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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
3/23

【3】こんなの俺の求めた異世界転生じゃないっ!!

「ふむ。どうやら落ち着いたようじゃの」

 俺が自分の最後の瞬間の記憶を思い出してから数刻、魔王様が元の厳かな口調でそう言った。

自分が呆気なく死んだこと、そして何故か魔王様の城として生まれ変わったこと、その二つの事実は俺にはあまりにもショックだった。

が、それでも不思議なもので、数刻も経てば自然と精神も落ち着きを取り戻すものである。

「不思議なものか。お前は我の造りし城であるぞ? このくらいで折れるようなやわな精神では、この先が思いやられるわ」

 こっちとしてはまだショックが抜けきらないというのに、魔王様はと言えば満足げなドヤ顔を披露してくれる。

「ふふーん」

……まぁ、いいけど。

こういうときは下手なツッコミは入れないのが、世渡りのコツだ。

我ながら情けなくて悲しいけど、不遇なフリーター人生で身に付けた悲しい処世術である。

「フリーター?」

 この魔王様、とにかく知的好奇心は旺盛なようで。

俺が前世での言葉を思い浮かべると、すぐにこうして興味津々の顔を見せてくる。

「仕方あるまい。我の知らぬ知識など無いと思っておったからのう。して、フリーターとは何ぞや?」

はいはい、説明しますからそんなに急かさないでくださいね、魔王様。

ええと、フリーターと言うのはですね……

「……どうした? はよう説明せぬか。我を待たせるなど言語道断であるぞ」

これは何て説明したものやら。

無職……と言うのは聞こえが悪いし、かといって他になるべく印象の悪い表現の仕方があるかと言うと思い当たらないし……

「ええい、イライラするのう。お前は城なんじゃ、印象なぞ気にしても仕方があるまいに」

そりゃまぁ、そうなんですけどね。

しかしこれでも俺にもプライドというものがある訳でして……

「面倒くさい奴じゃのう。城のクセに」

あ! あ! そういうのはパワハラモラハラってやつですよ、魔王様!

訴えたらひゃっぱー俺が勝てちゃうやつで……イデデデデッ。

「次から次へと我の知らぬワードを出すでない。身の程を弁えよと、何度言わせたら理解するのじゃ?」

 はい、すいませでした魔王様。理解したので、踵で床をグリグリするのやめてもらえますかね?

ちなみに魔王様の脚に履かれているのは、いかにも魔族の女らしい爪先が長く上に伸び、ヒールは細く高くなったイメージ通りの物。

こんな物でグリグリされれば、それはもう痛いのなんの……

俺はドMではないので、痛くて嬉しいと感じることなどもちろん無くグヘッ!

「お前、なにを変態的なことをぶつぶつと考えておるか。そんな不埒な思考を見せられる我の身にもなってみよ」

言ってるそばから長く鋭い踵で、力強く床を踏みつけてくる魔王様。

考えてる事が筒抜けってのは、便利よりも厄介の方が大幅に勝るな。

「我の他にはお前しかおらんのじゃ。読みたくなくとも勝手に我の思考に、お前の思考が入ってきてしまうのは仕方があるまいて」

 前にも聞きましたけどね、それ……

しかし畏れ多いですが魔王様、その読心術はやめることって出来ないんでしょうかね?

「出来なくはないが。じゃが、そんなことしたら寂し……お前の不埒な思考を見過ごしてしまうではないか」

あー……そういう理由イデッ!

「そのような思考を不埒と言うておるのじゃ」

察した途端、間髪を入れずに落ちてくる踵。

向けられた声は、とても低く重く殺気すらも感じるほど静かながら迫力に満ちていた。

「はぁ……お前と語らっておると、疲れてかなわんの。それでフリーターとは何なのか、余計な見栄は張らずに言ってみよ」

御意。

えーとですね、フリーターと言うのは特定の職業に従事せず、短期間で色々な仕事を転々と変える人間のことです。

「ほほぉ。それは凄いではないか」

……凄い? 何が……?

「我の知る限り、人間というものは一つの職にすらありつけぬ者が多いと聞く。それをお前はいくつもこなすのであろう? 驚嘆に値するではないか」

んん? それってどういう事なんだ……?

「どういうもこういうもあるまいて。畑仕事をしている者がある日突然、城務めの兵士になったり、行商人がいきなり家屋のある店を持つようなものであろう?」

あー、いえそれは少し違いますかね。

俺が言ってるのはそれでいくなら、お店の主人に雇われていた者が解雇され、次に牧場に頼み込んで牛飼いの手伝いとして雇ってもらう、みたいな感じです。

「我の例えからずいぶんショボくなったのう……じゃが、それはそれで立派な事だとは思うのじゃが」

そう、なんですかね?

