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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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ミシン軍曹

 食事内容は至って普通だ、パンに野菜スープにグリルチキン。チーズが三切れと赤カブの酢漬。量だけは有る。


 時間的にまだ早いので、食堂舎は空いていた。

 まだ5時を回ったばかりだ、ピーク時は午後7時位だから当然か。


 学生食堂の様な感じだが、大人数に対応するとこんな物だ、ただ学生と違い食事はロハである。当たり前だが、アルコールの類いは無い。


 外出許可を貰い外に飲みに行くなり、軍轄酒保なりで購入して勝手にやれと言うわけだ。


 因みによくよく出てくる軍轄酒保だが、これは別に軍で運営している訳では無い。


 軍の衛生指導を受けて販売や営業許可を得ている店舗や販売店だ。


 まあ、軍内で妙な病気が蔓延しない為の措置だ。どこで使うのか知らんが、避妊具の類いも販売している、厳しい軍の審査を通過してだ。天晴れ。


 大昔は、軍隊の後方に付かず離れず従軍し、兵站を担ったと言う。兵士相手に様々な物資を販売したと云う。


 日用雑貨、食品、酒、後は言わずもがな。

 つまり性病が蔓延する土壌が培われているので、いつ頃からか軍で指導する運びとなった。


 一口に軍轄酒保と言っても、食品専門、酒専門、雑貨専門、飲食専門、酒場専門、女専門、それら複合とジャンルが別れる。


 生活向上商品販売業同業組合、飲食業安全衛生同業組合、()()保健衛生業同業組合にそれぞれが加入している事が大前提で、軍の指導下に入る。


 ただ、軍人の駐屯地周辺なので経営的に失敗する事はまず無い。支払いは綺麗だし、トラブル発生時の訴え先は明瞭だからだ。


 そんなこんなで軍轄酒保なる物は存在した。


「明日からの事なんだが、お前はどうする?」


 二人は早食いだ。着席即完食だ、これは軍人の特技でも有る。のんびり食事などしてはいられない。

 演習時など、交代で三分以内で携行糧食(レーション)を完食する。もしくは食える時に食っておく。


 ただ、アルは生まれつき食が早い。筆者と同じだ。


「開発部で遊んでいるよ、軍曹達は訓練か何かか?一日中走ってんだろ、ザマァ見ろ」


 誰かが言った名言に、体を鍛えるならば、“走るか泳ぐか馬に乗れ”と言う物が有る。


 馬に乗るのが一番楽に思えるが、実は一番キツい。


 走るにせよ、泳ぐにせよ、所詮己れの体を酷使するだけだ。


 まる一日、馬に気をやり、馬の疲労を避けて乗馬するのは骨だ、尻も痛くなる。


 馬は賢い。駄目な乗り手は、疲れるだけなので乗せたく無いから、ヘボの言うことを聞かなくなる。


 だから乗り手は馬に熟知せねばならず、騎乗するだけで精神的にも疲労する、更にその状態で一日強歩せねばならない。


 僅かでも気を抜くと落馬する、鐙と鞍は決して体を保定してくれない。落馬を避けるには適切な体重移動と、腿で鞍越しに馬の背を絞めるしか無いのだ。


 軍で馴致された馬ですらこれだから、古代ロマヌス人が、裸馬に跨がり戦場を駆けたとは信じがたい。


「いちいち憎たらしい馬鹿だな。まあ、お前は民間人だから、一緒に走れとも言えないしな」


 中央に所属が移り、メンバーが大幅に抜けてしまったが、第三砲台火砲術研究室、三砲研のメンバーにガリレイ技術少尉も名を連ねている。


 なので、三砲研繋りで、特に軍令に従う義務が()()アルが開発部に入り浸ってもおかしな話では無い。


 一号工房工廠責任者のガリレイが、許可を出しているからだ。


「そうだ、軍曹、糸と針が達者な奴を知らないか?」


「………お前、軍人を何だと思ってんの、裁縫なんぞ……と言いたい所だが心当たりがある」


「マジで、流石色物軍人、伊達に気が違っていないね」


「喧嘩売ってんなら買ってやりたい所だが……なあ、アル、今髭がチリチリするんだが、カバか?」


「やっぱ分かるんじゃん。ジョージ君が軍曹の髭を引っ張って遊んでる。仲良しだね♪」


「………カバを追い出すまでは我慢してやる、けしかけられても気味悪いからな。

 それで裁縫の件だが………俺は足踏みミシンを使える」


「巫山戯んな!貴様それでも軍人か!ミシンなんぞ女子供の玩具だ!そんだけシャアシャア人殺ししといて何がミシンだ!恥を知れ!」


 馬鹿の怒声に周囲が騒然とする。そりゃそうだ。ここはガラの悪い場末酒場じゃない。


