十一言目~あの子を笑顔にしてくれ~
えぬえるです。ちょっとした続き物になっています。今回は少しシリアスかもしれません。
それではよろしくお願いします。
私達はまだ濡れている道路をのんびりと歩いていた。
「で…ここを曲がると美咲公園がある。そこまで広い公園ではないけど現実逃避したりとか出来るよ」
「よくしてたの?」
「うん…そんな気がする。本当に何も覚えてないんだけどさ」
マイちゃんは私のこと以外真っ白に忘れている。今彼女が語彙を身につけ人と喋られているのは彼女が人知れず頑張ってリハビリしたからだと推測する。そんなことを考えていると胸が痛くなってくる。
私はシロちゃんが苦渋な顔をしているように見えた。私は(お腹が減ったのだろうか)と考えた。
「こっちには定食屋があるんだ!!ほら、こっち!!」
マイちゃんの過去で私が苦しむのもおかしい事だな…と思い、私は一息深呼吸をした。
「うん、行こう!!」
「ここが定食屋『異風堂堂』だね。シロちゃんはどれ食べる?」
「うーん、じゃあ今日のオススメ定食にしよう。こういう何が出るかわからないものってすごく好きなんだよね」
「じゃあ私も…」
「いや、別の選んで」
「え?でも私はなんでもいいし…」
「いいから早く。3、2、1…」
「えっ?じ、じゃあヘルシー野菜山盛り定食で…」
中はこじんまりとしていた。テーブルは5台しかなく、10数人しか入れない。私はなぜか懐かしさを感じた。ここ、前にも来たような…
「へい、オススメ定食と野菜定食ね!!」
大柄なおじさんが定食を運んできてくれた。
「あの、もしかしておじさん1人できりもりされているのですか?」
「まさか…ちゃんといるぜ、今日が休みなだけだよ。」
「おじさん!!この定食すごく美味いです!!懐かしいような…ホンワカする味です。」
「そうかい、嬉しいね…」
おじさんの顔が少し雲がかかったように見えた。まさかと思っておじさんにコソっと聞いた。
「もしかしておじさん、マイちゃんのこと…」
「あぁ、知ってるさ。ここは大きな街じゃないからね、街のみんなが知ってるよ。もちろん、あんたのこともね。」
「し、知られてるんですか!?」
思わず大きな声が出た。
「ん、シロちゃん食べないの?たけのこご飯とか春らしい定食ですごく美味しそうなのに。」
「あっ、ごめんちょっと待って!!……なんで私のこと知ってるんですか?」
「それは、日向さんと住んでるからだよ。彼女のことはこの街のみんなが昔から知っているからね。」
「昔から…?」
「深い話はあんたにも伏せとくよ…ただ一つだけお願いしてもいいかな?」
「…なんでしょう」
「あの子を笑顔にしてくれ。これからも、ずっと。」
私はクスッと笑い、
「言われなくても、やるなと言われてもやらせてもらいますよ」
と言った。おじさんは心なしか泣いているように見えた。おじさんは笑い返してくれた。
「もーシロちゃん!!ご飯冷めるよ!!」
「はいはい!!それじゃあいただきます!!」
「美味しかったねー」
「うん、これまで食べてきた中で1番だよ!!」
「まぁ…これまで食ったものも忘れてるんだから仕方ないよね」
私は決めた。この日本に来た理由をもう一つ心の中で付け加えた。
『マイちゃんを笑顔でいさせること。』
私にしかできないなら、私がやるしかない。親友として、今一番近くにいる家族として全うすることを決意した。
「それじゃあ次は…」
「マイちゃん!!」
「なに?」
「家帰りたい…腹痛い……」
体が怖気付いたのか、はたまた雨から晴れになったことで起きた気温変化か腹痛になった。この私の不祥事で、今日の街探索はこれにて一時終了となった。また明日があると思い、私は帰宅してゆっくり休暇を過ごした。
その頃、彼女達の家の下のスーパーでは小さな黒い影が二つほど身を潜めていた…
少しずつ謎が増えてきたりしてますが、多分いつか明らかになるでしょう。いつか。
次回はすごく個人的に好きな話になると思うのでしばしお待ちを!!
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それではえぬえるでした。また次回。
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