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転生したら魔王城になっていた!?【初稿版】  作者: 光樹 晃(ミツキ コウ)/原案・黒崎游
12/23

【12】四面楚歌の魔王城

「して、シェイドヌークよ。おまえの報告を聞こうぞ」

 儀式から数刻を経て、城へ帰還したシェイドヌークが玉座の魔王様の前で跪いていた。

「はっ! ここより少し離れた南方に、人間どもの国があるのを確認いたしました」

「なるほど、これまでの二度に渡る人間の襲来はそこから来た、と言うところか」

「そのように思われます」

城の外についての情報は俺には初めてのものなだけに、新鮮な感じがする。

同時に、自分が人間と魔族との戦いの最中にいる事も実感し、心に緊張が走った。

「先の戦闘により、かの王国も本格的に討伐隊を整えている、といった雰囲気に感じました」

「ふむ、我が認識しているよりも状況は緊迫しているといったところか」

「はっ!」

周囲にはシェイドヌークがいない間に生み出した多数の魔物が立ち並ぶ。

数度に渡る儀式はやはり魔王様の負担も大きいのか、繰り返すごとに生まれる魔物の強さは弱まるのを感じた。

「他には報告はあるのか?」

「はっ! 南方を除くこの城の周囲は険相な山脈に囲まれており、おいそれとは攻め寄られる事はないかと見受けられます」

「ふむ、居を構えた土地としては間違ってはなかったようじゃな」

 続けられる報告に、魔王様は相づちを打ちながら頷く。

どちらかと言えば、自分の場所取りの上手さにドヤ顔してるように見えなくも無いが……

「しかし山脈を越えた先は北、東、西のどれもまた別の人間たちの国があります。決して油断は出来ぬかと」

「ほぉ……我が居城は四面楚歌、といった環境にあるとも言えるか」

動じてない風を装ってはいるが、顔を乗せた腕が微かに震えているのを、俺の視覚は見逃さなかった。

「まだ現状では結界を張れぬこともあり、警備と周辺の警戒は強めるべきではないかと」

「うむ、考えておこう。他にはあるか?」

「はっ! 今のところは以上にございます」

「そうか、では下がるがよい」

 魔王様の言葉に頭を深く垂れた後、シェイドヌークは玉座の間を後にした。

「ネラルジェ!」

「はい、魔王様。我輩になんなりと」

「うむ、前へ出るがよい」

 呼ばれて前へ出てきたのは、長身で大柄な魔物。

五体目に生み出した魔物で、名をネラルジェとされた。

例えるならオーガに、鎧と大剣を持たせた見た目と言ったところ。

シェイドヌークと同じく、魔王様への忠誠は厚い性格だった。

「いつまた人間どもの侵攻があるやもしれぬ。早急に城の防備を整えるのじゃ。よいな」

「仰せのままに。守るだけでよいのですかな? 許されるならば逆にこちらから攻め入るのも……」

「ならぬ。今はまだ我らも、戦力が十分とは言い難い。当面は無闇に人間どもを刺激するのは控えよ」

「……承知いたしました」

ネラルジェがトーファスやシェイドヌークと違うのは、好戦的な面が強いという部分だった。

いわゆる武人肌、というやつなのだろう。

「では、各自それぞれの役割を全うせよ。割れは少し寝所へと戻らせてもらう。何かあれば速やかに知らせよ」

「「はっ!」」

 立ち並ぶ魔物たちが声を揃えて返事をする。

それを聞き届けてから、魔王様は玉座から立ちあがり部屋の奥にある扉へと向かっていった。

俺も意識を動かして、魔王様を追っていく。

玉座の間から寝所へと続く廊下、無言のまま歩く魔王様と俺。

やがてたどり着いた豪華な意匠の扉を開き、中へと入っていく。

部屋の中央には、見事な装飾の施された豪華なベッドが。

「ふぅー……」

ベッドの端に腰を下ろし、魔王様の口から深いため息がこぼれ出す。

だいぶお疲れのようですが、大丈夫ですか魔王様?

「うむ……さすがに魔物作りの儀式を、あれだけ何度もやるとな。お前は大丈夫か?」

そうですね、多少は疲れたような気はしますが……平気です。

「強いのぅ、お前は。我とお前だけの時は余計な一言だけは達者で、我は失敗したとばかり思っておったのに……」

いや、あの、それってちょっとひどくありません?

