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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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砲兵単騎突撃予約

「おはよう、アル。そちらはダッド曹長だったね」


 ガリレイは本当に軍人らしく無い。これでも一号工房責任者であり、簡単に言えば偉い人だ。


「おはようございます、技術少尉殿、昨晩アル技官を予定を聞く為に訪れた所、何でも工業用ミシンを扱える者を探しているとかで、小官が同行する事になりました。


 実家が軍需品生産事業所なので、小官も幼少時より工業用のミシンを扱っていたのです」


「そうなのか軍曹、それでミシンを使えるのか、流石だな」


「黙ってろ、間抜け」


「ははは、曹長はアルに厳しいな、まあ、お手柔らかに。アルは得難い人材だよ。

 それが図面だね、早速見たいよ」


 この二人は物事に頓着が無さすぎる。

 ガサガサと、地べたに図面を広げるアルを止めるのがダッドだ、以前にも似た様な事が有った。


「アル、中で広げろ、一応は機密事項なんだろ、少尉殿、何やら図面がかさ張る様なので、広目のテーブルなり作業台なりをお借りしたいのですが」


「ならば昨日の開発室が良い、補足の説明を黒板に書き足したい」


「どのレベルの機密に当たるんだ、アルの発案は幅が広すぎてね、外部に漏れても平気な奴かい?」


「帆の変型だから、大して機密じゃ無いよ、大部屋でオッケー。紙で模型を作ってみた」


「紙で造ると、本当に凧みたいだね」


「ただ、凧と違い高くは上がらない、高さが3mも上がると、この部分の紐が張るから風が逃げる、あくまでも動力としての凧帆だからね」


 他にも使い道が有るのだが、まだこの時は用途に思い至ら無かった。


 凧帆。超ザックリと説明するならば、これは後世のパラシュートだ。

 たしか大昔にレオナール.ダ.リンチさんがメモに残して有った筈。


 当時は生地の強度………いや用途に迷いお蔵入りした物だ。


 物の本では、リンチさんが小猿に括り付けて、ビザの斜塔から放り投げたとか何とか。


 何故猿なのか?そもそも何の発明だったのか?

 作りたいから作ったのだろうが、天才には闇が付きまとう。


 形状は多少違うが、概ね同じ物である。ただ、別にアルはリンチさんをパクった訳ではなく偶然だ。


「まあ、少尉殿、話の続きは中で」


 ダッドは通常時では割とマトモだ。二人を促して工房工廠に入る。


 本来ならばミニチュアモデルを作り、テストをし、それから原寸大のモデルを作成するのだが、そこはスッ飛ばして、いきなりの原寸モデルの作成となる。


 首都への移動内示が下りている。アルにもだ。だから、のんびりともしていられない。


 アル関係の発明は、変人の豪腕少佐が予算通過の裏工作をしてくれるので、ナザレの開発部では予算は潤沢だ。


 だが、中央へ移動すると今後は分からない。だから辞令が下りる前にやっておきたいのだ。


 作成中の光景は、地味だ。むさい指毛の生えたオッサン達が、型紙に合わせた防水布を裁断したり、ジョージ君にガリガリと尻っぺたを噛られているダッドが、ミシンを踏んで縫製している。


 たまにそれを見て爆笑する馬鹿。


 地味不気味可笑しく、割と和気藹々と作業が進み、なんと一日で完成してしまった。


「いや、驚いた。軍曹マジで有能、何で軍人なんかやっている、縫製専門の軍需品屋をやれば良いじゃんか」


「いや、それが嫌だから軍人になったんだが………まあ良い、どうせ堂々巡りになる話だ。

 今日は無理だが、明日なら演習場を借りられる、テストするんだろ」


 馬鹿の言語理解力に見切りをつけて、話を進める。


 形になれば、ダッドとて理解出来る。これは牽引用の帆だ、小型船に利用出来ない事も無いが、これは機動架台用の帆だと分かった。


 ダッドは夢想する。架台に取り付けたこの凧帆を操作し、縦横無尽に戦場を駆け回り、散弾で敵陣を蹂躙するのだ。


 史上初の砲兵による単騎突撃!ロマンだ!


 ………いや、言いたい事は分かる。戦史上いずれの兵科に於いても、単騎突撃なぞ仕出かしたお調子者は居ない。


 物語上の演出に過ぎない。


 清那の古の“苦肉の策”の様に、単身敵陣に潜入し、スパイ行動をとった軍指揮官はいた。


 ただ、情報混乱を旨とした行動で、何も敵陣で無双をした訳では無い。


 単騎突撃なぞしたら、単純に袋にされて御陀仏だ。


 ……だが、

 ………だからこそ、

 …………だからこそ戦場の華だ!


