事の有るバロト家令嬢だ、教会への帰依度数は蒸留酒原液並みに高い、教会への雑言暴言に思わず気声を上げてしまう。


「何だ!テメェは!ババアの連れか!テメェも教会の人間かァ!」


 ここで、姉マリアさんは妙な啖呵を切るのだが、続きは次回で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