作者なんだから、自分の作った物への愛はちゃんと持ってないと……

「ふふ、そうじゃな。お前にはずいぶんと助けられておる。失敗したなどと、あの時の我は何もわかってはいなかったわ」

……そう来られると、俺としてもどう反応したらいいものやら。

ズルいですね、魔王様も。

「そうじゃな、お前のズルさに影響されたのかものぅ?」

俺をからかうような笑顔を浮かべながら、いたずらっぽい口調で言う魔王様。

 最初の話をするならば、俺だって同じである。

目が覚めたら城に、それも魔王の城というとんでもない物に自分がなっていて。

目の前にはやたらと高圧的で、しかも厳しい魔王がいて。

転生したと気付いてからも、思い描いていたのとはまるで違う状況にはただ戸惑うばかりだった。

「まだようやく城を造り上げたばかりで、しかもなかなか目覚めなかったからのぅ。あの時の我は苛立ちも大きくてな、つい八つ当たりみたいになってしまったのじゃ」

本当に、何かあるとすぐに踏みつけてくるんですから、魔王様は。

「し、仕方ないじゃろ。我とて完璧ではないのじゃ、必死で魔王を務めようとしておったのじゃから、唯一共ににいるお前に当たるしかなかったのじゃ」

ははっ、わかってますよ魔王様。

本当の魔王様は、繊細で怖がりで寂しがり屋で。

「うぅ、それを言うでない……お前もイジワルな奴じゃ」

それでも健気に魔王であろうとしている。

だから俺も、そんな魔王様を支えようと思ったのですよ。

「……やっぱりズルいの、お前は」

プイッと顔を横に背け、拗ねたように魔王様が小さくそう言った。

 とりあえず少しお休みください、魔王様。

「そうじゃの。消耗した魔力を少しでも早く回復させねばな……」

はい、結界を張るためにも。

「うむ。お前を少しでも守れるようにせねばな」

……ありがとうございます。

では、俺はこれで失礼を……

「いや、そこにいてくれぬか?」

いいのですか?

「その方が我も、落ち着いて休めそうな気がするでの」

そういうことなら、お側にいますよ。

「すまぬの……では休ませてもらうとしよう」

あくびを一つしてから、魔王様は身体をベッドに横たえた。

それからすぐに聞こえてくる、すやすやと言う可愛らしい寝息。

初めて見る魔王様の寝顔は、とても愛らしい……

って、寝てる時も思考は流れ込んでくるとか言ってたっけ。

こんなことを考えてたらまたお仕置きが。

「むにゃ……よいぞ、許す……」

寝言っぽく許された。

 しかし先程のシェイドヌークからの報告。

思っていた以上にこの魔王城を取り巻く状況は、厳しいものがあると認識できた。

三方は山に遮られているとは言え、四方を人間の国によって囲まれているとは。

四面楚歌の状況、もしも山を越える策でもあったならば最悪、この魔王城は全方位からの集中攻撃に晒される事になる。

そうなる前にまずは南方の国からどうにかするのが最良か……

既に南方の国に対しては、二度に渡る兵の全滅もある。

この城に向けての全面攻撃の態勢を整えていても、不思議は無い。

 こちらも戦力は整えて来たとは言え、まだまだ万全にはほど遠いのが実状。

可能ならばこちらから打って出る方が、結果的にはこの城を……魔王様を守ることに繋がるのだが。

「ジョー……静かにしてぇ……」

……寝言で注意された。

この一生懸命な魔王様を守りたい。

俺の心にあるのただ、その思いだけだった。


「魔王様!」

 慌てた様子で魔王様を呼ぶ声が聞こえたのは、寝所へと入ってから数刻が過ぎた頃のことだった。

「……むにゃ」

緊迫感のない、可愛い声を漏らしながら起き上がる魔王様。

魔王様、魔王様、シャキッとしてください。

何かあったようですので。

「んん……まだ眠い……」

ベッドの上でぺたんと座る格好になり、半開きの瞼をぐしぐしと擦りながら、渋る言葉を呟く魔王様。

衣装の肩口がズレ落ちて、少し目のやり場に困るのだが……

「んっふっふー、見たいー?」

魔王様、今はそんな冗談を言ってる時ではありません。

「むー……冗談じゃないのにー……」

魔王様、しっかり目を覚ましてください!

寝ぼけておかしなテンションになってますよ!!

「だってまだ眠いしぃ……」

そりゃまぁ、俺だってそんな魔王様を眺めてたいのが本音ですが……

「ほんとにー……? 見たいのは私の別の部分じゃないのー……?」

あぁ、もう!

それも見たいですけども!!

「ほーら、やっぱりぃ……見たいんじゃんー……」

眠そうな中にいたずらっぽい笑みを浮かべる魔王様。

その無防備な中にある艶っぽさにドキドキと胸を高鳴らせつつ。

「城のくせにー……胸なんかないだろー……」

……こんな場合でもツッコミには余念がないのは、さすがと言うべきかなんなのか。

考えても見れば、トーファスのあの性格はこの魔王様の天然な部分が大いに影響した結果、なのではないだろうか?

「魔王様! お答えください、魔王様!!」

 この声はシェイドヌークか?

