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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
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【5】魔物作りは焦らずに

 ひとしきり号泣した後、泣き疲れて魔王様は寝室へと戻っていった。

『我の寝顔を覗こうなどと不埒な考えは起こすなよ』

しっかりとそう釘を刺してから、魔王様が玉座の間を後にして数刻。

俺は退屈だった。

 覗くなと言われても、この城には俺と魔王様しかいないしなぁ……

そんな環境で魔王様が寝てしまうと、途端にやることがなくなってしまう。

そもそもこの世界についても、さっぱり情報が無いままではせっかく転生したと言ってもなんにも面白くない。

さて、どうした物か。

 何度めかわからぬ城内探索から玉座の間に戻ってきた俺は、そうして暇をもて余していた。

城内を見て回って思ったのは、魔王様は結構デザインのセンスは良いということだった。

間取りや全体の造りはもちろんだが、さりげなく備え付けられた小物や調度品も配置や意匠に、そこはかとない美しさが感じられる。

まぁ、俺はそういう物に関する造詣が深い訳でもないから、素人目に見ての感想ではあるのだが……

 それに。

心の中に魔王様のお姿を思い浮かべる。

確かに性格には難があるのだが、その容姿は間違いなく美しいし、スタイルも良い。

そして難のある性格の中に垣間見える、子供っぽさや女の子らしさ。

こっちで目覚めてまだ短い付き合いではあるが、そう言った普段の姿とは真逆の、ギャップのある一面もまた悪くなかった。

ふと、一瞬ではあるが視界に映った魔王様の下着がゴハァッ!

「まったく、我が寝ていると思って破廉恥な思考をしおって……! 例え寝ていても、お前の思考は我に流れ込んでくるのだぞ!!」

……そういう事は、前もって言っておいてもらえませんかね、魔王様。

「ふん。お前がどのような人格……いや、城格と言うのが正しいのか? とにかく。どのような城柄なのかを見極める為にも、敢えては言っておらぬのじゃ」

いや、そこまで俺の性格とか嗜好とかに拘らなくてもいいんじゃないかと、ただここに建ち在り続けるだけの城としては思うのですが。

「何を言う。城というものはその内部に我を納める器とも呼ぶべきもの。それに意志があるとなれば、もしその城がよからぬ性格をしていたならば、主人たる我の寝首を掻こうと企むやもしれぬだろう」

ふむ、確かにそれは一理ある……って言うか、俺はそんなことまったく思い付きもしてなかったが。

「うむ、そこに関しては褒めて遣わそう。それにもう一つある」

もう一つ?

「我が魔王としてこれからやっていくにあたっては、当然配下の魔物も欠かせぬ存在である」

まぁ、そりゃそうだな。

「その魔物を……」

魔物を……なんだ?

そこで言葉を途切れさせ、黙っている魔王様。

不審に思い、視界を動かし魔王様に目を向ければ。

「見るな!」

声を張り上げ、床をドンッと踵で踏みつけてくる。

痛みに悶絶しつつも、魔王様を見てみれば。

なぜか魔王様は顔を紅潮させ、わなわなと震えていた。

あれ、俺……なんか怒らせることしたっけ?

「してない!」

????

いや、不機嫌そうなのに俺に罵声を飛ばしてこないとか、逆に不安になるんですけど……

「うるさい!!」

あ、これはいつもの魔王様っぽい。

なんて事はさておいて。

 この感じ。どうやらまた魔王様にとって、言いにくそうな話題だったようですね。

「うううう……!」

でもなんか言いにくそうな部分あったっけ?

確かさっきしてた話は、城の城柄とか配下の魔物を作るとか、そんな内容だったはずだが。

「だま、黙り……なさぃ……!」

俺が考えた途端、魔王様の様子と言うか恥ずかしがる? 羞恥の雰囲気が強まった。

え? なんで? 今、俺なんか破廉恥なこと考えた?

