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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
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【4】ぼっち魔王様とうだつの上がらない魔王城

「お前が別の世界から来た……というか、転生してきたと言うのはわかった」

 心の底からの叫びからほんの少し経って。

うんざりした様子で魔王様が言う。

「うんざりしておるぞ、我は。あのような都合のいい話を望んで、しかもそうではないからと言って喚き散らすなど……我が居城としてあるまじき醜態」

はい、はい……重々それは自覚しておりますです、はい……

「そして我は我の居城造りに失敗した。それも理解した。」

あ゛

あの、えっと、混乱してたから失念してましたけど、それってやっぱり……

「……うむ、当然の事じゃが魔王城は造り直し、じゃな」

あああああああ!

やっぱりいいいいい!!

あからさまに不機嫌な口調で言い放たれた魔王様の言葉に、俺は思考で悲鳴を上げる。

心の中で膨らんでいく絶望感。

もう、おしまいだ……

別に好きで城に、魔王城に転生した訳でもないけど……

でも失敗の烙印を押され、さらには消されて造り直されるなんて……なんなんだ、俺の人生って。

いや、今は城だから城生か?

なんか人の名字みたいだなら城生って。

「これこれ、混乱しすぎてボケが混じりまくっておるぞ、我が城よ」

 いやでも、そりゃボケでもしなきゃやってられませんって、こんな理不尽な状況は……

あぁ、我が城なんて呼ばれるのも後僅かなんだな。

別に嬉しくはないけど、呼ばれなくなるなんてやっぱりちょっと寂しい気がしないでもないような。

「……お前の思考はつくづく騒がしいのぅ。冗談じゃ。ちょっとからかってみただけじゃ」

いやしかし、消えちゃうなら寂しいとか思うこともないのかな。

それなら別に構わないかな……

どうせ俺なんて……はい?

「なんじゃ、造り直した方が良いのか? それならそうしても我は一向に構わぬが……」

……え?

「はぁ、鈍いやつじゃな、我が城のクセに。お前を造り直すというのは冗談じゃ、と言っておる」

頭の中を『……』がしばらく這い進んでいく間、俺はボケーッとして。

魔王様の言葉を頭が理解した時、全身を稲妻が走ったような感覚に襲われた。

ええええっ!?

「ふふっ、面白いやつじゃなお前は。予定とは違ったが、お前の思考は退屈せんからの。このまま我が居城として使ってやろう」

ま、ま、ま、ま、魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!

悪戯っぽい笑みを浮かべて言う魔王様が、その時の俺には女神に見えた。

「縁起の悪いことを言うでない。女神など忌ま忌ましい存在と我を同一視するなど、侮辱にもほどがあるぞよ」

 ……女神はやっぱり天敵なんですね、魔王様。

もしかして以前に何かされた経験があるとかは……

「いや? 見たこともないぞ。そもそも女神などと言うものが本当にいるのかどうかすら、我は知らぬが」

あ、そーですか。

魔王様でもいるのかいないのかわからない物ってあるんですね。

「それはそうであろう。いかに魔王と言えども、この世界の全てを把握しておる訳ではないからな。

とは言え神と呼ばれる存在を、我ら魔族へ排斥する為の物として人間どもが信仰心しておるのもまた事実。

そんなものと我を重ねられては不愉快になるのも当然であろう?」

うーん、わかるような、わからないような……

ひねくれた中二病って風にも聞こえますけど、それ。

「……意味はわからんが、なぜか今とても不快な気分になったのじゃが。お前、我にわからぬワードで我を愚弄してはおらぬか?」

いいいいいい、いえいえいえいえ!!

そんな滅相もございません魔王様!!

そのような、魔王様を愚弄するつもりなど、俺にはこれっっっっっっっっぽちもある訳なくてですね!!

あああっ、ちょっと足を高々と上げないで!!!!

あ、パンツ……グホッ!

「乙女の大切な場所に目を向けるなど、城にあるまじき無礼千万。踏みつけられるだけで済むのを、ありがたく思え!!」

……反省します、魔王様。

でも眩い白が好み……ゲゴッ!

