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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
23/23

【23】最後の戦い、転生の結末は切なくて

「ついに来たか、『勇者』よ」

 玉座の間、扉を開きその姿を見せた『勇者』へと魔王様が言葉を放つ。その声には、怒りも悲しみも絶望も感じられない。

「我が臣下を全て討ち倒して、ここまで辿り着くとはな……」

そこにあるのは、『魔王』としての誇り。最後まで、いや最後だからこそ振る舞わねばならない『魔王』としての風格、威厳。

「魔王よ、おまえの臣下は手強かった」

 『勇者』が言葉を返しながら、魔王様の座した玉座へとゆっくり近付いてくる。その声にあるのは、やはり誇り。

『魔王』と相対する者としての、最大限の敬意のような雰囲気を感じさせる。

「おまえの臣下……ネラルジェ、シェイドヌーク、キュバース、トファース。いずれも強く、そして気高き魔物たちだった」

「そうか。彼奴らを討ち破りしそなたが言うのだ、最高の賛辞と受け取ろうぞ」

魔王様が立ち上がり、『勇者』へと感謝にも似た言葉を告げる。いや、紛れもなくそれは感謝だったのだろう。

「俺の仲間も、おまえの臣下との戦いに傷付き、そして今は倒れている。俺に勝利を託して、外で待っている」

「お互い、仲間によってこの局面を迎える事が出来た……そういうことじゃな」

「……あぁ」

 トファースの自爆、それからロフィを守ったのはオリューア、ザーディ、リプトスの三人の捨て身の行動のおかげだった。

最後の力を振り絞り、走り寄ってロフィを飲み込まんとした魔力波から遠ざけたオリューア。

迫る魔力波を、残った魔力で押し止めたザーディ。

そして傷付いたロフィに、残された力を全て与えて回復させたリプトス。

その三人の決死の行動が、ロフィをここまで導く結果を生んだのである。

「あいつらの為にも、そしてこの世界の未来の為にも。俺は負ける訳にはいかない」

「我とてそれは同じこと……我のために戦い、そして散って行った臣下の為にも、ここでそなたに敗れる事は認められぬ」

 俺の脳裏にネラルジェ、シェイドヌーク、キュバース、トファースの最期の姿が思い浮かぶ。どれも全て、魔王様の勝利を信じて、最期を迎えた。

そしてロフィの仲間たち、オリューア、ザーディ、リプトス。

彼らは力を使い果たし、今は階段前の広間で倒れ込んでいるはずだ。

ロフィの、『勇者』の勝利を信じて、その勝利と共に自分たちの元へ戻ることを信じて。

「我が名はボーラ=スス! 魔王ボーラ=ススじゃ!」

「俺はロフィ。『勇者』なんてそんな大それた者じゃないが……世界を守るため、お前をここで討たせてもらう!」

 互いに名乗りを挙げ、そしてロフィが剣を構えて地を蹴った。

ここに、『魔王』と『勇者』の戦いの幕が切って落とされるのであった。


「うおおおおっ!!」

 雄叫びを上げ、魔王様へと迫るロフィ。

だがその目前に俺は人型を生成し、立ちはだからせる。

「させないぞ、『勇者』よ!」

「邪魔をするなあっ!」

突然現れた人型の、言ってしまえばゴーレムのような物に微塵の躊躇いも見せず、ロフィは剣を振るう。

その一撃であっさりと俺は崩れ去り、ロフィはそのまま駆けていく。だが……

「まだだ!」

 再びロフィの進路を塞ぐように出現する俺。

立て続けの出現に、ロフィの速度が僅かに落ちた。そこへ俺のパンチが放たれる。

「チィッ!」

俺の放ったパンチは空を切り、下から振り上げられたロフィの斬撃に身体を二つに割られてしまった。

しかしロフィの足はそこで一度止まっている。

すかさず敵の背後に人型を生成、剣を振り上げた直後の隙を狙ってタックルを仕掛けていく。

「なんのっ!!」

 今度こそ直撃させる、そう思っていた俺の目の前でロフィは跳躍した。そのまま身体を縦に回転させ、突っ込んで来た俺の身体を蹴って前へと飛ぶ。

「んなっ!?」

ありか、そんなの!?