 男のロマンだ放漫だ!理屈では無い!これは人類普遍の夢だ!


 なので、ダッド君には、その内盛大に敵陣単騎突撃殲滅戦を実行していただこう。


「それならば開発部から申請をしておくよ、名目は機動架台補助動力走行試験かな」


「そんな感じで、ただ、本当は船舶で試したかったね」


「んでよ?機動架台用の帆なんだろ、この寒空に、湾内なんぞで試験したくは無いだろうが、お前がやんなら止めないが」


 内海沿岸国のアルニン半島は、冬場とは云え比較的暖かい。


 だが比較的にだ。海水浴を楽しめる程では無い。海に落ちれば当然(しば)れる。


 やれやれ、と云うジェスチャーをすると説明だ。


「風の向きが分からんだろ、湾内ならば風向きが変わっても、どこにでも進めるが、陸じゃそうもいかん。

 進行方向から、いきなし風向きが変わると車両が横転する」


「成る程な、でもよ元から機動架台用の帆なんだろ、ならば陸で試験しなきゃ」


 ダッドの言う事にも一理有る。それ用の凧帆なのだ。また、極端に操作性が悪ければ、やはりボツになる。


 船乗りや、水兵でないのだから、風を読むなど出来ない。風に帆を張らせ、動力として操作出来る程度には、操作の簡素化をしたい。


 それには、ズブの素人の実地試験が望ましい、率直な意見を聞きたいのだ。


「それならば、アル達がテュネスに派遣されていた間に試作した車両があるんだけど、それで試そう。

 船の舵みたいに、ある程度は進行方向を操作する操舵を付けた」


 車両は基本全ての車輪が独立回転するので、カーブ時に内外の車輪に回転差が発生しようが関係無い。


 更に人力動力なので、力加減が効くのだ。

 なので操舵車両は加工の手間がかかるだけで、大して益の無い開発と御蔵入りしたのだが、風力動力となると勝手が違ってくる。


 船とほぼ同じに考えられるので、舵操作によるカウンター走行も必要となるのだ。


 例えば舵を切る事により、進行方向を定め慣性で進むタッキング帆走などがある。

 海上ならば、ジグザグに風上に帆走する航法だ。


 ただ、マストに帆を結わえない凧帆の場合には、机上では何とも言えない。テスト有るのみだ。


「面白そうだね、軍曹やってみるかね」


「確かに面白そうだな、ならばうちの班員も動員してテストしてみるか」


 翌日、果たして、ダッド砲班員を巻き込んでの凧帆走試験となった訳だが、これは結局教砲小隊総員での試験走行となった。


 連中は、ほぼ一日基礎トレーニングとやらで走り回っていた。背嚢、鉄ヘル、長銃のフル装備で一日中だ。


 ダッド砲班が、何やら楽しげな事を始めたので休息時に集り始め、やがてダッド、ダーレンに嘆願する者が現れ、交代で凧帆走試験で遊ん………適正を観る運びとなった。


 結果は良好だ。ただ、舵操作をする者は、凧帆操作を兼任する必要が分かった為、押手から外れる必要が有った。


 加えて、風量によっては押手が不要の場合もあり、二点の改良が必要となった。


 一つは操舵専念の為の座席設置、これは乗り降りの即事性が求められた。


 もう一つは、押手の車両足場の設置だ。風量によっては、車両に乗車しても推力が確保出来るのだ。

 ならば乗らない手は無い。その方が楽だし、楽しい。


 凧帆の牽引力の試験なので、車両には火砲相当の鋼材を積載した、流石に実物は遠慮したのだ。


 概ね良好な試験だったので、現在アーガイル専用機動架台の図面作成が、開発部一号工房工廠の面々に出されていたので、ついでに凧帆牽引機能の追加が課せられた。


 ………簡単に言ってくれたが、(砲兵の面々が嘆願した、連中にしたら言うだけは只だ)車両の操舵機構と、凧帆の設置操作場の追加、押手のステップの設置。

 これらに加えて砲撃反動減衰機構が干渉しない様に設置しなければならない。


 ………つまり一から設計をやり直す事になる。短尺重火砲の設計もそれに準じる事になるので大変だ。


 砲兵の面々は、良い玩具が出来たとばかりに、訓練と称して凧帆走行で遊んで過ごした。


 凧帆も四張り程作成し、皆して操作に馴れた頃、ようやく首都からレオンとゴーンが戻ってきた。


 移動命令書を持参しての帰参だ。

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