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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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中肉中背黒髪黒目の超平凡凡庸の変人

「それは無いな軍師さん。と、言うか外国の()()は奇妙奇天烈だからな、こんな調子で5号、6号と増えていったら迷惑だ、だから他所には行かないよ。大体アルニン語しか俺は話せんし」


 そうであった、砲撃狙撃のみに目がいってしまったが、彼は多方面に変だ。


 “馬の王”だったり、“鷹の目”だったりする。今後、他にどんな称号がつくのか分からない、宗教に寛容で無い国へ行ったとしたら、どんな目に合うかも分からない。


 大体、つい先ほども怪しげな儀式を行った。少佐の手引きが有ったとしても、彼は頓着が無さ過ぎる。


「賢明だ技官殿。アルニン政府に帰属するのならば、なるべく政府に高く買って貰うに限る。

 日程は未定だが、政府首脳が技官殿の砲撃狙撃を直接確認するとの事だ。その時に技官殿の神技を披露するのだな、扱いが良くなるだろう」


「そうしよう。………何か今年は色々あるな、厄か?」


「少佐殿、質問が。少佐殿は殊更政府政府と連呼されますが、アルの異能は戦事向きで、軍務にしか用がないと思われますが。

 そもそも、政府職員採用の意味が解せません」


「長いよ軍曹、大体、役人も軍人も大差無いだろ、サラリーが良くなるなら、どっちでも構わん」


 段々と面倒になってきた様だ。投げ槍に放言する。


「政治は綺麗事を大義とした戦闘だよ、曹長。先程技官殿の性質が、お誂え向きと評したのは暗闘向きだからだ」


「そうでしょうか?技官殿は、余りに物事に頓着が無さ過ぎて、責任感を感じません。こんな出鱈目さでは、軍人でしたら、半殺しです。いや場合によっては完殺しでしょうか」


「ダッド曹長、言葉を選びたまえ。しかし少佐殿、アル技官が暗闘向きとは、小官にも理解が及びません。そもそも暗闘とは?」


「なんか、技官殿、技官殿と呼ばれると尻の穴がムズムズする、アルで良い」


「そうか、技官殿、尻の穴から虫でも涌いてムズムズするのではないのか、虫下しでも飲んでいろ、この変態野郎」


「お、やるか軍曹、言っておくが俺は運送屋のババアに、殴り合いで勝ってるからな」


「そうかよ、俺は五才の時に、近所の床屋の親父を言い負かした事が有らぁ」


「マジかよ!すげぇな軍曹、俺が五才の時は、ザリガニを生き埋めにして遊んでいたってのによ」


 ザリガニの方のレオンの親だ。犬猫にけしかけられもした。


 別に巫山戯ている訳ではない、本気で感心している。

 ………だから余計に深刻だ。


「アル、お前の価値観が分からねぇ。一度教会か医者に行こうか、俺が引率してやるから、な」


「殴り合い?技官殿がか?技官殿は直接的な暴力を振るう様な、粗暴な人柄では無いと結論付けていたのだが、意外だな」


 当事者の一人でもあるレオンが補足する。


「いえ、少佐殿、私もその場に居合わせておりましたが、技官殿が一方的にやられていました。

 ただ、そういった戦闘だった様でして、撲殺されなければ勝ちと云う物でした」


「益々分からない、運送屋との事だが、職業柄女傑のような者なのか?撲殺とは言い過ぎだ」


「いや、軍師さん、あのババアは矢鱈と強いよ、多分素手じゃ誰も勝てない。殺るんなら砲撃だな」


「格闘術は、陸軍幼年学校、士官学校で仕込まれましたが……ここいらとは系統の違う格闘術でした。

 恥ずかしながら、小官もその老婆に拘束されました、言い訳みたいになりますが、確かに達人クラスの腕前でした」


「………隊長殿、あの時そんな事が有ったのですか、何とも………老婆に」


 ダッドは、話の前後関係から、レオンが車軸の折れた車両の代わりを手配した頃と察した。


「フム、その老婆とやらが格闘術の達人として、技官殿がここに居るからには撲殺は免れているのだ。

 見た所、技官殿は格闘術の心得は無い。どうやって防いだのだ?」


 中肉中背、アルニンでは割りと多い黒髪黒目。見た瞬間に忘れしまいそうな凡庸の顔立ち。一目で平凡と知れる物腰、立ち振舞い。


 目は口程に物を言う。目配せ、眼力、目の色と、どこからどう見てもアルは凡人で、格技の素人だと知れる。