先程よりも緊迫した雰囲気が、呼び掛ける声には滲んでいる。

「……! 何事じゃ!?」

あ、やっとシャキッとなった。

さすがの魔王様も、部下が寝所のすぐ外にいるのを認識するといつもの厳格さを取り戻すようだ。

「ジョー、少し静かに……っ!」

声をひそめて俺を嗜める魔王様。

いや、俺の声と言うか思考は一応、魔王様にしかわからないハズですが。

「人間の軍勢がこの城に迫っております! 急ぎご指示を仰ぎたく」

「な、なんじゃと!?」

 ベッドから降りかけた格好で驚愕する魔王様。

いや、この知らせには俺も動揺を隠せなかった。

まさか、想像していたよりも遥かに早く動いてくるとは……

「とにかく、主要な魔物たちを玉座の間に集めるのじゃ、急げ!」

「はっ! わかりました!!」

指示に従い返事と同時に戻っていくシェイドヌーク。

気配が遠くになるのを感じたと同時に、俺の意識のある辺りに魔王様が駆け寄ってくる。

「どどどど、どーしよ!? ジョー、どーしよおおおお!?」

 ……魔王様はいきなり動転していた。

気持ちはわかりますが、まずは落ち着いて。

はい、深呼吸深呼吸。

「すー……はー……うむ」

早いな、落ち着くの……

「そこで余計な茶々を入れるでない……」

あぁ、すいません。

もうこれは習性みたいなものでして。

「それはよい。城よ、どうするとよいと思う?」

魔王の顔に戻った魔王様が、落ち着いた様子で俺に訊ねる。

 こんなに早く人間が行動してくるとは、俺も予想外だった。

「仕方ない。とりあえず玉座の間へと向かうとしようかの」

そうですね、他の魔物たちとも話し合って対策を考えないと。

「うむ。まだ我の態勢も十分とは言い難い、どうしたものか……」

思案の顔を浮かべ呟きながら、魔王様と俺は玉座の間へ向かって動き出した。


「みな揃っておるか!?」

 玉座の間へ入るや否や、開口一番に確認の問いを放つ魔王様。

「はっ! 主要な臣下はみなここに」

魔王様の声に答えたのは、もっとも忠義に厚いと思われるシェイドヌークだった。

他にはトーファスも、ネラルジェも、そしてそれ以外の魔物たちも勢揃いして並び立つ。

「まずは状況を報告せよ!」

 揃っている魔物たちを一瞥してから、魔王様は玉座へと腰を降ろし声を放つ。

それに応じてシェイドヌークが前に出て跪き、口を開いた。

「人間の軍勢は南方よりこの魔王城へと向かっています!」

やはり南方の国からの侵攻か。

問題はその戦力だが……

「敵の戦力は?」

お、こっちの思考がちょうどいい感じに魔王様の口から出るな。

「ざっと見たところでは三百人ほどの規模かと思われます」

さ、三百人……!?

これは向こうも本気、と言うことか。

「三百か。ではどのような構成かわかるか?」

魔王様もわかっているようだ。

敵がどんな編成かを知るのは、迎え撃つのに欠かせない要素。

「騎士、兵士、弓兵、魔術師と隙のない布陣と思われます」

「これは……手強いの」

上がってきた報告が、魔王様の顔に苦渋の色を滲ませる。

報告の通りならば、確かに手強い布陣であるのは間違いが無かった。

「ふんっ、人間の軍勢など俺にかかれば造作もあるまい!」

 鼻息荒く言ったのはネラルジェ。

好戦的なネラルジェにしてみれば、この状況は待望のものだろう。

だが、そのまま任せるのは危険と言える。

「ネラルジェ、うぬの出番はまだじゃ。今は逸るでない」

「……御意に」

魔王様に窘められ、ネラルジェは不承不承と言った表情を浮かべながら頷いた。

「ねーねー、人間たおせばいいのー?」

次に声を出したのはトーファス。

シェイドヌークやネラルジェと違い、言って聞くとは思えないのが厄介な魔物ではある。

「トーファスよ、やるべき時には我が命じる。今はしばし我慢をするのじゃ」

「えー、僕すぐでもやれるよー?」

「我の言う通りにする方が、お前もより楽しめるぞ?」

「そっかー。うん、わかったー」

おぉ、まるで幼子を見事にあやす母親のようだ。

魔王様のトーファスの扱い方に感心していると、次は別の魔物が前に一歩踏み出してくる。

「魔王様、アタシにもやらせてくれないかい?」

 言ったのは女性型の魔物、名をキュバースといった。

悪魔然とした翼を背に生やし、魔王様以上に露出度の高い衣装を身に纏った妖艶な魔物。

「キュバースか。まだこちらから動く時ではない、今は待機しておれ」

俺の印象としては、魔王様はあまりキュバースには良い感情を持っていないように見えた。

……いわゆる女の嫉妬、みたいなもグフッ!

「……とにかく今はしっかりと迎え撃つ態勢を整えよ。お前の出番も必ず来るでな」

「はいはい、了解でーす」

ひじ掛けへのエルボードロップに悶絶する俺をよそに、魔王様はそう告げてキュバースを下がらせた。

ちなみに今は……と言うか儀式のあとからは魔王様が座る時は、俺の意識は常に玉座にあるようになっている。

なんだか大勢の前で魔王様を背中から抱き締めてるような気になって、俺としては落ち着かないのだが……

「我は落ち着いておるぞ、こうしてると」

小さな声で魔王様がそう呟いた。

……嬉しいです、魔王様。

「ふふっ」

俺が魔王様にとって特別な存在。

そう思えるのは、幸せなことだと身に染みるようだった。


 そして、これから始まる人間との本格的な戦闘を前にしてのこの特別な感覚は、何よりも心を強くしてくれるのだった。

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