表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
120/174

姉マリアさんとジャンヌさん4

「だから落ち着け姉。報告に有る限りでは対象者は乱暴者では無いし、入国時に凶器になりそうな物は守衛所で預からせる。

 それに……」


「そうそう、“ゴッドマザー”って何なのルイーズ?

 爺さん連中は知っているみたいだけど、そもそも“ゴッドマザー”?厨二?」


「……質問に質問を返すけど、何だよ厨二って。何かのスラングなの?」


 厨二は厨二だ。全然関係無いが、ジャンヌさんは姉相手では間延びした口調にならない様だ。


「そんな所。後になってから痛かったり、恥かしかったり、後悔する様な事を、その時は得意になっている精神状態をさすスラングよ。そんな事よりそのゴッドマザーさんはどんな人?」


「いや、マリアさんがコードネーム“ゴッドマザー”だったとは、私もさっき知った所。局長からも聞かされていない。

 姉さんは最初から奇跡認定局だったから知らないだろうけど、異端審問局では伝説的な局員よ。何でも、一切外傷を残さずに対象者を仕留められるらしい」


「………仕留めるって、殺し屋なの?」


「そうとばかりも。他にも植物状態にしたり、半身不随にしたりと多芸、拷問術にも造詣が深いらしいよ。

 あと、矢鱈と短気。拳の後に口が出るタイプ」


 ……本当に嫌な婆ァだ。


「大馬鹿野郎!何でそんな物騒なのが護衛なんだよ!狼を防ぐに虎を迎える様な物じゃんかよ!」


「知らないよ、だから私もついさっきマリアさんの素性を知ったんだよ。何でもアルニン国内で指名手配されたとかで、うちの局長頼って逃げてきたみたい」


「巫山戯んな!冗談じゃねぇや馬鹿野郎……………………OK、落ち着こうか兄弟」


「………たまに思うんだけど、本当は姉さんは何人なんだよ、マジでアルニン人なの?」


「毒を以て毒を制す、二虎競食、壺中の蠱、目糞鼻糞、ナメクジとカタツムリ。

 そのゴッドマリアさんを対象者にけしかけよう」


「だから、本当に何人なんだよ!なんだよ、その二虎だの蠱だのナメクジってのはよ」


「早い内にゴッドマリアさんに会いたいね。ルイーズ、いつ都合がつくかな?」


「聞け!人の話!」


「?何を怒っているの?私、何か変な事言った?だったらゴメンね」


 ジャンヌさんがため息を吐く。素の姉マリアさんは、こんな感じで掴みどころが無い。


「まあ良いよ姉さん、何時もの事だし。

 マリアさんはルッツァ教会内で無役だから明日にでも連れて来れるよ、少し早いけど任務は明日からになるね」


「任務って、何の?」


 キィ!とばかりに、キレたジャンヌさんが殴りかかる。


 即座に反応した姉マリアさん、ジャンヌさんの右ストレートを左フックで弾いてカウンターだ。


 だが、対人鞭で鍛え上げたジャンヌさんの黄金の右だ、非戦闘部局局長の姉マリアさんの左では、力が足りない、軌道をずらす事で精一杯だ。


 相討ち、クロスカウンターだ。互いの顔面を打ち合った。


 “グフゥッ”とばかりに二人は膝から崩れ落ちる、ダブルノックアウトだ。


 カウントが入る、1・2・3・4・5……


 先に立ち上がったのは………姉マリアさんだ、いや、足にきている、ファイティングポーズが取れない、足を縺れさせて盛大にスッ転んだ!


 その間に不屈の根性で立ち上がるジャンヌさん、がんばれー。


 ……9・10!ここで試合終了のゴングだ!


 なんと、勝者ジャンヌさん、実は姉マリアさんは幼少時、無敗のアマ拳闘チャンピオンだ。


 この時代にはウエイト階級が無い、しかも男女混合だ、その絶対王者にジャンヌさんは勝ったのだ!凄い!


