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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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魔弾の射手2

「魔弾の射手ですか………危険な存在で有りますな」


「全く。敵に回したくは有りません」


 こちらは法王庁、枢機卿府内。御存知マカロフ枢機卿執務室である。


 法王庁はロマヌスの独立行政区画に所在地を置く。法王庁は別にアルニンに所属はしていない。

 しかしアルニン国籍の住人管理をしている。と、言うか景信教信徒は全て国籍問わず管理している。


 なので、本来ならばアルニン政府も横着せずに独自に管理すべきなのだが、特に不具合も無いので、旧来より景信教に住人管理を委託している。


 大体が、現アルニン共和国建国以前から法王庁は存在し、数世紀に渡り信徒の住所管理をしているのだ。


 なので、歴代政府執政者は、頭から独自に住人管理をする発想自体が抜けている。


 法王庁は国土を持たないだけで、国家の体は成している。


 いや、信徒を国民と考えるならば、アルニン住民こそが法王庁市国民となり、アルニン政府が傀儡政府と言えない事も無い。


 極めて大雑把に関係性を説明するならば、資産家のジジイの所有していた家を購入し、借家としてその家の管理をする小僧が居たとする。


 で、そのジジイがシャアシャアとその借家に入居している状態だろうか。小僧にしたら煙たくも利用価値の有るジジイだ。


 ジジイにしたら、いつでも交換可能な大家であるが、金持ち喧嘩せずの大原則で、面倒だから大人しくしているに過ぎない。


 大変分かりやすい例えだ。


 マカロフ枢機卿と対面しているのは、泣く子も黙る異端審問局長、ヨードル司祭。


 異端審問局は、何も無実の信徒を拷問にかけて、無理繰り異端自白を強要する機関では無い。


 中世、世情が乱れた時、教会権威誇示の為にそのような行いが有った事も有る。


 だが、今日日そんな事をする変態的狂信部所など有るわけ無い。


 現在では調査機関として機能しており、政治坊主のマカロフ枢機卿御用達機関に定着していた。


 つまり、泣く子も黙る原因は異端審問局に有るのでは無く、ただ単にヨードル司祭の個人的資質による。


 とても彼は陰気で陰湿で恨めしい見た目なのだ。実物の彼は別に陰気で陰湿で恨めしくて陰険な人柄では無い。


 と、言うより、生来の外観から異端審問局に配属された嫌いもある。


 さて、このマカロフの大坊主、大都市の執政官であっただけあり、根回し、裏取引、恫喝、懐柔が上手だ。更によくよく観察すると、眉毛が繋がっており東亜細亞では貴人相でもある。


