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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
20/23

【20】異世界転生したら勇者の敵になっていた!!

 『勇者』によって魔王ラース=ボウが倒されてから数ヶ月。その後、世界は激変していった。

魔族と人間の争いだけに留まらず、人間と人間の争いも各地で起こり、さらには魔族と手を組む人間たちさえも現れる。

そこに互いを利用しようとする思惑や謀略、駆け引きが生まれ、さらに戦いは混迷を迎えていき。

そんな激動の中を『勇者』たちは進み、そして各地の混乱、争乱を鎮めて行った。

 一方、我らが魔王ボーラ=スス率いる魔王軍はその間も黙々と戦力の増強と、『勇者』対策に勤しむ日々。

「『勇者』の動向は?」

「はっ。現在は北の国の動乱を治め、そして第一魔王軍の元へと向かった模様です」

「そうか……ここからも近いとなると、次はこちらへ来るやもしれぬな」

「はい」

玉座の間を重苦しい空気が包み込む。

魔王軍、いや魔族にとっての最大の敵との戦いの予感に、誰もが緊張の色を見せていた。

そして魔王様は、また一族の者が討たれるかもしれないことに暗い思いを抱えているのだろう。

「よし、引き続き我らは来るべき『勇者』との戦いに向け、準備を整えるのだ!」

「はっ!」

 だが魔王様は下を向かない。

勝つ為に、自らの運命を掴み取る為に、前を向き続けると誓ったのだ。

そして時は流れ、さらに数ヶ月が経った頃。

「魔王様! 『勇者』の一行がこの魔王城へと向かっているとの報告が!」

「……ついに来たか」

 運命の時、『勇者』との避けられない戦いの日が訪れた。


「ここが第五魔王ボーラ=ススの城か」

 眼前にそびえ立つ城門を眺めながら、『勇者』の雰囲気を漂わせる少年が呟いた。

「どうした、ロフィ? 怖じ気付いたか?」

その仲間であろう、『戦士』とおぼしき男が『勇者』を茶化す。

「オリューア。あんたこそ、またいつもみたいに勝手に突っ込んで行って、私たちまで危険に巻き込まないでよね?」

「くっ、気を付けるさ……まったく、ザーディはいつも口うるさいな」

そんな『戦士』を冷ややかな口調で、『魔法使い』らしいローブに身を包んだ少女が嗜める。

痛いところを突かれたのか、『戦士』は決まり悪そうな口振りで答えた。

「……みなさん、魔王の城なんですよ。もう少し緊張感を持ってください」

そこへ落ち着いた口調ながら、厳しさを感じさせる声で注意したのは『神官』らしき若い女性。

「そうだな、リプトスの言う通り気を引き締めよう。今度もまた厳しい戦いになるだろう。だがみんな、絶対に勝とう!」

「おうよ!」

「当たり前よ」

「神よ、私たちを導いてください……!」

最後にロフィの発した声に他の三人が頷き応え、城門の内側へと足を一歩踏み出した。

 が、しかし。

「待ってください!」

突如リプトスの上げた声に、全員が足を止める。

「どうした、リプトス?」

「なに?」

「ん? なんだなんだ?」

問われて、しかしリプトスはなにも言わずに門の直前まで歩んでいき、門に入る直前の位置で手をかざす。

すると、光の膜のような物が視認できた。

「……結界です」

厳しい顔で告げるリプトスに、三人が緊張した面持ちになる。

「警戒は厳重、か」

「まるでアタシ達が来るのに備えてたみたいだね……」

「今度の魔王は、これまでよりも手強いかもしれないな」

 結界の存在が、『勇者』一行の気を引き締め直させてしまったらしい。

せめてここで少しでもダメージを与えられれば……

思っても仕方はないが、悔しさが込み上げてくる。

だが、まだ城門を突破された訳ではなかった。

「よし、これを使おう。みんな、下がってくれ」

言って三人を後ろに退かせると、ロフィが懐からペンダントのような物を取り出し、高く掲げた。

まさか、これって……

次の瞬間ペンダントが光を放ち、それがすぐに強い輝きへとなると。

パキーン!

やっぱり!!

渇いた音を立てて、結界が一瞬にして砕け散ってしまう。

 予想はしてたが、やはり持っていたか結界破壊アイテム!!

