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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
8/23

【8】戦いの後、これからの為に

 どうしたものか、これは。

兵士三人との戦闘が終わってからかれこれ二時間。

散乱した隊長の血と肉、転がった兵士二人の亡骸。

そして気を失って、倒れたままの魔王様。

それらを眺めたまま俺はどうにも出来ずに、ただ途方に暮れるばかりであった。

せめて魔王様を玉座の間なり、寝室なりにでも運べればいいんだが……

「う……うぅん……」

 そんなことを考えている内に、魔王様が小さくうめきながら目を覚ました。

魔王様! 大丈夫ですか!?

「ん……城、か……? っ!!」

俺の呼びかけにぼんやりした風に答えながら目を開いて、そしてこの場の状況を見て絶句する。

「あ、あ……わた……わたし……!」

落ち着いてください、魔王様!

とにかく一度、この場を離れましょう。

あ、廊下に施した仕掛けは解除できますか?

「え……あ、うん……ちょっと、待って……」

戦闘の傷痕に狼狽え、怯える様子ながらもなんとか意識は保ち、こちらの問いかけにも答えてくれた。

そして知識を探る為か、静かに瞳を閉じる。

「……うん、わかった。なんとか外せそう……」

 では玉座の間の手前の仕掛けだけ、今は外してください。

俺の言葉に従い、魔王様は立ち上がると何やら複雑な手の動作と、呪文らしき言葉を口にする。

そして廊下の壁に掲げられた魔力光の棒が、光を弱めていった。

「これで完了……」

お疲れ様です、魔王様。

ではひとまず玉座の間へと戻りましょう。

「……うん、そうしよう……」

憔悴した表情ではあったが、魔王様は俺の言葉に頷いてゆっくりと歩き出す。

何度も侵入者たち兵士三人の成れの果てへと、目を向けながら……


「すまぬな。あのように醜態を晒してしもうて」

 玉座の間に戻り、身体に付着した汚れを落としてから。

玉座に腰を下ろし、魔王様が静かに言った。

魔王様、戦うことは初めてだったのですか?

「うむ……人間を見たのも、先刻が初めてじゃ……」

そりゃあ、冷静に……なんて出来ないのも無理はない、か。

「本当は先刻も、あの人間たちを殺すつもりも無かったんじゃがな……」

……仕方ありませんよ。

ああしなきゃ、魔王様がやられていました。

「……そう、じゃな」

元気を出してください、魔王様。

それよりも魔王様が無事で良かったです。

「城よ……心配、してくれたのか? 我のことを……?」

当然でしょう。

魔王様は俺の主、城主なのですからね。

「そうか……そうじゃったな。うむ。ありがとう、城よ」

いえ、どういたしまして……って、えええ!? ままま、魔王様が俺に感謝の言葉をっ!?

「……そんなに騒ぐな。我が恥ずかしくなろう」

 驚愕する俺に、いつもならお仕置きをしてくるはずの魔王様はモジモジと恥ずかしそうな様子を見せながら、口を尖らせ言ってきた。

そんな馬鹿な……魔王様がこんなにしおらしいなんて……

「そう言うでない……我だって、魔王なんて本当は自分では向いてないと思っておるのじゃぞ……」

俺が余計な一言をいくつも考えているのに、やはり魔王様はいつもとは違って弱気な言葉を続けた。

「……お前、余計な一言はいつもわざと考えておるのか?」

え? あ、いえ、そのような事は決して。

そろそろいつもの調子に戻るかな?

「……やはりお前、わざとであったのか」

 ……しかし、それでも魔王様は呆れた顔を見せつつも、やはり大人しく話すだけだった。

大変なんですね、魔王様も。

「うむ……魔王を立派に務めねばと、必死なのじゃ我も」

俺の方こそすいません。

戦いの時も、戦いが終わった後も、何も出来なくて。

「お前……お前こそ、いつもと違うではないか」

そうですか?

……そうかもしれませんね。

魔王様があんなに危険な目に遭ってるのに、何も出来ない自分が歯痒かったですから。

「……そんなこと」

そんなこと、ありますって。

主たる魔王様を護るべき城なのに、俺は何も出来なくて。

「ちゃんと的確な指示をくれたではないか」

それだって結局やったのは魔王様ですし。

「侵入者の動きを監視し、我に報告もくれたではないか」

それしか出来てないんですよ。

肝心なところでは、それも満足には果たせなかったし。

「すまぬ……我が腑甲斐無いばかりに、お前までそんな風に思わせてしまって」

 何を謝ってるんですか、魔王様。

俺の方こそ申し訳ありませんでした、魔王様。

「……なんで」

ん?