「……造り直されたいのか?」

城は城として在るよう心掛けます……

「……ふんっ」

 俺としては褒め称えてるつもりなんですけどね……

そんなに視線が気になるなら、もっと露出度を控えめにした服にするとか。

「懲りもせず、まだ我に意見するつもりか? まぁ、そのような些末な事に目くじらを立てるのも、いささか魔王気がないので勘弁してやるが」

魔王気ってなんだよ。

大人気がない、みたいな意味か?

「まぁ、そうじゃな。魔王たるもの、広く深い度量を備えねば配下の魔物も従っては来ぬからのう」

はぁ、あっちの世界もこっちの世界もそういう概念は共通なんですね。

……って、配下の魔物?

そう言えば、今までずっと魔王様とだけ話してたから気付かなかったけど、この城に他の魔族とか魔物はいないんですか?

「……城は黙って城らしく振る舞っておれば良い。余計なことに関心など持つな」

いやぁ、そうは言われましても……

ちょっと城内を見て回ろうか。

「あっ! こら、やめろ! このまま我と語らっておればよかろうに!!」

 魔王様の制止は無視して、俺は視界を移動させていく。

玉座の間を抜け、大仰な大階段を降り、幾重にも伸びた廊下を行ったり来たり。

途中にはいくつもの部屋があったので、その中も一つ一つ確認していく。

生前の俺なら、こんなしち面倒な真似はしなかったんだろうけど。

魔王様との掛け合いしかしていなかったせいか、今はさほど苦にはならない。

むしろ生前にあれほど夢想し続けた世界の、それも魔王の城である。

その内部を探索するのは、俺にしてみれば楽しい気持ちが勝るのは当然と言えた。

しかし……これは、どういう事なんだ。

期待感に胸膨らませながら城内を一通り探索して、そして俺の頭には戸惑いが浮かんでいた。

城の中を見終えた俺は、玉座の間に向けて動かしていく。

「……城、早く戻ってこいよぉ……」

 玉座の間に帰ってくると、魔王様がしゃがみこんで泣いていた。


「……我の許しを得ずに勝手な行動をするとこうなる、というのが理解できたであろうか?」

 ……ふぁい。

泣いてる魔王様が戻ってきた俺を見つけて。

その後、四方八方デタラメに放たれた魔力の弾にしこたま城内を破壊されて。

俺は殴られ過ぎて顔が腫れ上がった気分で、魔王様の言葉に呂律の回ってない返事をした。

もちろん今回は破壊された箇所への修理も無し。

「……機嫌が直ったら修復してやる」

と、ご立腹な様子で言われて、俺はただ頷くのが関の山。

それにしてもこの城。

一通り見て回ったが、どこにも魔族や魔物らしき姿は発見出来ず。

「……我しかおらぬ。この城には我と、お前だけじゃ」

こちらの思考を読んで、魔王様はぼそりと言った。

「魔界から人間界の侵略の為に、我はたった一人でこっちへ来たのじゃ」

え、そうなんですか?

でも普通は配下の魔物を多数引き連れて、人間界へとやってくるものなのでは……

「それは、さっき言っておったラノベとやらの知識か? つくづく都合のいい話が書かれておるのじゃのう、そのラノベとやらは」

 まぁ、それは確かに否定のしようがないけど。

冴えない主人公が命を落として、異世界に転生したら凄い能力を身に付けてて、その能力で大活躍して英雄になって……

「さらには女子にモテモテ、か? そこまで都合がいいともはや神じゃな。そのラノベとやらに出てくる人間は」

さすがに聞き飽きたのか、魔王様も冷めた口調で言うだけに留まった。

……なんでラノベについてを魔王様と語り合ってるんだ、俺は?

「まったくじゃ。せっかくの異世界からの魂なんじゃ、もっと我を楽しませようとせぬか」

おっしゃる事はごもっとも。

って、さっきから話をはぐらかしてないか、魔王様は。

「……バレたか。チッ」

俺の思考にすぐさま反応し、魔王様が舌打ちをしてくる。

魔王様、魔王様。それはちょっと品が無いのでやめた方が……

女の子なんだ……ンゴォッ!