「うぅー……考えて、なぃ……!!」

何故だかわからないが、魔王様の声も弱々しくなっていき、語尾が掠れるような小さな物になっていた。

……これはしばらくそっとしておくしか無さそうだ。

「我が、城のクセに……余計な、気遣いを……しぉって……!!!」

辛うじて威厳だけは保っていて、俺は少し安心した。


 魔王様の異変からさほどの時間も待たずに。

「忘れよ、さっきの我の醜態は」

玉座に脚を組んでふんぞり返りながら、魔王様は冷たい口調でそう告げる。

……まだほんのりと顔は赤いように見えるが。

「二度、言わせるな」

はい、自重いたします魔王様。

「あー、魔物を作ることに関してなんじゃが……」

余計なことは考えないよう、頭を空っぽにして魔王様の言葉に耳を傾ける事に集中する。

「その……魔物はだな……えーと」

宙に視線を泳がせ、次に口に出す言葉を選んでるような素振りの魔王様。

しばらくそうして悩み続けて、思い付かなかったのか唐突にしゅんっとした顔になる。

「城よ……お前の目は今どこじゃ?」

ジト目で辺りに視線を巡らせ、やがて俺の視界と言うか意識のようなもののある場所で止まる。

「うん、そこか……その、魔物を作るのに関してはまだ自信がないから」

いつになく弱気な顔で言葉を紡いでいく魔王様。

こうして見てるとまるで好きな人を前にした恋する乙女、みたいに見えなくもない。

「……城なんかに恋をするアホがどこにおるか」

ごもっとも。

「恋はしないが……その、詳しくは言えんのじゃが」

もじもじしながら、言葉を出し渋っている。

さすがに俺としても少し苛立ちを感じ始めてはいるが、怒っても仕方ないしな。

とにかく魔王様が話すのを大人しく待つことにする。

「……城の力も必要だから、それで我が城であるお前の見極めをな……」

むむむ、一体なんなんだ魔王様のこの態度は!?

歯に衣着せたような、むず痒いこの感じ。

どうにもはっきりしなくて、背中がモゾモゾしてくる。

「背中、ないけどな。お前には……」

さすが魔王様、弱気でもツッコミだけ忘れない 。

「この話……保留にしてもよいかの……?」

まぁ、別に無理にとは言いませんよ。

また言えるようになったら、その時に話してください。

「すまぬ……」

最初に会った時の威厳はすっかり鳴りを潜めた、か弱い乙女といった様子で魔王様が俺に詫びた。


「ん? なんじゃ、城よ。何が疑問なのじゃ?」

 魔王様がそう訊ねてきたのは、落ち着きを取り戻した頃のこと。

その時の俺はふとした疑問を浮かべていた。

「……食事、とな?」

そう。

俺が疑問に思っていたのは、食事に関してだった。

城になったせいか俺は空腹を感じることもなく、そのせいでこれまで気付かなかったのだが、魔王様はどうなのかが不意に気になったのである。

「そんなもの、我には必要ないぞ」

 気になった瞬間に解答が与えられた。

あっさりすぎてどう反応していいものやら……

でも、人間なら生きていく為には食事が必要になるのだが、魔王様や魔族にはそういう概念は無いのだろうか?

「無いな」

これまた愛想もクソもなく、すっぱりと答えられてしまう。

「まぁ、魔族の中には趣味の一環で、人間の食事行為を真似る酔狂な輩もいたりはするがの」

あぁ、単なる趣味なんだ……

ちなみにその魔族の趣味の時に食べる物と言うのはやっぱり?

「うむ、人間である場合が多いな」

……聞かなきゃよかった。

ついついその光景を想像してしまい、それがなぜか妙に生々しくイメージされたせいで思わず気持ち悪くなってしまった。

「城の分際で気持ち悪くなるとは、お前も酔狂な奴よのぅ」

まぁ一応、元は人間ですので……

「我はそのようなつもりで造ったわけではないからのう。苦情は受け付けぬぞ」

まるでやたら安くて安心高品質を謳う通販番組の、画面の隅っこにちっちゃく書かれた決まり文句のようなセリフを、しれっとした顔で吐く魔王様。

俺としても今さらって気もするし、苦情なんて言うつもりは元より無かった。

「なんじゃ、文句を言わんのか。せっかくまたお仕置き出来るかと思ったのに、つまらん奴じゃのう……」

変な期待をされてもお応えしかねます、魔王様。

しかしそうなると魔王様や魔族の方々は、何を糧にして生きているのか。

「特に、何かを摂取してと言うことはないのう。我のような魔族は、魔力によって活動を維持しておるのでな」

ははぁ、なるほど。

魔力が魔王様のエネルギー源という訳ですか。

あれ、でもそうなると……

「うむ、魔力は力を使うと消費されるな。これまでお前をお仕置きした時のように攻撃魔力を放ったりした際にな」

ですよね。

じゃあ、その消費した魔力ってどうやって補うんですか?

