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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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便所コオロギの昆虫炭

「おお、何か変なのが一杯いる」

「アル、景信坊主ダ悪く言ウと磔か火炙リだゾ」

「いや、坊さんじゃ無く……も無いか。変だ」


 昆虫採集に精を出していた面々だ、庭隅でゴソゴソと捕まえた昆虫をロースト、いや、炭にしていた。


「おい阿呆、失礼な事ばかり口にするな、ブブエロも坊さん嫌いも大概にしろ」


 二個イチの片割れが二人を呼ぶ、こんなだからアルの保護者と周囲から認知されてしまうのだが……本人も諦めがついている様である。


 坊主連中にしてみたらターゲットの接近にほくそ笑む、不自然で無い形で接触出来たのだ。


 意図せず駐屯所の小火により民間宿舎での宿泊となったのだ、偶然を最大限に利用するのだから異端審問局員は侮れ無い。


「まあアル、ブブエロ、こっち来なよ、その変な炭の事は聞かないからさ」


 遊び仲間のコロンボがて手招いた、坊さん連中以外は特に二人を気にも留めない。


 黒人種であるブブエロは地方では目立つが、首都周辺では珍しくも無い、ロマヌスは国際都市だ。


「おいアル、お前一応軍属なんだから勝手ばかりするなよ、それにブブエロは正式な軍人なんだから厳密には軍紀違反なんだぜぇ」


 ダッドが柄にも無く説教だ。


「先生には話したぜ」


「一緒に俺モ隊長に許可モらっタ。班長と入れ違イになったダけダ」


 ほうか、なら良い。と投げ槍に返事を返す。所で、とコロンボが口を挟む。


「船上での話は覚えてる?アルは馬鹿だから一応確認するよ」


「伍長さん、面と向かって馬鹿は無い、もうちっと言葉選びな、船上?何か話したっけ凧の販売の件か?」


「ほらな、それ……はその内に何とかするとして、綺麗な体になんなって話、あと俺軍曹ね」


 スポーツカイトを気に入った様ではある。


「何だそりゃ、借金も無いし綺麗なもんだぜ、酒も煙草も博打も女もやらんしな、いやホモじゃないぜ、()()がウザいから敬遠しているだけだ、本当は人混みも嫌だ、臭せぇ」


