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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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ポルコ港到着の変人集団

 一行は予定通り一日半の航海を終え、無事……いや船酔いは病気と勘定しないので、ポルコ港無事に到着した。


 ほぼ私物のみの荷物、例の凧帆は私物では無いが、これはアルの多車輪荷車に積載される。私物扱いだ。


 ポルコ港は商業港であり軍港では無い、なので民間人は普通に居る、商業家がほとんどだが、全くの非港湾関係者が散策目的で往来していたり、釣り人が糸を垂らしたりと、特に入場に規制は無い。


 なので彼等が紛れていようが、傍目に分かる筈など無い。異端審問局員の面々だ。


 待人来訪の報せは、協力信徒により即座に通達される、軍港は併設されていないのだから、アルニン海軍の輸送船は見る者が見れば知れるのだ。


 局員は、ターゲットの面を知らない。黒髪黒目の中肉中背など、特徴にもならない位にあちこちにいる、アルニン人には割りと多いのだ。


 輸送船から下船した軍人一行。休暇で輸送船に便乗したのでは無く、軍令による移動なのだから軍服姿だ、商業港なので目立つ。


 その中で一人、地味な藍染の作業着姿の黒髪が混ざっている、ターゲットと当たりを付けた異端審問一、二課の混成バディが各自接近を図る。

 あからさまな接近は図らない、目的は面貌の確認だ。


 あるバディは軍船に興味が有る様に装い、またあるバディは軍人なんぞ興味無さげに一行を通過しながら盗み見し、


 釣り人を装い、港湾人足を装い、それぞれが然り気無くアルを盗み見た。


 凡庸。


 一堂の感じた第一印象だ。一芸に通じた者は、なにがしか片鱗を見せるものだ。立ち振舞や言動、眼力。


 オーラと言うか雰囲気と言うべきか。

 常人に有らざる者、異能者は異質な感じがするのだが、このターゲットにはそれが無い。


 人違いかと思えば下船点呼で、パルト砲兵小隊と知れた。


 ~砲班総員在員~砲班在員と大声で騒いでいて、小隊隊長に報告していては、自ずと知れる。


 周囲からの視線が集まる(ダーレン、ダッドは地声が太い、砲兵は兵科柄大声だ)のを幸いに、ターゲットをじっくりと観察する。


 ………やはり凡庸だ、彼と比較したら、そこいらのパン屋の親父の方が余程非凡に見える。


 見慣れない荷車に積まれる私物、砲兵員便乗荷物だろう、結構有る。


 目敏く確認する、妙なテント(凧帆を畳んで有る、紐が付いているので、傍目には軍用テントだ)、工具箱、軍用で無い背嚢や私物の入った軍用嚢。


 火器の類いは積んでいない、長銃は装備品なので各人が所持している、つまりターゲットは武装や火器などを携行してはいない、シルエットからして丸腰だ。


「諸君、船中で予想していた事だが、風が悪く移動に時間が取られた。

 よって、当初予定していた首都への移動は翌日にする。

 本日はポルコ港駐屯所に入舎する」


 小隊長、パルト中尉も観察する。


 若い、こちらは非凡の人物に見える、現にテュネス()()で戦功を立てている。


 それぞれが各員を観察する、どれも癖が有りそうに見え、


(具体的には、戦意高揚すると、ずっと泣き続ける曹長が居たり、


 戦意高揚すると、極端にハイになったかと思えば、地獄に落ちた亡者の如く猛省する曹長が居たり、


 右の鼻穴から赤ワイン、左の鼻穴から白ワイン、鼻腔で器用にシェイクしてロゼにしてからダイレクト飲酒する軍曹が居たり、


 自作で地獄絵図の如き作風の刺繍を、己の軍服の裏に施す軍曹が居たり、


 またそれに感化され、スプラッタ風味地獄絵図的刺青を己の尻に入れる上等卒が居たり、


 ウンコ味のカレーかカレー味のウンコ、食うならどちらかと云う問いに、“ウンコ味のウンコ一択”と素で答える勇者が居たり、


 阿呆鳥の加護持ちで、最近水虫とインキンタムシに悩まされている南方大陸出身の()()が居たり、


 軍令以外は犬語かパントマイムで会話を試みる奇人が居たり、


 そうかと思えば前世は鶏と豪語し、チキンだけは絶対口にしない悪食専門グルメ軍曹が居たり、


 二十日鼠を飼っていて、矢鱈とながーい無臭の屁を、飼鼠に()りかけるのが一日の締めだと云う肉屋の倅が居たりと勢揃いだ)


 それらを統率するパルト中尉の将器が伺えた?


