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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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ツンデレ軍曹

「お寺さん的には許容できる話なんです?」


 ………お寺さんって………


 マリさん事マリウス軍曹だ、例のスプラッタ刺繍家だ。意外、と言うか一周回ったのか、アルは砲兵連中に人気が高い。


 砲術家として尊敬を集めている、言動の奇矯さも馴れればどうと云う事も無い。


 だからコロンボが口を濁した様に、坊さんの前で滅多な事は言えない、砲術一つ取ってみても悪魔的ですらある。


「道徳的に問題の有る行為が無ければ、特に教義的な罰則は有りませんよ、例えば小猿などと会話を通じて使役し、空き巣を働く様な手合は刑法に殉じて貰いますが。


 その技術官さんは、つまり軍馬を宥めてその場を納めた訳なのでしょう、ならば褒められこそすれ、罰則に触れる事は有りませんよ」


 アルニンで実際に有った窃盗事件だ。葦原国では寺院への喜捨であるサイセンなる金品を、躾た猿に盗ませた事例が有るそうな。


 この手の犯罪は洋の東西を問わないらしい。


 別の坊主が続ける。


「一度会いたいお人ですね、今どちらに居られますか。

 いや、いや、警戒なされずとも審問的な意味は有りません、信徒の皆様の中にも、たまに()()()()方は居られます。

 その様な方は、やはり審問を恐れ、人知れず悩まれたりしますので。

 その技術官殿も同門信徒なのでしょう?」


 これに反応したのは、これまた意外な事に山岳兵の面子だ。


「ああ、そうなんですか坊様、我々も任務を通じて、色々と不可思議な事に出会したりするので、お墨付きを貰えるんならば助かりますよ」


 これは別の山岳歩兵班長だ。超常現象も一人二人の目撃ならば気のせいで済ましたりするが、班単位、小隊単位での異常現象目撃となるとそうも行かない。報告書に記載するに当たり障りの無い物となる。


 馬鹿正直に報告し、情緒不適正判断をされると折角の山岳部隊所属から外される事も有る。


 要療養とされ教会に強制通院を命じられる事すらある。


 まあ、山頂から雷を伴い垂直上昇する()()()()()を見た、雲間に巨大な()が游いでいた、などと報告すればそうかも知れんが……


 ………してみるとゴーンの私的研究も、広く認知されれば、軍組織にとって有益なのかも知らん。その内奴にはUFO.UMA関係にも手出しをしていただこう。


「面白そうな話だ、なあ、岳兵さん、山で遭遇する様な不思議事を聞かせてくれないか?お寺さんも倫理的に問題無ければ構わないと言っていたし」


 基本暇だ、かと云って待機状態だから勝手に出歩けない。情報交換名目の他兵科、他部隊との雑談は有益だ。


 山岳部隊とは殆ど友誼は無いのだから、これ幸いだ。歩兵上がりの多いパルト小隊としては山岳部隊には興味津々である。


 坊さん部隊も、不自然に技術官に会わせろとは言わない、ターゲットの友好関係を知る事も任務の内だ。


 自然とグループが分かれ雑談会となる、コロンボの居るグループは坊主組だ、別に信心からでは無く、ダッド関係の相談だ。


 因にだが、レオンは一室に籠っている。サボっていた移動報告書をまとめているのだ。中間管理職はこれだから哀れだ。


 ダッドがふらりとやってきて様子に驚く。

 他兵科の面々は兎も角、坊さん部隊があちこちのグループに点在しているのだ、変だ。


 コロンボが手招く。


「なんだこりゃ、坊さんがなんでこんなに居る、それに何だアイツ達、見掛けない所属章だが歩兵か?」


「山岳歩兵だってさ、何でも演習帰りらしい。可哀想な事にこのまままた演習に出発するんだってさ。それより班ちょ…曹長、体調は良いのか」


「仮眠を取らせてもらったからな、それに揺れないだけ海よりマシだ。アルの馬鹿はどうした、ブブエロも居ないみたいだが」


 他愛ない会話だが、坊さん連中は聞き耳を立てる、情報は多い程良い。


「アルと何やら中庭でやっていたよ、昆虫採集がどうのバッタがどうのと騒いでた。……いや、曹長。言いたい事は分かる、けど放っておきな、いちいち理由を聞くのも馬鹿馬鹿しいし面倒だ」