「そう、その内に聞くつもりが忘れていた。アルどうやって?尋常で無い殴打だった、馬車に跳ねられても、あんなに人は飛ばない

 ………そう言えば馬に蹴られても平気だったね」


 “アルは頑丈だな”で流しておいて、今更な話である。


「あぁ、そんな事も有りましたな。死んだものと思いましたが、打撲傷すら負っていなかった、今にしてみれば不思議で……でも無いですな。アルだし」


「簡単な話だ、2号が防いだ。あの時は、デッカイ鮃みたいな顔した生首が代わりに受けた。

 馬の時は亀だ、手足が無いけど亀だ。

 なあ軍曹、脚の無い亀は何亀だ?聞いた事も無い。首が矢鱈と長いんだが」


「馬鹿だな、脚が無い亀なら脚無し亀だろ、首が長いなら首長亀だ。

 やっぱウンコシリーズか………お前、一体何なんだ?」


 今更な疑問だ、こいつはコイツで呑気な男だ。あと、何だよ脚無し亀ってのは。


「少し技官殿の異能を纏めよう。そのシリーズとやらは現在4号まで存在すると。

 大体で良いから、1号から役割などを教えてくれ」


 ゴーンにスイッチが入る。アルは研究対象でもあるのだ。


「1号は何だろうね、何か有ると集り始めるね、最近じゃ4号のオヤツ。そうそう、テュネスで戦闘になる時、事前に涌いてきた。

 してみると危険を察知るのかね、鳥兜ティーにも集っていたし」


 当時を思い出し嫌な顔をするレオン。危うく口にする所だったのだ、何の因果で、地元でウッカリ毒殺されなければならないというのか。


「形状はどんなだね、2号とやらは奇っ怪な造形、生首らしいが」


 本当にノリノリだ。


「特には。黒い霧、煙?かな密度はそれぞれの状況で違う、ただ、濃くても臭いは3号、4号よりはマイルド」


「ウンコ臭いと言っていたが、良く我慢出来るな、俺にゃ無理だ」


「あれ?軍曹、ジョージ君臭く無いのか、今頭の上に居るんだが」


「技官殿には臭いが分かるのか、そのジョージ君とやらの」


「3号並みの臭いだね、ただ、ウチの3号達よりは会話になるから4号寄りの賢さだ、良かったね♪」


 ウチの3号達………まあ、祖父母もいる事だし。


「それだ。たまに異臭を感じる、気配もな。ただ、ウンコ臭くは無いぞ、ドブ臭く感じるな」


「感じ方が違うと……どんな感じに臭いが分かるのだ、嗅覚では無いのだろう?実際に臭いの元があるなら、我々にも分かるからな、仮に“幻臭”とするか」


 妙な造語を垂れ流すから、途端に胡散臭くなるのだが、このご仁に頓着はない。


「言われてみれば。確かに鼻から感じる訳じゃ無いな……そうねぇ、軍師さんは夢ん中で飲み食いしたとして、その味を覚えてる?そんな感じかな」


「アル、言い得てる。そんな感じだ」


「記憶から該当臭を連想するのか?すると本当にそう感じているだけなのだな」


「いや、いや、俺はウンコ臭としていたが、伍長さんは死臭だと言っていた。俺はそれまで死臭なんか嗅いだ事無いから知らないよ」


「うわっ、引くわ。お前死臭嗅いで大騒ぎで殺しまくってたの?実はお前死神か何かだろ」


「カバみたいな死霊に取り憑かれた、サイコ軍人とどっこいどっこいだろ、阿呆」


 うん、どっこいどっこいだ。


 一神教なので、死神なる神は存在しない建前だが、生まれて生きれば、必ず人は死ぬので、それはそれ、これはこれと区別するのが人情だ。


 更に死を司る守護聖人など居ないので、都合良く“死神”なる神が他所から剽窃された。


 神の引き立て役の悪魔は、別に死を司る訳では無いのだ。


「伍長とは誰の事なのだ?その者も異臭を感じる事が出来るのか、技官殿」


「いや、いや、コロンボさん。伍長さんって感じだから伍長さんと呼んでいる、因に“さん”までがワンセットだ」


 どうでも良い豆だ。


「前に三砲台を攻撃した時、軍曹が大手門を撃ち抜いたでしょ。その下敷きになって死んでた人の臭いを、たまたま居合わせた伍長さんが教えてくれた」


「ああ、実際に死臭がしていたのか。私も検分したが、確かに腐敗が早かったな、三砲台守のビンゴだった。時期的に半日やそこらで腐敗はしないのだが」


「つまり、アルは死臭を便臭と理解していた訳か………何か死臭とすると、急に意味合いが違って聞こえる」


 変な弁解だが、ウンコ臭の方が、死臭よりは万人受けが良いのだ。


 前者は最下等の笑いの種だが、後者は“死”、そのものを連想するからだろう。


 アーメン。

当分週一投稿になります。

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