いくらなんでもその身体能力はチート過ぎるだろう!?

人間離れとしか言い様のないロフィの身のこなしに、俺は狼狽えながら内心で文句をぶちまける。

「はぁっ!!」

と、そこを衝かれ放たれた斬撃によって、またもや俺は打ち倒されてしまった。

「そこじゃ!!」

 俺との応酬でロフィが背を向けたところを狙い、魔王様の手から魔力の弾が撃ち出される。

「せいっ!」

だが、ロフィは俺を斬り払った動作そのままに身を翻し、向かってきた魔力弾を剣で真っ二つに割る。

「やるな、『勇者』よ!」

「行くぞ、『魔王』!!」

 二つに割れた魔力の弾が別々の方向に飛んでいき壁に当たり衝撃を発する中、魔王様とロフィが言い合いお互いに真っ正面からぶつかっていく。

三度の人型の撃破、そしてそれ以前のネラルジェやシェイドヌーク、キュバースやトファースの戦いで負った城へのダメージ。

それのせいで俺にはもう人型を生成する余力は残っていない。

ここからは魔王様とロフィの一騎討ち、だがそれもまた最後のとっておきへの布石だった。

「くぅっ!」

「はあ!!」

 ロフィの放つ素早い斬撃、それを魔王様は手にした杖でなんとか受け続ける。元より体術では圧倒的な差がある、受けるだけでも本当はギリギリだった。

「たああっ!!」

気合いを込めたロフィの一撃を、魔王様は紙一重で避け後ろへと飛ぶ。

着地までの刹那、宙空で杖に魔力を込めていく。

「しまった!」

「喰らええぇっ!!」

強力な攻撃を察し、ロフィが動揺の声を上げる。

離れた位置に着地した魔王様は、その一瞬を見逃さず溜めた魔力の砲をロフィ目掛けて解き放った。

「う……おおおおおおおおおおっ!!」

 一直線に迫る極大の魔力砲を、腹の底からの咆哮を上げながら正面に剣を構えるロフィ。

剣はこれまでに無いほどの神々しい輝きを放ちながら、魔王様の魔力砲を真っ向から受け止めた。

「ぐううううううっ!!」

「はああああああっ!!」

互いの力と力、気合いと気合いをぶつけ合い、相手を押し切らんと膠着する。

しかしやがてロフィの剣からさらに強い光が放出され、魔力砲を縦に斬り裂いていった。

「なっ!?」

「うおおおおおおおっ!!」

 狼狽の声を上げる魔王様。ロフィは魔力砲の波を割りながら一気に駆け抜けて……

「あぁっ!!」

そのまますれ違い様にロフィの剣が、魔王様の身体を袈裟がけに薙いだ。

「見事だ、『勇者』……」

己を討った敵を称える言葉を口にしながら、魔王様の身体が前のめりに崩れ落ちていく。肩から脇腹にかけて切り裂かれた傷から、大量の鮮血を噴き出させながら。

「……だが!」

 床にうつ伏せで倒れ込んだ瞬間、魔王様がか細い声を振り絞って叫ぶ。

今だ、ジョー。俺の心に、ススからの合図が届いた。

「なに!?」

目の前で起きた変化に、ロフィが狼狽した声を張り上げる。

俺の意識の本体の宿った玉座が強大な魔力を滾らせ、そのまま『勇者』に向けて全て放たれた。

「ぐああああああああっ!!!」

魔王様の放ったものよりも極大の魔力砲。魔王様を倒した直後の無防備だったロフィは、それをモロに喰らってそのまま玉座の間の外まで吹き飛ばされていった。

「やったね、ジョー……」

 血だまりの中に倒れ伏す魔王様が、微かな笑みを浮かべそう呟く。

俺も、もはや殆どの力を使い果たして残りは僅か。

後は、魔王の城として最後の仕事をするだけだ。


「ロフィ!?」

「ちょっと、大丈夫!?」

「いけない!」

