マッチポンプの詐欺野郎
「フム、話を進めよう。途中に出てきた2号とは、最もイメージしやすい化物形状で、技官殿のダメージを物理的に防ぐのだな、これは面白い」
直接物理的に作用する心霊的、超自然現象は確かに珍しい。
特定人物が、心霊現象を見えたり聞こえたりする事はザラだ。
ただ、特定人物を物理的に守護する霊現象は聞いた事が無い。
守護霊とするには、些か悪魔的な造形な様で有るし、そんな物に守護される存在とは、どう考えても色んな意味で凡では無い。
「テュネスでは射撃補助をしてくれた、割りと便利な奴等だ。形は目玉付きイソギンチャクだが、良く良く見れば愛嬌が有る」
「………そうか?」
………そうか?キモいだけだと思うんだが。何かダッドとハモった。
「射撃?砲撃では無く。ああ、テュネス海軍との懇親会での射撃の事か、その時にも神手を披露したと聞いたが、補助とは?」
「何せ銃なんか触った事も無いからね、砲と違い自分で支えなきゃならん、重い。
そこで、イソギンチャクのゴロー君が銃を支えてくれた」
ゴロー君………極東風な名だが、実はアルニンでは割りと一般的な名だ。
だが、人に付けるのは稀で、もっぱら犬猫鶏などに付けられる名だ。
「つまり2号とは、技官殿の使い魔的な存在なのか?」
「どうだろうね、ババアに派手にぶん殴られた時、後ろから蹴飛ばしやがったからねぇ。
と、言うか個性があって、一概に味方とも言えないな。3号なんかはフレンドリーなんだが………」
「フレンドリー……嫌なもんに好かれてんな、お前やっぱり、死神かウンコの化身じゃないのか?」
「あん、だ・か・ら・ジョージ君に取り憑かれている軍曹も似た様な物なんだぜ。
なんかジョージ君、ウチの3号をスカウトしているし、その内に軍曹ん所も賑やかになるよ」
嫌~な顔をするが、元々が強面の髭面軍人だ、尻か玉裏でも痒い様にしか見えない。
「個性的と。形状も個性的な様だが、そこら辺に関係が有るのやも知れない。
……“人は人型だから人の思考をする”と物の本に有るからな。
3号とやらは良く話に出て来るが、専ら意思疎通を果たすのが3号かね、発明品の助言などもする様だし」
「あれが意思疎通と言って良いのかね、こっち向いて、馬鹿笑いしているのがyesでムッツリ無表情がnoだよ。
まだ猫の方が対話になる」
アルは猫好きだ。ただ、大概の猫はアルが嫌いだ。同様に馬や鹿もアルが嫌いだ。
蛇や便所蟋蟀なんかには好かれている様子ではある。
「………そう言えばそんな事を言っていたな。
お前、それで良くあんなに詳細な図面を引けるな」
「だってねぇ、書き終わらないと彼奴いつまでも居るから臭いのよ、だから仲介してくれる4号は偉い。
俺的にはテュネス出兵の最大収穫だ、何か臭いも気にならなくなったしな」
「アル、対外的にはテュネスには派兵で無く派遣されたと言ってくれよ、我々は建前上新型砲の扱い伝授の為に行った事になっている。
それから、その4号だけど何だい?3号の進化した姿かい?」
「なんだろね?便宜上4号と呼んでいるけど、別物かな?と、言うかそれぞれがあまり関係無いかな?」
「どう云う意味だ、技官殿」
速記中のゴーンが質問だ、完全にこちら側に入っている。
「別に1号が進化して2号に、2号が進化して3号になる訳じゃ無い。3号は3号として湧いて出てくる。
ただ、3号は1号に化ける事はある。してみると3号が大元で、野郎が1号、2号に退化してるのか知れん」
「………濃い煙を散らした様な感じかい?」
「そうね、濃い状態が3号としたら散らした状態が1号かな、2号は散らした1号が半端に集まったのかねぇ、わかんねぇ」
「成る程、1号や2号にやや知性が感じられる説明にはなるな、対話可能な3号がベースとなっているのか。フム」
アルにしか知覚出来ない3号の存在実在が、考察の前提になっている。
なので、本来ならばゴーンの考察自体が余り褒められた物では無い。
凡そ超自然現象、超常現象研究者として成果を発表すらならば、その3号の存在証明を果たし、第三者に確認可能状態を示した上での考察発表でなければならない。
特定の人物のみが目視可能、接触可能な反自然的な現象。
