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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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姉マリアさんと聖女様2

「ただ、在家信仰者組合長の“役割”が知識外だったので、アロルド兄様をベースとしたのですよ、ここは出家者ばかりなので、各枢機卿猊下、聖女も混ぜての“役造り”ですが、おかしくは無かったですか」


「おかしい程では。ただ、威厳が有りすぎですかね。

 内情を……叔母様の異能を知っているサラだから良い物の、他者では萎縮してしまうでしょうね」


「何故サラが私の異能を知っているのです?」


 やや、圧が強まる。威圧と言うよりは存在感、物理的にすら感じる存在圧だ。


「叔母様、やりにくいから素で頼みます。

 叔母様は忘れてしまっているみたいだけど、サラは異端審問二課局員。叔母様のボディガードでしょうが」


 ローザンヌさんの雰囲気がダレた感じの物に戻る。妙な所で自由自在だ。


「ええっそうなの、何で早く教えてくれなかったの。あちこちついて来るから変だなとは思ってたけど、私をガードしてたの………何で?」


「いや、いや、6~7年前に他の局員共々紹介しました、私は覚えてます、同席したでしょうが。

 それから叔母様は自覚が無い様ですが、市井で人気の高い聖女で、在家信仰者組合長でバロト家。三つも狙われる理由が有るんですよ」


 つまり6~7年も、変だな?だけで済ませてきた訳だ。


「ふうん、大変なんだ。今度サラを労りましょうか」


「いや、叔母様のボディガードはサラだけでは無いのですが………」


「そうなの、ならば纏めて労わらねば、誰と誰なんです?」


「いえ、面倒なのでヨードル局長から直接謝意を伝えて貰いますよ。

 叔母様は、今聞いた所で何かに興味が移ればサクッと忘れるでしょうが」


 そして何かの拍子に忘れていた事を思い出し、何を忘れたのか聞くためだけに呼び出しが掛かるのだ。

 今の所、暇な体では無い。


「それに、ご心配無く、報告では皆叔母様に仕える事に誇りと栄誉を感じている様です、聖女様の威光様々ですね」


「凄いですねテレーズさんは、貴女奇跡認定局だから異端審問局の内情は門外漢でしょうに。それがこの情報通、流石です」


「いえ、ですから妹が異端審問二課長ですので、身内の私に情報を流してくれるのですよ」


 ジャンヌさんにしたら、仕事の愚痴を兼ねたストレス発散の一環だ、何度も言うが、アレで優秀な人材なのだ。


「ただ、貴女自身の身軽さは感心しませんよ、貴女はさっき私の狙われる理由を言いましたが、貴女自身、奇跡認定審問官にして奇跡認定審問局長、またバロト家現当主の娘で、自分で言うのも何ですが聖女の姪なのです、自身の危険も考えて下さいな」


 姉マリアさんは、少し意外な顔をする。


「叔母様に心配をしていただけるとは………意外です。

 叔母様はそうした事に疎い所がおありですので。

 私なら大丈夫ですよ、身に降り掛かる危険ならば“レイシャ”が教えてくれますし、今日はボディガードに、もう一人のマリアさんに付いてきて貰いましたから」


「もう一人のマリアさん?別室で休んでもらっている初老の修道女(シスター)の事です?彼女も奇跡認定局員なの?」


 姉マリアさんは私服だが、Ⅰ、Ⅱの方は修道服姿だ、アルニン全土指名手配も然ることながら、婆さんの私服は女ヤクザそのものだから目立ち過ぎるのだ、だから普段着に修道服を着こんでいる。


「初老、ですか。私もルイーズに紹介された時、叔母様の持たれた感想と同じく、五十年配と思いました。あれで六十台後半、七十に手が届くそうです」


「そうなの?私は直接対面した訳では無く、貴女の同行者が初老の修道女との報告でしたので。

 そんなに若く見えるのですか……それより、そんな高齢者ならボディガードにはならないのでは?」


「ルイーズから借りたのです、何でも伝説的な二課局員だそうで、凄腕なのだそうです。

 何度か会話をしましたが、気性は戦闘向きで、不思議と私と相性が良さげなのです」


 バロト家の人間に合う人柄とは、多分にアレな人格なのだ。そしてⅠ、Ⅱはアレな人格者なのだ。


「何か面白そうな人ですね、よし、会いに行きますか。テレーズさん、紹介して下さいな」


 再びスクッと立ち上がるローザンヌさん、腰が座らない性分だ。


「だから落ち着きなさい叔母様、叔父様を此方に呼んだばかりでしょうに。

 ……いや、そちらは別にキャンセルでも良いんですが、マリアさんは帰りの折に紹介しますので。

 ………話が進まないじゃ無いですか」


「だって若作りの凄腕二課局員なんて面白いじゃない、なら何か逸話でも聞かせなさいな」


「若作り………とは違います、実際歳の割に若いのです、運動能力自体は私なんかより余程上ですよ、これでも私は拳闘のトレーニングは続けているのですが」


「あら、拳闘のチャンピオンは貴女でしたか、何でまたそんな野蛮な事を?殴り合いが面白いのですか?」


「要らん世話ですよ。けどまあ、良いでしょう“レイシャ”の囁きが切っ掛けですね、最初は精霊対話力の修行だったのですが、言わば“レイシャ”はトレーナーで、囁きをいち早く拾う訓練が拳闘トレーニングに繋がったのです、間合いの詰めるタイミングや打ち込みの選定などの」