 あまりガラは良くないが、軍施設の食堂舎内だ、アルコールの類いは無いのだから、水でも飲んで激昂した粗忽者がいる事になる。


 珍しいから注目が集まる。


「ああ、良いんだ、良いんだ、別に喧嘩じゃない、こいつは名うての馬鹿だから普段からこんななんだ、気にしないで飯を続けてくれ」


 ダッドが周りを取り成した。大人の余裕である。


 喧嘩騒然になれば、怖い憲兵が飛んでくる。

 厄介事は御免とばかりに周囲は散った。


「どういう事だ!説明しろ!それによってはただじゃ済まさん!」


「………一応は聞いてやるが、ただじゃ済まさんとは何する気だ、お得意のウンコ関係か」


「で、軍曹以外には居るのか?今先生留守だから、軍曹とダーレンさんとで連中の面倒見ているんだろ。抜けて良いのかよ」


「誰だったか、手芸が趣味の奴がいたが……忘れたな、別に開発部で刺繍をする訳じゃ無ぇんだろ」


 マリオ軍曹だ。ただ、彼の刺繍は前衛的過ぎて、作品を披露できないのが残念だ。グロ系、スプラッタ系、お洒落系混合のカオス作風である。………病んでいるっぽい。


「阿呆みたいにゴツイ工業用のミシンになるが、軍曹マジで使えるのかよ」


「連中は砲班単位で砲班長に指示させる、ダーレンのおっさんが総括すれば問題無いだろよ」


 会話のテンポが少しづつずれているが、最早互いに相手に合わせる努力が惜しいのだ。


 ただ、グダグダ話を続けてても仕方ないので一点だけ。


「何で軍曹はミシンなんぞ使えるんだよ、返答次第では……」


 それはもう良い。


「実家が仕立屋だ。被服もやるが、布製品の縫製下受けが専らだ。

 お前はパルト市街の出自だから知らんだろうが、ナザレは軍港城塞都市だから、軍需産業が多い。

 ガキの頃から家業を手伝わされた、だからゴツイ工業用のミシンも使える」


「尊敬するぜ!だから軍曹になったんだな」

「……まあ、そんな所だ」


 ………?アルの言は兎も角、ダッドのを説明するならば、幼少時より来る日も来る日も軍事用の背嚢やポーチを作らされて、家業に嫌気がさしていた所に、たまたま目にした募兵広告に飛び付いたのが、若かりし頃。

 勉学不足で、超不人気兵科の砲兵科にしか行けず、今日に至る。


 おつむの方は、まあ、()()に過ごす分にはマトモなので、勉学が出来る環境になった事だし、勉強して他兵科に転科しても良さげな物だが、性分に合うのか、今では砲兵科の曹長だ。


「んじゃ軍曹にやってもらおう。いやね、開発部の縫製部隊は、例の防水帆布で軍船の帆を作っていて手が足りない。

 いろんな配合比のアレで試したりするから、当分他の試作を作れんそうだ」


 防水効果云々より、強度的な絡みも有るのだ。


「ん、布の開発じゃ無いんだな、縫製ってことは、また人殺しの道具を発明したのかよ。業が深い馬鹿だな、だからキチなんだよ」


「今度のは違う。と、言うかあまり人殺し向きじゃ無い。まあ、お遊びだ」


 馬鹿だのキチだのは、今更否定も肯定もしない。お互い様だと、信じて疑わないからだろう。


「………隊長が言っていたが、作りたいから造るのが天才たる由縁だそうだが、お前の場合は、なんと言うかキチガイの天才だな。

 なんだよお遊びってのは、ちっとは真面目にやれや」


「真面目に人殺し道具の開発をするのは、なんか恥ずかしいから嫌だ。

 遊びってのは、習得するにそう見えるだけで、割とマトモな軍事訓練になるんじゃ無いかな?知らんけど」


「何作るんだ、考えてみたら靴底みたいなマトモな発明もあったからな」


 特許申請が特許庁を通過し、製法が広く民間に広がれば、むしろアルは平和的で偉大な発明家として名を残しただろうが、そうは問屋が卸さなかった。


 まあ、ウンコシリーズは、平和的な存在じゃ無いので当然の事ではあるが。


 珍しい事に、この後ダッドが酒保へ誘うのだが、図面作成を理由にアルは断った。


 アル自体がレベルアップしたのか、或いはおつむの重要な器官が逝かれたのか、あまり死臭が()()()()()()()()()そうなので、一頃よりは人が多い場所が平気になっている。


 だが、基本アルは人付き合いは面倒で嫌なのだ。

 それに、臭いは兎も角、相変わらずシリーズの面々は見えている訳だし。


 生首だの、グロい磯巾着だの、穴人間だのを愛でながら、一杯やる程には逝かれては居ない。


 アルの目には、まるで地獄の竜宮城の様な有り様なのだ。


 鯛やヒラメの舞い躍りの代わりが、つまり彼奴等な訳である。


 まあ、同情の余地はある。南無阿弥陀仏アーメン。

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