自分がプレイヤーとしてだったり、読者としてそれを見ていた時は当たり前のように思っていたが……

こうして破られる側になると厄介なことこの上ない。

「よし、行くぞみんな!」

「あぁ!」「うん!」「はい!」

ロフィの号令にそれぞれが力強く返し、『勇者』一行はついに魔王城へと踏み込んできた。

その一部始終を俺は、分割した意識の視覚で見ていた。


「……結界を破られたか。お前の予想した通りになったな」

 はい……まさか何も痛手を与えられないとは。

玉座の間、魔王様と俺は結界を突破されたことを感じ取り、言葉を交わす。

今の俺はあちこちに意識を配置し、状況を常に把握できるように備えていた。

玉座の間には各所の状況を速やかに伝える為に、意識の核とでも言うべき俺がいた。

「仕方あるまい。なるべく見にくくはしていたのだ、それすらも破るならば敵が上手と言うだけのこと。次で止めればいい」

次……ですか。

 城門を入れば、そこにはネラルジェが待ち構えている。

そこで『勇者』一行を迎え撃つと進言したのは、もちろんネラルジェ自身であった。

「城よ、ネラルジェの様子を頼む」

わかりました、魔王様。

魔王様の言葉に返事をして、俺は城門広場のネラルジェの元へと意識を切り替えた。


「……来たか、『勇者』ども」

 門をくぐり、現れた四人の前に立ちふさがりネラルジェは静かに言った。

ネラルジェの後ろには、大量の魔物たちの姿もある。

「門番、と言ったところか」

「ずいぶんと大袈裟な数を揃えたもんだな」

「……いきなり本気、ってとこだね」

「そこは通してもらいます……!」

ロフィ以下三人は武器を構え、戦闘態勢に入る。

ネラルジェもまた大振りの大剣を両手で握り、正面に構えて腰を低くした。

「ここは通さん、例え我輩の命に代えても! 全員、『勇者』たちを倒すぞ!!」

「「おおーっ!!」」

 ネラルジェの号令に配下の魔物たちが吠え、一斉にロフィたちに向かって行く。

そしてネラルジェ自身もまた、手にした大剣を振りかざして地を蹴り突撃していった。

「ふんっ!」

群がる魔物たちを、見事な剣捌きで蹴散らしていくオリューア。

「フレイム!」

襲い掛かる魔物から巧みに距離を取りつつ、素早く詠唱し放った火炎魔法で反撃するザーディ。

「ロフィ! プロテクション!!」

そして敵の攻撃をいなしながらリプトスが、ロフィへと防御の魔法を掛けていく。

「うおおおおっ!!」

「ぬああああっ!!」

守護の光に包まれたロフィが、まっすぐに自分へ向かって迫ったネラルジェの一撃を受け止めた。

 数だけで見るなら圧倒的な差、だが戦況は決して俺たちに有利とは言えない。

この日のために訓練を積み、技量を磨いてきた魔物たちがオリューアの攻撃の前にあっさりと蹴散らされていく。

「はあ!」

「だああ!!」

ネラルジェとロフィの攻防は激しく、互いに一歩も譲る気配を見せない。

そのロフィをフォローするリプトスの強化魔法も厄介だ。

「させないよ!」

ロフィのサポートに手いっぱいのリプトスを狙って何体もの魔物が攻撃を仕掛けるも、ザーディの放った魔法に迎撃され目論見は叶わず。

 『勇者』たちの強さは、俺が想像していたよりも遥かに大きいものだった。

決して侮ってはいなかった。

『勇者』という存在の強大さは、俺が一番よくわかっていたのだから。

だから現実には、その理解を遥かに越えたものだった。

「これで最後だ!」

「グアアアッ!!」

雄叫びと共に最後の魔物をオリューアが打ち倒す。

戦闘開始からわずか数十分、たったそれだけの時間で戦況は完全に逆転していた。

「くっ、残ったのは我輩のみか……!」

周りを見渡し、口惜しそうに呟きを洩らすネラルジェ。

だが、その闘気は衰える気配は見せずに。

「ならばこの身に宿る魔力、全てを解放して貴公らを倒してみせる!!」

吠えて、全身に力を込めたネラルジェの肉体が変化を始めた。

「ここからが本番、ってやつだな」

ロフィの傍へやって来たオリューアが言う。

周りにはザーディとリプトスも集まっていた。

