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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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アル居住の歩兵士官兵舎

 機動架台の方は搭載する火砲、短重火砲の関係で作成は出来ない。新規発注は些か予算オーバーだ、短尺重火砲は何とかなりそうである。


 なので、各々が考案した改良案を盛り込んだ雛型図を元に、設計図の作成課題が課せられた。


 現行機動架台は首都に移動しているので、搭載変更が出来ない。


 短重火砲の方は、旧型が倉庫の隅に転がっていたので、引受申請を提出する運びとなった。架台の方は申請許可待ちとなる。


 短重火砲用の散弾開発組と、アルの思いつきの“帆凧”の作成組とで別れた。


 こちらは開発費用も下りている。汎用性の高い発明で有るため、引き続き用途開発中なのだ。


「何か本当に凧みたいだね。新考案の帆かい、細かい操作が必要だから大型船用じゃ無いね、小型船用かな?」


 図案上では凧帆に数本のロープで支えて有る、形状としては骨の無い凧だ。


 ただ、保定ロープは短く帆船の帆の様相である。風抜きの操作用のロープが、帆でない事を主張する。


 ただ、アルには大体分かった。と、言うか四号が通訳に間に入り、大体伝わった。


 三号とは相変わらず、チンパンジーと意思疎通を果たす様な不毛な有り様だが、四号はやはり上位らしく思考が明瞭だ。


 ………高度な知性を有する悪霊と意思疎通を果たし、殺戮兵器を開発す。


 はて、やはりアルは教会預かりで、鉄格子のお部屋に隔離したの方が世の為に成りそうな気が………


 しかし、まあ今回の発明は殺戮用では無い。


 やはり新型帆の開発だ、小型船に使えない事も無いが、マストに保定されない関係上補助的な用途しか思い浮かばない。


 これは機動架台、いや架台だけで無く

 全ての車両用の帆だ、凧帆とそのまんまの名称で、そのまんまの用途となる。


 帆船の様に風を動力とし車両を動かすのだ。

 ただ船とは違い風上には進まない、陸路は、当たり前だが路なりに進むしか無いので、風向きにより進行方向が限定されるため、陸運搬送も余り勝手は良くないだろう。


 ただ、戦場設定される様な広大な場では有効だ。

 人馬共に戦闘外で疲労する必要も無い。また補助動力として用いれば、制御が楽になり、通常運搬用用途にも対応するだろう。


 ………操作に熟練は必要だろうが。



 砲兵連中の休暇は本日までなので、午後には続々と砲兵連中が兵舎に帰還してきた。


 まだ解散した訳では無いので、教砲小隊にあてがわれた兵舎にだ。


 因みにだが、連中は第一砲台の砲兵兵舎があてがわれていたが、アルは歩兵士官用の個室があてがわれていた。


 歴史的に歩兵と砲兵は仲が悪い、砲兵連中にしてみれば当然の措置であるが、アルは軍属で軍人では無い。なので()()があった歩兵士官用の部屋だ。


 そもそも民間人を兵舎にいれるべきでは無いので、あまり人目の無い士官用の部室への入舎となったのだが………次第に妙な噂が流れ始めた。


 人気の無い筈の士官兵舎に、やたらと人の気配がすると言う物だ。ざわめきやら足音やらだ。


 この手の怪異話は、軍では良く有る話だ。

 最近では第二砲台が話題となった。人死にが有った場所だから、まあ分からないでも無い。


 やれ訓練所で事故死した兵の霊……海難事故で回収した水死体の無念の声………演習場に出現する鬼火。


 何故か一定数は目撃証言が現れる、軍隊内部の怪奇現象だ。


 さて、件のアルの部屋を手配したのは、彼の御仁だ。当然いわく因縁の有る部屋へのご案内だ。


 士官には割と有る事だが、ノイローゼによる自殺が多発した部屋だ。


 この手の件は何故か同部屋、同敷地で同じ様な時期に発生する。


 気にしない者は大した事の無い事だが、この部屋で、たまに原因不明な物音が発生すると云う。


 パキリ、とか、ポキリと云う家鳴りの様な音から、ネズミの様な小動物が駆ける物音。


