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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
19/23

【19】『勇者』の出現、決戦へのプレリュード

「まさか……お兄様が……」

 シェイドヌークの急報に、魔王様は愕然となっていた。

ほんの少し前……とは言っても、魔族の感覚での少し前。

人間としての感覚では、既に数日前のことではあるのだが。

ともかく、対面したばかりだったラース=ボウが……あの圧倒的な力を見せた魔王様の兄が倒されたと言うのは、信じがたい話だった。

「いったい……どのようにして、お兄様は……?」

「……ラース=ボウ様を討ったのは、四人の人間という話です」

「バカな!? たった四人の人間に、お兄様が……!?」

シェイドヌークとの問答に、震える声で言う魔王様。

四人の人間……その言葉は、俺には何となく予感のあった事の具現化とも言えた。

「あー、さっき言ってた人間だなー」

「さっき……?」

 トファースの発した言葉に、怪訝の顔を浮かべるシェイドヌーク。

「そう言えばトファース、さっきそんな事を言ってたな。どういうことなんだ?」

動揺し、冷静に振る舞えない魔王様に代わって俺がトファースに問いかける。

「うんー。なんか、凄い力を手に入れた人間たちが現れたんだよー」

やはり。

「ジョー、どういう……ことなんだ?」

俺の思考を読んで、魔王様が小さな声で訊ねてくる。

……それを答えるべきか、否か。

俺は判断をしかねていた。

「教えてくれ……私たちも、きっと知るべきなんだろう……?」

「どういうことですかな?」

迷う俺に、言葉を求めてくる魔王様。

そしてそんな俺と魔王様のやり取りに、シェイドヌークが問いかけてきた。

「すまない、シェイドヌーク。トファースを連れて玉座の間に戻っていてくれないか」

「それは構わんが……」

「あと、他の魔物たちも集めて待っていてくれ」

「……わかった。では魔王様、失礼いたします」

俺の雰囲気から何かを察したか、深くは追求せずに頷くシェイドヌーク。

「わー、なにするんだシェイドヌークー!」

「いいからおまえも来るんだ!」

 ……ごねるトファースを強引に連れて、部屋を後にした。

二人が去って、少ししてから俺は口を開く。

「魔王様。『勇者』って知ってますか?」

「……勇者?」

「まぁ、この世界には別の呼び方があるのかもしれませんが……」

「お前の言うのは、お兄様を倒した者たち……のことなのか?」

「……はい」

知っていたはずなのに、なぜ俺は忘れていたのか。

異世界に転生された時にその事も、わかっているべきだったのに。

「……ラノベ、の知識なんじゃな?」

「えぇ……」

 魔王様との言葉のやり取りが重い。

それが意味するところは、俺の知る『勇者』がラノベやゲームでのそれと同じ存在なのだとしたら……

「ジョー……」

言ってくれ、と魔王は目で俺に訴えかける。

そんな魔王様の様子に俺は覚悟を決めた。

「……わかりました」

「ありがとう、ジョー」

感謝を述べる魔王様の顔には、俺と同じく覚悟の色があった。


「俺が知ってるのは、元の世界での知識です。何度も話に出してきた、ラノベやゲームでの」

「うん」

 俺の言葉に、素の口調で頷く魔王様。

これから話すことを考えれば、その顔がどう変わっていくのか。

想像すると怖さが胸に込み上げてくる。

だが、もう話すと決めた以上は、躊躇うことは出来ない。

「『勇者』と言うのは、ラノベやゲームでは主人公となる存在です。モンスターを倒し、魔王やその上にいる敵……を倒して、世界を救うのが使命」

