表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
137/174

憎ったらしい上級役人

「奉献会治療院自体には、所属教会の紹介状が有れば掛かれますが、軍人さんは首都の何れかの教区所属なのですか?」


 ターゲットが戸籍を新規に作る事は事前情報で知っている。

 ロマヌス新市街に隣接する独立行政区、法王庁に誘導するためには、ターゲットが何処に拠点を構えるかが重要情報収集事項となる。


 友好関係者の所在地が知れれば、芋づる式にターゲットの所在予定地が知れるかも知れない、ターゲットに警戒される事の無い様に搦め手からの攻略だ。


「ん、っとな、なあコロンボ、開発部所属だと何処に住所移るんだ、ロマヌスは初めてだからわからん」


「曹長が知らないなら、知る訳無いじゃない」


「馬鹿だなぁ、ロマヌス市ロマヌス町ロマヌス一丁目一番一号に決まっている」


 阿呆が口を挟む、


「お前ん家はな、すっこんでろ間抜け」

 これを拾ってやるのだからダッドは優しい。


「総合総司令総本部の開発部に所属なら、新市街区になりますが、曹長達の部隊は試験部隊なのでしょう、ならば隊員自体は陸軍兵舎居住になるのでは。

 ならば住所自体は新市街区隣のボルゲン区になりますな、良い所ですよ」


 と、言うよりボルゲン区の1/3が陸軍総本部所有地だ、首都防衛部隊を駐屯させているので敷地は広大である。

 因みに幼年学校、仕官学校も同区内だ。


 全ての道はロマヌスに通じる、との格言が有る様に各街道に防衛拠点が有り、当然それらの防御システムは重火砲による防御なので、砲兵部隊である教砲小隊はその何れかに配属されるように思えるが、初めに開発部所属と名乗っている。


 火砲テスト部隊の駐屯となると、陸軍総本部に併設された出張開発部しかあり得ず、陸軍総本部所在の12連隊所属山岳歩兵の一班長であるベントにしてみたら、勝手知ったる何とやらな訳である。