 パンッと云う人が手を叩いた様な物音が、第三者が訪れた時に起こる。


 総じて、()()()()()()()怪奇現象が起きていた部屋なのだが、現在はハッキリと心霊スポットと化していた。


 士官用の庭付き個室。アルの宿舎は二階層の建屋だが、現在は一階部分には彼しか居ない。

 二階部分は入居している事にはなっているが、皆逃亡……避難中だ、同僚なり部下なりの兵舎に身柄を躱した様だ。


 もともと入居士官が少ない、と言うか敬遠されていた建屋だが、彼が転がり込んだ当日に、ネズミやら鳥やらが一斉に逃亡し、即日草花の類いが枯れた。


 本人は、不貞腐れて食事にしか外出しなかったので騒ぎを知らなかったが、周囲はこの異変に慄いた。


 日没となると、妙な気配すら感じるのだ。たまにいる筈の無い馬の嘶きが聞こえる。


 ………まあ、結論から言えば四号なのだが、一、二、三号と違い、存在感を主張する様子ではある。


 その、驚ろおどろしい歩兵科士官兵舎に来客だ。


 いや客と言う程の者では無い、二個イチの片割れだ。


 砲兵兵舎の方が定員集合したので、様子を見に来たのだ。


 10日の休暇中、一度も様子を見に来ないのだから薄情な物だ、勿論、勘当云々は知っている。不貞腐れて寝ている事も承知の助だ。


 まあ、親兄弟でも部下でも無い、野郎の部屋に足繁く通うのも変な話では有るが。


 翌日以降の予定確認と、野郎の生存確認の為に訪れたのだ。


 時刻は夕刻、午後5時だ。内勤の者は業務終了時間である。


 冬場は日没が早い、この時間では辺りは暗い。連絡の有ったアルの宿舎に訪れて、ダッドは絶句した。


「なんだぁ………こりゃ?」


 あまり芸が無い。バク転でもしながら、大見得切って言って欲しい所である。


 だが、まあダッドの言いたい事も分かる。


 元々評判の良くない歩兵士官舎だ、ダッドとしては“ザマァさらせ”と内心喝采をしていた位なのだが、こうなると別だ。


 日に日に入舎士官が逐電退去して行き、現在ではアルしか居ない官舎なのだが、まるで作り物の怪奇屋敷の様な様相に変化していた。


 庭に植えられていただろう芝生は勿論、雑草の類い、日よけの雑木。


 ………全て枯れ果てていた。


 空気が淀んで、目に見えて濁った感じがし、まるで地下墓地に居るような雰囲気だ。


 昆虫の死骸が散乱する。一言で言うならば不浄の地であろうか。


 おまけに、カラスがやたらと集っている。


 建屋に灯りは無い、肝心のアルが不在の様子だ。


 凄い勢いで怯懦と嫌悪と後悔の気持ちが沸き上がり、回れ右した所でアルにばったり対面した、家主の帰還だ。


 二人して乙女の様な悲鳴を上げた。

 ダッドの方は、空気に飲まれた所に不意にアルの出現だ、藪からキ印である。


 アルの方は、悲鳴を上げたダッドに驚いての釣られ悲鳴だ。付き合いは良い。


 ………馬鹿馬鹿しい。ただ、互いにバツが悪い事は確かなので、無かった事にした。


「やあ、軍曹とジョージ君、ご機嫌如何?最近日没が早いねぇ」


「あと一月で年も明け申すからのぅ………なんだよジョージって、あのカバ野郎マジで取り憑いてんのかよ」


「?分からん物か、ずっと肩に止まってんだが、たまに軍曹の頭を撫でてるよ」


「マジで教会に行くわ、この場合は教会の何て部所なんだ」


「知らね、精神診療部所か悪魔祓い課なんじゃねぇ?それより軍曹、飯にするから退いとくれ、荷物下ろして食堂舎に行きてぇ」


「なら俺も飯にするわ、話が有るんだ」


「金の無心なら他所にしろよ、保証人協会の保証金支払いが少し足りない」


 この男は現在新規戸籍作成申請中だ、保証人なぞ居る訳無い、だから保証人協会に身柄を保証してもらい、それから教会に戸籍申請する運びとなる。当然の事だが、保証人協会とてロハでは無い。


 戸籍申請期限失効の特例申請をするのと、新規戸籍申請では、時間的に大差無い事が分かり、腹立ちも相まって新規に戸籍を作る事にしたのだ。


 アルにしてみれば、保証金が必要か無用かの違いだけで、完全縁切りを望むので新規戸籍作成が宜しいと、そう判断したのだった。

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