「敵、か……」

「はい。人間の英雄と言った存在、ですかね」

「それで、お兄様を倒したのがその?」

「どんな呼ばれ方かはわかりませんが、恐らくは」

「……そうか」

俺の話を聞き、魔王様は表情を暗くした。

だが、まだ話は終わりじゃない。

「うん、聞かせてくれ」

「たぶん、『勇者』は神とか何か凄い力を持った存在から、力を与えられてると思います。魔王さえも倒してしまうような力を」

「神……」

 魔王様の頭の中では、あの南方の王国を壊滅させた光の柱が浮かんでいるのかもしれない。

あの圧倒的な力、それを与えられた人間となれば心に湧いてくるのが恐怖でも不思議はないだろう。

「ここからが最も重要な話になりますが」

「……うん」

「きっと『勇者』は、この魔王城へも来るでしょう」

「『勇者』が、ここへ……?」

「きっとこの世界での戦いを終わらせる為に」

「……そうか、我ら五大魔王を倒さねば、我が父である魔神の元へは行けぬからな」

「そうなんですか?」

「うむ。我ら魔王はこの世界へと来た際に、扉を開いた。この世界と我ら魔族の世界を繋ぐ扉をな」

ここに至って、さらにこの世界での魔族についての話を聞くとは。

元の世界にいれば、こういう設定もワクワクする知識だったんだが。

「そしてその扉は、我らがいる限りは存在し続ける。我らへの魔力を供給するために、な」

そうだったのか。

魔力についての情報はこれまであまり無かったから、その話は俺には驚きと同時に納得のいくものである。

「だが、開いたままではそこから攻め込まれる恐れもある。人間からの可能性もあるが別の種族や、もっと高位の存在からのな」

「高位の存在……ですか」

「いわゆる神、とかな。だから扉には、封印が施される。その封印を維持するのは、我ら魔王自身と言う訳じゃ」

……じゃあ。

「じゃあ、やっぱり。『勇者』との戦いは避けられない、と言うことになりますね」

「そうなるな……そして、お前の世界での知識では、我らは敗北するのじゃな」

魔王様の問いに、俺は答えられない。

だが、思考は読まれている……いや、例え読まれていなくても、魔王様にはわかっているのかもしれない。

「だが、我らにはお前がいる」

「え?」

 予想される残酷な未来を前に、重苦しい思いに包まれる俺へ魔王様から掛けられたのは、意外な一言だった。

「知っておるのならば、『勇者』に対抗する策も考える余地があるではないか」

「……あ」

言われて、俺はハッとなった。

魔王様の言う通りだ、俺の頭には『勇者』が現れたら魔王は倒されるしかない、そんな先入観しかなかった。

俺の知ってる情報を総動員して、それに対抗する術を考える。

そうすれば、結末を変えることも出来るかもしれないじゃないか!

「まったくお前は肝心なところが抜けておるのぅ。我が城のクセに困ったやつじゃ」

「はは、すいません魔王様」

「やれるだけのことをすればいいのじゃ。それでも駄目なら……」

そこで一旦言葉を切り、魔王様がいつになく優しい表情を浮かべて俺を見つめる。

そして、ゆっくりと口を開いて出てきた言葉は。

「……お前と一緒に最期を迎えようではないか」

俺の胸の奥が熱くなる。

何かが込み上げて来て……しかし城の身体では涙は出てこない。

と、次の瞬間。

「我はお前と一緒なら、それでいい……」

魔王様が俺に抱き付いて、耳元でそう囁いた。

俺もゆっくりと魔王様の身体を抱き締めて。

「最後まで魔王様を俺が守りますよ」

そう告げた。


「待たせたな、我が臣下たちよ」

「魔王様!」

 思い出すと恥ずかしい抱擁のあとイデッ!

