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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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姉マリアさんと聖女様4

「いえ、叔母様。テレジアは田舎に引っ込むそうなので引退では有りませんよ、司祭位に就いたので、地方の地教区の教会にでも行くのでしょう」


「いい歳ですからね、寂しくなります」


「本当に、心にも無い事をそれらしく言いますね、その面の皮は見習うべき物が有ります」


 ここでローザンヌさんは聖女スマイルをかます、これは“お黙り”の意味スマイルだ。威厳と相まって地味に効く。


 失礼しますとの掛け声でサラが入室する、コーヒーの香りが漂う。


 特に姉マリアさんはコーヒー党では無い、コーヒー豆貿易部門への投資は、単純に“レイシャ”の囁きに従っただけで、コーヒー好きが高じた訳では無い。


 かと言って紅茶党でも無い、強いて言うならミネラルウォーター派だ、これには拳闘のトレーニングが由来する。


 こんなで良家の令嬢だ、茶会作法はマスターしている。特に好まないがコーヒーの良し悪しは香りで分かる、上物と当たりを着けた。


「ハンスさんのお勧めなのですよ。ハンスさんの鼻は確かなので、満足頂けるでしょう」


 元は定食屋の料理人だ。現在定食屋は廃業し、別地区で高級路線の料理屋を営む父に鍛えられた人物である、味覚、嗅覚は鋭い。


 テレジアさんのライフワーク研究の参謀だ、紅茶キノコも、()()()()()本職なればこその提案である。


 いきなり混ぜ物を混入する程、姉マリアさんは不調法では無い。


 頂きます。との返事と共にブラックに口を付ける。


「これは………何とも驚きました、マイルドな口当たりですね、苦味を感じません」


「単一銘柄のコーヒー豆なのですが、それぞれ個別に個性が有るので、ハンスさんが選別した豆なのです。気に入ってくれた様で何よりですね」


 何とも妙な言い回しだ、単一銘柄で個別に個性が有るとは、つまり味が各自バラバラと云う意味なのでは?単一の意味が無い様な。


 姉マリアさんは多少の引っ掛かりを覚えたが、叔父の嗅覚味覚は信頼していたので聞き流す事にした。


「それで、件の“紅白餅”なのですが、製法や正確な材料が分かりません、量も必要なので在家信仰者組合の食料品管理部に調べて貰いたいのです、代金は持ちますよ」


「それならば食料品管理部よりもカステラーニ商会に手配してもらいましょう、食料品の輸入、卸、製品販売と手広く商っているのです。

 此度は私用なので組合を通すよりも私個人の依頼にします。面白そうだから私も半分持ちますよ」


「宜しいのですか?予算の半分の件もそうですが、叔母様名義での購入となると税務申告その他面倒ですが?」


 還俗しているので、この組合員は全員アルニン国籍となる。税制、と言うより六法全てアルニンの制度に従う義務が有る。


「カステラーニ商会は懇意にしているから大丈夫。私用での利用はよくやります、便宜を図ってくれるし、税務申告は丸投げするから平気ですよ」


「サラ……ですか、公私混同は感心しませんがまあ良いでしょう。

 カステラーニ商会ですか?多分外国の食品加工になるのですが、大丈夫ですか?最低でも千組は欲しいのですが」


「多分大丈夫、そのコーヒー豆や紅茶キノコの菌もカステラーニ商会手配なのですよ、それらのお陰でライフワーク研究もはかどりましたとも」


 最後の一言に、嫌ぁーな予感がした。さっきの話では、アレはそれぞれの臭素を混ぜないで同時に解放する様な話だった。


 つまりそれぞれの臭素を抽出して個別に仕分けるのだろうけど、何故それにコーヒー豆が混ざる。


 いや、コーヒーの味には疎いから何とも言えないけど、本当にこれはコーヒーだろうか?


 コーヒー、紅茶は高級嗜好品だ、アルコール程では無いが高率な税がかかる、それに伴い輸入品ならかなりな関税がかかる。


 その関係で組合がそれぞれに有り、食品輸入業者なら確か組合違いとなる筈。


 アルコールならば酒類販売業同業者組合(酒類製造業同業者組合とはまるで違う、つまり小売業者だ)となり、コーヒー紅茶は嗜好食品販売業同業者組合となる、件のカステラーニ商会とやらは複数の組合加盟商店なのだろうか?