 目下、次期法王最有力の坊さまで、ヨードル司祭としても上手にしておきたい相手だ。


「信じがたい戦功を上げて居ます、テュネス入国時に、連合王国の戦艦二隻を撃沈していました。

 同乗船した輸送船の、複数下士官より情報提供がありました」


「さもありなん、5キロ先の人間を射殺するのだから」


「その件なのですが、ジャール提督の狙撃の裏は今だとれていません。

 確かに銃創による大量失血死の確認が取れましたが、それが魔弾によるものか、公表にある暴発事故なのかが分かりません」


「その件は此方で確認する事になりましたよ、実演してくれるそうです」


「………猊下、その様な者は禁忌に触れる存在なのでは。排除の為の情報収集でしょうか」


「司祭殿、その様な前時代的な発想は感心しませんよ。その者は何も無差別に発砲している訳でも、それを快としている訳でも有りませんので」


 ただ、快とも不快ともしていない様子である。


 生き死に無感動と成り果てた職業軍人で無いのだから、生まれ性と解析されていた。


 数々の証言から、手を汚す事を厭わない………と言うより、極端に大雑把で貪着が無い性格で、極めて無感動な精神思考であると結論付けされている。


 しかし機械の様な、氷の様な情緒では無く、粗暴乱脈な言動が多い、幼稚な思考指向が認められていた。


 つまり、どうとでもやり様のある、非常に誘導しやすい使い勝手の良い人間であり、出来れば手駒に、もしくは此方の陣営に留めて置きたい駒である。


「乱暴な言動、正気を疑う発言が多々有ると報告を受けて居りますが、狂暴で有るとか、暴力的で有るとは報告が有りません。所謂、口悪党の類いのようです。

 ただ、かなり人見知りの様子で、テュネス出兵中、同僚である他社派遣軍属とは、とうとう親交を結ばなかった様子」


「何でも同郷の、あのパルト終生執政官殿の御子息とは親密であるとか。この間本人から直接聞きました、レオンと言いましたか………さて」


 何せアル主観親密度ではNo.2の逸材である。一緒くたに囲い込みたい所ではある。


 何も本人その人を囲わなくとも、その影響力の及ぶ人材を囲えば良い。


 アルは政府に取られたから、周りを手元に置きたいのだ。だが………


「それから猊下、()()衣の件は精査中では有りますが、今だ分かりません、ひょっとしたら全くのガセかも知れないので、お含み置きを」


「ナザレ大教管区のパードレ大司教は良く言えば中立的な人柄ですからねぇ、優柔不断と言うより、足元を見据えている人ですよ、誰とでも誼を通じる」


 八方美人の類いだ。こうした人材は信頼出来ないが、便利な事は便利だ。調整役にもなる。


 パードレ坊主に誼を通じる方も通じる方で、そんな事は承知の助だ。

 だから友好関係が浅く広いので、とても把握しきれない。


「まあ、政府に囲われるのだから、その内何らかのアクションが有るでしょう。無ければ無いで構いませんよ、パルト家のレオン殿を引き込みましょう」


「猊下、パルト家と言えばカルロ殿の………」


「昔の事です、結局彼は受け入れた。だから遺恨を抱くは筋違いですよ」


 カルロとはレオンの父親だ、正直その名を忘れていた。本当にすまん。


「レオン.パルト砲兵中尉、士官学校を主席で卒業し、陸軍戦術研究室に配属、今年春ナザレ軍港城塞に移動。

 ………彼は陸軍幼年学校、士官学校を通して10年程首都住まいですが、数える程にしか教会に足を運んでいません。余り熱心な信徒では無い様子ですが………」


「若い内はそんな物です。それに信徒としての彼に期待をしたいのでは有りません。アル技官を誘導して貰いたいだけです」


「他にも数名、特に親しい者が居る様です。何でもゴールデントライアングルとか、バミューダフォーとか言うチームを組んで居るそうで」


 だが、当の本人達は知らないチーム名である。


「何ですかそれは。チーム名?砲兵科では個別にチーム名をつけるのですか?」


 いや、普通は砲班長の名前を冠するだけの常識的な識別名でしか呼ばない。


 しかしその内“チーム特攻野郎”位の名付けはしたい物だ。


「そうとも言いきれません、参謀少佐が何故か勘定に入っていまして、この参謀少佐はテュネス派遣の総監役として、政府の密命を帯びて現地同行をしています」


「ああ、あの。官邸で面識を得ました。あまり教会に好意的では無さそうな人物でしたが、職務的に他組織に線引きをしているのですかね。

 フム。政府の密命を拝する程の人材ですか。司祭殿、何と言いましたかな、その参謀少佐殿は」


「ゴーン少佐です、評判は良い様です。実務に関して問題有りません。ナザレの防衛戦に於いて有益な献策と共に功を上げたようです。

 また、その頃件のパルト殿やアル技官と知己を得た様子でして、何かと彼らに気配りをしていた様でした

 また、テュネス派遣に関して、ゴーン少佐の提案書が陸軍や総合総司令部を通過し、アルニン政府の了承を得たと調べが着いて居ります」


「ほうほう、有能だ。つまり、陸軍……いや、参謀科の所属ならば、総合総司令部に強い伝や根回しが効くのか。フム」


「今少し詳細に調べましょうか」


「お願いします。アル技官とは別に中々有益な人材な様ですね、使い道も多そうです、興味が有りますね」


 後日、その興味の対象者から妙な書類が送られてくるのだが、生憎とこの大坊主は目を通さなかった。


 時期的に、年末行事に合わせた郵送物が枢機卿の元に山の様に届くからだ。


 変人少佐の主催する、オカルト研究会の会報誌など受付窓口の段階で跳ねられてしまっていた。


 内容は悪霊祓いに関する観察レポートと、その考察が堅苦しい文面で記載されていた。

 ご丁寧に祭壇のスケッチ付きで……だ!


 因みにゴーンの研究会での筆名はカル〇スだ、流石に字伏せさせてくれ。


 と、言うより本当に彼は送ったのだな。


 天晴れ。

当分の間週一投稿になります。

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