「ああそうかい、何せ首都は初めてだ陸軍総本部所在地と言われても分からん。教区もボルゲン区になるのか?」


 これには坊さんが答える。


「ボルゲン教区は三つの小教区に分かれますよ、ただ陸軍総本部にはヴェレ小教区からの出張教会が有ります、これもご縁なのでヴェレ教会に紹介状を書きましょうか?」


「んあ?その奉献会とやらに紹介してもらうために、さらに紹介が必要なのか?面倒だな」


 本当に面倒だ、縁故主義の弊害でもある。


「いや、曹長殿、紹介状は貰った方が良い、小教区と聞いて高を括ると一月以上待たされる羽目に合う、人口が地方と違うのですよ」


 所有面積が大きいからと、軍人だけが人口を占めている訳では無い、新旧市街地区の隣区の一等地区だ、ボルゲン区だけでも100万人の人口密度である。


 小教区といっても30~40万人の人口でさらに教区は地教区へと細分化されている。

 小教区長は司教が勤める、手ぶらの軍人が即日面会など叶う筈も無い。


「流石大都会だな、ナザレも都会だと思ったが、何だ司教クラスでも小教区長か。紹介状が有った方が良さげだ、悪いがお坊さん紹介状を書いて貰えるか……んそう言えば」


 阿呆を見やる。


「おいアル、お前の身元保証人、何だかって枢機卿だそうだが、そっちの伝を使えないか」


 能力次第だ、例えば姉マリアさんだったら、口八丁手八丁で別件の紹介状だろうと上手に伝を拵える。


 しかし主語をスッ飛ばかし、自己完結気味な話法の阿呆にそんな大それた真似は出来ない。


 他の面子に頼もうにもアルと似たようなもんだ。


「枢機卿……嘘だろ」

「枢機卿猊下……何かのお間違えでは」


 前者は山岳歩兵のベント班長、後者は諜報坊主、ただ、坊さんは知っていて惚けているだけだ。


「いや、いや、疑うのも当然だ、逆の立場なら俺もそう思う。コイツはこんなで政府の人間だ、憎たらしい事に上級役人に抜擢された、………憎ったらしい」


 ザマァ見やがれケケケ、と阿呆が追撃する。大変仲がよろしい。


「はて、先程から関係者とは推測してはいましたが、アルニン政府のお役人でしたか。ひょっとして、先の話に有った馬の御方ですか」


「そうだよ、アルは技術者でテュネスに従軍した、こんなで有益な発明をしている。岳兵さんの履いてる靴底、それもアルの発明だ」


 あぁこれが、滑らなくて重宝している。などとベントは相槌を打つ。


 靴底はナザレで量産体制に入り靴本体との縫製は民間委託され、優先的に山岳歩兵や海兵に支給されている。同様に防水布も汎用布として量産中だ。


 特許が取れていればこれだけで左団扇だったろうが………残念。


「成る程左様でしたが、では枢機卿猊下とはアルニン政府で面識を得られたのですか」


 マカロフ枢機卿からの依頼でターゲットの調査をしているのだ、分かっていて聞いている。


 場の雰囲気も悪く無く、口が軽い面子と踏んでの誘導だ、()()()の件も有る、教会との繋がりが有るとしたなら、本人から聞くのが一番だ。


 そうだとも、そうでないだとしても、供述に沿って裏を取れば良いだけなのだ、だから坊さん連中は然り気無くアルを観察だ。


「知らん、会った事も無い、確かそう言う行か何かで身元保証人になったと聞いた、有難い話だ。……いや、いや、元を辿れば地元の坊さんが俺の除籍許可を出したんだから、つまり貸し借り無しだ。感謝して損したな」


「コラ阿呆、よりによって坊さんの前で親玉の悪口を言うな、済まないな、コイツは馬鹿だから勘弁してやってくれ」


 ダッドのフォローはフォローしたつもりでフォローになって居ない。


 そもそも枢機卿が第一人者では無い、その補佐だ、地方から出たことの無い田舎者とは云え流石にいただけない。


 驚いた事に砲兵連中、ダッドの暴言に気がつかない、とりなしたのは部外者のベントだ。


「お坊さん、気を悪くしないでくれ、こちらの方々の人となりを見るに、他意は無さそうだ」


 連中はピンと来ないが、景新教のお膝元で指導者の一人を口汚く評すれば、最悪破門となる。


「いえいえ、軍人さんには多い事です、謝意からの言葉ですので問題は有りません。ただ、そちらの役人さん、アル殿ですか、何やら事情がお有りな様子、よろしければその事情を聞かせて貰えますかな、お力添えが出きるかも知れません」


 こう出られては話さねばならない、ダッドやコロンボに小突かれながら阿呆が説明だ。


「…………と、まあこんな感じだ、どうよ、テュネスに行っていたんだから不可抗力じゃないかい」


 借金返済をうっかりしていたのだから何とも言えない、ついでに仕事に出たきりナザレの第三砲台に居着いていたり、そのままテュネスに従軍なのだから分は悪い。


 更に、どっからどう見ても堅気に見えない取立人の婆さん(Ⅰ、Ⅱマリア婆さん、逃亡資金集めの為に金融ヤクザに世話になっていた)が一括で借金返済請求にきたりと心証の悪い事が続く。


 家業をバイト感覚で勤めたり、鍛冶修行もろくすっぽせず、用事が済んだらそれきりで、運送屋に働きに出たと思えば十日程で逐電だ。


「何にせよ借金の肩代わりが不味いよな。お前金返したって言うがよ、返済日を過ぎてたら、普通担保取られるのは常識だ。

 親に連帯保証人になって貰ったんなら、その場は親が全額返済したんだろ、つまり親からトンズラこいたと思われたんだろが、馬鹿、勘当されて当然だ、間抜け」


「いや、ウッカリだ、逃げた訳じゃないって言うか、三砲台の修繕に忙しくしてたのは軍曹だって知ってるだろがよ、派手に撃ちやがってさ、直す方の身にもなれや」


「お前、本当に馬鹿なんだな、部外者の俺達がいくらお前が忙しくしていた事を知って居ようが、お前の親からしたら知り様が無いだろがよ、捜索願いが警邏局に出されただけマシだ、馬鹿、阿呆、間抜け」


「と、言うかアル、あんだけ時間が有って実家に連絡入れて無かったのか……何だかって警邏捜査官に色々聞かれたぜ、常識ではあり得ない失踪事件だとね」


 いや、自発的に三砲台に居着いたのだから事件では無いのだが。


 因みにその捜査官とはパルト市街警邏局のポーロ捜査官だ、事件課だが、あまりに不自然な失踪で、更に自身も目撃者と云う事も有り調査に志願したのだ。


 この捜査官、嘘か真か、あの東方見聞録の著者マルコ.フゥ.ポーロの子孫だとか何だとか。

 ………本当かねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