「なんでじゃ……?」

何が、ですか?

「お前は別の世界の、人間なのじゃろう……?」

えぇ、まぁ。

「それなのに、どうしてそんな……なりたくもない城になったのに、我をそこまで気遣ってくれるのじゃ?」

……なんでですかね?

「いや、訊いてるのは我の方なんじゃが……」

俺にもそこはよくわかりませんよ。

ただ、こんな事になったのは戸惑いましたが、魔王様と過ごした時間は楽しいですから。

「楽しい……じゃと?」

はい。

まだそんなに経ってませんが、それでも俺には楽しい時間だった。

前の世界の俺は、冴えなくてつまらないちっぽけな人間でしたからね。

「そうなのか?」

やりたくもない仕事を毎日ただこなして、日々を意味も見出だせずにただ生きて。

周りの人間にも恵まれず、そんな自分すらもまともには見えてなくて。

そして、妄想に入り浸るだけだった。

「……………………」

こっちで目が覚めて、城になってたのには戸惑いましたし、なかなか受け入れられませんでしたが……

魔王様にも散々お仕置きされましたが……

「言うな、それは」

あ、気にしてたんですか魔王様?

「……必死に魔王らしく振る舞うのに必死じゃったからのぅ。だから、お前には八つ当たりのようにしてしまったのじゃ」

まったく……城にそんなことを気にする城主がありますか。

魔王様はあれでいいんですよ。

俺もそれが楽しかったんだし。

「……本当か?」

えぇ、もちろん本当ですとも。

「やはりお前、Mなのでは……」

おっと、いつもの調子が戻ってきましたか?

そろそろ本音を考えるのが怖くなってきましたね。

「あ、いや……もう、しないからあんなことは」

いーえ、やってください。

魔王様は魔王様なんですから。

それ以外の道は無いんでしょう?

「それはそうじゃが……」

らしくないですよ、魔王様。

元気を出してください……ってこんなこと、魔王に言うのもなんだか可笑しいな。

「まったくじゃ。元・人間なのに、魔王を慰めるなぞ我の知識にもないわ」

あ、笑いましたね。

少し落ち着いてきましたか、魔王様。

「そうじゃの。……お前のおかげ、じゃな。我としては不本意ではあるが」

うわ、その言い方はひどい。

これでも俺なりに一生懸命、魔王様を励ましてると言うのに。

「ふふっ、本当に可笑しな奴じゃお前は」

……魔王様、笑顔が可愛いですね。

「! な、なにを言うか!! えい! えいえい!!」

イデッ! イデデッ!

ちょっ、魔王様! 急にゲシゲシ踵で踏みつけないでくださいよ!?

「ははは、お前が悪いのじゃ。我をからかったりするからの!」

いやその、朗らかに笑いながら踏み続けるのはイデデッ、やめてもらえまグヘッ!

その後もしばらくは和やかなムードの中で、魔王様は俺を踏み続けるのであった……


「さて、これからどうするか、じゃな」

 そうですね。

俺としてはまず、さっきみたいになった時に何も出来ないのはもう嫌ですかね。

「ふむ。ではお前はどうしたいのじゃ?」

何か直接、俺にも出来る事があればいいんですが。

例えば魔王様が気絶したりした時に、どこかへ連れていったりとか。

「それならば、出来なくはないな。要は自在に形を変えて、それを動かせればいいのじゃからな」

出来るんですか!?

「うむ。ちょっと待っておれ、今調べてみるからの」

言って目を閉じる魔王様。

 いつも通り、しばらく俺はそのままで待ち。

「よし、わかったぞ。お前、そこの壁に意識を移動させてみよ」

そこの壁、ですか?

……こうかな。

「うむ、それでよい。そして今度は……そうじゃな、手の形をイメージしてみよ」

手の形、手の形……うおお!?

「おぉ、飲み込みが早いのぅお前は」

手、手が壁から生えた!!