「みんな、気合いを入れろ。……とんでもない強さだぞ!」

変化を終えたネラルジェを見つめ、ロフィが仲間に声を掛ける。

「我輩の全力、とくと味わうがいい!」

禍々しい姿へと変貌したネラルジェが、ロフィたちに向かって走り出した。


「……ネラルジェが、全力を出したか」

 玉座の間、俺からの話を聞いて魔王様は沈痛な面持ちになる。

大量にいた魔物たちの全滅、そしてネラルジェの全力。

そのどちらもが悲報と言えた。

「勝って欲しいものだな、ネラルジェには」

……はい。

遠い目をして言う魔王様に、俺は相づちを打つことしか出来ない。

全ての魔力を解放した魔物を待っているのは、逃れられない消滅。

ならばせめて、この戦いに勝利して欲しい。

忠義に厚く、戦いを愛した臣下へのせめてもの思いだった。


「ぬうううんっ!!」

 ネラルジェが右手の大剣をオリューア目掛けて力の限りに振るう。

「くっ!!」

金属のぶつかり合う音を響かせ、オリューアの身体が後ろへ飛ばされた。

辛うじてネラルジェの一撃は受け止めたが、その威力を殺しきることまでは出来ない。

「はあああっ!!」

オリューアへの攻撃直後を狙い、ロフィが地を蹴り宙に舞う。

気合いと共に両手で握り締めた剣を振りかぶって迫り、それをネラルジェ目掛けて振り下ろす。

が。

「……甘いぞ、『勇者』!!」

 左手に持ったもう一つの大剣でそれを受け止め、口許に笑みを浮かべるネラルジェ。

魔力を全解放したネラルジェは体躯が倍ほどまで膨れ上がり、両手にそれぞれ大振りの大剣を持っていた。

一撃を受け止められ空中で静止したロフィに対して、ネラルジェが右手の大剣を放つ。

「させるかあああっ!」

と、そこへザーディの放った雷撃が飛んできた。

「ぬぅっ!?」

振りかぶる動作の最中、手にした大剣を手放し飛んできた雷撃をそこに誘導する。

自身はすぐさまその場を飛び退き、距離を取って態勢を整えようとして。

「そこです!!」

リプトスの張り上げた声と同時に、ネラルジェの地面に模様が浮かんできた。

「なにぃ!?」

戸惑い動きを止めたネラルジェを、足元から伸びた光が包み込む。

「グアアアアアアアッ!!」

「今です!」

 悲痛な咆哮を上げるネラルジェ、そこへリプトスが三人に向けて合図の声を放つ。

「行くぞおおお!!」

間髪いれず駆けたオリューアが、すれ違い様に剣を一閃。

「喰らえぇぇっ!!」

続けてザーディが巨大な火球を生み出し、ネラルジェに放つ。

直撃した火球は大爆発を起こし、ネラルジェの肉体を焼いた。

そして……

「これでええええええっ!!」

神々しい光を放つ剣を高く掲げたロフィが、雄叫びと共に天に舞い上がる。

そのまま一気にネラルジェへと迫り、力の限りに剣を振り抜いた。

 剣を振り下ろした格好のまま広場の地面に着地するロフィ、ネラルジェを包んでいた光の柱がそこで消え失せて。

「ガハッ!」

苦しげな呻きを上げて、ネラルジェの身体が地面に倒れ伏した。

「……先を急ごう」

動かなくなったネラルジェを一瞥してからそう告げて、『勇者』の一行は城の中へと駆けていった。

「申し訳、ありません……魔王様」

 敵が先へ進んで見えなくなった頃、掠れた声でネラルジェが言葉を洩らす。

「ネラルジェ、ご苦労だったな」

人型を成した俺は倒れたネラルジェのそばに行き、労いの言葉を掛ける。

微かに顔を動かし、ネラルジェは俺を見上げて。

「……魔王城、か。敗れた我輩に労いなど、無用……」

「いいや。魔王様の為に、命を賭けて戦ったんだ。それぐらいはあってもいいだろう」

「……そう、か。魔王城、よ……魔王様を、スス様を頼む、ぞ」

「……あぁ」

答えた時には、ネラルジェはもう息を引き取っていた。

胸の奥、重くて切ない感覚が広がる。

だが感傷に浸っている時間は、俺には……俺たちにはなかった。

 異世界に転生して、まさか敵として相対するとは思わなかった『勇者』は。

想像を遥かに越えた力だった。

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