マッハ土下座二回目
商工業同業会議所運送業同業組合、早口言葉です
「アレ造るためには、鍛冶屋に弟子入りするしかなかったからな」
年齢的に考えて独立はしていないだろう。
「お前っ簡単に言うけどな、職人ってのは、ホイホイ始めたり辞めれるもんじゃないだろ」
前記の徒弟制度だ。一度弟子入りして他業に就くと、信頼が無くなるので、再び戻ろうとしても受け入れられない。
「そこはほら、最初からそういう契約で弟子入りしたから。と、言うか道具借りるためだけの弟子入りだったからな」
わからない、素人が道具を借りても仕様がないのだが。
「まっ良いさ、たまには顔つなぎに仕事に来いよ、他社には準社員として吹聴しとく」
「なんでよ?まあ仕事にはくるけでな」
「間抜け、唾つけときゃ、お前が死んだり大怪我した時、車両押さえやすいだろ」
「このキチババア!ひとが下手に…」
「アル意味が違う、お前の車両は目立つ。金のなる木だ、お前を殺してでも強奪する馬鹿が出るかもしんない、うちがその押さえだ」
前記したが、この業界にもモグリはいる。そいつらからしたら、フリーのアルは鴨だ。
こちらに引き込んでも良いし、殺して積み荷ごと車両を強奪しても良い。
それを避けるためには、どこかに所属するしかない。
同業組合を通じて危険な情報はいち早く入手できるし、事後懸賞金を掛けれるので、一応抑止力になる。
今回アルを準社員すれば、公的にアルの車両にも所有権が発生する。
積み荷や車両、牽引馬の強奪は運送同業組合を敵に回す事を意味した。
運送業の場合、商工業同業会議所下の運送同業組合の加盟になる。
ちなみに商工業同業会議所は準国営で、件の運送料金表もここで審査、発行となり、
鍛冶補助士の場合、商工業同業会議所下の鍛冶同業組合で講習、試験の流れで発行となる。
「そうなのか?」
「小僧の車両は、業界でちょっと話題になっている。ゴロツキが接触してくる頃だ、まあ何かあったらここまで逃げてこい」
主人格の老婆も、何やらツンデレの匂いがした。
「まあ、俺にはウンコシリーズが憑いているからな大丈夫だろ」
「・・・まあ小姐の打撃を防いだんだからな」
途中で気絶した店主には通じない。
「さっきから何だよ、ウンコだのウンコシリーズだの肝の部分が分からねェ」
「まあ良いじゃんか、俺にもよく分からんし。ただな、何でか俺にしか見えねぇみたいだ」
「あん?ウンコがか、お前やっぱり本物か」
「何だよ本物って、偽物でもあるのかよ」
偽物の場合佯狂(狂ったふり)という。
「それにな、臭ぇんだ、ウンコ臭い」
「なんだか要領を得ないな、つまりウンコ臭いウンコがお前にとり憑いていて、それが叔母さんの攻撃を防いだと」
「見た目は別に糞じゃない、ウンコ臭いからそう呼んでるだけだ、3号まで存在する」
「わかった、それお前の守護神だ。ウンコ臭い守護神なんて、ちょっと素敵な感じ♪」
「ブッ殺すぞ!ケツの穴‼」
一神教のこの国では、守護神なる神は存在しない。似た存在として守護聖人がそれにあたる。
移民である老婆と、その影響下にある店主は、普通に守護神と口にするが、生粋のアルニン人のアルには、本来ならば通じない筈である。
これには、アルの人格形成期に多大な影響を与えた祖父の存在が大きい。
すでに故人であった。
「魑魅魍魎のたぐいか?でも匂いまではっきりわかるねぇ、聞いた事ないよ」
「ママ、可能性として、アルの頭の中のみに存在している架空の妖怪かもよ、ウンコ寄りの」
「こら!ケツの穴‼俺がキチってか」
店主はにっこりと微笑んだ。
「うわ!キモッ!なんかケツの穴みたいのが笑ってる!ちっと怖っ」
「この小僧!やっぱてめえから始末してやらあ‼」
「いい加減にしやがれ!」
老婆は再び繼歩を踏んだ、かなり大きな音と振動だ、二人は再び硬直する。
「馬鹿どもが!ここは堅気の運送屋だ、やるんなら外でやれ‼てめえらがわめくから、他に客が寄り付かないんだよ‼‼……………ッ面倒臭くなってきたな、やっぱ殺すか」
一番物騒なのが老婆だ、本当に発火点が低い。
殺意が本気な分質が悪すぎた、ここで判断を誤ると、言葉通り命取りだ。
「本当すみませんでしたァ‼」
「今度こそ心入れ換えます!すみませんでしたァ‼」
二人はマッハで土下座した、本日二度目だ。三度目も、この調子ではあり得る。
「大体だ!ウンコも守護神も似たような物だ!アル!てめえで何とかしやがれ!面倒臭ェ」
二人は流石に大雑把過ぎると思ったが、何かマジ怒っぽくて怖いので、コクコクと阿呆みたいにうなずいた。
「そ、それじゃ僕はそろそろ帰ろうかな、明日の支度もある事だし」
露骨な猫なで声だ、考えてみたら賃金ももらったし、いつまでもこんな暴力の館にいる理由もない。
「ああ、話も済んだしな、明日は重量物積むからウインチと一応滑車も忘れるなよ」
ウインチとは巻き揚げ器の事で、ドラム部分にロープを巻き取りながら、対象物を牽引する道具だ。
重量に負けてドラムが反転しない様に、金具のストッパーがついている。運送屋の必需品だ。
「ウイ、マダム」
などとフザケた返事をして、アルは帰った。
三度目の回避には成功したようだ
「本当に妙なガキだ。小姐に殺されかけても、あたしに脅されても、しばらくすればケロッとしやがる」
そう言って老婆は、もはや常温になったハーブティーを飲み干した、先程から怒鳴り過ぎて喉が乾いていたのだ。
「ちょっ‼‼ママそれ鳥兜ッ‼‼」
店主は絶叫した。
ギルドの名称は使いません。