「強くなりましたね、ジャンヌ。拳闘の基本を教えた頃は、まだ小さな子供だったのに」


「姉さん………」


 何時までも勝利の余韻に浸っては居られない、ジャンヌさんの得物は対人鞭だが、闘技の基本は姉マリアさんから習った拳闘なのだ。


 決して越えられなかった壁、それが姉マリアさんだった。


 姉マリアはテクニカルファイターだ、イン、アウトに寄らない独自のスタイルだ。


 相手のスタイルに合わせ、変幻自在なポジションからカウンターを狙う、一撃必殺を旨としたファイターだ。


 インファイターのジャンヌさんは、それだから逆に対人鞭の習得に励んだ。打ち合いの外からの攻撃を学ぶ為だ。


 インファイターはそのスタイルの宿命で、打ち合いになる。


 同じインファイター同士の打ち合いでも、最終的にテクニックが有る者が勝つ。被弾数が違う。


 インもアウトも得意とするテクニカルファイターの姉マリアさんに、ジャンヌさんは一度も勝てなかった。


 それが、今日初めて勝てた、正面から打ち合って、テクニックを力で粉砕したのだ。


 拳闘を学んで良かった、対人鞭の鍛練を欠かさなくて良かった。


 ジャンヌさんは柄にも無く感動した。


「ジャンヌ、これならば安心して貴女に託せます、貴女なら私の後を継げる」


「姉さん……ありがとう。姉さんの地位(チャンピオン)の誇りは引き継いだわ」


 姉マリアさんは、首に掛けている少しばかりゴツい十字架をジャンヌさんに掛けた。

 ジャンヌさんはチャンピオンベルト感覚で()()にも素直に受けた。


 ………世代が交代した。


「聞きましたね、テレジア、私の後継はジャンヌに決まりました、やったね!これで還俗できる!」


「確かに聞きましたが………良いのですか、こんなペテンみたいなグダグダで………」


「貴女何時の間に?テレジアさん?」


 テレジアさんとは古株の奇跡認定局長付きの尼僧だ、司祭職にこの間就いた。


 因みに10カウントを数えたのも、試合終了のゴングを鳴らしたのも彼女だ。ゴングは局長室に置いてある姉マリアさんの私物である。


「良いのさ、私も先代にやられた事だし、まあ伝統行事なのさ、やったね!」


 話が見えない。何の事やら。


「何の話?………姉さんの事だから碌な事じゃ無いとは思うけれど………」


 流石にジャンヌさんは姉マリアさんと付き合いが長い。姉マリアさんから不穏な物を感じた。


「ルイーズ、貴女が次の奇跡認定審問官、ゆくゆくは奇跡認定局局長に決定したのよ、たった今、ね、奇跡認定審問証を受け取ったでしょ、ね、だから貴女が新奇跡認定審問官、私は()奇跡認定審問官♪、やりぃブラボー♪」


「申し訳無いですが、ジャンヌ審問二課長、私も何の因果か立ち会ってしまいました。

 それに、奇跡認定審問証(ジャッジメント)もジャンヌ課長を選んだ様で」


 何の因果との事だが、10カウントしたのは彼女であり、お茶を運んできた所、たまたまクロスカウンター現場を目撃し、ダウンを見るや否やカウントし始める当たり共犯と言えない事も無い。


 いまいち状況が理解出来ないジャンヌさんは鸚鵡返しで呟いた。


奇跡認定審問証(ジャッジメント)?」


 ジャンヌさんが首に掛かったゴツい十字架を手に取る、ズシリと重い。


「ああ、ルイーズ、それ一応聖遺物だから丁寧にね、序列98位だけど聖遺物は聖遺物。

 簡単に言えば奇跡認定審問官の証しであって、聖遺物保管庫の鍵でも有るの」


「要るかこんなもん!」


 我に返ったジャンヌさんが外そうとするが、二人に羽交い締めで止められる。


「ダメダメダメ!貴女()()に選ばれたから外すと不味い!」


「申し訳ないジャンヌ課長、それは厄介な聖遺物、外すならば他所で外してください。

 それはそうと、局長、鼻血を拭いて下さい、さっきから気になって気になって」


 “厄介な聖遺物”、がジャンヌさんの耳に引っ掛かる。


「ちょっ……他所で外せって事は、外せる事は出来るのね、何かペナルティでも有るの?」


「ペナルティって程じゃ」


「いえ、マリア局長、あれははっきりとペナルティです、私は嫌いですよアレ」


「勿体ぶらないで、何が有るの」


「それはですね、正当所有者以外の者が手にすると、臭い匂いが辺り一面にするのですよ。保管庫を開ける以外に所有者が外しても同様で」


「………そんだけ?」


「そんだけって、貴女ねぇ、嗅いだ事無いからそんな余裕が有るんだって。また妙な臭さでね、平気な人は平気だけどダメな人は全くダメ。

 悪い事に吐き気がする類いの臭さじゃ無いから、逃げ道が無い。鼻も慣れない匂いなんだよ」


「わからん、高々臭い程度なら…こうだ!」


 ジャンヌさんはゴツい十字架を外すと窓から放り投げた。一応聖遺物なのだが………


 途端に猛烈に発する妙な悪臭?発酵系の匂いか?シュールストレミングか、ブルーチーズか、はたまた豊葦原国の納豆なる食品の匂いを濃くしたような微妙な匂いだ。


 一般的には臭いのだが、好きな人には堪らない。


 因みに、前奇跡認定局長はこの匂いが好物で、食事中にわざと外しておかず代わりにしていたそうな。


 前奇跡認定局長は、やはりバロト家の系統で、この姉妹の叔母に当たる変人である。


 多分作中に登場はしない…………筈。

新年明けましておめでとうございます。

旅行先からの投稿で失礼します。


三ヶ日の内には何とかもう一本投稿します。


本年は良い年であります様に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