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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
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凧帆開発

 陸軍兵舎で不貞寝していたアルだが、些か不貞寝飽きした様だ、暇潰しに開発部に遊びに向かっていた。


 ゴーン直筆の通行許可証のお陰だ、ゴーンはレオン達とは違い最初から総合総司令本部の所属だ。

 と、言うより参謀は全て中央所属で各地総合総司令部は言わば支店だ。


 あんなだが、ゴーンはエリート中のエリートなのだ。


 その四十年配のエリート作戦参謀に手抜かりは無い、アルの通行証を発行してある。


 矢鱈とベタベタ押してある総合総司令部の判子が物々しい。


 勝手知ったる何とやら、開発部一号工房工廠に向かった。


「ガリさん居るかい」


 ガリレイ技術少尉、一号工房の責任者だ。アルと馬が合う数少ない()()だ。


 工廠開発室、と言えば尤もらしいが、大部屋の研究室とも呼べない溜り場だ。


 大体ここか総合総司令部の開発部局にガリレイは居る。


 間の悪い事に会議中だ、いや会議と言うかブレーンストーミングだろうか、件の汎用海藻粘液の実用製品諸々の用途を各自が考案発表だ。


 会議が中断された。


「アル技官殿、本復したみたいだね。体調を崩して、臥せっていると聞いていたから心配はしてたんだ」


 ガリレイはあまり軍人らしく無い、かと言って民間企業の開発者らしくも無い。


 アルもテュネス出向中に、他の技術武官待遇者に触れ………と言うか遠巻きに接触しその感触は掴めていた。


 なのでガリレイの妙な人懐こさに今更気付く。


「いや、負ったのは心の傷だから本復はあり得ないね」


 ………何かこの男がほざくと、イラッとする台詞だ、失恋した婦女子かいな。


 ここに砲兵連中がいたら、さんざ馬鹿にされて笑われて、簀巻きにでもされ、そこら辺に蹴転がされかねない台詞ではあるが、開発部の面子は紳士揃いだ。


 元々アルに、技術者として敬意を払って居り、また、テュネスでは激戦を潜り抜けたとの情報も得ている為に同情的だ。


「テュネスではお疲れ様。激戦だったとは聞いているよ、技官殿は民間人だから戦闘行動に衝撃を受けても仕方ないよ」


 いや、極プライベートな事が原因なのだが。

 こちらもこちらで衝撃的なのだが、テュネスではアルも戦闘に参加している。


 海賊艦隊を撃沈したり、東灯台砲台で、ジャール提督以下、少なくない水兵を殺害している。


 だがそちらはノーダメージで、勘当に傷付いたとは、まあ………ね。


「まあ、四号の発見は衝撃的では有ったかな、結局憑いてきたし」


 ケンタウロス御一行と穴人間だ、なかなか賑やかだ。

 因みにジョージ君は、今だダッドに取り憑いている。肩口にチョコンと座る姿が愛らしい。


「何か発見が有ったみたいだね、今、丁度意見交換をしていた所だから、発見発案が有るなら聞いてみたいよ」


 わざとなのか、天然なのか、微妙にガリレイとは会話が食い違う。


 いや、だからこそ相性が合うのかもしれん。


「マークⅡの改良をしたいね、今のは他の火砲も載せられる仕様だろ、それ止めてアーガイル専門にしたいね、あと親子亀式衝撃吸収載せたい」


「重火砲移動架台のあれをねぇ、現行では不具合があったとか」


 開発部の面子も一応軍人なのだが、かなり職人寄りだ。

 自分達が作成した機動架台に、問題点が出たとあってはプライドが許さない、真摯に聞き入る。


「戦況変動による運用変化に対応する為だよ」


 これはレオンの言をまるパクリ。軍人では無いアルに戦況云々なる語彙は無い。


「済まないアル技官、良くわからない。ここにいるのは技術官ばかりでね、戦術に疎い、具体的にはどうした訳だい」