ここらから切り崩し、万人に認識確認さない限り、この手の研究は、決して日の目を見る事は無い。
頑張れ少佐、個人的には応援する。
「いや、勝手な思いつきだから本当に分からんよ。証拠に造形の出鱈目さでは2号と4号が似てるっちゃ似てる」
「そう、その4号だが、技官殿の感覚では一番知性が有る口振りだ。アルニンでは見掛け無かったのだな」
「それも当てにならないな。何せ臭いのが嫌だから、あまり人が多い所には寄り付かなかったからね。ひょっとしたらそこらに居たのかも」
「成る程、その辺りも興味深い。では何故テュネスの出…派兵時に新規に4号が出現したか、技官殿には心当たりはあるかね」
「心当たりと言うか、ほれテュネスの何だかって都市で、騎馬に囲まれた時が有ったでしょ、あれ以来の付き合いだ」
「………やはり、ザバの件は集団放馬では無く、技官殿目掛けての事か。
ただ、アル技官殿。道中観察した所では、技官殿は軍馬と何故か相性が悪い様子で、ヤーズール騎兵大隊長の言う“馬の王”が浮いて聞こえた物だ。馬との対話だったか………
ひょっとして、ケンタウロスがどうのと言っていたのは、4号の事なのか」
「馬に取り憑いていた。ケンタウロス表現はケンタウロス様に失礼だったよ、彼奴ら出鱈目だ、人面馬がしっくりくる、頭のすぐ下の横首からヒョロリと長い腕が生えてる」
「何だそりゃ、ケンタウロスったら人の上半身が馬の首部から生えてるんだろ、腕付きの人面馬?見当もつかん」
サラサラと変人少佐が想像図を描いた、かなりうまい、“馬だけに”とは言わないのがお約束。
「こんな感じか、技官殿」
割りと大きめに詳細なスケッチだ、芸達者なのではなく、参謀科の習得技能の一つだ。
この時代にカメラは無い、なので現場地形や人物、対象物など、簡易にスケッチする技能が参謀科には課せられていた。
印画紙の原型となる聖骸布を、かのレオナールさんが発明し、聖遺物の複製をしただの作成しただの、教会相手にすったもんだしたと云う。
ピンホールカメラの構造設計が、件のレオナールメモに残っていたりする。
彼のメモは万能で便利だ。
「もっとヒョロ長い手だけど、こんな感じ。でも顔がリアルだ、軍師さんの知りあいがモデルかね」
「馬面の知人をモデルとした、ヒョロ長に直すと………………これでどうだね」
「うわっ、これは無いわ~
こんなのが見えてんのお前」
「見えるというか、暮らしてる。奴等は3号みたいに散らないからな、庭先でゴロゴロしてる。
ただ、臭いを感じ無いから前よりは暮らしやすくなった」
無臭になったのでは無い所が味噌だ。単純に頭の機能に、不具合が生じて分からなくなっただけだ。
「まて、まて、庭先って、今住んでいる士官兵舎のか、あの魔界は4号が犯人なのかよ。マッチポンプか、お前悪質な詐欺野郎だな、何が地鎮祭だ、薄馬鹿下郎が」
「薄羽蜻蛉?何だか知らんが詰まらんよ軍曹」
「その地鎮祭だが、心持ち清浄化したように思える。
技官殿、あの兵舎はやはりいわくの有る兵舎で、自殺者が何人かでていて教会の鑑査が入っていたのだ。
技官殿に何か感じた事は無いのか」
「どうだろうね、そこらにそんなのはウヨウヨしてるからなぁ。ただ、4号達がそこら辺の奴等を、手当たり次第に喰い散らかしてたから、喰われたんじゃ。
そうそう、4号は共喰いをする。ウチの3号も何匹か喰われた」
………匹勘定。たしか祖父母も居たよな。
「アル、すると浄化自体は成ってはいるんだね。一応悪霊祓いになっているのかな?」
成っていない。鼠駆除をするに大型肉食獣を放った様な物だ、しかもその獣は全く躾がされておらず、やりたい放題だ。何せ共喰いすらする。
アルは面倒で数を数えて居ないが、テュネスから出国時と、士官兵舎居住時では4号の数が減っている。
何処かに行った4号も居るが、まあ共喰いだ。現在は1ダースしか居ない、元は30匹程憑いてきていた。
「まあ、俺の頼みは聞くみたいだから、そこらで遊んでくる様に頼んだよ。その内に戻ってくるんじゃ無いかな」
まあ、アルは士官兵舎に定住する訳では無いので、今日1日何とかすれば良いのだ。
首都ロマヌスに着いたら、その時はその時考えよう。
当分週一投稿になります。