……思い出さないようにするとして。とにかく話を終えてから玉座の間に戻った俺と魔王様。

もちろん今の俺は人型を解き、意識だけの状態になっている。

待ちわびていた魔物たちに向かって言葉を放ち、玉座に腰を下ろす魔王様。

「よく聞け。魔王ラース=ボウを倒した人間たちは、いずれ必ず我が城へもやって来る」

魔王様の言葉に、魔物たちからどよめきが沸き起こる。

なにせあのラース=ボウを倒した相手、それと相対すると聞かされれば動揺するのは必然だった。

「だが案ずるな。我もただ敵が来るのを手をこまねいて待つつもりなど無い!」

力強く放った魔王様の言葉に、さっきとは変わって歓声にも似たざわめきが魔物たちに広がる。

 本当はきっと、魔王様も悲しみに包まれているはずなのに、なんて強いんだろうか。

決して良い仲とは言えなくても、それでもラース=ボウは魔王様の兄なのだ。

それを失って、そしてその相手がここへやって来ると知って。

それでもこうして強く振る舞い、臣下を不安にさせまいとしている。

「これより敵……『勇者』を倒すための準備を進めていく!」

「『勇者』……?」

魔王様の口にした言葉に、シェイドヌークが疑問の声を上げる。

「魔王ラース=ボウを倒した人間のことじゃ。恐らくは、我ら魔族にとっての最大の敵となる者たちの呼び名じゃ」

「ゆうしゃー。めちゃめちゃ強いぞ、魔王ー?」

トファースがいつもと変わらない能天気な口調で言う。

魔王様はそれに頷いて見せてから。

「うむ、強い。我らも勝てぬかもしれん。だが、対抗する為の策を考える情報もある」

「おー、すごいな魔王ー」

能天気ながら、心底感心した様子で言うトーファス。

 実際にどれだけの事が出来るのかは、俺にもわからない。

それでも、可能性がある以上はそれを信じてやっていくだけなんだ。

「どれだけの時間が残されているのかはわからぬが、これより魔王軍総出で対策に取り掛かる。指示は追って出していく故、みなはそれぞれに力を蓄えていてくれ!」

『おおー!!』

魔王様の放った言葉に、城全体が震えそうなほどの歓声が沸き起こる。

ここに、対『勇者』戦の幕が上がったのだった。


「では、可能な限りのトラップを」

「うむ。他の魔物がそれに掛からないようには配慮を頼む、シェイドヌーク」

 城の防備についての指示に、恭しく頷いて答えるシェイドヌーク。

『勇者』が城の内部に来てから、可能な限り消耗させるように熟考した配置と内容にしてある。

「魔物の総数は、着実に増えています。この分ならかなりの戦力増強になるかと」

「そうか。だが無理はするなよ、キュバース」

幾分疲れの見えるキュバースに、魔王様からの気遣いの言葉。

その声にキュバースは少し嬉しそうな顔をしたように見えた。

「武具はより強力な物を鍛え、振り分けております。魔物たちの錬度はまだまだですが」

「少しでも戦力は高めたい。時間はないかもしれんが、頼むぞネラルジェ」

傷も癒え、前よりも力を漲らせたネラルジェが厳しい声で答えた。

ネラルジェ自身もまた、その力を高めているように見える。

「僕はー?」

「……おまえは好きにしておれ、トファース」

無邪気に訊ねるトーファスには素っ気ない返事。

……まぁ、トーファスの場合は何を指示しても意味はないしな……

 何はともあれ、着実に『勇者』対策は進んでいる。

その日がいつ訪れるのかわからない以上、今は常に最善の状態にしておくしかないのがもどかしいが。

「では、我は城の強化を進める。各自、それぞれのすべき事へと戻ってくれ」

「「はっ!!」」

声を揃え返事をして、シェイドヌークたちは玉座の間を後にした。

 ラース=ボウに晒された魔王様の出自、そして『勇者』の出現とラース=ボウの敗退。

激動する状況の中、我が魔王軍はしっかりと力を蓄えている。

それは、魔族に言うのもどこか不思議な感じはあったが、信頼の絆がより強固になったとも思えるが故のことなのかもしれない。

「では、行くぞ。お前も力を引き出さねばな」

玉座から立ち上がり、俺を呼んで奥へと向かう魔王様。

あれから、俺は魔王城としての力を最大限にするため、魔王様と共に訓練を続けていた。

「さて、今日は……」

俺もまた来るべきその日に備え、確実に力はつけている。

元の世界で好きだったラノベに出てくるような、チートじみた能力もいくつも手に入れた。

必ず、『勇者』には勝つ。

その思いは日増しに強くなっていた。

しかし、それでも……

 心のどこかに、ある種の確信めいた予感が拭い去ることは出来ずにいた。

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