「ふむ、なかなか良い質問じゃな」

 まるで生徒からの質問に気を良くした教師のような態度で、魔王様が人差し指を天に突き上げながらご機嫌な調子で言う。

「基本的に魔力というものは、時間が立てば自然と回復するようになっておる」

ほほぉ、そうなんですか。

「うむ。もっとも個体それぞれの生まれ持った魔力許容量までしか回復はせんがな」

魔力許容量? それはいったい……?

「お前、なかなか勤勉なのだな。我などはこういった知識修養は苦手で……ごほんっ」

……勉強嫌いだったんですか、魔王様。

「そこは忘れよ。魔力許容量と言うのは、その個体がその身に蓄えておける魔力の最大量のことじゃな」

あー、RPGのMPみたいな物か。

「……RPG? MP? またお前は我の知らぬワードを」

それについてまたいずれ説明しますので。

 で、その魔力許容量ってのはやっぱり修行なんかで増えたりするのですか?

「修行? いや魔族はそんな事はせぬぞ。生まれた時から、その個体が持つ魔力許容量は変わらぬ」

……え、増えたりしないんですか?

「当然じゃ。生まれた時の魔力許容量が、そのままその個体の等級を定める基準になっておるしの」

はぁ、そんなもんなんですか、魔族って。

「そんなもんじゃ。なにせ魔力の大きさはそのままその個体の強さに繋がっておるからな。中には例外もおるが……」

例外、ですか。

「うむ、さっきお前が言ったような人間がするような修行によって強さを増す個体も、魔族の中には稀におる。

そういう個体は大抵は生まれつき膨大な魔力許容量を備えておるのだがな」

天才ほどより強くなれる、ってことなのか。

まぁ、確かに天才が努力すればより能力は伸びるもんなぁ。

普通に考えれば当たり前の話、なんだよな。

そして俺のような落ちこぼれは、その努力もしないで都合のいいイベントで凄まじい能力を得て、それで天才を越える……なんてお花畑もいいところの作り話を好むってことか。

そうやって現実逃避しかしなかったから、いつまでも俺は……

「これ、城よ。何をぶつぶつと黄昏ておるのだ。それより聞きたいことはそれでしまいか?」

あ、魔王様すいません。

ついつい生前の腑甲斐無い自分を振り返って、己のダメさ加減に嫌気が差してしまいまして……

「忘れろ、そんなつまらぬ事は。今のお前は城じゃ。我の造り出した我の為の、な」

……はい、魔王様。

ぶっきらぼうな言い方だったが、その言葉に俺は少し泣きそうになってしまった。

「城が涙を流すなぞ、我の知識にも無いがな」

……別の意味でまた泣きたくなってきた。

 そういえば魔力と言えば、俺を造り出した時に魔王様の魔力を注いだ、と話していましたよね?

「うむ、言ったな」

その魔力ってもう回復したのですか?

「まだじゃな」

また素っ気もクソもない解答……って、じゃあ今の魔王様って弱まっているんじゃ?

「そうじゃな。お前を作るのに、我の身に蓄えられてた魔力の半分を注ぎ込んだからな」

は、半分も!?

それ、もう戻らない、とかって事はありません……よね?

「まぁ、戻らぬ事はないが……膨大な魔力を消費すると、元に戻るには相応の刻を要するの、仕方ないことじゃからのう」

 ……なんか、すいません。

俺なんかの為にそんなに魔力を使ってもらったりして。

「何を謝る。想定外もあったが、結局は我の居城を造り出しただけじゃ。必要なこと、なのじゃからお前が気にする事ではないわ」

今さらですが、しっかりとお守りいたします、魔王様!

「うむ、よきにはからうが良い」

それで配下の魔物を作る方法ってのは……

「それは保留と言うたであろ」


 魔物作りは焦らずに、と言うことのようだ。

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