俺の元いた世界では、そういうのはあまり褒められない……と言うよりは見下される部類に入るのですけど。

……ん? 元いた世界?

「どうした。また何か思い出したのか?」

 なんか普通に話してたけど、もしかしてここって……異世界、なのか?

「異世界? いや、ここは人間界だぞ。ここと異なる世界、というならば我の故郷とも言うべき魔界がそれに該当すると思うのじゃが……」

魔王様の話も頭には入らず、俺の中で疑問の答えが形を成していく。

「これ、城よ。我を無視するでない。気分を害するぞよ」

俺が死んで、目が覚めたら城になってて、目の前には魔王……様がいて。

「おい、お前。今、魔王と呼び捨てにしそうなっておったろう? まったくお前というやつは主への態度がなっておらんな……」

あぁ、もう魔王様! 人が頭の中で考えを整理してるのに、ちょこちょことツッコミを入れないでくださいよ!

「ふん、我を無視するお前が悪い。そもそもお前は人ではなく、我に造り出された城ではないか?」

……それはこの際、こっちに置いておくとしてですね。

「こっちとはどっちじゃ? ちゃんとわかるように説明せぬか。一人でわかっておるなどズルいではないか」

いや、魔王様。ズルいとかズルくないとか、そういう問題ではなくてですね……

「いーや、ズルい。訳のわからない思考を理解も出来ぬままに見せられる我の身にもなってみよ。それがどれほど寂し……不愉快か、お前にもわかろうぞ?」

「あー、もう! ゴチャゴチャとうるさい魔王様だな!! そんなにゴチャゴチャ言われたら考えが整理できないだろうが!!」

「ひっ!」

 思わず怒鳴ると、魔王様が怯えた声を上げた。

それに驚いて視界を魔王様に向けると、自分の身体を両腕で抱いて小さくなり震える姿が映る。

「そ、そんなに怒らなくてもぉ……」

す、すいません魔王様。

こっちは必死に考えをまとめようとしてるのに、そばでうるさく言われてつい……

あの……魔王様……?

「わ、わ、私だって女の子なんだぞぉ……いきなり怒鳴られたりしたら、泣いちゃうんだぞ……」

……魔王様、えっとなんか口調が……

「だってだって! 城がいきなり大声出すから、怖くてビックリしてぇっ!!」

…………

「私だって魔王らしく振る舞おうと、一生懸命なのにぃっ!!」

……………………

「それなのに、それなのにそんなに怒らないでよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

………………………………

「うぅ、ひっく……ぐすっ……うっうっ、うええええええん!!!!」

ぷるぷる震えながら文句を言いまくった挙げ句、魔王様はついに泣き出してしまった。

とてもとても女の子らしい、か弱い姿を俺にさらけ出して。


「こほん……さっきのは忘れろ」

 そう言ったのは泣いてから暴れ出し、ひとしきり俺の内部を八つ当たりの攻撃魔法で破壊しまくり、しばらく経って気持ちが落ち着いてからのこと。

正直、あまりにもダメージがありすぎて死ぬかと思った。

魔法攻撃って、あんなに痛いもんなんだな……

「しつこい奴じゃの。ちゃんと直してやったじゃろうが。それに我を破壊神みたいに言うでない」

いやぁ、さっきのは破壊神もびっくりなレベルの暴れっぷりだったと思いますけど……

「ふん、お前はまだまだ甘いのう。あんなものちょっとムシャクシャして壁を蹴るのと変わらんわい」

……あれでその程度、なんですか。

もう泣かせないように注意……イデッ!

「忘れろ、と言ったはずじゃが? 二度も言わせるでない」

……踵の方がマシだけど、これはこれで痛いです魔王様。

「以後、我への態度には注意するように」

……はい、ごめんなさい。

「よろしい。それでさっきの話を続けよ。何がわかったのじゃ?」

あー、そうでしたね。

では気を取り直して改めて。

魔王様には理解し難いかもしれませんが、どうやら俺ってこことは別の世界から来たみたいです。

「別の世界? 魔界でもなくて? じゃあ天界とか神界とか?」

魔王様、魔王様。

言葉遣いが素になってますよ……グゲッ!

「お前はいちいち細かい。主に向かっての敬意が足りておらんな」

ごめんなさい……

こほん。いえ、魔王様の言うような世界とも違って、どう言えばわかるだろうか?

そうですね。

魔王様とか魔族とかが存在してなくて、魔法とか魔力とかも無くて、人間と動物……

えっと、猫とか犬とか牛とか豚とか馬とか、そういう生物しかいない世界、って言えばいいんだろうか?