 それ以前に、研究の一言が気になる。


「………叔母様、これはコーヒーですよね?」


「コーヒー豆な事はコーヒー豆だけど、()()嗜好食品扱いでは無いのですよ」


「嗜好食品じゃ無いなら何なんです、一般食品ですか?」


「肥料扱いです。ですがコーヒー豆に違いは無いのですよ、現行の法定義では嗜好品所か食品ですら無いのですが、その内変わりますとも。

 貴女コピ.ルアクをご存知かしら」


「知らいでか、コーヒー貿易部門に伊達に投資はしてない、私は飲みたくは無いけど高価な商品だから物は知ってる。麝香猫の落とし物でしょうが………まさか?いや、肥料扱いって言っていたし」


「アルニンではまだ認可されていないだけですよ、現地ではれっきとした高級嗜好品()()()ですよ」


「何だこれは、つまり麝香猫系か」


「酵素の関係で豆が熟成するとかで、紅茶キノコに行き詰まってた所に、新たなヒントが生体酵素による熟成だったのよ、ハンスさんはとても物知りです」


「やかましい、己の研究なんぞどうでも良い、つまりこの()()は何だ」


「短気ねぇ、貴女そんなに気が短かったかしら、それに何をそんなに怒っているの?それは只の体内発酵熟成豆の焙煎飲料でしょうが」


「平たく言えば、そりゃ未消化のウンコなんだよ、まあ、百歩譲ってコピ.ルアクなら文句は言わん、ただ、こりゃ何のウンコなんだよ」


「別に私やハンスさんのウンコじゃ無いし、何か変かしら。象の体内発酵熟成豆なんだけどね。

 象は体が大きいでしょう、食事がコーヒーの実だけでは足りないから、他の餌も食べるので個体毎に熟成の個性が出るのですよ」


 ここで変態勇者の伏線が活きる、そう、誰のブツにもよるのでは?とは正にこの事で、もしローザンヌ産の体内発酵熟成豆だとしたら、少なくともディープ聖女ファンの間で、その値は天井知らずとなるに違いない。


 尤も人の体内酵素でコーヒー豆が熟成されるのかどうかは知らない、多分普通に消化されるだけ、多分。


「おのれ!象のウンコを焙煎したんか!そんなもんよくも飲ませたな!」


「マイルドで美味しいって言ってたでしょうが。

 貴女、麝香猫のは良くて象のは駄目だなんて、変な区別をしているけど、美味しいならば世間では流通するのよ。

 嫌なら買わなければ良いだけなんだから」


「くう、コーヒー豆貿易に投資している身としては反論出来ない、ただ私の感性がウンコを飲み物として受け付けない」


 カレーは飲み物と認識されているが、流石にウンコは飲み物と認識されていないからね。


 “誰のブツにもよるのでは”とは我ながら名言と思ふ。


「実際美味しいでしょうが、何も知らなければ高級コーヒー豆なのよ。

 だから今が投資の最適期、高級嗜好品として認可されたら高い関税がかかる、今なら肥料扱いで原価で輸入出来るのよ」


「………ウンコ云々を切り離しましょう。そうして聞くと、確かに魅力的な商品ですね。その豆はカステラーニ商会でしか扱って無いのですか?」


「さあ、私の耳にはカステラーニ商会以外の商会が扱っているとは聞かないけど。

 何せ肥料扱いだから、何処にも見向きもされないのかしらね、貴女の投資するコーヒー豆貿易部門でも扱って貰ったら如何?」


「むっ、何やら銭の香りがしてきました、“レイシャ”で精査してみましょう。

 それから叔母様、サンプルとしてその肥料とやらを少し下さいまし」


「ハンスさんのブレンドですが、帰りに持たせましょう。

 情報込みで、貴女の結婚祝いとしますね」


「………そこに持ってきますか、マイマザー。

 Ok.今回は私の負けでぇす。お祝儀有り難く頂戴します」


「たまに貴女は妙な人種になるわね。前から聞きたいと思っていたけど、それはなあに?」


「“レイシャ”の影響ですよ、ルイーズはあまり“アイシャ”と対話しないから影響を受けないみたいだけど、私は深く同調するので、影響も大きいのですよ、多分“レイシャ”は他文化の精霊ですね」


「他文化の精霊?………何でまたバロト家に?しかも姉妹揃って?貴女達姉妹の異能は少し異質ね。

 御先祖様テオドル聖下も、精霊の祝福を受けた異能者と聞いたけど、その血が濃いのかしら。少し調べてみますね」


「いえ、還俗する私には余り興味の無い聖下の異能です。それより“紅白餅”の手配を頼みます、時期は来春なので日は有りますよ」


 話はまとまり、この後ローザンヌさんはⅠ、Ⅱマリア婆さんと面会するのだが、何故か婆さんに感銘を受けて、弟子入りする事となる。


 変人の考えている事は、本当に先が読めない。

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