 軍人である以上、全く戦術に疎い訳では無い。

 ただ、機動架台は試験投入されたばかりで機動火砲戦術が確立された訳では無い。


 こうして実際に運用した者から、その感触を聞き出さなければ、解る筈も無い。


「テュネスの街道での事だけど、砲弾の射程の関係で後退砲撃をしたんだよ、ほれ射撃反動はブレーキで制御してるじゃ無い、それだと移動に影響する」


「後退砲撃?退却しながらの砲撃かい?それとも転進攻撃……ああ、砲口は向けたままかだから車両のみの後退、押手は転進だから確かに上手く無いね」


 砲手は搭載したままバック走行だ、騎兵追撃による擲弾があった場合、確かにブレーキ制動による反動制御は、機動力が削がれ、擲弾の餌食となる可能性が高い。


 それに一号散弾砲撃ならば、一撃離脱戦術が最も理に叶い、機動力は確保しておきたい。


「成る程、それで専用機動架台か。現行に衝撃吸収機構は載せられないな、砲座が高くなりすぎて横転しやすくなる」


 開発チームの一人が頷いた。


「アル技官殿、その場合の搭載火砲は、やはりアーガイルの中距離で考えているのかい?」


「軍師さんにはその方向で頼んだけどね。………今思い付いたけど、海軍の短重火砲じゃどうかねぇ、一号、二号散弾の質量が増やせるよ。

 ん、ならば短重火砲用の散弾も開発したいねぇ」


 戦艦搭載の火砲は、有効射程を長くとる為に肉厚の短寸重火砲が搭載してある。


 どのみちメクラ撃ちだ、命中率を犠牲にした質量弾発砲用にだ。


 ネックになる重量は、機動架台ならば問題無い。長寸重火砲ですら移動可能とするのだから。


 ただ、この場合、用法は近接専用となる。

 アーガイルの中距離野戦砲四門で、三個重装歩兵中隊を撃破したのだから、その威力は計り知れない。


「面白そうだね、アル技官と連名で開発部からも申請してみよう、と、言うか短重火砲の砲撃能力を知りたい。

 誰か開発部局から海軍の重火砲スペック表を借りてきて」


 火砲のスペック表など機密事項だが、アルはこれで準特別国家公務員だ、守秘義務位は守るだろう。


 方向性が定まれば、そこは優秀な人材揃いの一号工房工廠だ、現行の機動架台を雛型に、各々のアイデアを盛り込んだ短重火砲機動架台を図案化して行く。


 たまに、アルが明後日の方向を向いて会話するのはご愛敬。


 見慣れた光景に、今更驚く様な者も居ない。


 ふと、先程迄の考案会議でのテーマである強化帆布を手に取った。


「凄いねこれ、こんなに薄くなったの?重火砲に被せてあった奴の半分以下の厚さだね」


 防水布だ、良く見ると綿生地自体が薄い、帆布では無く被服生地の様だ。


「それの用途考案中だったんだ、例の奴の配合比を変えて、焼成法を工夫したからね、そんなで強度は高いよ、初期の帆布防水布より強い」


「ほう、ほう、うん?凧?」


「それを使って凧を作るのかい、距離計測用の?」


 計測射撃の距離計測用に凧を使う。ただ実戦で暢気に用いる事は先ず無い。


 演習や砲撃訓練に用いる。地形や日照時間により、距離感はかなり違ってくるのが人の感覚だ。


 東灯台砲台防衛戦でやった様に、実射で距離感を掴むのが実戦射撃計測なのだが、計測出来るならば計測したほうが良い事は当然だ。


 ただ、態々強化防水布で作る様な物でも無い。


 アルはブツブツとほざきながら、空いている黒板に図案化してゆく。


 凧?と言うよりは、やはり帆だ。支柱が無いだけである、ただ、完全に風を受ける帆では無く意図的に風抜けが設けて有る妙な帆だ、その風抜けは紐で操作し開閉可能だ。


「なんだい?シーアンカーみたいだけど」


 シーアンカーとは錨では無く、言わば海中に張る帆だ。海が時化た時、緊急に用いる。

 船の重心を海面下にする事で安定させる為だ。


「何だろね、凧みたいな用途だけど?作ってみようか、これなら申請は要らないんじゃない」

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