 玉座の間から吹き飛ばされたロフィは、階段前の仲間の元まで転がっていった。

慌てるオリューアとザーディ、そしてリプトスは少ない力を使ってロフィの回復を試みる。

「……ぐっ、すまない」

「よかった……」

僅かではあったがそれによって、ロフィはなんとか動ける程度には回復した。オリューアがロフィの身体を担ぎ上げ、肩を貸して立ち上がらせる。

「魔王は倒したが、最後の最後で油断した……」

「まったく、お前はいつも詰めが甘いんだよ」

「でも、魔王は倒したんだね!」

「これでまた一歩、ですね……」

ロフィの言葉に口々に安堵の声を洩らす仲間たち。

 だが、すぐに落ち着いてはいられなくなる。

「!? 城が!?」

「凄い揺れだ……こいつぁ、嫌な予感がするぜ」

「まさか、崩れる!?」

「みなさん、急いで城を脱出しますよ!」

激しい揺れと共に天井から瓦礫が落ち始める魔王城。危険を感じて、『勇者』一行は外へ向かって動き出した。


「わざわざ、自壊しなくても……良かったのに……」

 何を言ってるんですか、魔王様。

RPGではお約束なんですよ? 魔王を倒した後にその城が崩れるってのは。

「ふふ……そうなんだ……変なの……」

まぁ、俺もいつも変だとは思ってましたけどね……

でも、今ならその理由もわかる気がしますよ。

「……理由って……?」

倒れた主を、最後の最後まで自らの内に納めておく為……なんじゃないですかね。

まぁ、城なんだから中には魔王様がいなきゃね。

「ふふ……そっか。それなら、私も納得……かな」

約束しましたしね、ずっと一緒にいるって。

……この先もずっと、俺が魔王様を中に入れて守り続けますから。

「……うん。ずっと、一緒……愛してるよ、ジョー」

ズルいでしょ、魔王様。こんな時にその言葉は。

「ジョーも……言ってよ……私、聴きたい」

 ……こほん、では。……スス、愛してる。きっと生まれ変わっても、君だけを愛し続けるって約束するから。

「えへへ……なにそれ。ジョーはもう、生まれ変わってここに来てるのに……幸せだな」

別に転生が一回だけ、なんてルールないでしょ。

そうだ、せっかくだからススも俺と一緒に転生すればいいんだよ。

今度は二人とも人間に転生して……どんな世界でもいいから、でも穏やかに楽しく過ごせる環境がいいかな?

 城はもう半ば崩壊して、全壊するのもあと僅かになっている。そして、俺の意識もまた次第に薄れていって。

スス……? 反応が無くなったススに呼び掛けて、切ない思いが薄れていく意識に広がっていった。

先に、行ってしまったか。ダメだろ、城主が城を残して先に行くなんて。

……まぁ、すぐに俺も行くんだけどさ。

色々あったけど、転生してきてススに出会って。怖いこともあったし、俺たちで作った魔物に手を焼いたりもしたけど……

俺は良かったよ。魔王城として転生できて、ススと出会えて。

ありがとう、スス。それじゃあ、そろそろ俺もそっちに行かせてもらうよ……

「私の方こそ、ずっと傍にいてくれて嬉しかったよ。ありがとう、ジョー」

 意識が消滅する間際、ススが満面の笑顔を浮かべてそう言ったような気がした。

視界が暗くなる瞬間、ふと見たススの顔は……怒るかもしれないけど、女神のような穏やかで慈愛に満ちた優しい顔だった。


 そして、俺の魔王城としての第二の人生?は闇へと消えていった。

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