 姉マリアさんの拳闘スタイルが、イン、アウトに寄らないのはこうした訳だ。

 “レイシャ”の指示に素早く正確に実行する事で確立したスタイルなのだ。


 またこうした訳で、姉マリアさんはジャンヌさんより精霊対話能力が高くなった。


「ふうん、一口に異能と言ってもジャンルが別れすぎてるのですね。私のは異能とするのも大袈裟な能力で、一流と呼ばれる舞台役者なら有している能力ですからね」


 それが、ちと違うのだ。ローザンヌさんは法王や諸王侯の前ですら聖女に()()()。本人は演じている認識だが、その時は正にそのものになっている。

 役者が役を()じているのでは無く、ローザンヌさんが聖女に()()()()()のだ。


 舞台役者は舞台役上の王侯貴族に対面し、舞台役上の役目ををこなすしかない。

 偽りの舞台で偽りのストーリーを演じているだけだ。


 似て非な能力だ。


 これがローザンヌさんの異能、超自己暗示の効能だ、だからローザンヌさんは本物の聖女であり、本物の組合長であり得る。


 一国の女王にすらなり得る能力で、考えようによってはとても危険な能力でも有るし、全く益体もない能力とも言える。


 ………もし、ローザンヌさんが聖女のまま法王庁に残り、教会内で支持を獲得し続けていたら、今頃は大司教、または女性初の枢機卿にまで登り詰めていたかも知れない。


 姉マリアさんは身近に居すぎて、ローザンヌさんの異能を見誤っているのだ。


 姉マリアさんは根がかなり粗忽なため、結果定食屋騒動を引き起こし、逆にローザンヌさんが今現在大過無く過ごせているとも言える。


 別の可能性話を続けるとしたら、……姉マリアさんは、小策士振りと“レイシャ”の囁きを駆使し、聖女派閥を立ち上げて教会勢力をカオス状態にしていたかも知れない。

 結果、そのうち派手に失脚し地方に仲良く飛ばされていた可能性も有る。


 してみると、現在の在家信仰者組合の組合長から、バロト家当主ルートは、ローザンヌさんにしてみたら最良ルートなのかも知れない。


 ノックが鳴る、回数からして先程退出したサラの物だ。


「ローザンヌ様、ハンス様ですが、これから調合となると二時間程時間が必要だとの事で、お待ち頂けるのならば早速調合に掛かるそうです」


「そう、ならばハンスにそうお願いし……」


「いえ叔母様、10年に渡る研究成果ならば遠い後日に願います。そもそも私は用事が有って来ているのですよ、まだ全然話が出来ていません」


「………貴女遊びに見えたのでは無かったのですか?」


「いえ、お願い事です、面会依頼書にそう記しましたよ」


「マリア様、ローザンヌ様は日に何人も多様な方に面会しますので、失念したのでしょう。それにローザンヌ様は姪御であるマリア様のと面談を、とても楽しみにされていましたので」


 とっさにサラが取りなすが、まあ、無意味だ。姉マリアさんとてローザンヌさんとの付き合いは長い。


 報告は受けただろうが、そんな些細な事は脳の片隅にでも追いやって、手のり文鳥の餌の高カロリー配合案でも考えていたか、ミドリ亀か何かの甲羅紋様の、効率的な描き方でも開発していたに違いない。


 予定通りに面会してくれただけ上出来なのだ。


「どうにも貴女との会話が楽しくて、脇に反れてばかりです。

 サラ、済みませんが、お茶のお代わりをお願い出来ますか」


 ノックと共にローザンヌさんは組合長モードにチェンジしていた、外面婆の自称は伊達では無い。


 元来サラはボディガードを抜きにして、ローザンヌさんの執事でも、侍女でもない。組合長補佐事務員、秘書ですら無いのだ。


 だからお茶のお代わりなど業務外なのだが、現在の在家信仰者組合自体が聖女マニア集団だ。


 だからサラに限らず組合員ならば喜んでローザンヌさんの雑務をこなす。


 喜んで茶器を運び出すサラを、姉マリアさんは妙な物を見る視線を送る。


 ゆっくりで構いませんよ、とはローザンヌさん。つまり人払いをお願いしたのだ。

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