「我が城は我に踏みつけられのが、よっぽど好きと見えるのう。この魔王ボーラ=ススに向かって『女の子』呼ばわりなど……恥を知れ!」

 言葉のわりには顔が赤いように見えるんだけど……

まぁ、魔王様は魔王なんだから威厳を損ねちゃまずいよな。

「わかっておるのなら、迂闊なことは言わぬことじゃ。胆に銘じておけ、我が城よ」

いや、俺は考えてるだけで、それを魔王様が勝手に読み取って怒ってるだけだと思うんですけどね。

「仕方があるまい、我とて感情はあるのじゃから。我に対して無礼な思惑など抱けば、機嫌だって悪くなる」

はぁ、そうですか。

「今などこうして我が城に一人きり。魔界にいた頃も上手くお話が出来ず、友達も作れぬ有り様であったのだぞ。それだけ繊細なのじゃ、我は」

ぼっちでコミュ障かよ。

あ、いけねっ……グハァッ!!!

「しまいにゃ魂入れ直すぞ、痴れ者め」

もうどうにかしてくれ、思考が筒抜けなこの状況……

「諦めよ。我が城なのだから、お前の全ては常に我に把握されるのも当然なのじゃ」

せめてお仕置きを逐一するのだけは勘弁してもらえませんかね……?

「ふん。お仕置きされるような思考をする、お前が悪かろうて」

そりゃ、生粋の魔族ならこんな思考もしないんでしょうけど……

「そうじゃそうじゃ。お前も早く我が城らしく、魔族としての思考が出来るよう心掛けよ」

とほほ……結局俺はブラックな職場にしか縁がない訳か。

「城。短時間に何回、お仕置きされるつもりじゃお前は」

……心掛けようと思います、一日でも早く魔王様の城として相応しい振る舞いが出来るように。

「うむ、よろしい。我が気分よく過ごせる居城を目指して、しっかり精進するのだぞ」

城って大変なんだな……

それも魔王様の城ともなると……

 で、なんで魔王様しかここにはいないんです?

「うぐっ」

俺の問い掛けに、ピシッと固まり妙な声を漏らす魔王様。

……まぁ、ここまで来ると聞くのも野暮だとは思うけど。

ともあれこうも露骨に話を逸らされると、こっちとしてと聞かずにいられないのは人の性と言うもの。

「城じゃがな、お前は」

どんなに痛いところを突かれても、ツッコミを欠かさないのは尊敬に値するかもしれない。

……そろそろ話してはくれませんかね、我が魔王様。

「むー……その、なんじゃ。魔王というものはだ、そういうものなんじゃ」

渋々といった感じで、ようやく話し始める魔王様。

しかしやはり言いにくいのか、ぼかしだらけで意味がわからない。

「あー、もう! 全部一から自分でやらなきゃいけないの!!」

そんなつもりはないんだが、俺の思考を読んでるせいで魔王様は責められたように感じたんだろうか。

半ば逆ギレのように叫び出した。

「自分の城も! 自分の配下も! 全部、私が自分で揃えるのが魔王の掟なの!!」

結構大変なんだな、魔王ってのも……

「そうだよ! それでやっと城が出来上がって、それなのに全然目覚めてくれなくて焦っちゃって! やっと覚醒したと思ったら、よりにもよって異世界の人間の魂が入り込んじゃって!!!」

よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、魔王の威厳もどこへやらの完全な女の子口調で、魔王様が一気に捲し立てる。

……よりにもよって、とか言われても俺も困るけどな。

「うるさい! それでも何とか一段落と思ってたのに、あんたが他の魔族は? 他の魔物は? 配下いないの? とか意地悪なこと言うから悪いんだもん!!」

もん、って貴女……いや、それはもう駄々っ子じゃん……

「うっうっうっ、私がんばってるもーん!!!! うわああああああああんっ!!!!」

わめきにわめき散らして、ついには号泣し始める魔王様。

……大丈夫なのか、魔王軍?

「また意地悪言うううううううううう!!!! びええええええええええん!!!」

ぼんやり浮かべた俺の不安に律儀に文句を言って、さらに魔王様の号泣は激しさを増していった。


 ぼっちで泣き虫な魔王様と、余計な思考はいっちょまえだけどうだつの上がらない魔王城。

果たしてこの組み合わせでこの先ちゃんとやっていけるのか?

城内にはただ、号泣し続ける魔王様の泣き声が響き渡るのみであった……

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