 坊さんを前にして話を暈した訳では無い、こいつは思考が自己完結気味だから素でこんなだ。


「面倒だな。なあ、お坊さん単刀直入に聞くけどさ、悪霊払い(エクソシスト)って教会で扱っているの」


 本当に直接だ、だが、結論から言えば扱っている。聖人なんかがそうだ。いや、聖人がエクソシストを行ったのでは無い、聖人自体がエクソシストされた側だ。


 以前に触れた異能だが、常人に行えない事を成した者は異能者と定義している。


 人の世の常で、常人に有らざる生を送る者は、まあ終わりを全うしない。


 死後も世間的影響力を持つ異能者は方向を定めなければ混乱の元だ。


 カイサル暗殺後のロマヌスの混迷然り、ホンノウジの変以降の葦原国の混迷然りだ。


 教会の発展に某か影響の有った人物を良い様に聖人認定する事は、つまりは後災を未然に防ぐ工作だ。

 ()()()()()(教会にとっての悪意を誘導する思念)の御輿足り得る人物を聖人として教会に取り込み、発生し得る災いを祓い落とすのだ。


 広義ではこれも立派な災難祓い(エクソシスト)だが、コロンボが尋ねたのは小義な意味での悪霊払い(エクソシスト)だ。


 こんな質問を一般的な僧侶にしたら、まず怒られる。聖職者は別に悪魔悪霊の敵対者では無いのだ。


 ただ悪い事に、ここにいる坊主連は異端審問局員だ、特務省庁舎の異端審問局の上階は奇跡認定局であり、かつては悪霊払いを行う課が存在した。


 また先代の奇跡認定局長が、エクソシストを行ない成功させた事を知っている。


 なので返事を言い淀んだ。知らないならば完全否定からの説法も出来るが、身近に知っているので判断に迷う。


 そもそもターゲットを法王庁に出向かせ、奇跡認定局による審神者(さにわ)審査が第一目標だ、


 話の流れからして、ターゲットかその友好関係者がエクソシストを望んでいると推測される。


 自身で奇跡認定局に出頭するのならば、これに越した事は無い。


「少しお待ちを、悪霊払い(エクソシスト)との事ですが、ひょっとしてそちらの軍人さん、曹長さんでしたか、曹長さんの体調不良とはそちらが原因だと判断されたのですか」


 ハイともイイエとも答えず情報を収集する事とした。ただ、体調不良から原因が悪霊と判断するのは些か突飛だ。


 その様に思考誘導する者が居たとして、それがターゲットの友好関係者の一人としたら無視も出来ない。


「そレだ班長!だから俺達虫捕まエた」


「バッタが良いらしいんだが、便所コオロギが矢鱈と捕れた、似たようなもんだし良いだろうよ、飲め」


 便所コオロギの炭を差し出す阿呆と王族。


「あんだよ、回りくどい売り言葉だな、つまり喧嘩売ってるんだろ」


 ダッドはイラッときた、少し仮眠を取っただけで寝不足からの体調が回復した訳では無いのだ、気が立っているのだ。


「ちガう、これ薬ダ、よく眠れる様になル」


「ブブさんの言う通り、あと胃腸薬にもなるし滋養強壮にもなるし、何と水虫にも効く。昔じいちゃんが似たような炭を飲んでた」


 じいちゃんは性病治療のためにだが、知らぬが華だ。


 坊さんの話をぶった切ってのプレゼンだ、嫌がらせでは無いとは云えダッドは素直に飲む気にはなれない。


「………本当かよ、新手の嫌がらせじゃねぇのか?便所コオロギの炭だろが」


「曹長殿、昆虫炭は確かに我々も用いますよ、鎮静効果も有るので睡眠時に服用します」


 山岳歩兵の一人が合いの手をいれる、脇からこのグループの話を聞いていたのだ、アルは兎も角ブブエロは目立つ、話の種になりそうと、連中の動きに合わせこのグループに紛れたのだ。


「本当か?俺は教導砲兵小隊副長補佐のダッドだ。お前さん達は山岳歩兵と聞いたが」


 ダーレン共々副長補佐が役職だ。

 ただ、肝心の副長が居ないので実質的に二人が副長となる。


「12歩兵連隊所属山岳歩兵小隊一班長ベントです、テュネスでの勇名は聞き及んでいますよ、ダッド曹長」


 階級章は山岳歩兵軍曹の物だ。所属兵科章こそ見慣れない物だが、階級章は陸兵共通だ。


 連中(アルブブエの事)の言葉はとても信じられた物では無いが、サバイバルに長けた山岳歩兵の言葉となると信頼が違う。


 直接の部下や、面倒を見ている半同僚なんぞより、初対面の山岳歩兵を信じるのも何だが、何せ二人は名うての阿呆だ。


 阿呆鳥の加護持ちと豪語する様な輩なんぞ、部下でなければ完全無視だ、感染ったら困る。


「そうか、まあ、山の中に有る物で生き延びる様な岳兵の言葉だから信じるが、便所コオロギな………」


 口内に残る様に服用するんですよ、苦味から他の事は考えられなくなりますよ。


 などと注意事項つきのアドバイスだ。


「はやく飲め!モタモタすんな鈍間!」

「そのまマで飲め班長、水イらない」

「折角だから曹長貰ったらどうだ」


 阿呆供が急かすが、山岳兵のベントの説明では寝る前で良い様な感じだが、まあコイツ等の知ったこっちゃ無い。いつの間にかギャラリーが増えて飲め飲めコールだ、暇人か。


「黙れ馬鹿供!上官侮辱罪で懲罰にかけるぞ、間抜け……まあ、寝る前にでも試してみる、それで良いかブブエロ」


 アルは放置、ブブエロは親切っぽいがアルは面白半分で勧めている事は分かる、そんな顔をしている。


「随分と慕われている様ですね、曹長さん、ダッドさんでしたな」


 友好関係者と知れた、しかもかなり仲が良いと知れる、取り込み対象者と判断した。


「さて、先程の体調不良の件ですがどうでしょう、奉献会の療養所に掛かられたら。腕の良い療養師も居ますので、まずはそちらで様子を診られては、軍人さんも多く通院されているので、馴染みやすいですよ」


 奉献会とは教育庁の管轄部局で心療治療を受け持つ、懺悔告解では晴れない心のケアや治療なので、病院とは違う。


 そもそものこの時代に精神病院は無い。


「いやお坊さん、曹長、とアルの場合はエクソシ………」


「黙れコロンボ、そうか少し興味が有る。その、何だかって治療所は紹介が必要か?」


 ダッドが食いついた、普段のダッドならば聞く耳持たずだが、不眠が続くと云うのはかなり辛いのだ、しかも今回は船酔いとのダブルパンチだ。


 アル曰くジョージ云々が犯人では無く、取り憑かれた事により五感が冴えての事だから、エクソシストは違う様に思えたのだ。


 目や耳が冴える事で確かに睡眠が妨げられるが、実は日常、いや、軍務に付くにあたりデメリットよりメリットが多いのだ。


 異変を察知しやすいし、遠視とも呼べる程に視力は上がった、砲手としては有難いメリットだ。


 要は寝不足さえ何とかなれば良いので、試しに奉献会とやらの治療も有効と考えたのだが………まあ、ねぇ。

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