「我や魔族がいない? 何を呆けた事を言うておるのじゃ。ある訳がなかろう、そんな世界」

ですよねー……そりゃ、こんな話を聞かされても納得出来ませんよねー……

「お前、我を愚弄してはおらぬか? まだ躾が足りておらぬと見受けられるが……」

いやいやいやいや! そうじゃなくて!!

うーん、理解してもらうのが難しいな、これ。

何かいい手は……

「よくわからんな、お前の思考は。我が造り出したにしては、何やら変な知識はあるし、いまいち従順さが欠けておるし……」

ですから、俺はここの世界の住人じゃなくて、元々は別の世界の人間なんですってば!

「そこがわからんのよな。確かに我が造り出し、我の魔力と知識を与えて生み出した城のはずなんじゃが。生まれたての城なんじゃぞ、お前は?」

それはさっきも聞きましたけど、そうじゃなくてこの今の城になる前は人間だったんですよ!

「うーむ、さっきのし……し……死んだ、場面とかが、そのお前の言う人間の時の記憶、ということなのか?」

そうですそうです!

やっとわかってもらえましたか……

「いやわからん」

んのぉぉぉおおおおおっ!!

「ひぃっ!」

あ、すいません。つい……

「怖いよ、私の城……ぐすっ」

あー、ほらほら、魔王様。また素に戻ってますから。

「……こほん。言葉で説明が難しいのなら、お前の言う異世界とやらの風景をイメージしてみるのはどうじゃ?」

……あっ、その手があったか!

ちょっと待ってくださいよ。

むむむむ……ど、どうでしょう?

「あ……あ……な、なんじゃ、この風景は……!? こんな風景、我は知らぬぞ……」

どうやら魔王様に俺の元いた世界のイメージは伝わったようだが……

よっぽど衝撃的な風景だったらしく、顔は蒼白になり茫然と立ち尽くしていた。

「な、な、な、なんでこんな世界があるの!? 私、こんな世界の話なんて聞いたことないよ!?」

あ、動転のあまりまた素に戻ってますよ、魔王様。

「でもでも! あんな高い塔みたいなのがいっぱいあったり、鉄の箱がいっぱい走ってたり、すごく綺麗な地面とか、見たこともない物がいっぱい売ってたりとか!!」

あー、ビルですね。自動車ですね。道路ですね。コンビニですね。

「あ、あれがコンビニ……お、お、お、お前はあ、あ、あ、あんなとんでもないお店で働いてたのか……!?」

えぇ、まぁ……

俺がやってたのは接客とか品出しとか、大した仕事じゃなかったけど……

「……ほえー……」

あの、魔王様?

変な声、漏れてますよ?

「……城、今のは忘れよ」

……御意に御座います。

「して、その……今のがお前のいた世界、なのか?」

そう、なりますね。

まぁ、あっちの世界でどうやら俺は死んじゃったみたいなんですけど。

「ふぅむ、我にもよくわからんが……その時にお前の魂が城に宿った、と言うことなのじゃろうか……?」

そうなるんですかねぇ?

「今一つ腑に落ちぬが。とりあえず我が城の創造は失敗だった、と言うことなのじゃろうか」

 ……え゛

失敗、ってそれってもしかして、あの……そうなると俺って。

落胆した様子の魔王様の言葉を聞き、俺の頭の中に嫌な想像が駆け巡る。

「うむ、お前の考えてる通りじゃな」

そんなあっさり言わないでくださいよ魔王様ぁ!!!

態度も改めますから! 言葉遣いも直しますから!! 魔王様の変なところ見ようとしたりしないからぁぁぁぁぁ!!!

だから壊さないで、造り直さないでええええええええええ!!!!

「ええい、騒々しい! 喚くな!」

「そりゃ喚きますよ、そりゃあ!! あっちで死んで、こっちでも壊されたら俺はどうすればあああああああ!!!」

「ああああ! うるさいわい!! 大声を出すな、耳がバカになるではないか!!!」

ゲシゲシとお約束の床踏みつけをされるが、今は痛みに構ってる余裕など俺にはなく。

こんなに聞いてないぞ!?

俺の知ってる異世界転生ラノベでは、転生したらチート能力があって、それで大活躍して、女の子にモテモテで!!!

こんなの話が違うだろおおおおおおおおおお!!!!????

「……城よ、そんな都合が良すぎる話、魔界にもないぞ……」

「そんなこと言われてもおおおおおおおお!!!!!」

「だからやかましいわ!! 叫ぶな!!!!」

せっかく異世界に転生したのに、起きたら城になってるとか……

それも理不尽なブラック上司そのまんまの魔王の城だなんて……


 こんなの俺の求めた異世界転生じゃなああああああああああああいっっっっっ!!!!

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