 だから、かえってターゲットの凡庸さが目立ち、逆に異質に感じた。


 一行が輸送船艦長に陸軍式敬礼をすると、艦長以下水夫水兵が海軍式敬礼を返し、移動となる。


 海軍指定入港々なので特に珍しくも無い光景だが、アルの荷車に注目が集まり、一行は注目された。


 音も無く滑らかに動く荷車は、やはり異質でかなり注目を集めた。

 陸運関係者だろうか、中年の親父がアルの荷車に近寄りはしたが、それが軍用車両であると当たりを付けたのか、それ以上は接近をしない。

 何か言いかけて、やはり口を噤む。


 二個イチの片割れが眼光鋭く睨んだからだが、もう片方の阿呆は特に気にも止めない。


 それ程移動するでも無く、ポルコ港駐屯所に着いた、まあ、イベントが有ったとしたらこんな程度だ。


 ただ、駐屯所の方は大がかりなイベントが発生していた。


 小火だ、いや、規模からしたら普通に火事だ、宿舎が一棟半焼した。寝タバコの火が枕に燻っていたようで、普通に火元は下士官宿舎のベッドだ。


 今朝方鎮火され、検証が終わったばかりだ。燃え残りより件の火元が特定される。


 ただ、失火か、故意か、はたまた()()なのか分からない、なので当該()()の移動は憲兵権限により禁止され、個別に尋問中である。


 やはり首都に移動中の陸軍の一部隊の様だ。首都直近の港はここなので、かち合う事は珍しくも無い。


 つい先ほど入港下船した教砲小隊には関係無い話なのだが、やはり憲兵により入舎は遮られる。


 ここに例の変人少佐が同行していれば、強引に捩じ込むで有ろうが、階級が上の憲兵大尉に懇々と事情を説明されれば、レオンとしても無理は通せない。


 本日入場予定の各移動部隊は、急遽民間の契約指定宿所に移動となる。


 兵舎の収容人数がオーバーしたりする事もたまに有るので、民間宿所に回す事がまま有るのだ。将校なんかもそちらに回したりする。


 支払いは軍票だが、尉官以上の官姓名の記載が無ければ無効だ。


 時間はまだ午後3時前だ。無理して首都の国防総省総合総本部に行けない事も無いが、無理する理由も無い。また土地勘が有るのはレオンだけなので素直に指定宿舎入りをした。


 当然砲兵連中……アルを調査中の異端審問局員も同宿舎入りする、

 特に潜入捜査が得意な連中が急遽抜粋される、変装はせず着なれた僧衣の旅姿での宿入りとした。


 ターゲットが武器の類いを装備していないと確認したので、ここは一課が数名で潜入する。


 宣教遊行僧一行の触れ込みで宿泊だ。布教の一種で懺悔告解なども行う、まあ移動教会だ。

 首都周辺では珍しいが、これから出先に向かうとすれば首都近郊港町に居てもおかしく無い。

 そんな設定だ、異端審問員のよくやる手口で、そもそも彼等はⅠ、Ⅱマリア婆さんと違い本物の坊主だ、異端審問局員を奉職しているだけで、司祭位に有る者も居る。


 聖職者を、のっけから疑う様な不信心者も極少数で、大概潜入は成功する。


 あとは尤もらしい説法説教をしながら情報収集に努めるのだ。


 砲兵連中の方は砲班単位での部屋割りだ。民間の宿だから大部屋……は有る事は有るが先客が詰めている、回された移動兵員は教砲小隊だけでは無いのだ。


 悪い事に砲兵と仲の悪い歩兵隊だ、隊としたが増員小班(8名×3班)の小隊人員だから大部屋3室で事足りる。ただ、各班単位での編成なので、小隊では無い。


 大規模な食堂に何とは無しにたむろする。砲兵連中、歩兵連中、坊主連中だ。坊さんが()()()()()()()()()()


「そこな兵士さん、何やらやけに兵隊さんが多い様ですが、何事か有ったのですかな」


 比較的年若の坊主が尋ねた、ほぼ同年代の兵にだ。選択に大した意味は無い、近くに居たから話し掛けた()()装う。


 小火騒ぎは知っている。あえてターゲット所属部隊に話し掛け無い、ターゲットが居ない事でも有るし、切っ掛けなどどうとでもなる。雰囲気作りだ、和気藹々とまでは行かなくとも、気軽に世間話を出来る空気には持って行きたい。


「ああ、陸軍駐屯所の宿舎が焼けてな、こっちに追いやられた、まあ、民間宿の方が飯が旨いから良いけどな、坊さん達は布教活動か何かかい」


「ええ、そうですよ。行き先は外国ですが……そうですか、駐屯所で火事でしたか。災難でしたな、負傷者が無ければ良いのですが」


「そりゃ大丈夫、兵隊ってのは緊急事変に対応する訓練を受けている、怪我する様な間抜は居ないだろうよ、ノロマな砲兵以外はな」


 徽章から兵科は知れる。つまりこの歩兵はパルト小隊を砲兵と知って雑言を口にしたのだ。


 当然、砲兵連中は色めき立った。


 歩兵と砲兵は本当に犬猿の仲なのだ。

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