「どれ、今度はそれを動かしてみるのじゃ」

あ、はい。

えーと、じゃあ……おぉ! 動いた!!

「なんじゃ、大袈裟に驚きおって。手を閉じ開きしただけではないか」

いやいや。

今までは実際に動くことが出来なかったんですから、俺からしてみれば感動ものですよ、これは!

「その程度で喜ぶとは、本当に可笑しな奴じゃお前は」

言って魔王様の顔に笑みが浮かぶ。

俺の反応に、魔王様も満更ではない様子に見えた。

「まったく余計な一言が多いの、お前は」

しょうがないでしょう。

元の世界でもラノベを読んでて、変なところにはいつもツッコミ入れてましたし。

「そうなのか? 我もちょっと読んでみたくなったのぅ、そのラノベとやらを」

うーん、魔王様が読んで面白いかどうかは……

まぁ、それはいいとして。

これで少しは俺も役に立てそうですね。

「……今までもだいぶ助かったがの」

え、何か?

「ななな、なんでもないなんでもないっ」

はいはい、わかりましたよ魔王様。

「うぅ……城の意地悪……」

初めて聞きましたよ、自分の城にそんな言葉を使う人、いや魔王様なんて。

「えぇい、うるさい! うるさい!」

グゲッ! ゴゲッ! すすす、すいません口の聞き方には気をつけ……え!?

「本当にお前は意地悪じゃ……」

あの、魔王様……?

なんでそんな、俺の手に抱き付いてるんです……?

「よかろう? お前が形を成したんじゃ、これぐらいしても……」

 えーと……魔王様、柔らかいです。

「この痴れ者め。破廉恥なところは相変わらずじゃの」

さすがにこの状況では、そんなこと言われましても。

「なら、ご褒美と思え。魔王にこんなことされる城はたぶん、お前だけじゃ」

はい……ありがとうございます、魔王様。

俺は城ではあるが、体温が上がるような気がしてしまう。

 そのまま二人……俺は城だし、魔王様にくっつかれてるのは手だからその数え方は疑問だが……は黙ったまましばらくそうしていた。


「では他にはどうするかの」

 しばらく立って、壁から生えた俺の手から離れた魔王様は、椅子にふんぞり返って座って口を開く。

……まだちょっと顔が赤く見えるのは、恐らく触れたらイデェッ!!

「調子に乗るな、下郎が……!」

魔王様の照れ隠しが強化された気がするが、本当にすいません。

 本題に戻りましょう。

「うむ」

まずは結界を張った方がいいと思いますよ、俺としては。

「確かにそうじゃの……先刻は侵入者のせいで、その話も中途半端になってしまったからのぅ」

ですね。

ちなみに侵入者の残骸は、手を出せるようになった俺が片付けておいた。

「当然じゃ、城なのじゃから城内を綺麗にしておくのもお前の役目じゃ」

聞いたことねぇぞ、城に限らず自ら清掃する建築物とか……

「お前が不勉強なだけじゃ。我にしてみればそれが普通じゃ」

本当かよ……

「えぇい、そんな話を引っ張るな。結界の話に戻るぞ」

はいはい。

で、結界ってのはどうすれば?

「簡単じゃ。我の魔力とお前の魔力を同期させて、それを城全体を覆うように放てばよいだけじゃからの」

はぁ、なるほど……

……俺の魔力!?

「何を驚いておる? 言ったであろう、お前を造る時に我の魔力を注ぎ込んだ、と」

あー、そういえば。

でも同期とか放つとか、その辺もよくわからないのですが?

「安心せい。ちゃんとそれも我がレクチャーしてやるからの」

なら大丈夫そうですね。

では早速……

「ちょっと待て」

 ……はい?

「その前に、その、保留にしてた……ごにょごにょ……の事じゃが……」

保留にしてた……なんですか?

「ま……のづ……じゃ」

ま……なんですか?

「魔物作りについて……なんじゃが」

あぁ!

……魔王様、どうしてこの話題になると赤面するのですか?

「それは、その……魔物作りと言うのは……じゃな……あぁ、もうっ」

突然大声を出して、魔王様は両手で顔を覆ってしまった。

ま、魔物作りっていったいなんなんだ???


 初めての戦いを終えて、これから新たな一歩が始まる。

はずのところで、不可解な足踏みをする俺と魔王様であった……

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