 その通り。


「兵隊さん、先ほどの馬の話の技術官さんの事ですかな?どうも話し振りからして奇行的な人物の様子ですが、そもそも何故兵隊さんと同行されているのですかな」


 随分と答えにくい質問だ、奇行については馬鹿だからで説明が付くが、なんで居るのとは返事に困る。


 身分的には政府職員となり、政府からの出向軍属なのだが、それを知る者は上の階で書類仕事の最中だ。


 ダッドも知らで無いが、初対面の坊さんに事細やかに説明する謂われもない、ぶっきらぼうに“ただの運命だ”と答える。


「兵隊さんは運命論者ですかな」

 別の坊さんが尋ねる。別に運命論は教義的にタブーではない。ただ、分派の中には忌避する所も有る。


「いや、後付けの理屈だ。あの阿呆と、悪因縁的運命で関り合いになったと思えば諦めも付く、腹立たしいが」


「あん?曹長、アルと仲良いじゃない、ひょっとして、ツンデレ属性有るの」


「あんだよそりゃ、あの馬鹿はちょっと目を離したら大馬鹿やらかすだろ、だから面倒見てるだけだ、何なら野郎の目付役をコロンボにやるよ」


「自分の班員で手一杯だからね、隊長と曹長とで面倒見なよ、少佐殿は外れちゃったしねぇ」


「あの御仁も妙なお人だったな、コロンボはあんまり接点が無いから知らんだろうが、まあ、類友の類いだ。いや頭と地位が有るだけタチが悪い」


「いや、いや、アルだって今はソコソコ地位が有るし、逆に考えなしの分、少佐殿より深刻なんじゃ………」


 誰かが“バミューダフォー解散か”などとほざくが、コロンボは兎も角ダッドには通じ無い。


「何だぁ、たまにバミューがどうのゴールドがどうの聞くが何の隠語だ、コロンボ」


 上官である少佐、中尉を巻き込んでいる隠語なので流石に言えない、コロンボは猿を決め込んだ。


「知らね。それよか曹長、今曹長の体調不良の件で坊様に相談してたんだ。本人の口から症状を説明してよ」


「部下のお方から聞いた所では、睡眠不足と聞きました、あと感情の振幅が大きいとか。いつ頃からなのですか」


 ターゲットの友好関係者と知れた、情報を引き出したい。このグループは当たりだ、坊さんはほくそ笑む。


 少佐とはゴーン作戦参謀少佐との事だと分かっている、佐官とも懇意とは予想外だったが。


 余計な事を、とばかりにダッドはコロンボを睨むが何処吹く風だ。


「いや、坊さんが気に掛ける事じゃ……」


「いや曹長、俺も昔教会に世話になったけどさ、体調云々抜きにしてカウンセリングを受けた方が良いよ、病は気からって言うけどさ、話を聞いて貰えるだけでもストレスは減るよ」


 一頃の大病院の待合室効果だ。顔見知りの爺婆や、行き着けの先生と世間話に興じる事も、案外ストレス発散効果が有る……そうな。


 拙は苦手なシチュエーションだから逆にストレスを溜めるのだが、社交的な人には良いそうだ。


「ははは、そう大仰に構える様な事でも有りませんよ、行きずりの宣教遊行僧と世間話をしたと考えれば、暇潰し位にはなるでしょう。

 軍人さんは我々からしてみても親しみ易い職業ですので」


 まあそれもそうだ、何より暇だ。


 場の雰囲気も堅苦しい物でも無し、特に坊主に恨みやトラウマが有る訳でも無いので、話に乗る事にした。ダッドは平時では割りとまともなのだ。


「そうだな、折角だ。そこのコロンボが要らん事を言っただろうが、確かに戦場では極端にハイになる」


 ぶり返しも極端だけどね。などとコロンボが相槌を打つ。


「いちいち余計な事言うな、まあ自覚はしている。上手に殺れた時なんぞ、後で死にたくなる程()()()に苛まされる。こいつは極端だと笑うが、何も感じる所が無い方が異常だろう。

 どうだい坊様、やはり変か俺」


「この際、殺人は罪悪で有るとの道徳教義は外して考えましょうか、職業的業務遂行にあたり、国家所属の軍人に殺人は罪悪と教義説法をするはナンセンスでしょうから。

 お答えするならば、軍人さんは正常です。感じかたは人それぞれ、表現もやはり人それぞれです。命を奪う事に忌避感を感じなくなっては、人は人である意味は有りません」


 犬猫ですら罪悪感を持っているのですから。と別の坊さんが継ぎ足した。


「ただ、そちらの軍人さんの話によると、職務遂行に障りが出る程に最近では体調が不良とか。心当たりは有りますかな」


 まあな、とぞんざいに返事を返す。


 ジョージとやらの死霊に取り憑かれたからなのだが、それこそ話して良い物か判断に迷った。


 また、アル曰く“問題はジョージ君じゃ無く軍曹のおつむの感度だ”だそうなので、坊さんの守備範囲から外れると思えたからだ。


 本人も、体調不良の原因は極端な寝不足で、視聴覚が滅多矢鱈と冴えている事がその要因であると自覚してはいるのだ。


 そこに阿呆がやってきた。

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